龍が如くオンラインから学ぶ既存タイトルのローカライズに必要な事


コンシューマー機で絶大なシェアを誇る「龍が如く」シリーズ。

2005年にPlaystation2で登場してからおよそ14年の間に、スピンオフ作品含めて13作品ものタイトルがリリースされました。

およそ1年に1本のペースでリリースされているという計算になりますが、国内のゲーム産業でここまでハイペースで品質を落とす事無く提供し続けられているタイトルはほとんど無いのではないかと思います。

 

さてそんな龍が如くシリーズで待望のスマートフォン向けゲームアプリ「龍が如くオンライン」が2018年11月よりリリースされました。

据え置き機からスマートフォン向けゲームアプリに派生した国産タイトルはファイナルファンタジーシリーズやドラゴンクエストシリーズ、スーパーマリオシリーズといった事例がありました。

こういったゲームハードの変化に必要なローカライズにはどういったものがあるのでしょうか。

龍が如くオンラインを事例として成功要素を見て行きます。

 

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ゲームの概要

龍が如くオンラインは神室町という架空の街を舞台に、極道キャラクターを操作し、汚職警官や相対する極道組織と戦いながら裏街道で成り上がって行く事を目的としたゲームです。

これまでの龍が如くシリーズでは巻き込まれる形で主人公が物語に参入していった事が多かったですが、今回は数々の伏線を回収しながら頂点を目指して行く、というシンプルな動機になっています。

原作ファン向けには過去に人気を博したキャラクターの軌跡を追うストーリーモードが用意されており、これまでのプレイヤーにも新たな発見を与える仕様になっています。

 

ゲームジャンルとソシャゲユーザーの親和性

スマホ向けゲームアプリのジャンルでアウトローものと呼ばれるカテゴリがあります。

これは日常では反社会的な存在である暴力団や不良グループ、ギャング、犯罪組織といった世界観を舞台としており、リアルな非日常の中にあるスリルを楽しむゲームを指します。

 

実はこのジャンルは今や一大勢力としてマーケットを創出しています。

古くは2009年にモバゲーにて配信されていた「怪盗ロワイヤル」から始まり、ロックスター社の「グランド・セフト・オート」シリーズや、「マフィア・シティ-極道風雲 -」「覇道任侠伝」「ジョーカー〜ギャングロード〜」、「ギャングスター ニューオーリンズ 」と多様化しています。

いつの時代も決して現実には実現が難しいアウトローに憧れるのは人の常なのかもしれません。

マフィアにはマフィアの、極道には極道の世界での通す筋や流儀がある為、そういった世界に憧れる事もまた人気の要因と考えられます。

そんなアウトローな世界観を自分の好きなタイミングで、手のひらで楽しめるとあっては尚の事スマホとの親和性が高い事が伺えます。

 

この様に、既にスマホアプリ市場でニーズが顕在化された状態でアウトロージャンルゲーム老舗「龍が如く」ブランドのアプリがリリースされたのはもはや必然であったと言えます。

この選球眼をミスると、「ただスマホにローカライズしただけ」の必然性が無いゲームアプリとなってしまうことでしょう。

 

プレイヤーのアバター化で顕在化する問題をクリアに

龍が如くシリーズは発売当初、ゲームをしない大人に向けた本格なエンターテインメントとして作られました。

ゲームが映画や音楽といった他の文芸と肩を並べる未来を描いた製作陣の高い志によるものです。

その為、重要なキャラクターに渡哲也を起用したり、ノワール小説の第一人者である馳星周氏をシナリオ監修におき、大人が楽しめる上質なサスペンスシナリオを用意しています。

また、ゲームの本懐として存分に楽しませるシステム面でもライト層・ヘビー層のプレイヤーを楽しませる奥深いUIを用意していました。

以降、龍が如くシリーズでは大人を楽しませるシナリオ、ゲームの格を上げる豪華俳優陣キャスティング、世界観を損なわないゲームシステムは伝統となり、プレイヤーを楽しませています。

 

龍が如くオンラインでも舞台をスマートフォンに移したとて、その伝統は変わらず受け継がれています。

特に他の同ジャンルゲームとの競合優位性となるのはそのシナリオです。

上述した既存の他社ゲームではプレイヤー自らがアバターとなってその世界でのし上がるストーリーがほとんです。

しかし、その弊害としてシナリオの希薄化が発生します。

主人公がアバターということはその世界の住人からすると、プレイヤーのアバターキャラは「誰でも良かった誰か」になってしまうのです。

これにより、ゲーム全体を通じて主人公のシナリオへの介入必然性が低くなり、「ゲームの為のシナリオを追う」という作業化してしまうのです。

 

しかし龍が如くオンラインでは「春日一番という主人公をプレイヤーが操作する」という従来の龍が如く形式でユーザとゲームが向き合う構図になっています。

これにより「その世界の住人である春日一番が存在するから生まれるシナリオ」となり、物語の必然性が強まります。

プレイヤーは小説や映画を見るかの様にその世界で起きる事をゲームとして体験することができるのです。

 

スマートフォンゲームアプリでは主人公のアバターを作らせる事が多いですが、こういったシナリオが売りのゲームではあえてその慣習に迎合せずに、物語の主人公を設定することが重要なことがわかります。

 

最適化されたゲームバランス

INSIDE FOR ALL GAMEのインタビューにて、ディレクターの堀井章生氏より下記の様な言及がなされています。

 

「 我々は家庭用ゲーム機を捨てたわけではありません。

『龍が如く オンライン』は今の時代、無理をしない環境で『龍が如く』に触れたいという要望に、シンプルにお答えした形ですね。

PS4って久しぶりに電源入れる時に気合が必要だったりしますけど(笑)、携帯なら気軽に遊べますし、ゲームを遊ぶ習慣を取り戻してもらえると嬉しいですね。」

 

この言葉から窺い知ることが出来ますが、龍が如くオンラインではシステム面でも大きな最適化がなされていました。

これまでその時代でのハイエンド機で実現可能なギリギリの機能を実装し、プレイヤーをあっと驚かせてきました。

PS2では国産ゲーム初の雑多な歓楽街のリアルな描画から始まり、PS3ではモーションキャプチャーを利用したリアルなキャラクターデザイン、PS4ではシームレスな敵エンカウントなど。

戦闘システムもプレイヤーの操作レベルに応じたプレイ幅を提供することで、スキルに依存しないゲーム体験を提供しています。

もちろん龍が如くオンラインでもハードに最適化されたシステムが用意されています。

 

これまではリアルタイムなコマンド入力により格闘ゲームさながらの戦闘アクションを行っていましたが、スマートフォンユーザはそもそも操作性の高いコントローラーを有していません。

あくまで持っているのは電話です。

実際に触ってみると顕著ですが、物理ボタンが無いと押す感覚が無い為、シビアなコマンド入力に向いていない事がわかります。

その課題を解決する為、龍が如くオンラインではコマンド操作を潔く捨てて、選択式のRPG形式になっています。

これには既に他のゲームでプレイヤーが慣れているという特性と、ハードのメモリを抑えられるという利点があったと考えられます。

このこだわりに関しても上記と同インタビューにて言及されています。

 

「『龍が如く』はドラマチックかつ重厚なストーリーが特徴ですが、これをスマホでどう表現するかというのが1番のプレッシャーでした。

限られたリソースの中で2Dのカットシーンやイラストを使ったり、街の表現に3Dを活用したりしましたね。

2Dと3Dの良いところを駆使して世界観を表現するというのは、開発末期までこだわったところです。

 

スマホなので常に操作を求めるのではなく、セミオートで進行するようにしてます。

キャラクターが「攻撃」「防御」「回復」「補助」のどれかにカテゴライズされていて、この4タイプを組み合わせて戦っていくという形ですね。」※1

 

これにより、新規ユーザにとっては導入し易い操作体験で、龍が如くシリーズの持ち味である上質なエンタメ要素を享受できる、というハードに最適化したUXを提供するに至っています。

 

まとめ

ハイエンド機からローカライズする際に、ハードのスペックを理由にして機能や要素をオミットしていく事はとても簡単です。

しかし、それでゲームそのもののアイデンティティが損なわれてしまってはせっかくこれまで作ったブランドにキズをつけるだけでなく、今後のファン損失という取り返しのつかない機会損失が発生しかねません。

 

龍が如くオンラインでは、アウトロージャンルというアイデンティティ、大人を楽しませるシナリオ、ハードの特性を活かしたゲームシステムというポイントをしっかり抑えています。

改めて龍が如くらしさとは何か、を因数分解し、その要素をスマートフォンアプリで出来る事から逆算して再構築していました。

ゲームハードを持たないユーザ層にアプローチする為にはスマートフォンアプリでの商品展開が不可欠です。

しかし企業がイチからタイトルをメガヒット作品に育てるのは至難の業です。

既存ハードで作ったタイトルブランドという財産をローカライズできるゲームこそが次世代に生き残れるゲームタイトルになっていくのだと私は思います。

 

[出典]
※1『龍が如く ONLINE』製作の裏話や込められた思いを横山Pと堀井Dに訊く【TGS2018】

https://www.inside-games.jp/article/2018/09/22/117568.html

PN:ビットリズム
国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

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