TBSが手掛ける「TBS GAMES」がついに始動!事業責任者・蛭田健司氏の歩みが示す、クリエイターが憧れのキャリアを築く方法

2023年7月5日、株式会社TBSテレビは「TBS GAMES」のティザーサイトを公開。コンシューマー/モバイル/PC/アーケード/ボードゲームなどを通した“心揺さぶるゲーム体験”実現のため、TBS最大の武器である「コンテンツ創造の力」を駆使し、ゲーム事業へ本格参入することが発表された。

 

今回はTBSテレビ特任執行役員・ゲーム事業責任者の蛭田健司(ひるた・けんじ)さんにインタビュー。社外から特任執行役員に任命されることはTBSとしても稀なケースだが、蛭田氏はこれまでどのようなキャリアを築いてきたのか?これまでの歩みを基に、クリエイターが目指せる“憧れのキャリアの築き方”を紐解いていく。

【PROFILE】

●蛭田健司(ひるた・けんじ)

TBSテレビ 特任執行役員 ゲーム事業責任者
株式会社AKALI 代表取締役
総務省 地域力創造アドバイザー
NPO法人 国際ゲーム開発者協会日本 理事
サクラ大戦シリーズ、無双シリーズ等の開発に携わり、「真・三國無双Online」の技術責任者を経てカナダスタジオに出向。現地責任者として経営を担った。その後、ヤフーにてゲーム部門長、事業戦略室エグゼクティブプロデューサー、グループ会社の執行役員CTOや人材開発室長などを経験。上場企業顧問、トヨタグループ企業アドバイザー、富山県新分野産業育成事業の総合戦略アドバイザー等を歴任。著書「ゲームクリエイターの仕事」はゲーム開発者推薦図書第一位を獲得。世界最大級のITカンファレンス「世界情報社会サミットフォーラム2020」開会式典セッション、大使館招待講演他、登壇多数。現在はTBSテレビのゲーム事業責任者として幅広い新規事業に取り組んでいる

「TBS VISION 2030」達成のために重要な、“ゲーム”の存在

●はじめに、TBSが取り組むゲーム事業について教えてください
TBSグループは2030年に向けた計画“VISION2030”を掲げています。中でもコンテンツの価値を無限に広げる拡張戦略“EDGE”では、デジタル分野/海外市場/エクスペリエンス(ライブ&ライフスタイルなど体験するリアル事業)の3分野に注力することを対外的にも発表しています。

※参考資料:TBSグループVISION2030(PDF)

 

放送事業が少子高齢化の影響を受けている一方で、TBSには変わらず高いコンテンツ創造力があります。それらを、デジタル(ゲーム・ストリーミングサービス等)に広げ、海外にも展開しつつ、赤坂エンタテインメント・シティ計画によって整備・拡充される劇場や小売店を通し、放送を通じてだけでない生活のあらゆる時間に価値提供していく……。デジタル・海外・エクスペリエンスの全ての注力分野において、ゲーム事業が持つ意味は大きいものになります。

 

●一口に“ゲーム”と言えど様々ですが、具体的な構想などはありますか?
TBSゲーム事業が取り組む範囲は、コンシューマー・モバイル・PCといったデジタルゲームから、ボードゲームなどのアナログゲーム、ゲーミフィケーション、eSportsなども含まれます。Nintendo SwitchやPlayStationなどプラットフォームも問わず、「ゲーム」の名が付くもの全てが事業範囲になります。

 

例えば、テレビ番組のゲーム化。バラエティ番組をゲーム化したり、ドラマのサブストーリーをゲームで遊べたりなど、取り組めることは沢山あります。また、ゲーム発のオリジナルIPの創出にも挑戦していきます。

 

先日開催された東京おもちゃショー2023では、バラエティ番組『アイ・アム・冒険少年』のゲーム化が発表されました。そのほかに、未発表の取り組みがいくつも進んでいます。

 

●外部会社との関係性としては、“協業”するイメージですか?
そうです、基本は外部のゲーム会社様と協業する体制で進めています。TBSはメディアとしての力が強く、SNS(Twitter・YouTubeなど)にも沢山のフォロワーがいて、情報拡散が得意です。ゲーム会社様も、TBSも、お互いの強みを十分発揮できる体制で進めています。

テレビ業界への挑戦の決め手となった、TBSの覚悟

●最初にTBSから蛭田さんに声が掛かった背景について教えてください。
TBSがゲーム業界のプロフェッショナルを探している際に、仲介業者を通してお声がけをいただきました。私は講演の登壇も多いですし、ゲーム業界関連の書籍の出版、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本のセミナー主催など、情報発信を積極的に行っているのでご注目いただくことができました。

●これまで数々のゲーム会社を経験する中で、テレビ業界への挑戦に迷いはなかったですか?
正直、迷いました。ゲーム業界の人がテレビ局を転職先に選ぶことは少ないですし、TBSにもゲーム業界経験者はほとんどいません。

 

ただ、TBSという巨大グループがゲーム業界に参入するということは、ゲーム業界の拡大を目指している私にとって、とても嬉しいことでした。1兆円を超える総資産を保有し、大きな成長投資を行うと対外発表もしています。社長との面談でもTBSグループ全体でゲーム事業をやり切るという意思をハッキリと伝えてくださり、私も覚悟が固まりました。 特任執行役員というポジションをご用意いただいたことにも、TBSの本気度がうかがえました。

“掛け合わせで唯一無二になる”蛭田さんが歩んできたキャリア

●今回重要なポストを担う蛭田さんですが、これまでのキャリアについて教えて頂けますか?
新卒としてセガ に入社し、その後中途入社したコーエー(現コーエーテクモゲームス)ではプロジェクトの技術責任者も務めました。その後コーエーテクモカナダへの出向、クルーズ、ヤフーなどを経て、2018年には総合企画・プロデュース企業である株式会社AKALIを設立しました。総務省 地域力創造アドバイザー、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本の理事も兼務しています。

 

キャリアの軸は、事業戦略/技術/人材開発/海外の4本柱で構成されており、大規模ゲーム事業の立ち上げ経験が3回(TBSで4回目)、2社でのCTO経験、事業戦略室長、人材開発室長、海外赴任5年など、いろいろ経験してきました。

 

技術的に実現可能な事業計画を作ることができ、人を採用して育成しながら事業を拡大し、海外展開にもつなげられる。いろいろ経験させていただいたので、今回のTBSゲーム事業においてもこれまでのキャリアを幅広く活かせると考えています。

 

●ここまで兼ね備えているクリエイターはなかなかいないと思うのですが、キャリアスタートの時点で今のキャリアは想定していましたか?
いえ、ここまで幅広くは考えていませんでしたね(笑)。
私はまず、新卒でプログラマーとしてセガに採用されました。その後コーエーで『真・三國無双Online』の技術責任者を務めたのですが、当時は別プロジェクトの技術責任者やチーフクラスのプログラマーから、「無双をオンラインにするなんて不可能」と言われていたんです。周りからは、無謀なプロジェクトに自ら飛び込んだ、と思われていました。

 

●当時はどんな心境でしたか?
臥薪嘗胆の思いでしたよ(笑)。でも実際、当時のゲーム業界で最も技術的な難度の高いプロジェクトの一つだったと思います。近接戦闘であるがゆえにラグは許されませんし、当たり判定もサーバーで一括処理を行うようなシンプルな実装はできず、クライアントで分散処理をしてサーバーで整合性チェックとチート検出を行うような工夫が必要。技術設計には長い長い時間がかかりました。しかしその結果、無双のプレイ感を損ねず、かつそれをオンラインで実現できる高度な新技術を発明でき、特許も取得しました。不可能だと言われていたことを実現できたことに、業界でもある程度の位置に来られたのかなという達成感もありました。

 

●プログラマーとしてキャリアをスタートした時点で、“技術でトップを取ろう”と考えていましたか?
いえ、思っていませんでした。優秀な技術者が揃っていたので、最初はその人たちに勝てるイメージは全く持てませんでした。ただ、ひとつの領域でトップクラスになってから次にチャレンジしたいと思っていたので、コーエーでの経験は大きかったと思います。

●その後も海外拠点責任者や事業戦略室長、人材開発室長など、各分野におけるトップを経験されています。
あれこれやると中途半端になりがちですが、海外、事業戦略、人材開発と、担当した多くの分野でトップを任せていただけるほど経験、スキル、人柄に信頼を得られたことは、大変ありがたいことですし、業界的にも特徴的なキャリアだと思います。

 

今クリエイターとしてキャリアに悩んでいる方は、まずは任されている分野でトップクラスになるくらいの覚悟で取り組むというのも大切かもしれません。そして、1つのスキルだけで業界のトップになることはハードルが高すぎますが、スキルの掛け合わせで唯一無二は実現できます。その積み重ねをいかにしていくか、というキャリアの考え方もあるのかなと。

 

●キャリアに迷う人が多い中、“スキルの掛け合わせ”のほかに意識しておくべきことはありますか?
まずは自分のアピールポイントを1つ磨くことが大切だと思います。
私が就職した当時は就職氷河期で、何か1つでも強みがないと入社できない時代でした。私は将棋が趣味で学生時代からよく指していたのですが、当時コンピューター将棋協会の会長のもとで将棋AIについても学んでいて、それをアピールポイントにしていたんです。面接官にとっても、「この人がいればAIを使ってNPCを作ってもらえそうだな」というわかりやすいアピールにもなりましたし、実際セガで担当した『サクラ大戦シリーズ』や『あつまれ!ぐるぐる温泉』、コーエーの『真・三國無双シリーズ』などでもAIの知識を活かすことができました。

 

あとは、新しいことや難しいことは断らないようにしていました。
ゲームを組み上げるのがプログラマーである以上、プログラマーが無理と言ってしまえばそれは実現できなくなってしまう。
じゃあどうするかというと、無理と断るのではなく、代替案を考えてプランナーに逆提案するようにしたんです。プランナーがやりたいことをくみ取り、別の形でも実現するために、まずは断らない。そのうちメンバーから“何とかしてくれる人”という認識になり、最終的には実際ほぼ何でも実現していました。最初はもちろん七転八倒しましたけどね(笑)。

 

●はじめから何でもできる人という印象もあったので、人間らしさが見えて少し安心しました(笑)
ちなみに私、セガに入った当時は大変な落ちこぼれでしたよ(笑)。先輩に怒られるのはもちろん、同期からも苦言をもらうほどでした。同期も優秀だったので、社員の中で最後方からのスタートでしたね。

●そこからどのように改善していったんですか?
とにかくシンプルに、目の前のことに本気で取り組みました。本気でやるから好きになる、好きになったから本気になれる。その好循環を作れたからこそ長く続けられたんだと思います。また、長く続けていると大きな差になっていくのですが、瞬間、瞬間で考えてみると、実は特別な違いがある訳ではなく。ちょっとした本気度の差が積み重なっただけなんですよね。

 

●今はプログラマーだけど、いずれはプランナーになりたい……など、「今やっていること」と「やりたいと思っていること」に差がある人もいると思いますが、蛭田さんであればどうアドバイスしますか?
両方やればいいと思いますよ。ただ、いきなり違う職種に転向するのはハードルが高いので、例えばプログラマーとしての仕事でしっかり結果を残しつつ、プランナーとして考えた資料を合間に作って提案してみるとか。会社としても、1人分の給料で違う仕事も手伝ってくれるのは嬉しいじゃないですか。だから、自分に任された仕事はしっかりこなしつつ、やりたいことにも徐々に仕事の幅を拡げていく。

 

今の仕事が向いてない、経験はないけどこの仕事をしてみたい、だから会社を辞める!となると、キャリアはどんどん中途半端になるので、それはおススメできません。与えられた場所で十分な成果を上げられれば、自分の希望や提案も通りやすくなります。明らかに理不尽な職場であれば早めに離脱するべきですが、まずは周りが認める実績を残すことが最優先ですね。

オープンな社風と徹底したコンプライアンス意識

●最後に、TBSの働く環境についても聞いておきたいです。
これまで経験したことがないくらいに働きやすいです。福利厚生はもちろん、諸々のコンプライアンスが社内でも徹底されています。もちろん報道機関である以上、シフト勤務の方もいますが、違法残業などは絶対ないように徹底されています。一緒に働くメンバーも穏やかで前向きな方が多いです。

 

●TBS GAMESが目指す目標について、改めて教えてください。
テレビとゲームをどう掛け合わせることができるかは、まだまだ可能性を探している段階です。番組とのシナジーをどう生むかを確立させ、2030年にはTBSの看板となるゲームが出ているように動いていきたいです。

 

例えば番組でQRコードを表示させた時のダウンロード数増加効果や、テレビショッピングのような購買意欲の促進効果のゲーム分野への応用など、テストできることは沢山あります。実証実験を続けてノウハウを確立させ、2030年頃にはいろいろな番組がゲームと連動している……そんな世界が実現できればと考えています。

 

また、世界中でTBSのゲームを楽しんでもらうために何ができるかは課題でもあります。番組自体のフォーマット(SASUKE等)を海外に販売する手法は既にあるので、同じような形でTBSのゲームを世界中に広げていきたい。最近、人口世界一になったインド市場など、日本企業によるマーケティングがまだまだこれからの地域もあるので、新しい市場にもどんどん挑戦していきたいです。

 

●ありがとうございました!

 

〇「TBS GAMES」ティザーサイトはこちら→https://www.tbs.co.jp/tbs-games/