『戦車の履帯を愛でるアプリ』に見る、注目されるゲームの企画力とは
シミュレーションゲームの魅力は、実在する物事を忠実に再現し、いつでもそれを体験できるロールプレイにあります。
現実の物事をゲームに落とし込むのは至難の技ですが、一部分であれば十分に実現可能です。
『戦車の履帯を愛でるアプリ』は、戦車の履帯をスマホとは思えないほど忠実に再現しているということで、ファンの関心を集めている作品です。
目次
ニッチ層に特化した『戦車の履帯を愛でるアプリ』
今作はタイトルからも想起できるように、ひたすらに戦車の履帯の挙動を再現するのに注力したシミュレーションゲームです。
戦車の履帯を忠実に再現
戦車といえばアクションゲームでもおなじみの乗り物ですが、実際の戦車は様々なパーツから構成されている、精密兵器でもあります。
中でも重要な役割を果たしているのが、履帯と呼ばれる部分です。
いわゆるキャタピラ構造を有しているこの部分は、戦車の足とも言える存在で、ここが破損すると動けなくなってしまうほどです。
どんな悪路でも何十トンもある戦車が軽々と走破できるのは、履帯あっての性能ですが、そんな履帯部分をゲームで再現したのが今作です。
『戦車の履帯を愛でるアプリ』では、戦車の履帯の挙動や作りを忠実に再現することで、まるで本物の戦車のような挙動をスマートフォンでも楽しめる作品に仕上がっています。
目を見張る物理シミュレート「のみ」を楽しむ作品
今回、作中で履帯を忠実に再現するにあたり、力を入れているのが履帯構造をゲーム内にも実際に再現している点です。
履帯部分の構造をもう少し紐解いていくと、これは履板と呼ばれる一枚の板が何枚も連なり、キャタピラとして機能していることがわかります。
履帯をリアルにシミュレーションするべく、履板の連なりをゲーム内でも忠実に再現することで、現実同様の履帯のパフォーマンスを再現することに成功しています。
戦車は様々なゲームに登場する人気のビークルですが、履帯構造をここまで忠実に再現しようと試みた作品は、他にないと言えるでしょう。
似たようなコンセプトで話題を集めた『MudRunner』
『戦車の履帯を愛でるアプリ』のようなコンセプトで作られた作品は、一つではありません。
家庭用ゲーム機やPC向けに販売されている『MudRunner』もまた、同じようなコンセプトで制作された人気作品です。
悪路を走破するトラック乗りとなれ
今作において、プレイヤーは東欧のトラックドライバーとなり、路面が劣悪な山奥で物資の運搬や救助作業を支援します。
様々な乗り物を乗りこなしつつ、地域のインフラ回復に貢献するという作品ですが、タイトルからも想像できるように、このゲームはむしろ悪路を走行することに重点を置いたゲームです。
『MudRunner』は多様な乗り物を操縦する楽しさもさることながら、悪路をどのように走破するかの技術が問われるゲームです。
泥道や水没地域の再現度は非常に高く、まるで本当に山奥にきたかのような体験をゲームで味わうことができます。
沼地にはまってしまった際、焦ってアクセルを踏み込みすぎるとタイヤは空回りし、地面を掘り進んでしまうため、ますます脱出は困難になります。
ギアを入れて地面とタイヤを噛み合わせ、うまく悪路から抜け出せるか、という駆け引きや試行錯誤を楽しむことに力を入れた作品です。
オフロードを乗り越える楽しさをゲームで再現
車を運転できるゲームはこれまでにも様々な作品が登場し、次世代ゲーム機のレースゲームなどは実車と見まごうほどのグラフィック性能を備えています。
『MudRunner』は、こういった次世代にも通用するグラフィックに力を入れるよりも、むしろ悪路を走るアウトドアな楽しみに力を入れた作品です。
車を操縦するゲームは数あれど、ここまでオフロード走行の挙動を忠実に再現しているゲームは、他にないでしょう。
好きな車を自由に走らせるだけでなく、時には自然環境によって自由な走行が奪われてしまう体験も、オフロード好きにとっては醍醐味となります。
窪地にはまるというストレスをあえてゲームで再現することで、ニッチな車の楽しみ方を伝えてくれる、貴重な作品となっているのです。
また、『MudRunner』には続編となる『SnowRunner』もすでにリリースされており、今度は雪原や氷の上も走行できる作品にアップグレードしています。
マニアックな需要にこたえたコンセプトではあったものの、大幅にグレードが改善した続編を作れるほど、大いにセールスを記録していたことがわかるニュースでもあります。
ニッチ層に刺さるゲーム企画の作り方
『戦車の履帯を愛でるアプリ』や『MudRunner』のように、ニッチな層をターゲットとしたゲームをヒットさせるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
「オタク心」を徹底して研究
一つ目は、ニッチな需要を生み出している「オタク心」を体感で理解することです。
戦車の履帯の挙動や、悪路を走破する楽しさというのは、その道をある程度極めている人間にしか理解できない楽しさです。
こういった楽しみや喜びに到達するためには、ある程度その分野への見識が求められます。
自らニッチな楽しみに参画できることが、こういったニッチ層に届くゲーム開発へ大いにインスパイアを与えます。
逆を言えば、深くハマっている趣味や、多様なジャンルの趣味を持っている人ほど、ニッチな層に刺さるコンテンツを作れる素質があると言えます。
いろいろな趣味やアクティビティに身を投じることで、新しいゲームのインスピレーションを得られるかもしれません。
コンテンツ全てをゲームに盛り込む必要はない
また、ニッチな喜びをゲームでシミュレートするにあたって、そのアクティビティの全てを同じ解像度で再現する必要がないのもポイントです。
『戦車の履帯を愛でるアプリ』もそうですが、このゲームは履帯の挙動を忠実に再現している反面、それ以外のグラフィックやゲームシステムは最低限にとどまっていることが分かります。
クリエイターの技術力の問題もありますし、何しろスマートフォンで全てを再現するには、明らかにスペックが不足しているためです。
『MudRunner』についても同様のことが言えます。
泥や自然物の挙動は非常にリアルに再現されているものの、その再現度に比べれば車やその他の3Dオブジェクトのディテールは、旧世代のゲームレベルであることが分かります。
何より、ゲームそのものにもストーリー性や具体的なシナリオがあるわけではなく、ただ悪路を抜け出るという楽しみを覚えるために作られた作品なのです。
こういった事例を踏まえ、まずはいかにしてニッチ層に喜んでもらえる要素をゲームに盛り込むか、というところから着想を得ることが大切です。
おわりに
新しいゲームを作るのは難しい取り組みですが、世の中にある隠れた喜びに注目することで、まだまだ新しいゲームのインスピレーションは無限に眠っていることが分かります。
自分なりのニッチ層を見出し、その喜びをゲームに落とし込むことで、ユニークな作品を制作できるかもしれません。
併せて読みたい記事
・一発アイデアでも大丈夫。スマホゲームに求められる企画力とは
・スマブラのプロデューサーが考える、面白いインディーゲームの企画の仕方
・難しいほど面白い?『Getting Over It』にみるプランナーが考えるべきゲームの作り方
===============
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
===============
『戦車の履帯を愛でるアプリ』Google Play:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.Chobi.TankPhysicsMobile
『戦車の履帯を愛でるアプリ』Twitter:https://twitter.com/chobi_luck
ゲーム業界経験者が転職するなら
GAME CREATORSを運営しているリンクトブレインでは、ゲーム業界に特化した転職エージェントサービスを提供しています。
ゲーム業界に精通したコンサルタントが、非公開求人を含む3,400件以上の求人の中から、あなたの希望や適正にあった最適な求人をご紹介します。
あなたの転職活動を成功に導くためにサポートいたしますのでお気軽に登録してください!