「ドラクエIII」イシスの女王から読み取るゲームプランナーの仕事とは?


1988年にファミコンでリリースされ、日本のゲーム史に金字塔を打ち立てた「ドラゴンクエストⅢ」。

壮大なワールドマップと胸躍るシナリオ、そして奥深いゲームシステムはいまなお色あせることがなく、史上最高のRPGとして人々に愛され続けています。

 

そんな「ドラクエⅢ」において、ゲーム中盤の華というべき存在が、あの「イシスの女王」です。

女王はドラクエ世界のなかでも屈指の美女と名高く、ドット絵からもただならぬ気品と色香を感じさせる、とても神秘的な女性です。

 

今回は、そんなイシスの女王がどんな政治をしていたのかを様々な観点から分析しそれをヒントにゲームの世界とはどのように創り込んでいくものなのか

その考え方についても考察したいと思います。

 

イシスの政治システムは?

【大臣がいない】

まず、昼間のイシス城における女王の様子を見ると、とても重要なことに気づきます。

それは彼女の政治をサポートする「大臣」らしき人物が、見当たらないことです。

 

一見、どうでもいいことのように思えるかもしれませんが、これはイシスの女王のキャラクターを考えるうえで、とても重要な情報です。

なぜなら大きな城を持つほどの大国であれば、高度な政治システムを備えており、王の治世を支える重臣およびその下で働く官僚機構が不可欠となるからです。

 

これは同じ「ドラクエⅢ」で他国の例を見ても分かります。

アリアハン、ロマリア、ポルトガ、エジンベアなど、「上の世界」で城を構えている大国では、いずれも国王のそばに大臣が控えています。

しかもこれらの王はいずれも、白ヒゲの容姿から考えて中高年であり、経験豊富な「ベテラン国王」というべき存在です。

そんな彼らですら、大国の政治を行うには大臣のサポートが必要であると、城の様子からも分かります。

しかし……どうもイシスだけは例外のようなのです。

アリアハンなどと肩をならべる大国で、なおかつ王が若い女性であるにもかかわらず、政治を補佐する大臣の存在が見当たりません。

 

このことから、おそらくイシスには、他の大国のような高度な政治システムや官僚機構が無いと考えられます。

良く言えばゆるやかな、悪く言えば大ざっぱな政治をしているのでしょう。

 

【女王のゆるやかな親政】

もっとも、イシスの女王の政治がいいかげんなのかというと、決してそんなことはありません。

城の中には多くの女官たちがいますし、学者にも研究室が与えられています。

さらには街にいる旅の商人が女王の美しさを興奮気味に語っていますので、女王が商人を招いて話を聞いていることが分かります。

もちろん、拝謁が許されるのは有力商人に限られるかも知れませんが、これは凄いことです。

 

おそらくイシスの女王は、日頃から彼らの助言を受け、また彼らから情報を集めつつ、政治の方針を決めているのでしょう。

そうして、大臣や官僚組織による細かい政治で民をしばることなく、ゆるやかな政治を行い、人々に自由を与えていると考えられるのです。

 

イシスの人々の様子を見ても、女王による「ゆるやかで自由な政治」が、国に活力をもたらしていることが分かります。

街を歩く商人・旅人・詩人・ギャンブラー、そして城内の子供からネコにいたるまで、彼らはみな自由で生き生きとしています。

イシスの女王の自由な政治は、人々に大きな恩恵を与えているのです。

 

イシスの女王は経済を重視した

【女王はカジノ推進派】

上で見てきたように、イシスの女王は人々に自由を与え、国に活力をあたえる政治を行っています。

その政治的ポリシーは、経済政策にも色濃く現れています。

 

イシスの自由主義を経済面で象徴するのは、なんといってもカジノです。

上の世界でカジノを設けている国は、他にロマリア、サマンオサしかありませんから、イシスのカジノは世界的にも貴重な存在となっています。

しかも女王は「お忍びでカジノにやってきた」(客の証言より)といいますから、カジノに対してとても肯定的な考えを持っているようです。

現在の日本でカジノ反対論が根強いことを考えると、かなり自由な考え方といえます。

 

ここでちょっと気になるのは、イシスとカジノのミスマッチです。

女王のモデルはクレオパトラ7世と言われています。

となればイシスの国も古代エジプトのような宗教色が濃い国家と思われるので、ギャンブルに肯定的というのはちょっと意外な感もありますよね。

 

しかし女王の政治姿勢を考えれば、このミスマッチの謎も解けます。

イシスの女王は自由主義であり、規制や抑圧を好みません。

また商人の意見を取り入れて政治を行うだけあって、経済発展をとても重視していることがうかがえます。

自由主義のもとで経済に活力を与えるべく、カジノの存在も柔軟に許しているのでしょう。

 

【経済政策の成功】

そして城下町の様子からは、彼女の経済重視の政治が見事な成功を収めていると推定できます。

たとえばイシスの武器屋夫妻は、店舗とは別の場所にわざわざ住居を持っています。

他の街の武器屋は、たいてい店と住居を兼ねています。

これだけ贅沢な生活ができるのは、武器屋が順調にもうかっているからに他なりません。

 

また、城下町には道具屋がふたつありますが、ここからも女王の政治姿勢を読み取ることができます。

自由主義のイシスは多くの商人に商売を許し、自由競争のもとで経済発展をうながしているのだと推測できるからです。

 

【祈りの指輪は富の象徴】

さて、イシスの女王とくれば、印象深い演出があります。

夜に女王の寝室をたずねた勇者に、女王が床の上の「祈りの指輪」を与えるシーンです。

美しき女王がたそがれる、夜の寝室―――なんともロマンチックな光景が想像できますが、実はここにもイシスの経済力をうかがわせる描写があります。

それは、指輪が「床に転がっている」ところです。

 

祈りの指輪は店での販売価格が2500ゴールドと、「はがねの剣」の2倍近くもする高額なアイテムです。

女王はそこまで高価な指輪を手渡しするのではなく、「床に転がっているから持っていきなさい」と、勇者に与えたのです。

天皇陛下であれエリザベス女王であれ、さすがにそんなことはなさらないですよね。

 

きわめて高価な指輪が床に転がっているのですから、イシスは財政的にとても豊かなのだと考えられます。

 

城のネコにも理由があった!

【女王はネコ好き?】

さて、イシスの国とくればもうひとつの謎があります。

それは城の中を埋めつくす「ネコ」の存在です。

城の入り口から謁見の間、さらには女王の寝室にいたるまで、ネコ、ネコ、ネコ……ドット絵のカワイイにゃんこたちであふれ返っています。

 

ところが意外なことに、イシスの城下町の方にはネコの姿が見当たりません。

よってイシス周辺が特にネコの多い地域というわけではなさそうです。

キャットフライ(※)がたくさん出てくることとはまさに対照的と言えるでしょう。

つまりイシスの女王は、自分の城へ意図的にネコを集めているということになります。

 

(※)キャットフライ……ドラクエに登場する、ネコに翼が生えたモンスター。イシスやアッサラームの周辺でよく出現する。マホトーンで呪文を封じてくるうえ、痛恨の一撃もあり、なめてかかると危険なモンスターである。

 

あえて城にネコを集めているのは、女王がネコ好きだからかもしれません。

しかしそうはいっても、イシス城のネコの多さは常軌を逸しており、ただのネコ好きではすまない規模といえます。

そこにはもっと深い理由があるにちがいありません。

 

その理由とは……ズバリ「宗教」ではないでしょうか。

先にも述べたように、女王のモデルはクレオパトラ7世と言われています。

となればイシスの国も古代エジプト(クレオパトラ7世の時代はプトレマイオス朝)がモデルと考えられるため、とても宗教色の濃い国のはずです。

 

【ネコは宗教的なシンボル】

このイシスのモデルと思われる古代エジプトでは、ネコが神聖な動物として重んじられていました。

特に「バステト」という、ネコの頭部を持つ女神が有名です。

バステトは古くからエジプトの人々の信仰を集めた女神で、現代まで多くの石像や絵画が残されているほどです。

 

イシスの宗教色の濃さや、そのモデルとなった古代エジプトのネコ信仰から見て、イシス城内に集められたネコには重要な意味があるのだと考えられます。

イシスの女王が城にネコを集めている背景には、宗教的理由があると見て間違いないでしょう。

 

ネコが城の入り口に多いことから、ある種の魔よけとして飼っている面もあるのかもしれません。

そのうちの一匹はあっけなく悪魔に乗り移られて、主人公に不気味なメッセージを残すのですが。

 

結論

 

ドラクエの産みの親である堀井雄二氏は、すべての城や町に豊かな個性を持たせ、旅の楽しさを演出しています。

その試みが最も顕著に見られるのがイシスと言えるでしょう。

 

堀井氏はイシスという国を通じ、「異国情緒」「美しき女王の神秘性」「豊かで活気ある国」を描ききっています。

アリアハン以降、多くの国を渡り歩いたプレイヤーから見ても、イシスはきわめてエキゾチックで、女王の存在が神秘的であり、なおかつエネルギーあふれる国です。

 

新しい町への訪問はRPGの楽しみの核と言えますが、ただ「新しい武器」や「ゲームを進める情報」があればいいというものではありません。

新しい町がひとつの「別世界」として描ききってあるからこそ、ユーザーは異国への訪問に胸を躍らせるのです。

 

なぜ、ドラクエでは新しい街を見つけた時にあれほど嬉しくなったのか、おわかり頂けたのではないでしょうか。

そしてその裏には、ゲームプランナーによるこんな仕掛けがあったのです。

どうでしょうか、こんなお仕事、やってみたくなりませんか?

 

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ライター情報
ライター名:ボストロール太郎
ファミコン以降の名作ゲームを幅広く愛好しています。好きな作品はドラクエシリーズ、シャドウハーツ、ペルソナ4、探偵神宮寺三郎シリーズ、つっぱり大相撲など。好きなヒロインはドラクエⅢのイシスの女王、シャドウハーツ2のカレン、ペルソナ4の天城雪子、探偵神宮寺三郎の御苑洋子。結局はヒロインにビビッときたゲームが好きということですね。

 

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