移植版モンスターファーム2から学ぶ移植タイトルの戦い方
2020年9月、コーエーテクモ社からiPhone/Android対応アプリ『モンスターファーム2』がリリースされました。
本作は1999年にPlaystation向けで開発された同タイトルの移植版で、2019年に同作の1作目がマルチプラットフォーム移植され、その続編としてリリースされました。
前作ではNintendo Switch版と合わせて8万ダウンロードを記録し、アプリの販売価格1,960円で換算すると1.5億円の売り上げとなり、続編へ意欲的になったと考えられます。※1
過去のタイトルを移植版として最新プラットフォームへリリースする際、オリジナル版が出た時代と現代との技術的ギャップを如何に減らすか、というアプローチが必要になります。
そうした工夫がモンスターファーム2には随所に光っており、これからの移植版スマホアプリゲーム開発の福音となりそうです。
目次
最新技術による徹底的なゲーム体験の再現
これまでのモンスターファームシリーズの特徴に、CD-ROMをゲーム内で読み込むと、内部データを読み込んでモンスターを登場させるという機能があります。
自宅にある音楽CDやゲームCDを持ち寄ると、同じモンスターでもパラメーターがそれぞれユニークな個体が生成される為、「うちの子」感が強いモンスターになるのが醍醐味でした。
つまり、この機能がなければ本タイトルの移植版として旧来ファンから納得の得られる仕様とは言い難い、アイデンティティとなっている機能です。
このCD再生機能をスマホアプリ版として移植する際にネックになったのが、当然スマホ端末ではCDを読み込めないという事です。
そこでスマホ版ではCDの内部データを一元管理する専用のサーバーを用意し、楽曲名やアルバム名をゲーム内で入力する事で擬似的にCD再生する、という体験を再現しています。
ほぼインターフェースを変えずにシームレスなサーバー接続とデータ出力を瞬時に行う処理でこうした体験を実現しているのです。
インフラの発達だけでなく、ゲーム内の世界観を損なわないデザイン、手元で行うCD交換に近い速度で結果を返す処理能力を当時のゲーム体験再現に使っているのが特徴です。
ファンとのゲーム愛溢れる企画を通じたコミュニケーション
また、このCD再生機能には特定のディスクでレアなモンスターが生まれるという裏技がありました。
当時の流行した曲やゲームのディスクからのみ生まれるという希少性も楽しみの一つでしたが、移植にあたってここもテコ入れがされています。
「#このCDから生まれてほしいモンスター」というハッシュタグによりTwitterで一般公募をし、1999年には無かったデータでのモンスター再生を取り入れたのです。
これには懐かしさによるバズ要因や、また大喜利的なバズ要因を持つ為、ゲームの改善と共に話題を拡散できるというマーケティング観点でも優秀な施策でした。
実際にローンチされた際にどういった楽曲が採用されたのか、Twitterの過去ログを見ながら検証するという新しい楽しみを与えています。
こうしたファンとの双方向なコミュニケーションとゲームへのフィードバックという試みはさらに発展します。
「#MF2の良いところ変えたいところ」というハッシュタグを使い、ゲームの改善点を吸い上げるという施策を公式アカウントが実施したのです。
集まったコメントはデザイン性に言及するものからシステム面での改修まで、実に多岐に渡ります。
重要なのはのべつ幕なしにすべてのリクエストを反映することではありません。
現代人のゲーム体験へ近づけられる様な改善や、当時のシステム面の都合で強いていたプレイヤー側のストレスを軽減することから軸がブレないようにすることでした。
大きく分けると「システムバグの修正」、「ゲームバランスの調整」、そして「ゲーム体験の最適化」という項目に分類できます。以下は実際に取り入れられた案の抜粋です。
・システムバグの修正
1625年以上プレイ時の不具合修正,モンスターの体型ビジュアル不具合修正,トレーニングの適性修正,データのみ存在していたモンスターの追加
・ゲームバランスの調整
ゲームバランスを破壊してしまうキャラクターの弱体化,修行時の寿命減少値変更,状態変化「余裕」の効果修正,対抗戦出場モンスターのパラメータ修正,固有モンスターの習得技追加
・ゲーム体験の最適化
オートバトルのAI調整,能力合計値の表示追加,育成演出早送り機能の追加,オートセーブ機能の実装,セーブ・ロード速度の向上,オンライン対戦機能の追加,SNS連携の実装
尚、この改善点は「原作との違い50」という特設ページが組まれ、大々的に発表しています。※2
スマホアプリゲームの開発側がネットの書き込みやツイート内容からゲームの評判を間接的に把握する事はあっても、あけすけに伺いに来るのはとても珍しいことです。
ともすれば自信のなさの表れとも解釈され、ネガティブに受け止められてしまいます。
今回の取り組みには「一緒に改善・成長して作っている」というモンスターファームが持つブリーダー体験とも通ずるものがあります。
協力的なコメントで改善案が集まっていく光景は微笑ましいものがありました。
こうした従来のゲーム作りとは一線を画すアプローチにより、販売前から関係性を構築し、販売した後はその答え合わせ、というステップで話題性を発揮し続けることができます。
始め易く、終え易いという体験を実現する機能
据置型ゲーム機向けに作られたゲームをそのままアプリに移植すると遊びにくさがたびたび発生することがあります。
それは、腰を落ち着けてプレイする事を想定された据置型と、移動が前提の携帯ゲームではゲームデザインがそれぞれ異なるからです。
特にセーブや読み込み速度などは顕著にパフォーマンスを求められます。
ゲームアプリはSNSや動画ストリーミングといった他のアプリとユーザーの可処分時間を奪い合う為、少しでも使いづらい、遊びづらいとすぐに離脱されてしまいます。
つまり、かつてはゲーム同士の時間争奪戦だったのが、今ではゲーム以外の娯楽も同レベルでベンチマークになっているということに他なりません。
こうしたゲームを取り巻く環境の変化に順応する為、システム側でのバージョンアップで
”始め易く、終え易い”という体験を提供することは必須です。
本アプリではオートセーブ機能、ロード速度の改善、育成時の演出早送りといったゲームデザインの最適化が反映されています。
これらがもたらすユーザーメリットは「始めやすくやめやすい」という体験です。
従来の技術ではセーブ・ロードに一定時間の拘束時間が必要でしたが、裏側でセーブしてくれ、自分のタイミングで再開できるのは、現代人のプレイ環境に適していると言えます。
また育成時の演出早送り機能追加により、ゲームの本質的な面白さを損ねることなくストレスを緩和しています。こうした合わせ技によりアプリゲームへの最適化が図られています。
ゲームの寿命を伸ばす全国大会の復刻
かつてPlaystation版モンスターファーム2では、TECMO社公式の全国大会「モンスター甲子園」を開催していました。
これは全国のプレイヤーがメモリーカードを持ち寄りオフラインで対戦する催しです。
今でこそオンライン対戦機能はアプリゲームにおいて必須機能と言えるものですが、
当時はネットを使用した対戦はできませんでした。
その為、モンスターを育てても自分のコミュニティ内でしか対戦ができず、ゲームの寿命が自分のいる生活環境に依存していました。
しかし全国大会がある事で、自分の周りにはいない相手との対戦に向けてモンスターを育成する、という体験を提供していたのです。
本アプリではオンラインのマッチング対戦機能を利用した、モンスター甲子園の復活が話題を呼んでいます。
基本機能としてオンライン対戦は実装されていましたが、それに止まらず以前実施していた大会名を冠することで、対戦に情緒的な意味合いを持たせるという配慮がなされています。
まとめ
過去のタイトルを移植版として最新プラットフォームへリリースする際に必要な工夫の数々がモンスターファーム2に凝らされています。
最新技術による徹底的なゲーム体験の再現、ファンとのゲーム愛溢れる企画を通じたコミュニケーション、現代の生活様式への順応。
こうした技術的アプローチの積み重ねで、ただの移植版に止まらず最新ゲームとの競争が出来るアプリ開発を目指しましょう。
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→龍が如くオンラインから学ぶ既存タイトルのローカライズに必要な事
→ロマサガRSから学ぶ既存ゲームIPで新規ファンを掴む為に必要な開発スタンス
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ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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移植版モンスターファーム2公式サイト
https://www.gamecity.ne.jp/mf2/
GooglePlay
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.koeitecmo.ps_mf2
Appstore
https://apps.apple.com/jp/app/id1513855993
※1 株式会社コーエーテクモホールディングス 2020年3月期第3四半期 決算概況
https://www.koeitecmo.co.jp/ir/docs/ir2_20200127.pdf
※2 原作との違い50
https://www.gamecity.ne.jp/mf2/renew.html
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