メタバースからアニメまで!北海道から世界へコンテンツを届ける、カヤックポラリスの全容

いまや日本が誇る巨大市場となった、アニメやゲームをはじめとするエンタメコンテンツ。作品における魅力は、ストーリー、背景、戦闘シーンなど多岐にわたるが、ユーザーの心をつかむ要因の一つとして挙がるのが「キャラクターデザイン」だ。

 

今回インタビューを行ったのは、そんな魅力的なキャラクターを3DCGで表現するキャラクターモデリングを主な事業とする会社・カヤックポラリス。面白法人カヤックのグループから2022年に設立された、北海道札幌市に拠点を構える新進気鋭のCGスタジオだ。

 

2回に分けてお届けするインタビューの第1弾は、カヤックポラリス代表の伊藤暢啓さん。カヤックポラリスの事業と、会社立ち上げに至るまでの半生、札幌の地で働くメリットについても語ってもらった。

 

キャラクターモデルに特化した、札幌のプロフェッショナル集団・カヤックポラリス

●カヤックポラリスのご紹介をお願いします。

カヤックポラリスでは、アニメからメタバース、ゲーム、VR等向けの多様な3DCG制作業務を行っています。カヤックグループと相互にシナジーを図ることで、札幌の地でトップクオリティのキャラクターモデルを制作することをミッションに、2022年に立ち上げられました。

 

●3DCGの中でも、キャラクターモデルに一番注力しているのですか?

そうですね、今はモデリングに注力し、特にキャラクター制作に全精力を注いでいます。

 

ある程度の規模があるスタジオであれば、制作の種類が多岐にわたってもクオリティは担保できるかもしれませんが、立ち上げ初期のスタジオで、扱うクリエイティブが分散してしまうと、非効率ですし品質も担保できません。

 

現在カヤックポラリスのクリエイターが一番経験値が高い領域は、アニメーション作品におけるセルルックのキャラクターモデル制作です。そのクリエイティブをベースにアニメからゲーム・VR・メタバースまで、魅力的な3DCGキャラクター制作ができるスタジオとして立ち上げました。

 

自分も20年以上、アニメ業界でキャリアを積んで、カヤックポラリスの中心メンバーも有名作品のキャラクターモデルを作ってきたメンバーです。カヤックグループと連携して作品を生み出せるという利点もありますし、実績の面でもアニメ業界から評価されていることも強みになっています。

取材はカヤックグループの「カヤックアキバスタジオ」にて敢行

 

●基本的にお仕事はどのような流れで進んでいくのでしょうか?

まず組織的な部分をお話しすると、弊社は現在3DCGのモデリングデザイナーが6名、制作管理業務を行うスタッフが2名在籍しています。

 

クライアントからキャラクターモデルの要望を受けたら、2Dのキャラクターデザイン画を基にモデリングしていきます。平面のキャラクターを立体のキャラにしたとき、どうすればキャラクターが映像やゲームの中で魅力的にアニメーションするかを考えながら制作するのがポイントになります。

 

●原作への理解度も重要そうですね。

そうですね。マンガ原作などを映像作品として完成させる上では、クライアントからどのようなテイストのキャラクターモデルを要求されているのかをしっかり吸収する必要があります。

 

クライアントの意図を自分とキャラクターに憑依させ、平面では見えない立体部分を想像する。何よりも想像力と、造形力が求められる仕事だと思いますし、そこを表現できることが我々の強みでもあります。

 

●本社を札幌に選んだ理由は何ですか?

自分が株式会社グラフィニカで代表を務めていた2013年に、札幌にスタジオを作った経験がありますその時期は『ガールズ&パンツァー』や『楽園追放』など、多くの有名作品に参加していたので、札幌のクリエイターにとっては、地元にいながら東京の有名作品に携われるのは魅力的だったようで、自分が札幌スタジオを経営していた8年間、離職者は一人もいませんでした。

 

グラフィニカ時代はオフィスコストなどコストダウンを主目的に札幌にスタジオを作りましたが、カヤックポラリスはその時の経験を経て、札幌がクリエイターにとって最適な環境だと思い、本社を札幌に選びました。

 

●どういう面で、札幌がクリエイターにとって良い環境だと感じたんですか?

札幌で採用活動をするなかで、職種によっては東京スタジオで採用するケースも多くありました。札幌採用者と比較すると非常に離職率が高く、特に3年以内の離職率が高かったと記憶しています。理由を分析すると、東京での生活ストレスがかなり大きかったようでした。

 

東京は家賃も高く通勤など生活環境のストレスも地方出身者にとっては負担です。新卒で奨学金の返済でもあればさらに生活が苦しくなってしまいます。札幌であれば、友達や親がすぐ近くにいて、スタジオの近くに部屋を借りても負担は少なく済みますし、通勤のストレスもない。結果的にクリエイターとしての育成指導を受け、スキルアップに集中できる環境が整っていたのだと思います。

 

あとは風土的な面で、公共施設や街全体がゆったりと作られています。雪が不便だとしても、地下鉄沿線に住めば雪の影響もなく、カヤックポラリスの最寄りは地下鉄沿線なので、都心と変わらない生活も出来ます。

●仕事の量や内容の充実さを求めて東京を選ぶ人もいるかと思いますが、札幌ではいかがでしょう?

少し前までは「仕事は直接顔を合わせるべき」という風潮があり、仮に札幌で東京の仕事を受けるとしても、打ち合わせは東京まで行かねばならないこともあったと思います。しかしコロナ禍を経て、オンラインの仕事が普通になったので、仕事という面では場所による格差はなくなりました。

 

ただ、「教育」の面ではやはりリアルでのコミュニケーションが必要不可欠になります。そのため、「クリエイターを育てる」という意味でも、先述の通りクリエイターにとって良い環境が整った札幌が最適だと感じ、本社を構えるに至りました。

 

●UターンやIターン人材にとっても魅力的ですね。

そうですね。ひと昔前までは、東京から地方に行くのは「第1線から離れる」というネガティブなイメージがありましたが、今はそうではなくなりました。まだ発表できませんが、カヤックポラリスでは主に配信向けアニメやゲームで国内外に展開するような魅力的な作品を手掛けているので、我々の仕事は業界でも最前線の仕事だと自負しています。

 

そういった作品づくりに魅力を感じられ、モデラーとして、教育者としての経験を持っている方は、ぜひ自身の経験を生かしてもらいたいです。

 

フィルムからデジタルへ…。アニメ業界の転換期で掴んだチャンスと、人との出会い

●伊藤様のご経歴について教えてください。

1983年に音響メーカーのパイオニアが創業したレーザーディスク株式会社に入社して以降、映像コンテンツにはずっと携わっていました。そこで10年ほど映像編集を経験後に、ポストプロダクションの株式会社キュー・テック(現:株式会社クープ)では営業・映像制作コーディネーターと幅広い職種を経験しました。

 

3CGに出会ったのは今から30年前くらいでしたね。当時キュー・テックに在籍していた時ですが、その頃は映像技術がフィルムからデジタルに移行していたタイミング。初代プレイステーションが発売されて、1台数千万円ほどする3DCGツールが登場した時代でもありました。

 

キュー・テックでは、プレイステーションのゲーム制作にも使われていた3DGシステムのSymbolicsを導入して3DCG制作に関わる経験をしました。

 

そのタイミングで、アニメの仕事もたくさん受けるようになりました。自分はCGやVFXの制作に関する経験やノウハウもあって、それがアニメ制作との親和性も高かったんです。ピーク時には日本の新作アニメ番組1クール中の30%以上に関わっていて時期もあり、アニメ事業執行役員も務めていました。

 

ただ、キュー・テックでやっていたのは、映像の後処理であるポストプロダクション事業でした。そこからもっと上流の制作を目指そうと思い、2009年に株式会社グラフィニカを設立したんです。

 

●その後11年間、グラフィニカの代表を務めたのち、カヤックポラリスの代表に就任されていますが、その背景は何でしたか?

 

今年で62歳になるのですが、晩年はプレイヤーとしてではなく、「人を育てる」ことに注力したいと思い、グラフィニカの代表を引退しました。

 

そんな中、兼ねてからお付き合いもあったカヤックグループがアニメ事業に進出したいという話を聞きました。カヤックは「つくる人を増やす」という経営ビジョンを掲げていて、私のやりたいことと目指す姿が、カヤックの方針と合致したこともあり、カヤックポラリスの立ち上げに至りました。

●キャリアも経験も長い伊藤さんですが、振り返ってみて、自身のキャリアにどんな印象を持たれていますか?
良い人との出会いの連続だったと思います。グラフィニカも、キュー・テックも、カヤックや今頑張ってくれている札幌のクリエイターも、私が前に進む意味を与えてくれたなと感じています。

 

またビジネス的な側面でいえば、フィルムからデジタルに切り替わるという谷間を経験して、アニメが日本のトップエンタメになる瞬間を味わうことができました。昔は映画のトップといえば実写がほとんどでしたが、今や興行収入ランキングでアニメ映画がランクインすることは珍しくない時代です。

 

そこにビジネスチャンスを見出すこともできましたし、アニメが日本のエンタメコンテンツの王者になるときに、その業界に身を置けた。それは私の中でも大きな転換期だったと思います。

 

求めるのは、「一緒に育てられる人」

●どんな人に入ってきてほしいですか?

一番欲しいのは、一緒に人材を育てられる人です。

 

基本的に制作スタジオでは、一緒にモノづくりをしながら教育していくことが主流です。自分一人で完結させるというスタンスよりも、成長段階の若手と共同で作品を作っていくことにモチベーションがある人が望ましいですね。

 

現在はクリエイティブディレクターの斉藤を中心に若手を育成している段階です。斉藤にはグラフィニカ作品に数多く参加してもらい、10年ほど一緒に仕事をしていますが、キャラクターモデリングにおいて、10年間安定してどの作品でも高い評価を受けたモデラーは斉藤でした。元の2Dイラストを見て、魅力的なCGモデルに作り上げる技術やノウハウ、どの角度から見ても魅力的なキャラクターを作れる造形力、そしてスピード…。まさにカリスマクリエイターですね。本人には伝えていませんが(笑)。

 

●カヤックポラリスで働いていくうえで、どんなことを経験できますか?

有名作品のキャラクターを多数手掛けることができるのは、クリエイターにとってやりがいだと思います。

 

またカヤックグループと連携し、最終的には自社のIPも生み出していきたいと考えています。しっかりキャラクターモデリングで良いチームを作り、十分な実績と体制が整うことでオリジナル作品も手掛けられるので、その未来に期待してくれたら嬉しいです。

 

やはりクリエイターは、最終的に自分の作品を世に出したいという気持ちがあります。それを叶えるために、CGデザイナーから演出になる人もいるし、アニメ監督にキャリアアップする人もいます。カヤックポラリスというスタジオが成長する中で、そういったキャリアアップのチャンスも自ずと増えていきます。

 

札幌の地から、新しいIPを生み出していく

●今後、力入れたい領域は何ですか?

先述の通り、新しいコンテンツを自社で生み出していくことです。ただ、アニメは企画から世に出るまでに3年~5年くらいと、それなりの年月がかかります。ゆえに、新しいコンテンツを生み出すというのは僕ではなく、若い人間がやるべきだと考えています。

 

新しいテクノロジーとクリエイティブが合わさって、初めて革新的なコンテンツが生まれると考えているので、テクノロジーに強いカヤックとクリエイティブに強いカヤックポラリスでしっかり連携していきたいです。

 

●面接時に聞きたいことを一つだけ教えてください

我々の事業に共感をしてもらえるか?という確認ですね。自分がクリエイターとして何がやりたいのかを、面接時はしっかり聞きたいと思います。

 

職種的なことは現場の人間が面接で確認するので、自分は求職者の方が目指す姿と、カヤックポラリスが目指す場所がずれていないかをヒアリングしていきたいです。

 

●実際に記事を見て、働いてみたいと思った方々にメッセージをお願いします。

重複しますが、グループとしての最終目標は自社のIPを持つこと。そのために、キャラクターモデリングでオンリーワンのスタジオとして成長させ、その上で新しいコンテンツを生み出すような、他社にはない新しいスタイルの挑戦をしていくので、そのビジョンに共感してくれる人はぜひ問い合わせてくれたら嬉しいです。

 

スタジオとして受託だけでなく、作品も環境も新しく生み出していくフェーズです。札幌の恵まれた環境でそういうチャンスを掴みたい方と一緒に仕事したいですね。