アイデアはピンチの時に降ってくる?ゲーム音楽家のお仕事


ゲームに関わる仕事の種類は様々で、大作ゲームになればなるほど、1つの作品に多くのクリエイターが携わることになります。

音楽家の存在もその1つで、ゲームプレイングを盛り上げてくれる大事なBGMやSEを生み出してきました。

 

音楽家の下村陽子って?

日本のゲーム音楽家、下村陽子の名前は、クリエイターやゲームファンであれば誰もが一度は耳にしたことのある名前でしょう。

 

数々の名作ゲームに携わってきた伝説の音楽家

兵庫県出身の下村さんは、カプコンのサウンドチームに加わって以降、ゲーム内のBGMからSEにわたるあらゆる音源の制作に携わってきました。

 

本人の兼ねてからの夢だったRPGの楽曲制作を手がけ始めるのは、彼女がスクウェア(現スクウェア・エニックス)に移籍後からで、「フロントミッション」や「スーパーマリオRPG」、「パラサイト・イヴ」や「聖剣伝説」など、数多くの名作で楽曲制作を担当しています。

 

フリーとなった現在でも精力的に活動を続けており、大作RPGの「キングダムハーツ」シリーズや、「ゼノブレイド」、「ファイナルファンタジー」シリーズなど、日本を代表するゲームのほとんどにその名を連ねています。

 

近年はゲーム以外でも活躍

最近ではゲーム以外の作品の楽曲提供も目立ちます。

2017年に公開された「ひるね姫 ~知らない私の物語~」と言った映画作品や、アニメ「ハイスコアガール」のBGM、宝塚の「天は赤い河のほとり」と言った舞台作品まで、幅広く活躍しています。

 

過去に制作したゲーム音楽を振り返るようなイベントも定期的に開催しており、オーケストラ演奏によるアニバーサリーCDの販売や、コンサートイベントも行われています。

http://www.2083.jp/pianistique/

 

自分の古巣であったレトロゲーム時代の名作だけでなく、多方面の楽曲制作でも活躍する下村さんの姿に憧れ、ゲーム音楽家を目指す人は決して少なくありません。

 

不朽の名作「ストII」担当時代の大ピンチ

そんな生ける伝説となっている下村さんですが、彼女がキャリアをスタートさせて間もない頃に担当したのが、大人気格闘ゲーム「ストリートファイターII」のBGMでした。

 

国内外で大人気となった「ストII」にも携わった下村さん

「ストII」の愛称で世界中に親しまれたこのゲームは、1991年にゲームセンター据え置き型のアーケード版としてリリースされたのち、スーパーファミコンやPCエンジン、プレイステーションなど、数々の家庭用ゲーム機にも移植される名作となりました。

 

個性豊かなキャラクターが登場するストIIですが、そのBGMやSEにも印象的なものが多いのも特徴です。

そんな名曲の数々にも携わっていたのが、カプコンに入社して間もない若き日の下村さんで、その制作秘話としても面白いエピソードがいくつも残されています。

 

起死回生のひらめきを導いたものとは?

ストIIは世界各国の格闘家が戦うという設定が背景にある格闘ゲームであったため、それぞれのキャラクターやステージの雰囲気にあった楽曲を用意する必要がありました。

 

もちろん、90年代前後の当時の日本にインターネットはおろか、ワールドミュージックを聴くことのできる音源なども探すことは困難でしたから、インドやアメリカなど、たとえ行ったことのない国やその国の音楽を聴いたことがなくても、なんとなくのイメージのみでその国の世界観を音楽で作り出す必要があったのです。

 

数々のインタビューで答えているのが、ブランカのテーマ曲作りに難航した時の話です。

他のキャラクターの楽曲は案外スムーズに進行していたものの、ブラジル出身のブランカというキャラクターのテーマソングのイメージが一向に湧かず、下村さんも締め切りギリギリまで考え続けていました。

 

納期が近づき、そろそろアイデアをまとめなければというところで、起死回生のフレーズが下村さんの頭をよぎりました。

そうしてそのまま会社へ行って一気に作り上げたテーマソングは、ゲームに採用されたことはもちろん、今もYoutubeなどで視聴することができます。

 

そんな下村さんのピンチを救ったのは、通勤中の電車で網棚に置いてあった黄色い袋だったということです。

頭の中に突如として浮かんだのは、「タリラリラン」という印象的なメロディ。

なぜそのフレーズが思い浮かんだのかは知る由もありませんが、会社へ向かう電車の中でたまたま見かけた袋がなければ、今でも愛される名曲が生まれることもなかったと思うと、感慨深いものがありますね。

 

 

ゲームに携わる仕事をする人が大切にしていること

そんなピンチを経験しながら、今日でも第一線で活躍している下村さん。

彼女に限らず、ゲーム制作で壁にぶつかった時に思い出したいのが、アイデアの上手な見つけ方です。

 

アイデアが難なく出たり、やることが決まっている段階まで到達していれば、あとは手を動かすだけで物事はどんどん前へ進んでいきます。

ゲームクリエイターのように何かモノづくりに携わっている人にとって、最大の悩みどころはアイデアが詰まってしまった時にどうするかというところにあるでしょう。

 

「スプラトゥーン」はウサギのゲームだった?

下村さんのように、意外なところからヒントが生まれたり、当初とは全く異なるアイデアをゲームに取り込んだところ、大ヒット作品となった例もあります。

 

例えば任天堂の大ヒットゲーム、「スプラトゥーン」は擬人化したイカたちが陣取りをするゲームですが、当初のキャラクター案として縄張り意識の強いウサギを採用しようという話があったそうです。(2)

 

ところがインクを吐き出すイメージとつながらないことからこの案はボツとなり、水中を泳ぎながら墨を吐く「イカ」が採用されることとなりました。

 

擬人化したイカがインクを使って陣取り合戦をするゲーム、というアイデアをいきなり思いつくというのは、まさに天才の所業でなければ思いつかないかもしれません。

しかし連想ゲームで身近なものを少しづつアレンジしていけば、思わぬ名作の予感を身近に感じることもできるようになるでしょう。

 

スプラトゥーンの例で言えば、陣取りゲーム→ウサギの縄張り意識→インクと親和性のあるイカ→インクを吐き出すイカの陣取りゲームと言ったようなプロセスがあったことが想像できます。

 

その他の有名なゲーム作曲家

植松伸夫

「ファイナルファンタジー」シリーズの音楽における生みの親である作曲家にして、株式会社ドッグイヤー・レコーズ、有限会社スマイルプリーズの代表を務めています。
経歴としては、高知学芸高等学校を経て神奈川大学外国語学部英文学科を卒業し、スクウェアに入社しています。
スクウェアでは約30作のゲーム音楽を手掛けた他、バンド“THE BLACK MAGES”を結成しました。
2004年10月末にスクウェア・エニックスを退社した後は、有限会社スマイルプリーズや自主レーベルドッグイヤー・レコーズを設立し、精力的に活動しています。

 

ゲーム音楽の分野においては、「ファイナルファンタジー」シリーズや「ロストオデッセイ」、「グランブルーファンタジー」などの作品に参加しています。
また、功績はゲーム音楽に留まらず、“1999年度 第14回日本ゴールドディスク大賞”でゲーム音楽としては初の快挙となる「ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)」を受賞しました。

 

古代祐三

作曲家、ゲームプロデューサーであり、株式会社エインシャントの代表取締役社長や株式会社JAGMO名誉会長も務めています。
経歴としては、高校を卒業した1986年に日本ファルコム株式会社にアルバイトとして入社し、商業作曲家としての活動を開始しています。
ファルコムの代表作となる「イース」ではほぼ全曲を担当し、サウンドトラック「MUSIC FROM Ys」はキングレコード初のゲームミュージック専用レーベル「ファルコムレーベル」の第1弾となり、ゲームミュージック作曲家という職種を世間的に認知させる第一人者となりました。
その後は、フリーランスの活動に転じ、1990年には株式会社エインシャントを設立して、代表取締役社長に就任。
現在もベテランゲーム作曲家として第一線で活動し続けています。

 

参加作品は「イース」シリーズ、「湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE」シリーズ、「世界樹の迷宮」シリーズなどがあります。

 

すぎやまこういち

日本の作曲家、編曲家、指揮にして、日本作編曲家協会(JCAA)常任理事、日本音楽著作権協会(JASRAC)評議員としても活動するなど、ゲーム音楽界だけでなく日本音楽界の重鎮とも言える存在です。
大学卒業後はアルバイト期間を挟んだ後、文化放送、フジテレビ、フリーのディレクターと変遷し、1986年に「ドラゴンクエスト」の作曲を手がけてからはゲーム作曲家をメインとして活動するようになります。
2004年にはSUGIレーベルを設立し、「ドラゴンクエスト」関連アルバムの販売を一元化した他、2016年には「世界最高齢でゲームミュージックを作曲した作曲家」としてギネス世界記録に認定されました。
さらに、2018年秋の叙勲で旭日小綬章を受章、2020年には文化功労者となりました。

 

代表的な参加作品は「ドラゴンクエスト」シリーズや「風来のシレン」シリーズなどがあります。

 

日常をゲームのように楽しめる感性を磨こう

仕事の種類に限らず、ゲーム作りに携わる人はゲームにだけ目を向けるのではなく、一歩引いた日常の何気ない生活からイメージのヒントを得たり、ゲームになりそうなアイデアを見つけられるよう心がけたいものです。

 

下村さんの例やスプラトゥーンの企画案のように、身の回りにあるものや生き物からアイデアを膨らませられるようになれば、アイデア出しの苦労もゲームのように楽しめるようになるかもしれません。

 

逆を言えば、何もないところからアイデアが無限に湧いてくる天才でなくとも、毎日の景色から上手にヒントを集められる人になって初めて、偉大なゲームクリエイターとしての一歩を踏み出すことになるのでしょう。

 

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出典:

(1)RedBull「Diggin’ in the Carts エピソード3:新時代の夜明け」

https://www.redbull.com/jp-ja/diggin-in-the-carts-episode-3-2017-15-04

 

(2)2018年開催「Splatoon展」

http://towershibuya.jp/news/2018/07/03/121971

 

ライター情報

ライター名:Satoru Yoshimura

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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