モンスターファーム移植版で問われる既存タイトルのフィッティングポイント


2019年11月、コーエーテクモゲームス社がかつてリリースしていた超人気モンスター育成シリーズ「モンスターファーム」が装いそのままでスマートフォンアプリ版としてリリースされました。

1990年代、苛烈なハード競争の狭間にあったこのタイトルは、既に市民権を得ていた「育成もの」や「リッチな映像表現」、「友達と対戦」といった人気要素を引き継ぎ、シェアを拡大しました。

しかし2009年のオンライン版から姿を消し、過去のゲームとなってしまいました。

そのいわば「あの人は今」的なゲームが令和のアプリ合戦に復活の狼煙をあげたとあり、ゲーム業界はもちろん、かつてのコンシューマー界隈も騒然としました。

 

本稿では、コーエーテクモゲームス社がこのタイミングで復活させた勝算の予測と共に、過去のゲームシリーズをスマホアプリゲームとしてフィッティングさせる為に必要な要素を取り上げます。

 

ゲームの概要

「モンスターファーム移植版」はモンスターを育てて大会に出場し、数々のタイトルを得る事でブリーダーとして成功していく事を目的としたモンスター育成シミュレーションゲームです。

プレイヤーの育成方針によって様々な成長分岐をしていくのが醍醐味でした。

中世ヨーロッパを想起させる世界観は、ポケモンやドラゴンクエストモンスターズといった低年層向けの育成ゲームが乱立する中で、より広範囲にプレイヤーを捉えるという競合優位性を持ちました。

また、モンスターファームはプレイヤーが自分の所有しているCDソフト(作中では円盤石と呼称)をゲーム内で再生することで、CDに封印されていたという設定のモンスターを呼び出します。

どのCDで何のモンスターが生成されるかは、ゲーム内ではあらかじめ知る事が出来ない為、プレイヤーは口コミで情報交換をしていました。

 

これは、当時最もシェアを持っていたCDメディアの普及に伴った事で実現したが、後にも先にも存在しないこのゲームの面白さの一つとなりました。

また、特定のアーティストやゲームソフトからは元のネタを想起させる特殊なモンスターが再生されることも、人気を博しています。例えばTHE虎舞竜の「ロード」を使うと虎の柄をしたドラゴン種モンスターが。

マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」からクリスマスカラーのカラーリングに身を包んだ「サンタ」というモンスターが登場します。

こうした小ネタの発見も相まって、他のゲームには無いユニーク性が愛されました。

 

面白要素の再開発

モンスターファームの円盤石再生機能は、ハードがスマホになったことでCD再生という手段が失われましたが、その代わりにCD情報を入力する、という呼び出し方法に変わりました。

表面的になぞるとゲームそのもののアイデンティティが崩壊した、と思われかねません。

しかし根源にある「このCDでこのモンスターが出たよ!」というコミュニケーションは変わらない為、所有せずとも思いつくCD情報でモンスターを呼び出す、という新しい面白さを開発しました。

 

この面白さは、SNSを通じてさらに拡大し、当時の情報伝播よりも比較にならない速度と範囲で広がる事となりました。

こうした「売れた要素を因数分解し、抽象化して再開発する」というアプローチは、成功タイトルに見受けられる、市場に望まれるアップデートと言えます。

 

プレイヤーを巻き込んだコンテンツ作り

前項のCD情報によるモンスター再生機能を実装するにあたって、モンスターファーム公式Twitterアカウントが実施したキャンペーンが話題になりました。

 

”「このCDやこの歌から、あのモンスターが生まれたらいいな」

みんなのアイデアを大募集!懐かしいものから新しいものまで、あなたの考える組み合わせを特設サイトのフォームから投稿してください。あなたの案がゲームで採用されるかも!?”*1

 

これはSNS時代の話題性と、コアターゲットプレイヤーの嗜好性を上手く掴みつつ、ゲーム本編のコンテンツを作って行けるという理想的なマーケティング施策でした。

参加したプレイヤーは自分のアイデアが採用されればそれを投稿しますし、そうでないプレイヤーも面白いCD情報からのモンスター生成ができればそれをネタに投稿します。

 

こうした応酬が既存プレイヤーだけではなく新規獲得への嚆矢として功を奏していくことでしょう。

この様にプレイヤー参加型でコンテンツを作って行き、しかもそれが継続的に周知拡大に繋げられるマーケティング施策はとても肝要です。

 

オンライン対戦要素

当時のモンスターファームはメモリーカードの持込みによるオフラインでの対戦が主流でした。

そのため自分が育てたモンスターを対戦するとなると、リアルで交流のあるコミュニティのみに絞られており、戦闘のバリエーションに限界がありました。

しかし本作ではオンライン対戦を実現したことによりその場にいなくても対戦相手に困る事が無く、時間の許す限り戦うことができるようになりました。

これにより遠方の友人や、メディアの対戦企画といった盛り上げる要素をより色濃く引き継ぎ反映することが実現できます。

 

かつて「モンスター甲子園」という大々的なイベントが開催されましたが、これは首都圏での実施に留まっていた為、距離的なハードルが高く参加が限られていました。

今ほどゲームのインフラが整っていなかった90年代後半においては、一つの場所に集まってライブさながらに盛り上がるイベントは多々見受けられました。

しかしその分参加ハードルが上がってしまう為、日常的に遠隔でプレイヤーと遊ぶ事ができる、というプレイシーンは実現できませんでした。

スマートフォンがあればすぐに参加ができる、という環境が実現された今では対戦要素をもっと気軽に沢山楽しめるとあり、既存プレイヤーだけでなく新規プレイヤーの注目を集めています。

 

まとめ

モンスターファーム移植版には、ただ懐かしがるタイトルには終わらせない、という強い作り手側の狙いが伺える沢山の要素が散見されます。

売れた要素の再構築、SNSを使ったゲーム内情報の拡散といったプレイヤーを巻き込んだコンテンツ作り及びマーケティング施策。

そして当時実現できなかった理想のUXを、インフラやハードウェアの特性を活かして実装する発想は過去作を遺物ではなく現行のタイトルとして輝かせるのに欠かす事はできません。

レガシータイトルを取り扱う際は、懐古要素に寄っかかるのではなく、どうしたら現在のプレイヤーにフィットするかを要素分解し再構築できるか、という思考法をしてみましょう。

 

【引用】

*1

移植版『モンスターファーム』の対戦や新しい“モンスター再生”の仕組みが判明

https://www.famitsu.com/news/201908/22181851.html

 

ライター名:ビットリズム

プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

 

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