フィットボクシングの成功から学ぶ体感型ゲームに必要な企画力
2018年12月に発売されたNintendo switch専用ソフト、「Fit boxing」の 全世界の累計出荷販売本数が30万本を突破しました(※1)。
これまでに発売された家庭用体感型のフィットネスゲームはダンスダンスレボリューションや、Wii-Fitなどが有名であり、プレイした事がある人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、このような体感型ゲームの可能性や魅力について、ハードの特性を活かしたゲームを作る為の企画力に迫りたいと思います。
目次
ゲームの概要
Fit Boxingは「おうちで爽快エクササイズ」がテーマのボクササイズゲームです。
Joy-conと呼ばれるNintendo switchのコントローラーを両手で持ち、リズムに合わせて画面に出て来る指示に従いパンチを繰り出してエクササイズを行います。
プレイヤーのエクササイズデータは管理され、グラフで消費カロリーや設定体重が可視化されるので、プレイによる変化がわかりやすくなっています。
また、インストラクターは多様な人種が用意され、それぞれに人気声優が声をあてている為、アニメや洋画ファンも特定のキャラを想起される様な作りになっています。
一人で黙々とエクササイズを行うモードの他には、結果を競う2人対戦モードや協力するモードも用意されており、幅広い遊び方が用意されています。
フィットボクシングの効果は?実際に痩せる?
本作に興味を持っている人がもっとも気になるであろう減量効果に関しては、ウィットが提供する食事管理アプリ「あすけん」ユーザーの統計情報を参考にしたデータが発表されています。
2018年12月~2019年3月の期間に、あすけん上で食事管理を行いながら本作のトレーニングを30日以上記録した100名分の統計データを集計した結果、平均で2kgの減量効果が確認されたとのことです。
減量効果の最大の要因はエクササイズと食事管理の継続というものでしたが、本作がエクササイズの継続に大きく貢献していることが言及されているため、しっかりとプレイし続けるという前提ではありますが、確かな減量効果が期待できるようです。
フィットボクシングの特徴
本作は、専用器具のいらないお手軽さやしっかりとプレイを継続できるサポートなどが特徴です。
ここでは、そんな本作の特徴について詳しく説明していきます。
専用器具が一切いらないお手軽さ
本作の一番の特徴は、Nintendo Switchがあればいつでもどこでもプレイできるお手軽さといえるでしょう。
特別な器具などは付属しておらず、準備はストラップを付けたJoy-Conを握るだけで終わります。
トレーニング器具をそろえたり、ジムまで移動したりする必要はありません。
思い立ったらソフトをダウンロードしてすぐに始められるため、プレイへのハードルは非常に低いといっていいでしょう。
きめ細やかなサポート
本作では、ダイエットや体力強化、健康維持などの目的ごとにプランを選択できる他、部位、運動時間、ゲーム難易度なども調整できるので、幅広いユーザーに合わせたエクササイズを行えます。
また、人気声優が演じる専属インストラクターがプレイヤーのエクササイズ生活をサポートしてくれます。
さらに、各レッスンの初めにはステップの誘導や基本姿勢のレクチャーなどのチュートリアルもあるのでプレイ方法がわからず混乱することもありません。
収録楽曲が豪華
本作では、人気の洋楽20曲がダンスチューンのアレンジで収録されており、自分専用のプレイリストでエクササイズを楽しめます。
収録楽曲は、T・レックスの「20th Century Boy(20センチュリー・ボーイ)」、レディー・ガガの「Bad Romance(バッド・ロマンス)」、「ノーランズのI'm In the Mood for Dancing(ダンシング・シスター)」など、誰でも一度は聞いたことがあるような有名楽曲ばかりでかなり豪華です。
ダイエットに最適なのは? リングフィット アドベンチャーと比較
本作と同じように運動することを目的としたNintendo switch専用ソフト「リングフィット アドベンチャー」が2019年10月18日に発売されました。
本項では、リングフィット アドベンチャーについて紹介しつつ本作との比較を行っていきます。
リングフィット アドベンチャーとは
リングフィット アドベンチャーは、付属のリングコン、レッグバンドにJoy-Conを取り付けて体に装着し、全身を動かして遊ぶフィットネスアドベンチャーゲームです。
ストーリーを楽しみながら運動するメインのアドベンチャーモードや、短時間で手軽にプレイできるお手軽モード、トレーニングのみに集中できるセットメニューモードが収録されており、さまざまな目的で楽しめます。
→リングフィットアドベンチャーの凄さと健康ゲームの今後について
その他、Joy-ConのモーションIRカメラを使って運動後の脈拍を測定し、運動時間や消費カロリーを確認することもできます。
フィットボクシングとリングフィット アドベンチャーの比較
フィットボクシングとリングフィット アドベンチャーにはどのような違いがあるのか、まずは表にして確認してみましょう。
比較項目 | フィットボクシング | リングフィット アドベンチャー |
メインとなる運動(目的) | 有酸素運動 | 筋力トレーニング |
必要な器具 | なし | リングコン・グリップ・レッグバンド |
活動スペース | 1畳程度 (腕を伸ばせる+周囲2歩程度) | 1~2畳程度 (横になって足を伸ばせる) |
騒音 | 小さい (0ではない) | 大きい (マットなどを用意したいレベル) |
表を見るとリングフィット アドベンチャーに対するフィットボクシングの手軽さに目が行きがちですが、特に注目したいのは両タイトルのメインとなる運動です。
フィットボクシングは有酸素運動、リングフィット アドベンチャーは筋力トレーニングをメインとしています。
有酸素運動とは、筋肉を収縮させる際のエネルギーに酸素を使う運動のことで、心肺機能および酸素摂取能力の改善、体脂肪減少、不安や抑うつ感の軽減、記憶機能の活性化といった効果があります。
対して、筋力トレーニングは骨格筋の出力・持久力の維持向上や筋肥大を目的とした運動の総称で、筋力の増強の他、スポーツ競技力向上や健康づくりといった効果が期待できます。
メインとなる運動の違いから、目的にかかわらずどちらかのソフトをプレイすればよいということはなく、むしろ両方をプレイすることで相乗効果を期待できます。
あえてリモコン感度を甘くする設計で運動の楽しさ=ゲームの楽しさを追求
体感型フィットネスゲームはプレイヤーにフィジカルな負担を強いるため、他のゲームと比較すると離脱される要因が高い傾向があります。
これはフィットネスジムに会員費だけ払って行かなくなるのに似ています。
しかし、Fit Boxingではこうならない為のギミックが仕込まれています。
ゲームを企画したイマジニア 橋田寛幸氏はインタビューに際し、以下の様な事を述べています。
「パンチの判定をセンサーでどこまで認識させるかという点には非常に気を使いました。この判定は厳しすぎてもゆるすぎても爽快感が損なわれるので,開発チームも最後まで苦労して調整したポイントです。」※2
「「Fit Boxing」では,ジャブやストレート,フック,アッパーなど,さまざまなパンチを打ち分けます。こうした違いを厳密にチェックし過ぎると,プレイヤーが正しくプレイしているつもりでも,なかなか認識されずにストレスフルなゲームになってしまうんです。」※3
これには思わず舌をまきました。
確かに、本格的なエクササイズを行うことを目的とした場合、よりシビアな判定基準を持たせることによるゲーム全体の引き締めは有効です。
しかし、あくまで「おうちで」「爽快」というテーマに基づいた場合、シビアな判定基準はテーマを阻害してしまうことでしょう。
だからと言ってゆるすぎても本来の「エクササイズ」というテーマの本懐を遂げることは難しくなります。
ともすれば開発側としては、面白さ=シビアさや、競技制という歯ごたえを求めてしまいます。
しかし、そこをグッとこらえて大衆向けにライトな方向へチューニングするというジャッジはテーマがしっかり定義されていたことによる英断であるといえるでしょう。
軽すぎず重すぎないカリキュラム難易度の妙
また、コンテンツへの持続性を維持するために、プレイヤーが実施するカリキュラムにも絶妙な難易度設定がされていることも見受けられます。
コントローラーのセンサーを最大限駆使したカリキュラムは、ジャブ、ストレートといった基本的なパンチ動作はもちろん、ダッキング、ウィービング、バックステップ、サイドステップといった身体全体を使った動きも収録されています。
身体への負担が大きい動作ですが、先述の心地よいリモコン感度によりストレスになりづらい体験ができます。
これによりストイックな姿勢を求める事無く手軽さと爽快さを両立させ、プレイ持続をさせる企画力と言えるでしょう。
この判定の甘さと本格的なエクササイズ、というバランスはプレイヤーのモチベーション維持に貢献しています。
実際にやってみると、初級難易度のカリキュラムでさえ翌日に残る筋肉痛があるほど疲労を感じました。
しかし面白い事に二日目、三日目ともなるとその筋肉疲労に身体が順応し、爽快感はより強く、確かなものになりました。
さらに興味深いのは、この爽快感がマンネリにならない為、狙い澄ましたかの様にカリキュラムが難しくなることです
これにより、身体がやっと慣れた頃にはもう次のレベルのカリキュラムが提示され、同じ難易度でダラダラと惰性にプレイする、という事が出来ない様になっています。
最初はジャブやストレート、フック、アッパーといった上半身のみの運動ですが、プレイヤーの経験値と共に下半身を使ったカリキュラムが追加されていきます。
全5段階ある最終段階では今までのボス総登場、といった感じで難易度の高い運動同士の組み合わせがプレイヤーを襲います。
しかし、もうこの頃にはすっかりFit Boxingで身体を動かす楽しさに打ちのめされている為、高難易度を苦行ではなくスパイス程度に感じてプレイしていることでしょう。
気付いたら、始める前の杞憂は何だったのかというくらいどっぷり運動生活に浸かっています。
フィットボクシングは声優も豪華
エクササイズの際にはボイス付きのインストラクターが寄り添ってくれるため、孤独にエクササイズするのはちょっと……という人も安心です。
また、本作の隠れた魅力として、インストラクターを演じる声優陣が豪華という点も挙げられます。
本項では、プレイヤーを励ましてくれるインストラクターを演じる声優を紹介します。
リン役:早見沙織
早見沙織さんはアイムエンタープライズ所属の声優で、高垣楓(「アイドルマスター シンデレラガールズ」)やメルトリリス(「Fate/EXTRA CCC」、「Fate/Grand Order」)、胡蝶しのぶ(「鬼滅の刃」)など、数多くの人気・話題作で主役キャラクターを演じています。
また、アーティストとしても活動しており、その歌唱力は高い評価を受けています。
エヴァン役:中村悠一
中村悠一さんはシグマ・セブン所属の声優で、さまざまな役柄の演技をこなす彩な声質が印象的です。
ブローノ・ブチャラティ(「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」)やグラハム・エーカー(「機動戦士ガンダム00」)といったアニメキャラクターの他、キャプテン・アメリカ(マーベル・シネマティック・ユニバース作品/演:クリス・エヴァンス)をはじめとした吹き替えでも活躍しています。
マルティーナ役:上坂すみれ
上坂すみれさんはスペースクラフト・エンタテインメント所属の声優で、キュアコスモ(「スター☆トゥインクルプリキュア」)、アナスタシア(「アイドルマスター シンデレラガールズ」)、ピピ美(「ポプテピピック」/3話A)などのキャラクターを演じています。
また、音楽稼働も行っており、ライブでの独特なパフォーマンスは大きな特徴となっています。
ソフィ役:小清水亜美
小清水亜美さんは現在フリーで活動中の声優で、少女から大人の女性まで、広い年齢層の女性キャラクターを演じる他、少年・動物などといったキャラクターの声も担当しています。
代表的なキャラクターにはアネモネ(『交響詩篇エウレカセブン』)、紅月カレン(『コードギアス』)、纏流子(『キルラキル』)などがあります。
ラウラ役:田中敦子
田中敦子さんはマウスプロモーション所属の声優です。
主に吹き替えで活躍しており、ニコール・キッドマンさんやモニカ・ベルッチさん、ジュリア・ロバーツさん、ジェニファー・ロペスさんなどの錚々たる女優陣を担当しています。
ゲーム・アニメ作品では、草薙素子(「攻殻機動隊 SAC_2045」など)、ベヨネッタ(「BAYONETTA」シリーズ)、キャスター(「Fate/stay night」、「Fate/Grand Order」)などを演じています。
ベルナルド:大塚明夫
大塚明夫さんはマウスプロモーション所属の声優で、独特の低い声質と高い表現力により、ゲームやアニメはもちろんナレーションや映画の吹き替えでも広く活躍しています。
担当した役は、ゲームやアニメではアナベル・ガトー(「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」など)やソリッド・スネーク(「メタルギアソリッド」)、ブラック・ジャック(「ブラック・ジャック」シリーズ)、吹き替えではスティーヴン・セガールさんやニコラス・ケイジさん、サミュエル・L・ジャクソンさんが代表的です。
まとめ
判定は甘い、けどエクササイズは本格的。
この絶妙なバランスによる普遍的な運動の爽快感を提供し、さらに定量的にプレイ結果を保存し、グラフで可視化することでモチベーション維持をする、という二段構えのUXが他ゲームとの競合優位性だと言えます。
体感型フィットネスゲームで一番求められることは「持続できること」です。
その為にプレイヤーが持続できる様、従来の同系統ゲームとは異なる企画による設計がちりばめられていました。
また、Fit Boxingにはゲーム本来の目的である楽しさを提供する事とは別に、ヘルスケアの観点でも我々への福音と捉える事ができます。
万病の元となる生活習慣病は依然として社会問題の様に存在していますが、フィットネスゲームはこうした社会課題にゲームでアプローチをする事ができます。
治療ではなく予防医学の領域になりますが、慢性的な運動不足が引き起こすリスクを楽しく爽快に解決していく、という風にも考えられるのです。
そう考えると体感型ゲームを企画する、というのはとても社会意義の強い、ビジョナリーな仕事と言えるのではないでしょうか。
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出典
※1 https://www.imagineer.co.jp/news/news.php?id=1349
※2 https://www.4gamer.net/games/423/G042357/20190313041/
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