サカつくRTWに学ぶニッチマーケットでの生存戦略
セガゲームス社がリリースした「プロサッカークラブをつくろうRoadtoWorld」。
2019年には1周年を迎え、エドガー・ダーヴィッツ選手など、リアルでも人気のレジェンドを実名キャラ実装するなど、ますますの盛り上がりを見せています。
さて、プロサッカーゲームというジャンルはユーザを選ぶ為、鬼門とも言えるカテゴリですが、プロサッカーをモチーフにしたスマホゲームは既に競合各社からリリースされています。
コナミ社の「ウイニングイレブン 2019」「実況パワフルサッカー」、エレクトロニックアーツ社の「FIFAサッカー」。
市場全体ではあまり大きくはないので、少ないメーカーでアクティブユーザーを取り合っている、という他のカテゴリのゲームと比較すると珍しいマーケットです。
その中でも大きく分類すると、「ウイニングイレブン」や「FIFAサッカー」といった頭身が高いキャラクターが登場するリアル志向のゲーム。
もう一方は「実況パワフルサッカー」や「サカつくRTW」といった頭身が低くよりゲームとしての面白さを追求したデフォルメ志向のゲームに分かれます。
この頭身という概念は単純なデザイン性の一つに思えますが、実はゲーム性に関わって来る、とても重要な要素です。
特にプレイヤー自身が介入している、という没入感をゲームとして処理し、それをライトに再現するというベクトルでのUX提供では後者のデフォルメ志向が適していると考えられます。
この一見ただのデザインの方向性と思われるデフォルメデザインがどの様にゲーム全体の設計にインパクトを与えているかや、既存IPをスマホ化する際に必要なシフトチェンジの要素に迫ります。
モバイルの没入感を頭身で再現
サカつくRTWはプレイヤーがプロサッカークラブの監督に就任し、最初はローカルエリアで活躍しているクラブチームを世界一へ導く、というのが大きなミッションです。
その過程で実在の選手をチームメイトとして受け入れ、戦力強化をし、フォーメーション設計などを行う事でチームの勝利を狙って行くプロセスが人気を博しています。
さて、サカつくシリーズはセガサターンでの第一作目から基本的に据え置き型のハードではリアル頭身でのゲームデザインがなされていました。
しかしNINTENDO-DS版では初めてデフォルメ志向のデザインが採用され、スマホ向けアプリでも同様にデフォルメ志向のデザインが採用されています。
この志向の変化は他の競合シリーズとの差別化をはかる上で重要なシフトチェンジであったと考えられます。
ゲーム業界全体がゲームはリッチで一部の物好きなプレイヤーしかやらない、という先細りに傾いて行く危険性がある中で、肩肘張らずにライトにもっと楽しもう、というスタンスの現れに思えます。
特に携帯機、ことモバイル端末ではリッチな表現よりも、普段の生活の中でテンションを作らなくても気軽に楽しめる、というタッチポイントのハードルの低さがゲーム設計において重要です。
その為リアル頭身のウイニングイレブンやFIFAサッカーはサッカーリテラシーが高いプレイヤーへのサービス提供に長けていますが、サカつくRTWでは楽しめる間口を広げていると考えられます。
また、本作の特徴としてスマホの機能を活かしたユニークな仕掛けがあります。
それは自撮りした写真をそのまま選手の顔にできるという没入感をより強くできるギミックです。
このゲームとリアルの間を絶妙にとるバランスの妙技はリアル志向のプロサッカーゲームでは実現することができません。
ユーザーレベルに合わせたアプローチ設計
前述の通り、頭身が低いゲームデザインは言葉を選ばず言うと、新規ファンが取っ付き易くする、という重要なギミックでしたが、プロサッカーファンへの利用動機もしっかり設計されています。
Jリーグモードという、実名の国内プロサッカーチームを使ったプレイモードや、公式クラブチームとのタイアップ企画によるレジェンド級選手の使用可能キャラ化といった目玉が用意されています。
このモードによりプレイヤーは自分が思い描く理想のメンバーでクラブチームを作り、自分が監督をしている、という体験を楽しむことができます。
他のゲームが試合中の選手を操作する、というプレースタイルなのに対し、あくまでこのゲームではチーム形成や、それに伴う経営判断が醍醐味となっており、それが差別化につながっています。
以下はファミ通APPのインタビューで本ゲームのディレクターである宮崎氏による回答内容です。
「これは昔からやりたかったことのひとつなのですが、プレミアムスカウトを始めとしてプレイヤーが獲得できる選手のリストアップが現実のサッカーシーンにリンクしていること。
これがある程度できているのはよかったことかなと思います。
もちろんすべてをカバーできるものではないのですが、単に能力の高い選手をつぎつぎに出していくのではなく、サッカーファンが納得・満足する形で提供していくことは常に意識しています。」*1
この言葉からもわかるように、表面のキャラクターデザインこそライト層を取り込める様に狙って実装されています。
しかし、ゲームの本質にあたる部分は歯ごたえのあるハードなコアユーザーを楽しませる玄人寄りの設計思想が根幹にあることが窺い知れます。
選手になって試合そのものを行うミクロな楽しみ方か、監督としてチーム全体を運営するマクロな楽しみ方かという点で他のゲームとの大きな差別化になっています。
一方で、より遊び易くするというテーマでの改善もぬかりがありません。
以下は同ファミ通APPでの宮崎ディレクターによるインタビュー内容です。
「そうですね“より遊びやすく”という今年のテーマに沿った改修を行っています。
じつは“試合の結果を見る”も1.5倍速にしていたり、細かいところですがプレイフィールを向上させる目的のものがほとんどですね。
(中略)プレイヤーの大きな離脱ポイントにもなってしまったのですが、経験値や報酬が獲得できるイベントの実装など、いまはいろいろな面で緩和されてかなり突破しやすくなっていると思います。
(中略)プレイヤーさんからのご意見を受けて改修を行ったアップデートになっています。
恐らく半分以上は頂いたご意見を反映したものになっているのではないかと。」*2
ゲームの難易度に関係の無い箇所で利便性を向上することで、プレイのハードルを下げつつ、ライト層には触れ易いビジュアルでアプローチし、コア層にはやり応えのあるモードを用意しています。
このレイヤー毎に利用動機を細分化する、というアプローチはスマホという誰もが持っている端末でのゲームだからこそ実行できる手段なのです。
まとめ
「サカつくRTW」はサカつく既存ファン、サッカーファン、ゲームファン、という異なるレイヤーが存在するゲームです。
それらのプレイヤーが利用動機を得られる仕組みを随所にちりばめることで
ゲーム性を損なう事無いUXを提供していると言えます。
専門性の高いスポーツゲームや高度な修練が求められるシューティングゲーム、麻雀ゲームなどでは少数の牌を取り合う椅子とりゲームなマーケティングになってしまいがちです。
サカつくRTWのアプローチはそういったニッチ市場でのゲームメーカーの生存戦略を考える上で新たなユーザ獲得の為の、示唆に富んだケーススタディに溢れています。
これからもサカつくRTWから目が離せません。
併せて読みたい記事
→ロマサガRSから学ぶ既存ゲームIPで新規ファンを掴む為に必要な開発スタンス
→モンスターファーム移植版で問われる既存タイトルのフィッティングポイント
→ゴジラディフェンスフォースから学ぶ原作ファンを納得させるスマホゲーム開発
[出典]
*1『サカつくRTW』Jリーグモード実装間近!宮崎Dにインタビュー
https://app.famitsu.com/20181208_1391373/
*2『サカつくRTW』配信1周年記念!開発陣に聞いた本作のこれまでとこれから
https://app.famitsu.com/20190426_1446158/
ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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