世界中を熱狂させたポケモンGoに必要なことは全部20年前に構成されていた

2016年7月、バーチャルとリアルの垣根を超えたゲーム体験を提供するポケモンGOに世界中が熱狂しました。

ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズの調べによれば、2016年7月22日(金)、待望の「ポケモンGO」が配信されると、3日間でインストールユーザー数が1,147万人に昇ったとのことです。

INSTAGRAMのアプリで1,583人、マクドナルドのアプリで2,102人と聞けば、キャラクターIPのゲームアプリとしては類を見ないスタートダッシュと言って良いでしょう。※1

2019年現在でもユーザ数の増加比率はリリース当初よりは緩やかになったものの、依然として定期的なイベントでファンをリテンションしています。

 

 ポケモンGOリリース当初、スマートフォンの機能と連動した新しいゲーム体験は、ゲーム専門誌のニュースだけでなく報道番組などでも取り扱われるほどの加熱を見せました。

位置情報機能と連携し、AR(Augmented Reality=拡張現実)を用いて現実世界とリンクしたゲーム体験は、日常を非日常に変えるには十分すぎるほどの舞台装置です。

非ゲーマーも巻き込むフィーバーを発生させたのも無理がないでしょう。

しかし、これはポケットモンスターがゲームとして持っていた本来の体験価値に対してデバイスが追いついた結果でした。

 そして、既に主たる要素は実は初代ポケットモンスター(赤・緑バージョン)で確立されていたことには、あまり触れられる事がはありません。

 

ゲームボーイで発売された当初の走り出しは23万本程度。

当時ポケモン以外でゲームボーイソフト売上上位だったテトリスが423万本と考えると、おとなしい滑り出しです。

1996年の発売当時のコンシューマーゲーム市場は既にSony社のプレイステーションやSEGAのセガサターンといった次世代機が席巻していました。

そんな向かい風の中航海を始めたこの小さなタイトルが、まさか国境を超え文化を超え、日本を代表するキャラクタービジネスとなる世界が来るとは当時誰も思わなかったことでしょう。

もちろんアニメ化やコロコロコミックなどのホビー誌展開といったマルチメディア展開が成功要因だったことは間違いありません。

しかし、それ以上にファンを増やし続ける巧みに設計された構成要素が在ったことは間違いないでしょう。

それらゲームを織りなす構成要素を見直す事で、国境・年齢といった垣根を超えたゲームに求められる、共通する要素をひも解いて行きます。

 

成長・育成を動機に昇華させたポケモンの特異性

 ポケットモンスター(赤・緑バージョン)は、株式会社ゲームフリークの田尻智氏が足掛け6年をかけて1996年に販売したゲームボーイ向けロールプレイングゲームです。

主人公は架空の世界に住む10歳の少年で、その世界では大変な名誉であるポケモンマスターを目指して世界を旅する、というのが大まかなストーリーです。

このゲームの中ではポケモンを手に入れる、レベルをあげる、敵トレーナーと戦闘する、次の街に向かう、というローテーションを繰り返し、ランクをあげて頂点を目指して行きます。

その過程で出会う様々な人や経験、悲喜こもごものイベントがプレイヤーに疑似人生を与えました。

 今でこそ育成要素のあるRPGは多岐にわたりますが、手持ちのモンスターがレベルや特定の条件で進化するという育成・成長をモチベーション向上にしたゲームは当時一般的でありませんでした。

レベルという分かり易い成長を示す概念は、ゲーム黎明期から確かに存在しています。

しかし、ビジュアルが変化してプレイヤーの成長体験とリンクさせる表現は、ポケモンが業界における標準を作ったと言っても過言ではありません。

 以降、進化という要素は同じ層をターゲットとしたデジタルモンスター(デジモン)やたまごっち、遊戯王デュエルモンスターズでも頻繁に用いられる表現技法となっていくのです。

 

日常と非日常が交差する唯一無二の世界観

 主人公が住む世界は我々が住む地球とよく似ています。

文明も非常に近く、生活習慣もとても近いですが、大きく異なるのは産業がポケモンを中心に発展している所です。

人々が住まう街は近代的な建物や学校、店舗があるものの、売っているアイテムはポケモンの為に使用する物が多いことが散見されます。

それだけでなく、ポケモンバトルが行われるポケモンジムや、回復を主目的としたポケモンセンターが公的施設の様に存在しています。

産業・娯楽の頂点がポケモンな世界で、別の自分が冒険するという体験。

 これは従来のRPGで主流とされていたファンタジー路線や中世ヨーロッパの様な世界観よりも、よりプレイヤーに自分事として没入させられる要因であったことは想像に難くありません。

 また、ポケモンの世界で反社会的組織として活動しているロケット団の存在は、プレイヤーの自己肯定感を高めるギミックとして重要な役割を担っています。

当然ながら現実世界では子供が悪い大人に一矢報いることはホーム・アローンの様なフィクションでも無い限りあり得ません。

 しかしポケモンの世界では、どんなに悪人でも登場人物本体を狙って来ることはなく、正々堂々とポケモンで勝負を仕掛けて来ます。

いくらプレイヤーが「子供相手なんだから武力行使しろよ!大人!」とツッコミを入れた所でポケモンの世界の住人は決してポケモンバトル以外で雌雄を決しようとはしません。

 しかし、この悪党をやっつけて人々から喜ばれるという体験は、現実世界でも数少ない自分の手柄感を高める大切な疑似成功体験です。

 その為、これもまたプレイヤーの満足度を満たす構成要素に他ならないのです。

 

設計者 田尻智氏の仕掛けた記号

 ポケモンの産みの親、田尻智氏は、自らの過去の体験をゲームの構成要素として記号化することで、唯一無二のゲーム体験をプレイヤーに提供しています。

それを端的に表しているのが、ポケモン誕生のきっかけについて以下の様に述べたインタビューに垣間見られます。

「ゲームボーイの登場は衝撃的でした。通信ケーブルで何ができるだろうと考え、真っ先に浮かんだのが「交換」という言葉。例えばロールプレーイングゲーム(RPG)で、入手しにくいアイテムを友達と交換できるようになれば、ゲームの世界がぐんと広がるに違いないと思ったのです。」※2

つまり、ゲームボーイという持ち運べるハードが市民権を得始めていた事も、ポケモンがユーザに高いレベルに引き上げることに貢献したことは疑い様がありません。

ポケモン内で行われる等身大の冒険は、プレイヤーがゲームボーイを手にして、場所を選ばず楽しむ体験とシンクロし、なおさらもう一人の自分化するのに功を奏す結果となったのです。

 

田尻智氏はスーパーファミコンの方がリッチな表現、複雑な処理が出来たにも関わらず、あえてそうせずにプレイヤーとの距離が近いデバイスを選択しています。

画面内の主人公との関係性がゲームボーイのコピーでもあった「君となら、どこまでも」というコンセプトと図らずも一致したからだったことでしょう。

また、システムの肝となる交換・コレクション性についても以下の様に述べています。

「子供たちをはじめ誰もが交換したくなるようなものは何だろうと、考えに考えてたどり着いたのが、昆虫採集などに夢中だった小学生時代のこと。友達と競い合って珍しい昆虫を捕まえたり、取り換えっこしたりしたときのわくわく感をゲームで再現できれば、これ以上のものはないですよね。」※2

つまり、昆虫採集は図鑑集め、カブトムシ同士の相撲はバトル、生物飼育はレベルアップ・進化という、子供が限られた行動範囲で最大限楽しめる娯楽が、ゲーム要素として巧みに設計されているのです。

 

楽しませる普遍的要素とテクノロジーのハイブリッド

 知らない土地に行く冒険で感じるワクワク、モンスターを捕まえる・交換するというコレクション性、育成・進化を経て得られる成長性、悪人達を自分達のチームワークで成敗する爽快感。

そしてこういった要素全てを等身大の自分事として認識させる為の現実に近い世界観。

いずれもゲームに根本的な構成要素として設計されていた事が、ポケットモンスターをゲーム史上で燦然と輝かせる結果を導きました。

 スマートフォンが提供する機能以上に、国境と文化を超えて人々が持っている遊びの記憶を記号化し、ゲームに最適化した事が国民的ヒットを生み出したのです。

これからもきっとポケモンブランドは新鮮な驚きを世界に与えていくことでしょう。

しかしそれらは突拍子もない、誰もが予想だにしなかった画期的なアイデアではなく、誰もが持つ、いつか来た道を思い起こす体験をデバイスに最適化した結果に違いありません。

出典
※1https://www.valuesccg.com/knowledge/report/marketing/025/
※2https://www.sankei.com/life/news/180907/lif1809070014-n1.html

ライター情報
ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

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