ノベルアクションゲーム『ザ・ファイナルタクシー』が展開する世紀末ドラマ
魅力的なストーリーは映画や漫画と同様、ゲームにも求められるものですが、『ザ・ファイナルタクシー』はスマホゲームながらもユニークなドラマが展開される、注目すべき一作です。
目次
新感覚タクシーゲーム『ザ・ファイナルタクシー』
「クレイジータクシー」シリーズなど、これまでもタクシーを題材にしたゲームはありましたが、『ザ・ファイナルタクシー』は少し変わった設定が目を引くゲームです。
地球最後のタクシードライバー
ファイナルタクシーの名前に恥じない通り、プレイヤーは地球最後のタクシードライバーとなって、乗客を乗せては荒廃した世界を走り回ります。
基本的にはノベルゲームとなっており、なぜ世紀末世界でタクシー運転手をやっているのか、そして乗客はなぜタクシーを利用するのかを解明していきます。
そしてそもそも、終末世界で生きる彼らは何者なのかを、タクシードライバーという職業をこなしながら、その世界で起きたことや行われていることが明らかになっていくのがこの作品の最大の魅力と言って良いでしょう。
ノベルとアクションが楽しめる一本
『ザ・ファイナルタクシー』はメインストーリーこそノベル形式で進んでいきますが、合間合間に挟まれるミニゲームは一風変わったドライブアクションとなっています。
プレイヤーがハンドルを握り、目的地までうまくタクシーを運転するというものですが、乗客を酔わせてしまわないように優しくハンドルを切りながら運転をする必要があります。
上手くコーナーを曲がることができればゲームクリアというシンプルですぐに終わるゲームではありますが、終末世界ゆえに悪路が多く、プレイヤーはそんなポストアポカリプス世界のタクシードライバーとしての技量を披露する必要があります。
ノベルで世紀末の様子を知ることはできるものの、基本的にタクシーの中の会話だけでゲームは進行するため、イマイチ緊迫感にかけてしまうことも考えられます。
そこで時折息抜きがてらにこのようなミニゲームを挟んでみることで、この世界が世紀末であることのリアリティを表現しようとしている点もうかがえるでしょう。
何が『ザ・ファイナルタクシー』を魅力的にしているか
『ザ・ファイナルタクシー』の魅力はゲームシステムよりもむしろ、その前提にあるシナリオにあると言えます。
日常と非日常の組み合わせ
ポストアポカリプスの世界を描いた作品の多くは、既存の文明や慣習、経済システムが破壊され、ありとあらゆる価値観が逆転したり、あるいはゼロ状態へとリセットされてしまった設定がポピュラーです。
暴力が跋扈していたり、新しい貨幣経済やサービスが成立していたりと、現実世界ではおおよそ考えられないような世界が展開されていることも珍しくありませんが、『ザ・ファイナルタクシー』が面白いのは、タクシーという馴染み深い職業が、いまだに存在しているという点にあるでしょう。
ファイナルタクシーというだけあって、確かに地球最後のタクシー運転手であることには変わりありませんが、それでもタクシーという馴染みのある存在が、終末世界にも存在していたらどうなるのか、という想像力を上手に刺激してくれるのがこの作品の魅力です。
個性豊かなキャラクターとストーリー
そして、ファイナルタクシーという名に恥じない通り、そんな地球最後のタクシーを利用する乗客も個性豊かなキャラクターばかりです*1。
中にはロボットやモンスターなど、人外の存在までタクシーを利用する姿も伺え、終末世界ではこれまでにない、新しい多様性を育んでいる様子が伺えます。
また、乗客はそれぞれ見た目に恥じないストーリーを抱えており、彼らがどのようにしてポストアポカリプスの世界を生きているかということも、彼らの会話からうかがい知ることができます。
また、プレイヤーとなるタクシードライバーの他に、プレイヤーを手助けしてくれるAIの存在も見逃せません。
愉快なロボットのサポートというのはSFなどではおきまりのキャラクターですが、AIが身近になった今となっては妙にリアリティのある存在に思えるのも面白いところです。
『ザ・ファイナルタクシー』をドラマティックにするもの
単なるユニークなシナリオだけでは「センセーショナルな取り組み」と評されて終わるところですが、それ以上に学びの多いゲームであることも確かです。
タクシーという日常性の高い舞台
『ザ・ファイナルタクシー』は、ポストアポカリプスとはいえ日常性の高いタクシーの中だけで世界が完結している点が特徴です。
終末らしさはミニゲームや乗客のみによって完結しており、タクシーも普通の乗用車であるため、日常と非日常が入り混じったような、妙なユーモアに溢れているのが面白いところです。
日常性の高い現場に、奇形の生物が乗客として乗り込み、現実とは思えないような会話を淡々と話す様子はどこかおかしく、世界観をさらに魅力的なものとして引き立ててくれています。
このように、私たちにとって身近な存在を異世界に放り込んでしまうだけでも、とてもユニークな舞台設計を行うことができます。
終末世界やファンタジーの世界観を一から作り込むことは非常にタフな工程となりますが、「もし、タクシーが終末世界でも通常営業を続けていたら?」と言ったように、日常にあふれるものをそんなパラレルワールドに送り込んでしまうことで、オリジナリティを溢れさせつつも、共感性の高い舞台を用意することができるようになるのです。
想像力を掻き立てる設定や展開
そして、下手に終末世界についてビジュアルで言及することなく、あくまでもゲーム上ではタクシーの中だけで世界が完結しているところもポイントです。
どこからともなく乗客が現れ、各々の要望に合わせた目的地で降りていく。
タクシーの中だけとはいえ、多くのキャラクターが出入りを繰り返すことで、終末世界にも多様な文明が築かれており、車が走れるほどには広い世界が存在していることをうかがわせてくれます。
乗客がタクシーに乗る前や降車後に何をしてたのか、するのかといったことや、周りの景色がどうなっているのかについては深く掘り下げられません。
タクシーの中で行われる会話だけを通じて、アポカリプス世界に想いを馳せるのが、このゲームの醍醐味の1つとなっているのです。
おわりに
一見するとジョーク混じりのノベルゲームのように思われる『ザ・ファイナルタクシー』ですが、タクシーの中だけにスポットを当てることで、スマホゲームとは思えないほどの奥行きを醸し出すことに成功している、魅力的なゲームです。
世界観を作り込んでいても、あえて全てを出し切らないことにより、プレイヤーに無限の想像力を喚起させることができている点は、このゲームの最大の強みと言えるでしょう。
出典:
*1 ゲームキャスト 「世紀末タクシー伝説『ザ・ファイナルタクシー』レビュー。大抵の悩みは、タクシーに乗ればすべて解決する終末世界」
www.gamecast-blog.com/archives/65954021.html
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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