名越スタジオにはなぜ、優秀な人材が集まるのか。その理由を探ってみました。

数々のゲームを世界に送り出してきたゲームクリエイター・名越稔洋氏が2021年11月に立ち上げた名越スタジオ。現在、同社がワールドワイド向けの大作ゲームを開発中であることは、ゲームファンには広く知られているところだ。

 

〈こだわりたいのは「人間」なんだ。〉

 

ちなみに同社は、2023年9月にブランドムービーを公開。“MAKE/HUMAN”というコピーに象徴される通りだが、人を大切にすること、人を描くことにこだわることを前面に打ち出している。そんな名越スタジオだが、設立から約2年半でスタッフ数は60人を超え、各所から優秀なクリエイターが集まってきていると聞く。実際にジョインしたクリエイターたちは、なぜ名越スタジオを選んだのか。何が彼らを惹きつけ、どのように新規ゲーム開発が進んでいるのか。今回は名越スタジオで働くクリエイター3人の鼎談から、その実像に迫っていく。

※左から、デザイナー高橋さん/プログラマー大井さん/プランナー宇津木さん(記事内敬称略)

 

それぞれが、名越スタジオを選んだ理由

──まずは皆さんが名越スタジオにジョインした理由から教えてください

高橋:自分はもともと映像系の制作会社でゲームのカットシーンや遊技機の映像を作っていました。ただ、学生のころ学園祭でゲームづくりの体験会に参加したことをきっかけに、“いつか自分もゲーム開発に携わりたい”という思いがあったんです。そこでゲーム制作会社への転職を検討していたのですが、ちょうどそのころに遊んでいたのが、かつて名越が作ったゲームで。ゲームデザインも、演出も、シナリオも、とにかく面白くて、夢中になってしまったのです。結果的には、その経験が名越スタジオへのジョインを決めた理由になりました。日本だけでなく世界に向けたゲーム開発もしているという点にも惹かれましたし。

 

大井:自分は新卒でゲームメーカーに7年間勤務したあと、いったん別業種で働いていたんです。ただ、その環境でやりたいことをやり切ったこともあり、ゲーム業界に戻ってきました。

 

──大井さんが再度ゲーム業界に戻ってくるうえで、どんな点を重視して転職活動をしていましたか?

大井:もっとも重視したのは優秀なクリエイターたちといっしょに働くことでした。加えて、コンシューマーの規模の大きなゲーム開発に携わることも重要なポイントでした。その両方を満たし、存分に仕事ができそうだと感じたのが、名越スタジオに入社した理由です。

 

──宇津木さんはいかがでしょう?

宇津木:大井の言う通り、コンシューマー向けの新規大型タイトルに携われるのはクリエイターにとってすごく貴重な機会です。それが立ち上げたばかりのスタジオであればなおさらで、企画職の自分としても、たまらない魅力がありました。また、スタジオヘッドである名越稔洋と一緒に仕事ができるのも、このスタジオを選んだ大きな理由です。

プランナー・宇津木さん:企画開発部所属のゲームプランナー。2022年9月入社。ゲーム内のある要素の企画リーダーを務める。

 

──名越さんのどんなところに惹かれましたか?

宇津木:かつて名越が手掛けた『龍が如く』を初めてみた時の、街の密度や往来する人々…当時、それまでのゲームでは感じられなかった「街の息遣い」みたいなものを表現しているのが凄いなと感じたことを鮮明に覚えています。それを作り出した名越というゲームクリエイターに惹かれましたし、彼がどのようにゲームを作り上げていくのかにとても興味がありました。

 

また、名越のインタビュー記事を読んだ時、“こだわる部分には一切妥協しないクリエイター”だという印象が深く、ある種の「強さ」のようなものを感じました。自分がそう感じた「強さ」は何なのか?という点も、一緒に仕事をしてみたいと思ったきっかけのひとつです。

 

実力、知名度ともに日本屈指のゲームクリエイターである名越と近い距離感で、どんなゲーム作りができるのか入社前から楽しみにしていましたし、新しいゲーム作りに根っこの部分から携わることができて、とにかく毎日が充実しています。

言葉を尽くして語り合う、名越スタジオの制作スタイル

──名越スタジオで働いてみていかがでしたか?

高橋:現時点(2024年6月現在)では、スタジオ内で私がいちばん年下でゲーム開発のキャリアも短いですが、先輩方にはとても良くしていただいています。またみなさんがゲームを作るという目標に向かってひたむきに楽しんで仕事をしている姿勢がとても印象的です。

 

大井:よく、“風通しの良い職場”って言うじゃないですか。でもあれって意外と難しくて。どうしても忖度してしまうし、間違いを恐れてしまう。そうなると良質な作品づくりには繋がらなくなってしまうのだろうなと。立場に関係なく言葉を尽くして語り合う姿勢があるからこそ、質の高い仕事につながる。名越スタジオはそのあたりのコミュニケーションがしやすい環境だと思います。

 

高橋:それは感じますね。自分よりも遥かに多くのキャリアを積んだスタッフと議論していても、まずは柔軟に話を聞いてくれる文化がある。もちろん間違っていれば指摘を受けますし、別の意見をいただくこともありますが、いいアイデアだと判断されれば、そのまま取り入れられることもあります。周囲を見ていても、役職やポジションの上下に関係なく、純粋にアイデアの価値を検討・評価してもらえる雰囲気が醸成されているのは魅力的だと思います。

デザイナー・高橋さん:デザイン開発部所属のエフェクトアーティスト。2023年10月入社。ゲーム内の各種エフェクト制作を担当している。

 

大井:これは会社全体に言える傾向ですが、過去にさまざまなゲーム制作に携わった経験のあるスタッフが多く、総じて意思疎通もスムーズで問題解決力も高いです。私が入社してから2年が経ち、会社の規模は大きくなりましたが、スタッフが増えてもその感触は変わらないですね。会社のスタート時から、これだけ優秀なクリエイターを集めることができているのは凄いことかなと。

 

──求職者にとって、福利厚生含め環境面も気になるところだと思いますが、いかがでしょう?

宇津木:環境面だと、裁量労働制がしっかりと機能しているのが特長ですね。私には小さい子供がいるのですが、育児をしていると通院や看病、保育園の送迎など、勤務時間の調整が必要なことが突発的に起こります。そんな場合でも柔軟に対応できる職場なので、非常にありがたいと感じています。

 

大井:開発スタッフの全員が、市販されているPCの中ではほぼ最高スペックのものを支給されていて、日々の業務が非常に快適です。人材もだけど、機材についてもかなり恵まれています。特にプログラマーの自分にとっては、PC環境にストレスがないのはうれしいですね。

部署は違えど、目標は同じ。ゼロから立ち上げるダイナミックさと、その醍醐味

──先ほど皆さんから、チームで目標に向かう名越スタジオの社風をお伺いしました。自身が所属するチームはどのような雰囲気ですか?

高橋:私が所属するデザインチームでは、担当の垣根を越えて全員が本気でいいゲームを作ろうと同じ方角を向いているのを日々感じます。別パートのスタッフでも、役職が上のスタッフでも、関係なく話しかけやすいです。

 

宇津木:プランナーチームもプログラマーやデザイナーといった他セクションのスタッフと話すことが多いですが、私たちの提案をポジティブに聞いてくれます。高橋の言うように、担当の垣根を越えて皆が同じ目標に向かう姿勢が見えるので、とてもいい環境だと感じています。

 

高橋:私はエフェクト担当ですが、やはり他職種であるプランナーやプログラマーと会話をする機会が多いです。その中でも、“良いゲームを作りたい”という空気感をしっかりと感じられています。

 

──プログラマーチームはどんな雰囲気でしょうか?

大井:プログラマーチームは約20名でキャリアを積んだ30代~40代のメンバーが多いですが、人柄の面では穏やかな人が多い印象です。ゲーム業界でのキャリアが長いスタッフが多いため、それぞれが独自のポリシーや考え方を持っている一方、ほかの人の価値観を受け容れられる度量も備えている人も多いです。

プログラマー・大井さん:プログラム開発部所属のシステムプログラマー。2022年5月入社。おもにバトルパートを担当しており、プランナーチームと仕様の相談をしながらバトルシステム開発を行っている。

 

大井:各々の担当業務を黙々とこなすという形ではなく、メンバー間で仕事の内容や進捗をしっかり共有しながら進めていく方針を取っているため、突発的に人が足りない状況が生じても、すぐにほかのメンバーがサポートに入ったり、業務の引き渡しがスムーズに行えたりする体制が整っています、新たにジョインされる方でもコミュニケーションしやすいチームだと思います。

 

──プランナーチームはどうでしょう?

宇津木:自分が好きなのは、とにかく活気があって、毎日が文化祭前夜のようなワクワク感のある現場です。これまでもいろいろなゲーム会社に在籍してきましたが、名越スタジオの企画開発部にもそうした雰囲気を感じています。パワフルなスタッフばかりで、改めてゲーム作りの楽しさを噛みしめています。

 

──ちなみに、働いていて、やりがいを感じるのはどんな部分ですか?

高橋:前述のとおり、私はゲーム作りを強く希望して映像制作会社から転職してきたので、いまは根幹の部分からゲーム作りに携われること自体に大きなやりがいを感じています。ほかの職種と同じく、エフェクトの分野でも自分で原案を考えて仕様を決め、ゲームに組み込んでいくフローがあるわけですが、そのフローのすべてが楽しくて。ゲームの場合は平面だけでなく360度、どの方向から見ても高いクオリティのデザインを作る必要がありますが、自分が考えたものが実際にゲームの中で動いているのを見るだけで、ものすごい達成感を感じます。

 

宇津木:私は自分たちがゼロから企画を立て、試行錯誤を繰り返しながら磨き上げたものがビルドされていく感覚が大好きなんです。このプロセスには監督である名越のチェックも含まれます。名越からのフィードバックを持ち帰って、担当プログラマーなど関係スタッフと話し合いながらより良いものを目指していくのですが、その結果、「前よりもすごく良くなったな」と実感できたときは、達成感を得られます。

 

大井:現在は名越スタジオとして最初のゲームを開発中で、当然ながら完全新作です。昨今、多くのメーカーでは、シリーズ作の続編やスピンオフであったり、自社の過去作をベースにしたゲームを作ったりする場合が多いので、なんの土台もないところから大型のコンシューマーゲームを作る機会はなかなか得られません。過去に属した会社でも新規IPに携わる機会はありましたが、ワークフローなど含めて土台から作るのは貴重な経験ですし、スタジオの立ち上げ期ならではのことだと感じています。技術的な部分やアセットはもちろん、開発ツールやライブラリを一から作り上げていくという意味でも、やりがいのあるチャレンジですね。

優秀な人材と最高の環境。世界に向けたコンテンツを本気で目指す

──最後に、名越スタジオへの転職を検討している人に向けてひとことずつお願いします。

高橋:ゲーム開発者として働くうえでは、どういう職種であっても自分が本当にやりたいと思っていることが何かしらあるはずです。一方で、それを実現できる環境は、なかなか見つからないものなのかなと。名越スタジオでは、自分の職域の中でかなり裁量をもって仕事ができますし、それ以外の部分においても他セクションのクリエイターたちと議論する中で、自分のアイデアを活かす機会を得られることがあります。自発的に動けるクリエイターであれば、間違いなく楽しい職場だと思います。

 

宇津木:日本国内のゲームスタジオのなかでは、多くの面で高い水準の環境が用意されていると思います。支給されるPCや各種の福利厚生も手厚いですが、給与水準の高さも見逃せないところです。通常は仕事ぶりが評価されて少しずつ給与が上がっていくのが一般的ですが、名越スタジオではまず高水準の給与が提示され、各々がその期待に見合う働きをしていく、という順番になります。これは開発スタッフのモチベーションにもつながり、いい循環を生んでいると感じます。しっかりとしたスキルがあれば、前職の会社やプロジェクトの規模に関わらず活躍できると思うので、よい環境でゲーム開発に集中したいというクリエイターの方は、ぜひうちで働くことをお勧めします。

 

大井:繰り返しになりますが、名越スタジオでは優秀な人材と最高の開発環境で仕事ができます。それに加えて、個人的にはスタジオの規模感も気に入っています。大きくはないスタジオなので、スタッフ間の意思疎通がスムーズですし、スタッフの裁量で関わることができる仕事の範囲もかなり広いです。また、プログラマーとしてキャリアを積んだ方であっても、ご本人が希望されるのであればコードを書くことに専念できるのも特色だと思います。

(取材後記)

風通しの良い職場、みんなで目標に向かう、オープンなコミュニケーション…言葉はシンプルだが、体現するためには多くのハードルを乗り越える必要がある。言葉だけが先走り形骸化してしまっている組織も少なくないが、取材では3人がこれらに真剣に向き合い、実践している姿を垣間見た。

 

クリエイターたちが自由に発想し、言葉を尽くして議論する。「ゼロから世界へ作品を生み出す」という強い意志が、自ずと優秀な人材を惹きつける理由にもなっているのだろう。

 

現在名越スタジオでは、新作タイトルの開発が進んでいる。“立場に関係なく言葉を尽くして語り合う”そうして生み出された彼らのゲームが世界を魅了する日が、すぐそこまで来ている。