主人公を操作しないパズルゲーム『Pavilion』はなぜ面白いのか
ゲームの新しい面白さを追求することは、クリエイターの至上命題かもしれませんが、それは簡単に達成できるものではありません。
しかしそれでも、いつの時代においても面白いアイデアでゲームを作り、正当に評価されるクリエイターは少なからずいるものです。
目次
暗さの中に光るものを体感できる『Pavilion』
『Pavilion』はまさに新しいゲームの面白さを提示する作品で、ゲームそのものの暗さとは裏腹に、新しいゲーム体験を届けてくれる、光に満ちた作品と言えます。
主人公は直接操作できないパズルゲーム
Pavilionにおいてまず目を引くのは、プレイヤーが主人公を直接操作することができないという点にあるでしょう。
通常、ビデオゲームというのはプレイヤーが主人公を操作し、うまく操りながらゲームクリアへと彼らを導いていくことが役目となります。
しかし、今作ではいざゲームが始まっても、プレイヤーは主人公を操ることができません。
それどころか、ゲームにはスティック操作やボタン操作のためのUIも表示されることはなく、ただゲーム画面が静止した状態からスタートします。
しかしあれこれと触っていくうちに、プレイヤーはこのゲームをどう遊ぶのかを理解できるよう作られています。
このゲームでは、主人公ではなく主人公の周りのオブジェクトを操作し、うまくゴールへと導いてやることが求められるのです。
非常に背景やオブジェクトの書き込みが繊細で、一瞬複雑な操作が求められるように思うこちらのゲーム。
本質的には、箱の中にビー玉を入れてうまく傾き方を変えながらゴール地点へ運ぶような、クラシックなゲームプレイを採用しているともいえるでしょう。
国内外で数多くの賞を受賞
ユニークながらもシンプルで遊びやすいゲームシステム、そしてまるで絵画のような深い世界観を醸し出すグラフィックの美麗さは、多くの注目を集めました。
ゲームメディアにおける数々の高評価はもちろんのこと、世界中のインディーゲームアワードにおいても数々のノミネートを果たし、受賞も経験しています*1。
クリエイティブにあふれているだけでなく、誰でも遊べるようなポピュラリティの高さは、スマホゲームには欠かせません。
外見に反して、シンプルに楽しめるゲームであったことも、審査員の目を惹き、多くの賞を獲得することができた理由とも考えられます。
『Pavilion』はなぜ評価されたのか
『Pavilion』の高い評価の裏には、確固とした評価すべきポイントがいくつも盛り込まれています。
ステージの美しさ
今作の魅力は、何と言ってもステージ1つ1つの美しさが挙げられます。
禍々しく重苦しい遺跡が続くと思えば、突然木漏れ日の差す樹海へと抜け出したりと、ステージごとに背景の様子は異なります。
このようなバリエーションに富んだ構成となっていながら、いずれのステージの描画についても怠りが見られません。
西洋画でも眺めているかのような奥行きのある陰影や、スチームパンクを思わせるレトロフューチャーな世界、そしてミステリアスな光の描写は世界観への注意を促します。
プレイヤーがステージのギミックを解いてやらなければ主人公は前へ進むことができないのですが、あえて進ませたくなくなるような、心打つ名シーンの数々にあふれています。
美しいステージを際立たせるゲームシステム
そんな景色を眺めることを推奨するかのように仕上げられたゲームシステムも、このゲームの秀逸な点であると言えるでしょう。
多くのスマホゲームは、まるでコントローラーかのようなボタン操作やスティック操作を実現するため、スマホにそれらを表示させています。
しかしながら、これではプレイヤーが没入すべきゲーム画面を著しく侵害してしまい、指やUIでスクリーンを楽しむことができません。
一方の『Pavilion』ですが、一切のUIは排除され、プレイヤーは画面上の気になる箇所をタップするだけの仕様となっています。
好きなだけゲーム画面に没頭できるだけでなく、主人公の脱出の手助けになるオブジェクトはどこかとくまなく探すことになります。
そのため、否が応でもビジュアルを堪能することになるのです。
『Pavilion』が提示した新しいゲームの面白さ
これまでにないゲームシステムを盛り込んだ今作ですが、ただ新しいシステムを盛り込むに止まっていないのがすごいところです。
ユニークなゲームシステムがもたらす意味を踏まえ、非常に高次元の仕掛けが用意されているのは見逃せないポイントです。
主人公への過度な注目を排除
1つは、このゲームでは主人公が中心に世界が動いているのではなく、この世界の一部としての主人公が強調されている点です。
プレイヤーは主人公を操ることができないのもそうですが、いわゆる神の視点からこの世界の成り行きを見守り、主人公の手助けをする必要があります。
主人公目線でこの世界の全貌を把握するのではなく、あくまでプレイヤーは主人公のいる世界全体を見渡し、この世界を理解させられることになります。
昨今のゲームでは登場キャラクターの描写に力を入れ、過剰なまでに主人公重視の世界観に人気が集まっています。
『Pavilion』はそんな現代の作風に対するアンチテーゼともいうべきダークな世界と、ユニークなゲームシステムを搭載しているのです。
くまなく見渡すに足る背景の描き込みクオリティ
また、このゲームの動かせるオブジェクトを探して主人公を導くゲームシステムは、美しい世界をくまなく堪能するための役割も果たします。
プレイヤーが攻略のカギとなるオブジェクトをこの世界から探し出すためには、隅々までゲーム画面を眺めなければなりません。
そのプロセスの中で起こっているのは、このゲームが非常に細かく描写された世界観を有しているという驚きです。
これに気付くか否かはプレイヤー次第ですが、気づかないにせよ、『Pavilion』をプレイヤーはなんとも言えない充足感に満たされます。
これは、まるで美術館で絵画をしっかりと脳に焼き付け、多くのインプットをこなした状態にも等しいと言えるでしょう。
念入りに作り込まれた世界をあますところなく楽しんでもらえるような、「観させる」ゲームシステムを採用しているため、このゲームの魅力はさらに引き立てられています。
おわりに
没入感のあるゲームというのは、必ずしも3Dグラフィックが美麗で、主人公を自由に動かせるゲームであるとは限りません。
『Pavilion』のように、時には不自由を感じながらも、ゆっくりとその世界を堪能できるシステムは、没入感を最大まで高めてくれる仕組みになっているのです。
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出典:
*1 AppStore「Pavilion: Touch Edition」
https://apps.apple.com/jp/app/pavilion-mobile/id1088111993?ign-mpt=uo%3D4
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『Pavilion』公式Twitter:https://twitter.com/thevisiontrick
『Pavilion』AppStore:https://apps.apple.com/jp/app/pavilion-mobile/id1088111993?ign-mpt=uo%3D4
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