【後編】女流棋士・香川愛生とゲームクリエイター・蛭田健司による株式会社AKALI! 将棋界とゲーム業界の双方を発展させる挑戦とは!?
将棋×ゲームを主眼にした総合企画・プロデュース企業、株式会社AKALI。
この異色の会社は、女流棋士である香川愛生氏と、総務省 地域力創造アドバイザーにも就任されたゲームクリエイター蛭田健司氏により設立されました。
AKALIの命名の由来や地方創生の取り組み、今後の業界発展への貢献について、両代表へインタビューを行いました。
今回はインタビューの後編をお届けします。
インタビュー前編はこちらからご覧いただけます。
【前編】女流棋士・香川愛生とゲームクリエイター・蛭田健司による株式会社AKALI! 将棋界とゲーム業界の双方を発展させる挑戦とは!?
https://game-creators.jp/column/099/
地方にもゲームクリエイターという選択肢を
――プロモーション以外の仕事だと、どんなものがありますか?
蛭田
商品企画から関わることができるので、いくつか商品企画の提案もさせていただいています。
初心者向けの将棋企画で、有名IPと絡めてというものなど。
香川
商品、特にグッズって、既存のファンを対象にしているんですよね。
私たちは既存のファンを対象にしたものではなく、ファンを広げる活動のほうが多いので、どっちかというと企画のほうが多めですね。
私はAKALIを立ち上げてから、一番初めに『職業、女流棋士』という本を出しました。
それに蛭田さんも携わっていただいたのですが、そのことで自分のことを深く知っていただけた、というのがあります。
よく感想として「人生を赤裸々に語った本ですね」と言われるんですよ。
私の十何年間をまとめるのに協力してもらったことで、長い年月を一緒にやってきたような気がしているんです。
書くのに時間がかかったけど、AKALIの仕事を始める上で凄くいいことだったなと思っています。
蛭田
お互い忙しいのに、一週間のうち6日間顔を合わせて打ち合わせするなど、濃密なコミュニケーションを取っていましたね。
香川
棋士って、自分のことを話さないんですよ。
例えば羽生善治先生がいかに凄いかとか、藤井聡太先生がどれだけ天才かっていうのは聞かれるし、話せるんです。
でも自分の勝負師としてのドロドロした部分を話すのって機会がないし、話すと美しくないという風潮もある。
でもせっかく25歳で執筆の機会を得たのだし、上辺だけ書いても仕方ないということで、まず蛭田さんに壁打ち相手になってもらって、うわーっと書けるだけ書きました。
蛭田
ネタ出しの段階って、本になったものの倍以上の文章量があったんです。
出し惜しみなしで一番いいところを使って形にしたからこそ、あれだけ売れたし読者の共感を得られたんでしょうね。
香川
一回書いて蛭田さんに見せると「これは、こういうことですか?」って聞かれるんですよ。
そのときに、あ、嘘を書いていたな、隠し過ぎたなって気付くんです。
蛭田さんの見ている私を見ることで、客観性が生まれる。
それは企画に関しても同じで、私と蛭田さんで意見交換しているから、主観的なだけのものって生まれないし、冷静な分析の上での勝算が持てる、というのはあります。
――信頼関係がないとできないことですね。
蛭田
まったく遠慮なく意見が言えるのは、AKALIの特殊性だと思います。
香川
逆に書き過ぎて、「これは頑張り過ぎたんじゃないですか?」って言われたこともあるんですよ。
そういう風にやりたいことだけやって、言いたいことだけ言うと、エゴになっちゃう。
そこに周りの目線をいい塩梅で入れるのが大事ですね。
――地域力創造アドバイザーのお仕事についても伺えればと思います。
蛭田
いま日本の人口が減っていて、特に地方から若い人が都会に流出している。
その理由のひとつとして、地方に働きたい会社がないというのがあります。
そこでゲーム会社が地元にあったら、若い人たちも残ってくれるし、近隣からも来てくれるんじゃないかという取り組みがある。
ゲームクリエイターって、小・中学生の将来なりたい職業でベスト4くらいには入っている人気商売なんです。
ただそういった取り組みをしている自治体のほとんどは、補助金を作って終わりなんです。
最初に補助金を出して、お金が有利になるので会社作って下さい、と。これだと効果が出ない。
地元で人材育成をして継続的な人材が出てくるようになって初めて、企業としてもそこに会社を作ろうという話になるんです。
だから単なる補助金から一歩進めて、ゲーム業界に入れるようなゲームクリエイターの素地を持つ人たちを育てて行きましょう、という活動を地方でやらせていただいています。
この動きはもちろん、ゲーム業界にとっても必要な流れだと思います。
香川
実際その成果ってどんなものでしょうか?
始めたばかりでしょうけど、手応えみたいなものはありますか?
蛭田
私の活動は今年の4月に始めたばかりなので成果はこれからなんですが、既に取り組みが上手くいっている例を挙げるとしたら福岡ですね。
福岡はレベルファイブさんを始め、いろんなゲーム会社がある。
だから福岡というのがひとつのお手本です。
私自身が何故、地方創生の取り組みを始めたのかというと、もともと私の家が貧しかったからなんですね。
岡山出身なんですが、当然ゲーム会社なんてない。
いまはあるんですけど、それでもまだ日本にはない土地がほとんどです。
これだけ日本中の子供がなりたい職業なのに、地元にゲーム会社がある自治体というのはわずかなんですよ。
つまりなりたくてもなれない人というのが、いっぱいいる訳です。
私自身、お金もないし地方在住というのがハンデだった。
だからゲーム会社に就職するために東京に出なくちゃいけなくて、そのために凄く苦労したんです。
だからそういったゲームクリエイターを目指す人の敷居をできる限り下げたい。
香川
そもそもゲームクリエイターになるという選択肢を作ってさしあげたいですよね。
蛭田
そうなんです。必ずしも大都市に出なくても、日本中でゲームクリエイターを目指せるようになると、もっともっとゲーム業界も発展するんです。
東京でも人手が足りなくて、回せないプロジェクトがいっぱいあるんですよね。
それが地方でゲームクリエイターが育ってくることで、業界が発展していく。
実際にリモートワークで、地方から大都市の会社の正社員として働いている事例がいくつもある時代なので、そういう取り組みにはちょうどいい時期だと感じています。
情熱と執念を刻み込んだ社名
香川
クリエイティブな話とは少し違いますが、10年くらい前は将棋って限られた場所でしか楽しめなかったんです。
それが、ニコニコ動画が出てきて、AbemaTVさんで映してもらったり、将棋ウォーズなどのアプリも出てきたり。
どこでも場所や機会を選ばず楽しめる環境ができて、将棋界が今までと違う形で盛り上がっている。
場所を選ばないということが重要で、その環境ができればゲーム開発も見える景色が全然違ってくると思います。
蛭田
将棋ってファン層が凄いんですよ。
1000万人以上いると言われている。
だから将棋とeスポーツのイベントを一緒にやるということは、eスポーツを多くの人に知ってもらう機会だと思います。
香川
いまは将棋の楽しみ方自体がもの凄く増えたのでファンの数はとても数えられませんよね。
観る将(観て楽しむファン)、指す将(自分で指すファン)、将棋めし(棋士のご飯)に興味があるファン。
そういうのを全部抜きで藤井聡太七段を応援しているかたとかを含めたら、かなりの数のかたが将棋に関心があることになる。
以前では考えられない時代ですよ。
蛭田
ゲームも人気が高いジャンルなんですが、将棋と一緒にすることで特に地方のイベントでの集客効果や告知効果が高まります。
この前のマチ★アソビは、私が地方創生の仕事で手が離せなかったので、香川さんがプロデューサーとして動いてくれました。
それまでは役割分担していたんですが、準備から何から、ほぼすべてひとりで取り仕切ってくれた。
大丈夫かなと心配していたら大丈夫だったので、本当に嬉しかったんですよ。
香川
初めて、お手並み拝見みたいな感じだったんですよね。
でも、最終的には見守ってくれてたんですよ。
蛭田さんは岡山から寝ずにイベントに駆けつけてくれたんです。
蛭田
香川さんは大車輪の活躍だったので、マチ★アソビはAKALIとしてのキャパシティが広がった仕事だったと思います。
プロデューサーの仕事なんて教えてないんですけど、才能があったんでしょうね。
香川
将棋界にいて、こうしたらいいのにって思うことがあるんです。
例えば、駒を指すときに炎のエフェクトが出たら面白いんじゃないか、とか。
昔ニコニコ動画に相撲でそういうのがあったんですけど。
それに限らず、いろんなことを思いついたり、他人から言われたりして、2年前くらいまで頭のなかで飽和していたんですね。
それがいまは本を書いたり、イベントを企画したりして、形にできている。
だから自分的にも凄くいいコンディションが作れているのかなというのは感じます。
YouTubeも「大変でしょ?」って言われるんですけど、逆にやってないほうがストレスなんです。
考えるだけで何も残らないよりは、いまのようにアイデアと実行の循環があるほうが楽ですね。
蛭田
マジック:ザ・ギャザリングやサントリーさんをはじめ、いろんな会社のPRに起用していただいているのはありがたいです。
香川
実はゲームとは将棋をやる前からの付き合いなんですよ。
据え置きだとNINTENDO64、携帯ゲームだとゲームボーイカラーくらいから。
ゲームが大好きでやっているので、ゲームの仕事に関われているだけで幸せというのはあります。
私の関わり方はイレギュラーだと思いますが、ゲームが好きでゲームクリエイターになりたい。
でもそれを選べない人がいっぱいいるというのはいちゲームファンとしても寂しいものがあります。
――香川さんはゲームクリエイターではありませんが、現在は違う形でゲームの仕事に携わり、ゲームクリエイターになりたい人への支援に関わっていらっしゃる。不思議な縁ですね。
香川
あとゲームのほかに映画が好きなんですけど、これは仕事になったらいいなと思ってのめり込んでいったんですよ。
うっかり仕事になっちゃった趣味が多いんですが、その中で映画は異例ですね。
実は「AKALI」という会社名は、私が尊敬している会社の名前をもじって決めた名前なんです。
LAIKAという、アメリカのストップモーションアニメスタジオがあるんですが、そこの『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』という映画がとにかく好きで……。
それまで映画館の映画って『ドラえもん』か『名探偵コナン』くらいしか見たことがなかったんですが、なぜか『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は映画館に見に行ったんですね。
しかも見終わってから3秒間のアニメを作るのに1週間かけて、しかも全部コマ撮りで作っているという衝撃の事実を知って打ちのめされた。
それで映画を映画館で8回見て、Blu-rayもスペシャルエディション含めて4本買いました。
CGがこれだけ充実している時代にストップモーションで作って、しかもその上からCGの加工を乗せるという意味がわからないことをやっているんですけど、その意味のわからないことに情熱を捧げられるって素晴らしいじゃないですか。
しかもそれによって感動を生み出している。
そういうこだわりや執念を社名に刻み込んでおきたいと思って、AKALIにしました。
蛭田
AKALIのフォントの色も『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の主人公のカラーなんですよ。
オレンジ系の。
香川
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は自分のなかで特別な作品なんですが、ただ当時それを上手く他人に伝えられなかったんですね。
それが将棋のことを上手く伝えられないフラストレーションと似ていたので、もっとうまく伝えられるようになったら将棋にも活かせるんじゃないかと思って、そこから映画をたくさん見ました。
2018年だけで100本以上見ましたね。
いまはアニメハックさんで月に1回、アニメ映画のコラムを書かせていただいてます。
第1回は『若おかみは小学生!』、で第2回に『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のことを書きました。
蛭田
彼女が山ほど見て、そのなかで選りすぐりのものを教えてくれるので、私としては助かっています。
香川
いいものを発信するメディアでありたい自分がいるんです。
映画もゲームも将棋も、生活になくていいものだからこそ、そのなかでより豊かな時間を過ごせるようなきっかけ作りができるといいなぁと思っています。
蛭田
映画情報を発信することで、映画ファンが将棋なりゲームなりに興味を持ってくれる。
お互いのファンの交流にもなり得るんですよね。
コミュニティの中だけで話をしていると、コミュニティって小さくなっていくんですよ。
だから我々は他ジャンルのファンを繋げて、両方のコミュニティを広げていくという方向でやっています。
香川
コミュニティ同士の境界上にある敷居を下げる会社ですね、どんどん下げていきたいですね。
いまは将棋も敷居が下がりつつあるので、これからも頑張りたいです。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
蛭田
いまゲーム技術の他分野への応用が進んでいます。
地方創生でいろんな企業と関わっていますが、3DグラフィックスやVRでこんなことがしたい。
あるいはソフトウェア開発のエンジニア組織の実力を上げたい、といった相談もある。
ゲームって多いと100人くらいで作るんですが、そういった大規模ソフトウェア開発の経験がほかの業界だと乏しかったりするので、ノウハウを伝えていけたりもする。
それ以外にも教育とか医療とか、いろんな分野にゲーム業界の技術が使えるようになっているんです。
だからこそ読者へのメッセージとして、凄く将来性のある仕事だということを伝えたい。
夢もあるし、やりがいもあるし、広がりもある。
健康とか経済状態とか、世の中にはいろんなハンデがありますが、地方からでもゲームクリエイターを目指してほしいなと思います。
香川
その環境作りをいま整えている方々がいるので、夢を追うのが苦しい状況のかたも、あきらめないで待っていてほしいですよね。
蛭田さんの開発時代に楽しかったこととかを教えてあげたら、クリエイターになりたいかたの励みになるんじゃないでしょうか?
蛭田
もともと私は喘息の重症患者で、外で遊べなかった。
それがゲームの世界だと跳んだり走ったり、空を飛んだりできてしまう。
ただ楽しいだけじゃなくて、自分の救いになったっていうのがあって、この業界に入りました。
同じように、ゲームから人生に影響を与えられたという人は多い。
例えばネットゲームがきっかけで結婚したり、ゲームがきっかけで特定の仕事を目指したりね。
ゲームを開発していて、そういう風に他人にいい影響を与えられたときが一番嬉しいです。
開発していると結構しんどいことも多いんですが、できたゲームを喜んでもらえると、苦しみが全部消えるんですよ。
終わったら全部いい思い出になることを知っているから、苦しくても真摯に取り組めます。
香川
将棋もゲームも、人と人を繋げるパワーが凄く高いんです。
だからこそイベントにも入れ込みやすいし、何かと何かをかけ合わせることで、まだ見たこともない可能性が開けるかもしれない。
今後も将棋やゲームの力を活かす提案というのを、AKALIを通してやっていきたいと思います。
楽しみにしていて下さい。
――ありがとうございました。
インタビュー前編はこちらからご覧いただけます。
【前編】女流棋士・香川愛生とゲームクリエイター・蛭田健司による株式会社AKALI! 将棋界とゲーム業界の双方を発展させる挑戦とは!?
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