クリエイティブオフィサー・瀬川隆哉氏に聞く! 長くファンに愛され続ける『ファンタシースターオンライン2』の運営秘訣とセガゲームス社員の働き方
株式会社セガゲームス(以下セガゲームス)では、家庭用ゲーム機、PC、およびスマートデバイスなど様々なプラットフォームに向けたゲームやデジタルサービスの企画・開発・販売・運営を行っています。
そして、国内登録ID数が500万IDを突破し、今年でPC版のサービス開始から7周年を迎えた国内最大級のオンラインRPG『ファンタシースターオンライン2』(以下『PSO2』)の開発、運営、パブリッシングも手掛けています。
今回は『PSO2』などのIPを中心としたビジネス展開を行う事業責任者である、執行役員クリエイティブオフィサー・瀬川隆哉氏に、こんなにも長くファンに愛され続ける『PSO2』運営の秘訣と、そこで働く魅力に迫ります。
●デザイン志望から開発のリーダーへ
――まずは瀬川さんの略歴を教えて下さい。
僕はもともと美大の出身で、セガ(現・セガゲームス)に入った理由はイラストレーターになりたかったからです。
当時、メガドライブというゲームハードがあって、そのソフトのパッケージをイラストレーターが描いていたため、そういった仕事がしたいと思い、入社しました。
当時は、入社するとまず新入社員だけを集めて行う研修があり、その最終日にいろんな部署から新入社員に向けたプレゼンが行われていました。
そして、新入社員は、そのプレゼンを受けて自分の希望部署を書くのです。
僕はイラストレーターになりたかったし、キーボードを打ったこともなかったので開発が向いているとは思いもせず、ゲームソフトの取扱説明書を作っているデザイン設計という部署を第一希望で書くつもりでした。
しかし、プレゼンの前日に開発部署のデザイナーで一番偉い人から「お前はCS1研(家庭用ゲームソフトの開発部署)って書け」と言われたんです。
そうすれば、いきなりゲームのデザインリーダーから始めて、半年もすればプロジェクトリーダーにしてあげるからって。
正直、技術もなければ社会人としての経験も皆無で、まったく自信はなかったんですよ(笑)。
ですが、言われるがまま当時のCS1研に希望を出すことにしました。
実際に配属されてみると、みんなでヒット作を目指してゲームを作るという開発作業が面白かったんですね。
企画もデザインもプログラムも、それぞれの担当がやりたいことを存分に言って、限りあるROM容量の取り合いをする。
当時は今よりずっと容量が少なかったからです。
それなのに、最終的には全員が一丸となって必死にヒットするゲームを作ろうとしている。
そんなみんなで協力して進める作業が面白くて、本当にこの組織に入って良かったと思ったのが社会人のスタートでした。
――最初に手掛けたタイトルを教えて下さい。
僕がCS1研に入った時、メガドライブのラインナップにまだなかった野球ゲームの開発チームを立ち上げようという話があり、そのプロジェクトに加わったのが最初でした。
しかもデザイナーは僕一人だったので、初めてのタイトルにもかかわらずデザインリーダーを任されました。
しかし残念ながら、このゲームは途中で開発中止になってしまいました。
2年目には『ぷよぷよ』をベースに欧米向け版に開発されたパズルゲーム、『Dr.ロボトニックのミーンビーンマシーン』※(1993年発売)を制作するチームに入りました。
当時は、プロジェクトに携わる人数も少なくてゲームの開発サイクルも早かったので、プロジェクトリーダーを担当しました。
※『Dr.ロボトニックのミーンビーンマシーン』…日本版の『ぷよぷよ』と異なり、「ソニック」シリーズのキャラクターが登場するのが特徴。なお、Dr.ロボトニックとは「ソニック」シリーズに登場するDr.エッグマンの別名。
その後、新入社員時の野球ゲームの開発経験がきっかけで、セガサターン向けに『完全中継プロ野球 グレイテストナイン』(1995年発売)というポリゴンを使った野球ゲームを作ることになり、そこでもプロジェクトリーダー兼デザインリーダーを担当しました。
ディレクターやプロデューサーという概念がまだ明確ではなかった時代ですが、「野球つく」シリーズの第一作となるセガサターン向けの『プロ野球チームもつくろう!』(1998年)では、ディレクター兼デザイナーを担当しました。
また、一方、その頃には役職が係長や課長といったマネージメントも行う立場になって、タイトルの制作責任者であるディレクターと、それに携わるメンバーを率いるマネージャーという2軸でいろんなタイトルを見るようになりました。
そうした経験を経て、プロデューサー兼任の部長になりました。
――どんな部署の部長だったのでしょうか?
スポーツデザイン研究開発部という、スポーツのゲームだけを作っている部署です。
当時『サカつく』シリーズや『野球つく』シリーズなどを作っていた部署ですね。
その後、モバゲーやFacebookなどのSNSがオープンプラットフォーム化することになった背景もあり、オンラインゲームやブラウザゲーム、モバイルゲームなどのネットワークを中心に開発するネットワーク研究開発部が新設され、その責任者になりました。
『プロ野球チームをつくろう!ONLINE』などオンラインゲームの経験を買われたのだと思います。
ここでいろいろなことを試しましたが、まあ失敗もしましたよ。
いま思うと甘く見ていたところがあったんです。
当時の流行っていたゲームを見て、こんなカジュアルな感じでも人気が取れるんだ。
そうしたら、ゲーム性を高めたらもっと受けるんじゃないかって。
でもそうしたゲーム性の高いタイトルが必ずしも受け入れられなかったり、気軽に遊べる簡単なタイトルの反応が良かったり、試行錯誤がありましたね。
その一環として海外向けにもオンラインゲームの展開に挑戦したこともあったんですが、国内で展開するゲームをそのまま展開したところ、上手くいきませんでした。
海外展開に向けてはその地域に向けて、ちゃんとカルチャライズしないといけないということを学びました。
――その頃に理解している会社はほぼなかったと思います。
『PSO2』は、2012年にPC版のサービスを開始し、今年の7月で7周年を迎えました。
もちろん『PSO2』もすべてが順調だった訳ではなくて、お客さまにご迷惑をおかけしてしまったこともありましたが、何年か運営して日本ではすごく受け入れていただいたという感触がありました。
そこでまた海外にチャレンジしようと思い、台湾と東南アジア向けにサービスを始めたんですが、良い成果につなげられませんでした。
『PSO2』はPlay to Win形式のゲームで、お金を払っていただいても基本的にはアバターが増えるだけで、その分強くはなることはありません。
一方、当時現地ではお金をかけるほど強くなるPay to Win形式のゲームの人気が高いという文化的背景の違いがあったのです。
こうした経験を通して、PCオンラインゲームの海外展開に向けては、日本で評価されているゲームをそのまま翻訳してローカライズするだけではなく、その国、地域の文化に合わせたカルチャライズをきっちり行っていくことが重要だと痛感しました。
●お客さんに長く遊んでもらう運営
――オンラインゲームの開発運営ならではの魅力や楽しさについて教えて下さい。
『プロ野球チームをつくろう!ONLINE 2』は正式サービス開始から9年間サービス提供をさせて頂きました。
そして、『PSO2』はPC版の正式サービス開始からこの7月で7周年を迎えています。
こうしてお客さまに長く楽しんでいただけるゲームを提供することはやはり大事なことだと思います。
パッケージゲームではクリアしてエンディングに到達すると、そのゲームから離れるきっかけになります。
しかし、「また続編が出たらやろう」という気持ちで、いい印象を持ってそのゲームから離れることができるケースが多い。
一方Free-to-playのオンラインゲームは、遊んでいるうちにお客さまが飽きてしまったり、運営が続けられなかったりということが起き、そうしたきっかけからお客さまは印象が悪い状態でそのゲームから離れることになってしまう恐れがあります。
これを防ぐにはやっぱりお客さまのご意見を拾い上げてゲームに取り入れ、喜びや驚き、時には悔しさも届けて、長く楽しんでいただけるようにしていかなければなりません。
我々の事業部に配属されてくる新入社員には、まず自身で提供したコンテンツに対するお客さまの反応を見るように教育しています。
お客さまの声を拾い上げながらも、お客さまが想定されている範囲のことだけではと飽きられてしまうので、半歩先のコンテンツを実装するように努めています。
もちろん、それが全部成功する訳ではありません。
――半歩先という表現はいいですね。
セガという会社はお客さまの1歩先、2歩先に進み過ぎて、踏み外してしまうことがあるんです(笑)。
半歩先というのが重要なんですね。
お客さまに喜んでいただくというのは難しいことですが、そのハードルを乗り越えるために何が必要なのか常に考えて実行していくことがオンラインゲーム運営の醍醐味だと考えています。
――『PSO2』はプラットフォームが多いのにサーバーが共通というのが特長ですよね。
『PSO2』はPC版からサービスを開始し、PlayStation Vita、PlayStation 4、また、昨年4月にはクラウドゲームとしてNintendo Switchでもプレイができるようになりました。
さらに、スマートフォン向けアプリの『PSO2es』が本編に対するコンパニオンツールとして連動しています。
サーバーを共通にして、プラットフォームが異なっても一緒に遊べるようにするというのは、当初のプロデューサーとディレクターが一番こだわった部分です。
いつでもどこでも繋がるオンラインゲームにしようという思想があって、今もその思いは変わらずこだわっています。
先日のE3で2020年春から北米版のサービス開始を発表しました。
北米版では、PCとXbox One向けに展開予定ですが、こちらもサーバー共通で広げて行くつもりです。
お客さまがこのゲームを遊んでみたいと思ってくださった時に、入口が少ないために機会損失になってしまうことは避けたいと考えています。
人と繋がるというのはとても面白いことです。
是非『PSO2』に友達を誘って楽しんでいただきたいです。
みんなもう慣れ切ってますが、インターネットがまだ目新しかった頃は、電子メール……この言い方も古いですが、メールの返信が届いただけで感動していました。
いまは「LINEの既読つかない!!」ということにイライラしてしまうこともあると思うんですけど本来目の前にいない人とコミュニケーションが取れるというのは、それだけですごい体験なんです。
ですので、『PSO2』でもできる限りたくさんの人と繋がってもらいたい。
ゲームを一緒に遊ぼうって誘った時に、展開プラットフォームが多ければ多いほど一緒に遊べる可能性が増えるので、最初からそこは圧倒的に増やしていきたいと思っていました。
――ゲームで知り合って仲良くなるパターンも多いですしね。
結婚されたお客さまもいますね。
そういうことも運営していて嬉しい瞬間です。
●楽しみながら仕事をする
――新規プロジェクトの企画に、部署内の誰でも参加できるというお話を伺いました。
15年くらい前に僕が部長になった時から毎年やっているのが、企画コンペです。
本当は、いつでも企画の提案は歓迎しているんですけど、日々の業務で忙しいとなかなか出そうという気にならない。
そのため、最低でも年2回、多い年は5回アルバイトから社員まで全員が参加するコンペを行うことで、誰でも企画を提案でき、新しいプロジェクトを立ち上げる機会を作って来ました。
スマートフォン向けRPG『イドラ ファンタシースターサーガ』もここから始まった企画です。
また、当時入社2、3年目くらいの企画担当の女性が提案した企画がきっかけになったゲームもあります。
企画が採用されてプロジェクトとして始動した場合は、企画を考えた人間をディレクターなりプロデューサーなり、中心に据えてチームを作りします。
もちろん丸投げにするわけではなくて、みんなでバックアップします。
――働く環境が整っているのもセガゲームスさんの魅力ですよね。育休を取った社員の職場復帰率が100%だとか。
子供を育てる環境づくりを整えるというのは、社会の中で重要なことの一つです。
セガゲームスでは全社的にフレックス制度を導入していることに加えて、在宅勤務制度を試験運用中です。
子供のいる社員も含めて、働きやすい環境が整えてられてきていると思います。
今注目されている働き方改革についても、僕は賛成ですね。
ゲームを作ったり運営したりして他の人を楽しませるには、自分の引き出しに楽しいことをいっぱい入れておかなければいけません。
昔は僕も仕事に追われている時期がありましたが、そのままではアイデアの引き出しが空っぽになるし、インプットする時間がないと面白いことなんか考えられなくなってしまいますね。
ですからやっぱり仕事をする時は集中してやりきって、遊ぶ時は遊ぶというのがベストであると思います。
いまの時代、辛いと思いながら仕事をやるのはナンセンスです。
楽しみながら仕事をする時代です。
勿論、技術的に思ったようにいかないとか、よい発想が浮かばないとか、想定した売り上げに届かないとか、苦労がなくなることはありませんが、仕事のプロセスとしては楽しんで進めないといけないと思います。
――今どんな人材に来て欲しいというのはありますか?
ゲームを愛している人に来ていただきたいです。
あとはお客さまの気持ちになれる人です。
僕たちの仕事は、お客さまを喜ばせたり、楽しませるための工夫、感動を生み出す努力といったホスピタリティの高さがとても大事になります。
もちろん自分の感性を信じて尖ったゲームを作れる人も、そういうプロジェクトにとっては物凄く大事です。
ただ『PSO2』などのオンラインゲームの開発運営では、まずお客さまの立場に立って、おもてなしをしようとするホスピタリティが大事ということです。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
いまiOSやAndroidアプリのトップ10を見ると、中国、韓国、北米など海外発のゲームもランキングに登場しています。
家庭用のゲームでも、昔に比べていわゆる洋ゲーと呼ばれるタイトルが多くヒットしています。
それ自体はすごくいいことなんですが、僕としては日本発のゲームも世界でもっとヒットして欲しい。
そこにチャレンジしていきたいと思っています。
そのためには新しいものをどんどん創り出して行くことです。
ゲーム性もそうですし、世の中のイノベーションを取り込んで、新しいものを発信していく。
それを日本だけじゃなくて、世界に届けて行きたい。
セガゲームスにはそのチャレンジができる環境があって、それは幸せなことだと感じています。
――ありがとうございました。
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