ドラマ性のないゲームをいかにして盛り上げるべきか?
映画や本など、あらゆる創作物において重視されるのが、ドラマの有無です。
これはゲームにおいても例外ではなく、ドラマティックな展開があるかないかによって、作品の評価は大きく分かれます。
目次
海に沈んだ地球が舞台のSTG『Earth Atlantis』
ゲームにおけるドラマの重要性について考えるため、『Earth Atlantis』と呼ばれる作品を例にとってみましょう。
潜水艦でモンスターを撃退
このゲームのジャンルは、いわゆる2Dシューティングです。
プレイヤーは潜水艦の操縦士となり、海に潜む巨大な生物たちを撃退し、海域の安全を守るというもの。
クラシックな操作感とゲームシステムで、老若男女を問わず遊びやすい仕様となっています。
また、特徴的な設計となっているのが、2Dスクロールではなく自由に海の中を泳ぎまわり、ボスを探して討伐することができるという点です。
古典的な2Dシューティングの多くは、横スクロールでステージが進んでいき、最深部にボスが控えているという設計が採用されています。
しかしこのゲームにおいてはミニマップを活用しながら自由にステージを泳ぎまわり、マップの同じ場所を何度も行き来しながら余すところなく世界観を堪能できます。
ステージが少しずつスクロールする設計も、それはそれで独特の緊張感をもたらしてくれますが、作り込まれた世界をしっかりと堪能するとなると話は別です。
『Earth Atlantis』は、しっかりと世界観を楽しむことができるような設計が、意図されていると言えるでしょう。
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受賞歴もある期待の作品
このゲームはタイにあるデザイン事務所のPixel Perfexが手がけたということもあり、とにかくビジュアルに優れています。
鉛筆画のような暖かいタッチは多くの人の関心を集め、2017年に京都で開かれたインディーズゲームの祭典、BitSummitでは、最優秀賞を受賞しました*1。
日本や欧米だけでなく、タイにも素晴らしいゲームを開発するクリエイターと、その土壌が整っているということで、多くの注目を集めることになりました。
ただ、ゲームクリエイター内での評判が良いからといって、必ずしも商業的な成功に繋がるとは限りません。
ユーザーレビューが出回るようになると、風向きは徐々に向かい風へと変わっていきます。
ドラマ性に欠けてしまった『Earth Atlantis』
優れた評価をものにしながら、いざリリースが進むと、思いの外プレイヤーの評判は芳しくないものでした。
物語はあってないようなもの
プレイヤーが潜水することになる世界は、実は地球の水面がかつてないほど上昇し、世界のほとんどのエリアが水没し、海の藻屑となってしまった世界。
ステージの背景には自由の女神やビル群など、以前は地上にそびえ立っていたであろうオブジェクトが見えています。
このような魅力的な世界観を有していながら、ゲームプレイの中で展開されるストーリーは、いまひとつ没入感が低い上、単調である様子が目立ちます。
映画やドラマのように起承転結やミステリーの核心に迫る展開は見られず、救難信号を受けて救出に向かうことを繰り返すゲームになっています。
せっかくのユニークな世界観がいまひとつ生かされていないということや、前評判が高かったことから、心待ちにしていたプレイヤーを落胆させてしまったのでしょう。
単調なステージ構成で飽きが生まれてしまうことも
また、実際にプレイするステージに関しても、微妙に構造が違うだけで、基本的には同じ展開が繰り返される点も見られます。
ステージが進むごとに異なるギミックが現れたり、新しい敵が豊かに現れ始めたりすることはあまりなく、ひたすらに何処かで見た海中生物を倒していくことになります。
そのほかの2Dシューティングでは、ステージごとに舞台が地球になったり、宇宙になったり、はたまた巨大戦艦の中になったりと、見た目が豊かであった点が見られます。
しかし、このゲームでは背景こそ微妙な差異が見られるものの、基本的にはセピア調の海中が続くため、アクションゲームに求められるような激しい変化は楽しめないのです。
厳かな雰囲気の世界観は確かに衆目を引きますが、めまぐるしいアクションを求めていたユーザーには、物足りなく感じてしまったのでしょう。
『Earth Atlantis』は何が評価されたのか
ドラマティックな展開に欠けてしまった『Earth Atlantis』ですが、それを上回る魅力が控えていたことは事実です。
ユニークで繊細なグラフィック
確かに派手なアクションやステージの変化には乏しいかもしれませんが、決してこのゲームは手を抜いて作られた作品ではないことはわかります。
そのことは繊細なグラフィックに現れており、潜水艦や敵キャラクターの描き込みの細かさを見れば、一目瞭然です。
写実的な3Dグラフィックではありませんが、陰影のつけかたやメカメカしい表面の質感など、丁寧に描かれていることがわかります。
また、背景に関しても多重的に構成されている様子がうかがえます。
一枚絵ではなく、何枚もの背景を重ねて、それぞれで異なる躍動パターンが用意されており、2Dながらも非常に奥行きのある世界観が構成されているのです。
ゲームプレイの面では物足りない点は否定できません。しかし、細部に至るまで作り込まれたグラフィックは、このゲームが持つ大いなるポテンシャルを感じさせるものです。
こういった細かな描写に目を向けながらこのゲームを楽しむことができれば、作品に対する評価はまた変わったものになるのではないでしょうか。
インディーズゲームならではの作り込みのあり方を、改めて再定義させるような作品です。
快適な操作性
また、精密なグラフィックだけでなく、実は操作性においても優れたクオリティを実現している点は評価できるでしょう。
移動の挙動は非常に滑らかで、この点においてはメジャーゲームにも引けを取らぬ迫力を感じさせます。
インディーズゲームには操作性が悪く、ゲームシステムは面白くてもプレイに癖がありすぎるが故、楽しめない作品もあるものです。
しかしこの作品では、しっかりとした操作性を確保し、プレイヤーに余計なストレスを与えないよう設計されています。
自由にマップを泳いで回る自由度の高さと、操作性の充実は、非序に相性が良い組み合わせと言えます。
この点においてもこのゲームは優れた設計を有していると言え、やはり受賞に足るクオリティを持った、洗練されたゲームの迫力を感じさせます。
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おわりに
ドラマティックなゲームは、確かにプレイヤーに没入感を与えてくれる強い魅力を放っていますが、ゲームの評価軸はそれだけではありません。
『Earth Atlantis』のように、世界観の作り込みの深さや、高い操作性を伴い、プレイヤーにストレスなく遊んでもらう環境を整えることも、良作には欠かせません。
ゲームは時に映画と並べて評価を受けることもありますが、ゲームにはゲームなりの評価軸があり、良し悪しがあることも、覚えておくと良いでしょう。
出典:
*1 BitSummit「A 5th of BitSummit アワード結果」
https://bitsummit.org/2017/result/?lang=ja
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
『Earth Atlantis』公式サイト
http://pixel-perfex.com/earth-atlantis
『Earth Atlantis』ストアページ
App Store:https://apps.apple.com/jp/app/earth-atlantis/id1065334252
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