スーパーロボット大戦X-Ω(クロスオメガ)で学ぶ「今ゲームをするプレイヤー」を意識したゲーム作り
2020年10月、バンダイナムコエンタテインメント社のスーパーロボット大戦X-Ω[クロスオメガ](以下スパクロ)が5周年を迎えました。
本作は1991年にバンプレスト社からリリースされた、ゲームボーイ版『スーパーロボット大戦』シリーズをスマートフォン用にアレンジした作品です。
既に25年近くタイトルが出続けるキラーコンテンツとなっています。
従来作品性が全く異なるロボットアニメを共演させ、様々な世代のプレイヤーを楽しませることで人気を博しています。
また、共演したゲームの音楽だけを取り扱った音楽ライブが展開されるなど、ゲームを超えたマネタイズ展開が特徴です。
これまでスパロボシリーズはゲームボーイ、スーパーファミコン、セガサターン、プレイステーション、その他携帯ゲーム機と様々なハードでリリースされてきました。
また、ゲーム機だけでなくガラケー時代から現代のスマホに至るまで、携帯電話向けでのサービス配信も行っています。
こういったゲームハードからスマホに移行するタイトルは今日では珍しくありませんが、スパクロはその事例とは一線を画す存在です。
スパクロの事例から、「今ゲームをするプレイヤー」を意識したゲーム作りを学ぶことができます。
プレイヤーの環境に順応した戦闘システムの変更
改めてスパロボの要素を紐解くと、
「ターン制SLG戦闘システム」
「作品間のクロスオーバー」
という2点がファンから息長く選ばれる要素と言えます。
ゲームハードからスマホ化にあたって大切な事はシリーズ存続において、続けないといけない要素と切っていい要素を見極めることが重要です。
スパクロのリリース時に物議を醸したのは戦闘システムでした。
従来のスパロボシリーズはターン制シミュレーションゲームでしたが、スパクロではタワーディフェンス型アクションゲームとなっていたのです。
これには多くのファンが「こんなのスパロボじゃない」と声をあげ、賛否を呼びました。
しかし、この戦闘システムこそがじっくり腰を据えてプレイするコンシューマー機から、スマホに移行する為に切らざるを得ない要素だったのです。
これまでのスパロボでは一度のゲームプレイで1時間以上遊ぶことが前提だった為、没頭して遊べる様、ゲーム全体の時間配分はゆったりと設定されていました。
リッチコンテンツでプレイヤーを魅了する事が求められていたからです。
完全再現したムービーパートや、1度の戦闘でのカットインアニメーションなど、どれだけ時間をかけて原作再現するかが満足度に寄与していたと言っても過言ではありません。
ところがスマホゲームではその長さは足かせとなります。
言うに及ばず、スマホのプレイヤーはコンシューマー機ほどゆったりと遊ぶことはないからです。
ゲームのライバルが他のゲームという時代から、動画やSNSといった他のメディアとの戦いとなり、常に時間の奪い合いを迫られる時代になりました。
そういった習慣的背景を経て、ゲームを起動した1回の時間の中でフィットするUX提供を求められたからこそのタワーディフェンス型ゲームだったと言えます。
以下は電撃オンラインの『スパロボ』シリーズプロデューサーの寺田貴信氏と『スパクロ』プロデューサーのオオチヒロアキ氏の特別対談からの一文です。
オオチP「2015年当時のアプリ市場って、ワンプレイが5~10分であることがマストだったんですよね。アプリ市場が成熟しきってなくて、ユーザーの皆さんへ提供する体験は“お手軽でサクサク”というのは至上命題だったんですよ。(中略)当時は短時間プレイは絶対に外せない要素でした。僕個人としては当時の状況を考えるに、手軽なアクションにしたのは特別な選択ではなかったのかなと思っています。」※1
この様に、ゲームタイトル発でシステムを考えるのではなく、ゲームのプレイヤーを取り巻く環境から逆算したシステム設計をすることが、継続的な利用に繋がります。
新規層へのアプローチに作品コラボという手段
息が長くなったタイトルではプレイヤーの高齢化という問題が付いてまわります。
新規の利用者を定期的に取り入れなければいずれサービスとして先細ってしまうことは自明の理です。
こういったタイトルのゲームは既存プレイヤーを満足させつつ、常に新規利用者を掘り起こし続けなければいけません。
この際に必要なことは、ゲーム性と矛盾の無いキャンペーンとでも言うべき施策となります。
最も多くなされているのが作品コラボです。
ただし、今でこそ1つの手段となった作品コラボでも、ゲーム性と作品性にギャップがあるとゲームの既存プレイヤーからも作品の既存ファンからも不評となってしまいます。
しかし、スパロボの要素の一つには、先にあげた「作品間のクロスオーバー」というものがあります。
元々スパロボは出自の異なる作品同士をゲームの中で夢の共演させることを醍醐味としており、クロスオーバーはむしろゲームの追い風となります。
これを活かし、従来のスパロボファンだけではない裾野を広げた展開が可能になりました。
以下は一部です。
アイドルマスター XENOGLOSSIA(2015年)※2,クレヨンしんちゃん(2016年)※3,サクラ大戦(2017年)※4,恐竜戦隊ジュウレンジャー(2017年)※5,ロックマン(2018年)※6,メダロット(2019年)※7,ポプテピピック(2019年)※8,牙狼(2020年)※9等。
もちろんこれら以外にロボットアニメ作品とのコラボも多くなされましたが、上記は特撮ヒーロー作品や日常モノ作品、他ゲーム作品などスパロボにおいては異質な作品群です。
パッケージで販売されるゲームにはできない期間限定のキャンペーンを上手く活かし、話題性とゲーム性のバランスをとっていました。
直接的ではないにせよ、こうしたプレイヤーの嗜好性に近い所にある作品をコラボ対象として選抜することが重要です。
ゲームファンと二人三脚で作るイベント性
ゲームの外に目を向けると、スパクロの特徴として生放送が挙げられます。
ニコニコ動画などで実施された、作り手側からの情報配信番組です。
制作の裏側や次に実施するキャンペーンの予告、シリーズの背景などそこでしか聞けない情報が目玉となっています。
既にセガ社の「セガなま」や、スクエアエニックス社の「星ドラ」の生放送など、こういった作り手側の番組制作は主流になりつつあります。
これまでのゲームの様な一方的な情報配信だけでなく、番組及びSNSを使ったファンとのコール&レスポンスによるイベント作り・ゲーム作りはもはやマストと言えます。
ゲームは今やプレイ中だけの興味喚起だけではなく、ゲームをしていない時の体験時間までも加味した運営が求められるという事の証左でしょう。
まとめ
スパクロは従来のスパロボシリーズにお約束であったターン制SLG戦闘システムを脱し、タワーディフェンス型ゲームにシフトしました。
しかしそれはスマートフォンでのUXを考慮した生存戦略と言えます。
また、多様な嗜好性に合わせたコラボ企画や、ファンとの接点を持続させる生配信といったゲームとプレイヤーを繋ぐ架け橋としての施策の数々。
こういったこれまでのシリーズの軌跡にあぐらをかかず、常に「今ゲームをするプレイヤー」を意識したゲーム作り・運営スタイルが求められる事でしょう。
併せて読みたい記事
→ドラクエモンスターズスーパーライトから学ぶゲームUXから逆算する設計思想
→『Suzy Cube』に見る、ゲーム作りにあるべきプロの仕事の姿
ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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スーパーロボット大戦X-Ω公式サイト
GooglePlay
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.bandainamcoent.srwxomg&hl=ja
Appstore
https://apps.apple.com/app/id1009075477?mt=8
*1【スパクロ】寺田P×オオチP特別対談! 5周年インタビュー(オオチP情報局#特別編)
https://dengekionline.com/articles/52269/
*2 60秒で取れるSSR。『アイマス(ゼノグラシア)』インベル参戦!【スパロボクロスオメガ】
https://dengekionline.com/elem/000/001/182/1182908/
*3 『スパロボX-Ω』限界突破でSSR!クレヨンしんちゃんコラボで“カンタム・ロボ”をゲット!
https://app.famitsu.com/20160422_702903/
*4 『スパクロ』に『サクラ大戦』が期間限定参戦!真宮寺さくらや光武が手に入る
https://app.famitsu.com/20170222_978202/
*5 『スパロボ』×『恐竜戦隊ジュウレンジャー』参戦秘話をキーマンが語る!【『スパクロ』インタビュー】
https://app.famitsu.com/20170425_1025658/
*6 『スパクロ』に『ロックマン』が参戦!ロックマン、フォルテ、ブルースを手に入れろ!
https://app.famitsu.com/20180101_1208916/
*7 「スパロボX-Ω」,イベント“友情と絆のメダロット”をスタート
https://www.4gamer.net/games/307/G030704/20190208107/
*8 『スパクロ』に『ポプテピピック』が期間限定参戦!
https://dengekionline.com/articles/14699/
*9 【スパクロ】『牙狼<GARO>』から黄金騎士ガロが参戦(オオチP情報局#48)
https://dengekionline.com/articles/52001/
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