「つまらない」を、面白く─ゲーミフィケーション事業のセガ エックスディーが目指す、“エンタテインメントの社会実装”

ITやAIの発達とともに、我々の暮らしは格段に便利になった。しかし、多くのサービスやエンタメが溢れる一方で、いかにユーザーに利用してもらうか?に対する企業間の差別化も熾烈を極めている。企業が多くの課題を解決するうえで、利便性だけでは測れない“ユーザー体験”を向上させることは、今後のビジネスにおいても大事なポイントになってくると言えるだろう。

 

そんな中、昨今注目されている概念が「ゲーミフィケーション」。ゲームの要素をさまざまな物事に応用することで、利用者の意欲・意識の向上を図る手法であり、その第一線を走り続けているのが、株式会社セガ エックスディーだ。

 

本取材では、セガ エックスディー(以下 セガXD)のプロデューサー・荒井 登さんに、セガXDが誕生した背景や実際のゲーミフィケーションの事例をインタビュー。「ゲーミフィケーションって最近よく聞くけど、どういう意味?」という疑問にも答えてもらった。


株式会社セガXD エクスペリエンスデザイン部 課長 兼 プロデューサー:荒井 登 様

「衝動」で課題を解決し、人々を幸せに

●まずは、セガXDが誕生した経緯について教えてください。

セガXDは、2016年に株式会社セガの新規事業創出を担う戦略子会社として設立し、クロシードデジタル株式会社として独立、2019年に電通グループとの資本業務提携を行い、設立から5年経った2020年8月に現在の社名になりました。

 

「ゲーミフィケーションで企業や社会の課題を解決する」という目的のもと、多くの企業の課題に対し、事業戦略立案やブランディング、サービス運営・プロモーションなどを幅広くサポートしている会社です。

 

●最近話題になってきた「ゲーミフィケーション」ですが、その概念について教えてください
ゲーミフィケーションとは、ゲームにおけるシステムや設計、デザインなどの要素をゲーム以外の物事に当てはめることで、サービスの質や利用者のロイヤリティ向上を図る手法です。普段ゲームをする方であれば、ログインボーナスやデイリーミッション、チュートリアルなど何気なくプレイしていると思いますが、そういった要素を色んな物事に取り入れ、ユーザーにサービス利用のきっかけやモチベーションを高めるための施策全般を指しています。

 

●ゲーミフィケーションの事例が増えてきたこともあり、その有用性も浸透してきたイメージでしょうか?

言葉自体は2010年頃から日本にも入ってきて広まりました。ただ、当時は “一定の行動をしたら報酬を獲得できる”“ランキングでユーザー同士を競わせる”など手法を活用する側面が強かったです。商品やサービスがコモディティ化し差別化が難しくなり、CX(顧客体験)の重要性が説かれたことで、ゲーム的なユーザー体験に注目が集まっている印象です。

 

●セガXDが実際に顧客課題を解決する際、どのようにアプローチしているのですか?

個々の商品やサービスが保有する生活者の感情に働きかける価値を「情緒的価値」と呼んでいるのですが、この情緒的価値を活かしたゲーミフィケーションによる体験のデザインによって、私たちは企業や社会が抱える課題の解決を行っています。

 

様々な企業が生活者のために研究やマーケティングを行い、製品やサービスが世の中に生まれています。これだけモノがあふれている時代で、情報過多な社会だと大きな差別化が難しいうえに生活者もどれが自分にとって最適なのか選びにくい。だからこそ生活者の情緒的価値を刺激して、「これは自分のためにある」と、商品の良さがわかるような体験設計にする必要があります。

 

X-tainment Companyという会社のビジョンにもあるように、顧客が解決したい課題とセガグループが培ってきたエンタテインメントの力を掛け合わせることが事業の根幹にもなっています。なので、アプリやWebなどのデジタルだけでなく、企業の雇用課題や悩みを解決するためのボードゲームなど、手法は問わず支援しています。

 

●ターゲットとなる業種や業態の幅が広そうですね?
人のモチベーションに作用するので、BtoB、BtoC問わず様々な企業や自治体のサポートをしています。中でも相性がいいなと感じるのは、“大事なことはわかるけど、対応を後回しにしてしまう”といったケースでしょうか。

 

日々の生活でなかなか優先順位を上げられないことでも、ゲーミフィケーションを取り入れることで楽しく遊べて、モチベーションにも繋がる。世の中の“つまらない”と感じる過程や要素を楽しいことに変えることで乗り越えられる仕組みが、ゲーミフィケーションの魅力です。

セガXDにおける、ゲーミフィケーションの事例

ゲーミフィケーション事例①:関西電力株式会社 会員向けサービス「はぴeみる電」

セガ XDが持つパズルゲームエンジンを活用し、関西電力様の「はぴ太」をメインキャラクターとしてゲームのデザインや開発を実施。会員向けサービス「はぴeみる電」と連携し、サービス全体の活性化を図るとともに、会員向けポイント機能とも連携することにより、各会員が保有するポイントの活用方法として新たな価値を提供。(セガXD HPより抜粋)

 

ゲーミフィケーション事例②:社内研修用ボードゲーム『ズバリ 気配り アニマッチ』(東京都ビジネスサービス株式会社との共同開発)

企業が障がい者雇用を促進するうえで、“雇用者にどんな思いやりが必要になのか”という疑問に対し、キャラクターを用いて体験できるボードゲーム。ロールプレイングのボードゲームで、個人に向き合って柔軟な対応をする“合理的配慮”を楽しく理解を深め、自然に学ぶことが出来るように開発された。(セガXD HPより抜粋)

 

●他にはどんな事例が挙げられますか?

2024年春に、英語攻略リズムゲーム「Risdom(リズダム)」の提供開始を予定しています。「反復」「継続」が重要な英語学習と、「ついつい繰り返し取り組んでしまう」リズムゲームを融合させた新感覚リズムアクションゲームです。

●開発のきっかけは何だったのでしょう?

今は手軽に様々な娯楽を楽しめますが、その影響で学生や社会人の勉強へのモチベーションの維持が難しくなってきているという現状があります。そんな中、「子どもたちが夢中になるゲームの時間を学習機会にできないか?」というベネッセ様の発想から本企画がスタートし、私たちセガXDも合流し、我々の方で細かなゲームシステムやデザイン、機能設計等を手掛けていきました。

 

毎日ゲーム感覚で繰り返し使う中で英語学習を習慣化させ、英検®5~1級レベル(※)の語彙と文法が自然と身につくことを目指しており、検定や入試に必須の「英単語約1万語」「英文法約1,000テーマ」を学ぶことができます。

 

※英検Rは、公益財団法人 日本英語検定協会の登録商標です。
※このコンテンツは、公益財団法人 日本英語検定協会の承認や推奨、その他の検討を受けたものではありません。

 

●パッと見て、本格的なアプリゲームにしか見えないですね…!

学習用ゲームというと、ゲームとはいえやらされている感が拭えないケースがあります。『Risdom』では、画面遷移やキャラクターデザイン、システムも一般的なゲームと変わらないような体験を目指して作られており、ポジティブに勉強に取り組めるよう、長く愛されるためのゲーム性にもこだわっています。対象も小学生から社会人までターゲットが広く、もう一度英語を学びなおしたい方にとっても最適なゲームになっています。

「Risdom(リズダム)」のトップ画面※ベータ版 “夢”がテーマになった世界観。不思議な少女「アリス」と「白ウサギ」とともに、人々の夢を取り戻すための戦いを繰り広げていく

報酬システムやリザルト、キャラクターの解放などは本格的なソーシャルゲームと見間違えるほど。電車の移動時間や休み時間にもプレイでき、間違えた個所の復習をしたり、穴埋めや並び替えなど様々な問題にも挑戦できる。

与える影響は全世界にも及ぶ!プロデューサーに求められる、言語化力

●荒井さんは、セガXDに入社する前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

新卒の時に株式会社セガ(以下 セガ)に入社し、ソーシャルゲームのプランナーとして企画・運営を10年ほど担当していました。

 

自分の原体験ともいえるのですが、幼少のころから絵を描いたり工作したりとモノづくりが大好きで、その延長線上に“ゲーム”という存在があったのです。高校時代はゲーム好きが高じて攻略サイトを作り、どうすればユーザーに見てもらえるか?を考えるようになり、独学でプログラムを勉強してHP内の機能やゲームを作ったりしていました。

 

進路選択の際は、どうせ長く続けるなら好きなことが良いと思いゲーム業界を選びました。中でも、コンシューマー/ソーシャル/アーケードゲームと、楽しいことを幅広く行っていたセガを選びました。

 

●現在のセガXDに参画したきっかけはなんでしたか?

当時はソーシャルゲームの部署にいたのですが、元々モノづくりが好きで、自分のゲーム開発で培った知識をそれ以外の領域にも活かしてみたいと思うようになりました。セガXDの前身であるクロシードデジタルがゲーム作りのノウハウを活かした事業にチャレンジしていると知り、私も新しいことに挑戦しようと思い出向を決めました。

 

●出向してみて、実際にこれまでのゲーム開発の経験は活かされましたか?

この2年間で、ゲーミフィケーションについて知っている方やお客様から、ゲームやエンタテインメント性をサービスに取り入れたいと明確な意志を持ってご相談いただく方が増えています。その上でゲーム開発や運営の経験が業務に活かせていますし、強みにもなっています。ゲーム企業発のゲーミフィケーション企業である私たちへの高い期待に応えるべく、提案を行なっています。

 

自分の中で当たり前だと思っていることは、他業界の方にとっては「?」の連続で…そのギャップはジョインした当初からありました。今思えば当たり前のことですが、ゲームやエンタテインメントを制作する上での費用感やスケジュールなどは、ビジネスとして提供している企業にしかわからないことなので、しっかり言語化して一から説明するのは大変でした。

 

●現在プロデューサー職である荒井さんですが、主にどんな仕事になるのでしょうか?

製品や機能の企画開発におけるプロデュース全般が主な仕事です。それに付随し、企画コンサルティングから設計や業界知識のインプット、ユーザー分析などプロジェクトを推進するのが、セガXDのプロデューサー職の仕事になります。

●働くうえで必要になるスキルは何がありますか?

まず大前提にエンタテインメントが好きであること。それから、ゲームの開発工程や面白さがわからないお客様に向けて企画・提案するので、言語化するのが得意なこと。あとはアイデアで勝負をするのでインプットとアウトプットと、素直さでしょうか。素直さと言っても上司やお客様に対してイエスマンであれというのではなく、提案をブラッシュアップするための議論でうまれたアイデアを取り入れる柔軟性のことを指しています。

 

一口に“エンタテインメントが好き”といっても、なぜこれが面白いのか?流行っているのか?を自然と分析でき、自分の中で答えが出せる人にとっては、やりがいも楽しさも大きい職種だと感じています。クライアントの中には、ゲーミフィケーションの重要性はわかるけど仕組みが分からないという方もまだまだ多いです。その説明を一から行うので、“面白い”の先に、何がしたいか?を考えて伝えられるかが重要になってきます。

 

●セガXDにはどんな方が入社していますか?やはりゲーム業界が多いですか?

ゲーム業界出身の人もいますが、特に偏りはないですね。コンサル/広告/メーカー出身もいますし、非ゲームの領域でビジネスをしていたメンバーも多いです。職種にも偏りはないですが、“顧客のビジネスをどう発展させるか”を考えてきた方が多い印象です。

 

採用するときも、募集要項にゲーム開発経験年数は特に設けていません。選考では職種や業務経験以上に思考の部分を重視した採用活動を行っています。

 

●セガXDのどこに魅力を感じて入社する人が多いですか?

やはり“エンタテインメントの力で事業や社会の課題を解決したい”という人が多いです。社内でアンケートも取ってみたのですが、それぞれ原体験としてエンタテインメントの楽しさを感じた経験がありつつ、もともとゲーミフィケーションを知っていた人も、そうでない人も、エンタテインメントの力で解決したいという考えを持っている人が多いです。

※採用サイトより抜粋。事業内容や先進性に魅力を感じた社員が多い。セガサミーホールディングスのグループ会社という安定した基盤に魅力を感じ入社する人も少なくない。

 

●社会貢献性も事業の規模も大きく、働くうえでのやりがいも沢山ありそうですね?

そうですね、リリースしたサービスをエンドユーザー様から「使いやすい」「楽しい」と感想をいただけた時や、お客様から「事業に効果が出た」「今度はこんなことにチャレンジしたいので何かアイデアを考えてくれないか」とフィードバックや新ご相談をいただいた時は本当に嬉しいです。

 

また、アプローチできるターゲット人口が多いというのも、ゲーミフィケーションを企画するときのやりがいだと思います。現在、ゲームプレイヤーの人口は国内でおよそ5,400万人(ファミ通ゲーム白書2023より)ですが、ゲーミフィケーションだと日本の人口である約1.2億人に自分のサービスを触ってもらえる可能性があります。企業・自治体業界問わずご相談をいただいているので、自分が携わったサービスを広くたくさんの人に使ってほしいと考える人にとっては挑戦しがいのある仕事だと思います。

 

特にセガXDのプロデューサー職であれば自分の関わる範囲も広いです。また、ゲーミフィケーションの事例は世に少ない状況なので、これから生まれる事例が「業界の代表事例」になる可能性も大いにあります。自分のアイデアが反映されたサービスを多くの人に使ってもらいたい、自分の成長=会社の成長、ひいては業界や市場の成長となるようなステージで働きたい人、自分のアイデアが反映されたサービスを多くの人に使ってもらいたい、ゲーム業界で歩んだキャリアを活かしてセカンドキャリアは別の業界を歩みたい人にとって、セガXDは最適な環境だと感じています。

最後に

●ゲーミフィケーションの今後、それからセガXDの目指す未来について教えてください。

そうですね、 “やらされている感”を無くしたいですね。冒頭にも伝えた「つまらないことを面白く」が実現して、世の中をワクワクしたものにしていきたいです。

 

日本人の国民性なのか、苦労を美徳とする傾向が根強くあると思います。努力や課題に向き合うのは「辛い」「苦しい」のが当たり前、楽しいと思うのはよろしくない。なんなら「不謹慎」だとさえ思ってしまう。

 

ただ欲しいのは行動の先にある成果であって、「つまらない」という気持ちになりたいわけではないはずです。
私の考えとしては、苦手なことや難しいことに向き合うのはそれだけで大変なのだから、どうせやるなら面白く、楽しくやりたい、と思いました。だからこそ私たちセガXDが出来ることや、存在意義は大いにあると思っています。ゲーミフィケーションを活用した体験を組み込み、人々が問題や課題に直面した時に「楽しい・面白い」という気持ちで軽々と乗り越えられるようにしたい。

 

向き合い方を変えれば、自ずと行動も変化します。そうすることで、やりたいことが出来たり、なりたい自分に近づけたり、私たちの人生がより豊かになるかもしれない。エンタテインメントを社会実装して、そんな世の中に近づけるようにこれからも頑張りたいです。

 

●ありがとうございます。最後に、GAME CREATORSの読者にメッセージをお願いします。

セガXDには、ゲームの枠組みから飛び出したい人が活躍できる場や実績、土壌が整っています。今キャリアを考えている方がいればセガXDの事業にチャレンジしてほしいです。

エンタテインメントの活躍を広げることに挑戦したい、世の中を自分のアイデアで少しでも面白くしたいという明確な野心がある人は、ぜひ当社の仕事に興味を持ってもらえたらと嬉しいです。