
オートチェスとは?ゲームの仕組みや戦略性、開発側の設計ポイント
「オートチェス」という言葉を目にすることがあると思います。しかし、戦闘が自動で進むのに何を競っているのか、普通の対戦ゲームと何が違うのかと聞かれると、うまく説明できないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、オートチェスというジャンルの成り立ちや基本的なルール、そして開発側がどのような点に気を配って設計しているのかを解説します。ぜひ最後まで読んでみてください。
1. オートチェスとは
オートチェスとは、駒(ユニット)を購入して盤面に配置し、戦闘そのものは自動で進行する対戦ゲームのジャンルです。プレイヤーが行う操作は「編成と配置」に集約されており、エイムの正確さや反射神経ではなく、判断の質で勝敗が決まります。
多くのタイトルは8人程度で同時に対戦する形式を採用しています。1試合の中で何度も戦闘が繰り返され、負けるたびにライフポイントが減り、尽きたプレイヤーから脱落していくという流れが一般的です。
このジャンルが生まれたきっかけは、2019年1月に公開された『Dota Auto Chess』でした。中国のDrodo Studioが『Dota 2』のMOD(カスタムゲーム)として発表したもので、公開から数か月で800万人を超えるプレイヤーを集めたと報じられています。
このヒットを受けて、単体タイトルとしての展開が一気に進みました。Drodo Studio自身がスマートフォン向けなどに『Auto Chess』をリリースしたほか、Riot Gamesの『Teamfight Tactics(TFT)』、Valveの『Dota Underlords』が2019年に相次いで登場しています。既存タイトルにモードとして組み込まれる例も多く、短期間でジャンルとして定着しました。
1-1. オートチェスとオートバトラーの呼び方の違い
同じ内容を指す言葉として、「オートチェス」と「オートバトラー」の2つが使われています。この違いは、成り立ちを知ると理解しやすくなります。
「オートチェス」は、もともと『Dota Auto Chess』という特定のタイトル名に由来する呼称です。最初に大流行した作品の名前がそのままジャンル名として広まった、という経緯があります。日本では現在もこの呼び方が定着しており、検索されるのもほとんどがこちらです。
一方の「オートバトラー」は、作品名に依存しない総称として使われる言葉です。後発のタイトルが自分たちのジャンルを説明する際に用いたことで広まりました。特定の企業の作品名を前提にしない表現なので、開発現場やビジネスの文脈ではこちらが選ばれることが多いといえます。
つまり、プレイヤー同士の会話では「オートチェス」、企画書や業界の資料では「オートバトラー」という使い分けがなされている、と考えておくとよいでしょう。
1-2. MOBAやシミュレーションゲームとの違い
オートチェスは、盤面に駒を並べるという見た目からシミュレーションゲームと混同されがちです。また、駒として登場するキャラクターの出自から、MOBAの一種だと思われることもあります。この項目では、それぞれとの違いを整理します。
MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)は、プレイヤーが1体のキャラクターをリアルタイムで操作し、5対5などのチーム戦で拠点の破壊を目指すジャンルです。スキルを当てる技術や、状況に応じた瞬間的な判断が求められます。
オートチェスは『Dota 2』や『リーグ・オブ・レジェンド』を土台に生まれたため世界観は共通していますが、戦闘中の操作が存在しない点が決定的に異なります。
シミュレーションゲームとの違いは、意思決定のタイミングにあります。一般的なシミュレーションゲームでは、戦闘が始まってからも自分のターンで1手ずつ動かせます。対してオートチェスでは、戦闘が始まった時点でプレイヤーにできることはありません。すべての判断が、戦闘前の準備段階に前倒しされていると言い換えられます。
さらに、毎試合手に入る駒が変わるため、同じ構成を繰り返すことができません。この点は、プレイするたびに条件が変わるローグライトに近い性質だといえるでしょう。
2. オートチェスの基本的なルールと1ラウンドの流れ
この項目では、実際に1試合がどのように進むのかを紹介します。オートチェスは、準備フェーズとバトルフェーズを交互に繰り返す構造になっており、この2つのサイクルを理解すればおおよその流れがつかめます。
バトルフェーズで敗北するとライフポイントが減り、0になったプレイヤーから順に脱落します。最後まで残った1人が勝者です。
2-1. 準備フェーズで駒を購入する
準備フェーズでは、まずラウンド開始時にゴールドが配られ、ショップに数体の駒がランダムに提示されます。プレイヤーはその中から必要な駒を選んで購入します。
欲しい駒が並んでいない場合は、「リロール(再抽選)」でショップの中身を入れ替えられます。ただし、支払ったコストは戻りません。『TFT』ではリロール1回につき2ゴールドが必要で、引きが悪ければそのぶん資金を消耗していきます。
駒にはコストが設定されており、高コストの駒ほど性能が高く設定されています。とはいえ、高コストの駒だけを集めれば勝てる設計にはなっていません。高コストの駒はプレイヤーレベルを上げなければショップに並びにくく、そもそも出現数自体が絞られているためです。
もうひとつ重要なのが、資金を貯めること自体にメリットがある点です。『TFT』では、所持ゴールド10につき1ゴールドがラウンド終了時に加算され、最大で5ゴールドまで増えます。今すぐ盤面を強くするために使うのか、利子を優先して後半に備えるのか。この判断がオートチェスの戦略性の中心にあります。
2-2. 駒を盤面に配置する
購入した駒は、準備フェーズのうちに盤面へ配置します。基本のセオリーは、前衛に耐久力の高い駒を置き、後衛に火力役を配置するというものです。前衛が敵を受け止めている間に、後衛が攻撃を通す形をつくります。
このセオリー自体は難しくありませんが、実戦では細かな差が結果を左右します。同じくらいの強さの構成同士がぶつかった場合、勝敗を分けるのは配置の差であるケースが少なくありません。後衛を狙う駒がいる相手に対して火力役を端に寄せる、範囲攻撃を持つ相手に対して駒を固めないといった調整が効いてきます。
さらに上級者の領域になるのが、次に当たる相手を想定して配置を変える「読み合い」です。オートチェスでは対戦前に相手の盤面を確認できるタイトルが多く、相手の主力がどこに立っているかを見たうえで、自分の配置を組み替えられます。同じ編成でも、置き方次第で勝てる相手が変わるということです。
2-3. シナジーとアップグレードで構成を強化する
オートチェスの編成には、駒を強化するための2つの軸があります。「シナジー」と「アップグレード」です。
シナジーは、同じ種族や職業を持つ駒を一定数そろえると効果が発動する仕組みです。多くのタイトルでは段階制になっており、2体で小さな効果、4体でより強い効果、といった形で強化幅が広がっていきます。そのため、性能が低い駒でもシナジーの頭数として価値が生まれます。
アップグレードは、同じ駒を複数集めると合体して強化される仕組みです。一般的には同じ駒を3体そろえると★2になり、★2を3つそろえると★3になります。★3まで到達すれば単体で戦況を覆せる力を持ちますが、同じ駒を9体集める必要があるため、狙うには相応の資金と運が要ります。
シナジーを広く取るか、特定の駒のアップグレードに絞るか。この2つは資金と盤面の枠を奪い合う関係にあるので、どちらを軸にするかを早めに決めることが大切です。
2-3-1. 駒は全プレイヤー共通のプールから抽選される
見落とされがちですが、ショップに並ぶ駒は各プレイヤー専用に用意されているわけではありません。多くのタイトルは、対戦している全員が同じ「共有プール」から抽選を受ける「共有プール制」を採用しています。
つまり、ある駒を誰かが大量に購入すると、プールに残っている枚数が減り、他のプレイヤーのショップには並びにくくなります。同じ駒を狙う人が多いほど、自分の手元に来る確率は下がるということです。
だからこそ、他プレイヤーの盤面を確認する行為には意味があります。競合が多い構成を避けて別の軸に切り替える、あるいは相手が★3を狙っている駒をあえて買い占める、といった駆け引きが成立します。
3. 開発側から見たオートチェスの設計ポイント
ここまではプレイヤー視点で見てきましたが、この項目では開発側の視点に切り替えます。オートチェスを成立させるうえで重要になるのは、大きく次の3点です。
・運と戦略のバランス
・非同期で成立する対戦の仕組み
・メタを動かし続ける運営設計
3-1. 運要素と戦略性のバランスをどう設計するか
オートチェスは、ショップの抽選という運の要素を前提にしたジャンルです。この運の強さをどこに置くかが、設計上の最大の悩みどころだといえます。
運が強すぎると、上手いプレイヤーが負ける試合が増えて競技性が失われます。かといって運の要素をなくしてしまうと、知識量と経験がそのまま結果に直結し、初心者が勝てずに離脱してしまいます。どちらに寄せても人が減るというジレンマを抱えているわけです。
このバランス調整に使われる代表的なパラメータが、駒の出現確率、プールの総数、リロールの費用、そして利子の上限です。たとえば利子に上限があることで、序盤に資金を貯めたプレイヤーが一方的に有利になり続ける展開を防げます。プールの総数を絞れば競合が起きやすくなり、同じ構成に人が集中しにくくなります。
なお、こうした調整の効果は勝率だけでは判断できません。8人で順位を争う形式のため、平均順位や順位の分布まで見ないと、実態を見誤ることになります。
3-2. 対戦相手の編成を参照する非同期対戦の仕組み
オートチェスには、技術面でも大きな特徴があります。戦闘中に操作が不要ということは、全プレイヤーの入力をリアルタイムで同期し続ける必要がない、ということです。
準備フェーズが終わった時点の編成データだけをやり取りし、戦闘結果はサーバー側の計算で確定できます。プレイヤーの端末は、確定した結果を再生しているだけという構成も取れます。この仕組みは非同期対戦と呼ばれ、対戦ゲームでありながら通信の負荷を大きく抑えられる点が利点です。
その結果、低スペックの端末やモバイル回線でも成立しやすく、通信品質の影響を受けにくいという特徴が生まれます。数十秒の遅延が致命傷になるMOBAや対戦シューティングと比べると、プレイできる環境の幅は明らかに広いといえるでしょう。
ただし、これは戦闘結果の再現性が担保されていることが前提になります。同じ入力からは必ず同じ結果が出る、つまり決定論的に処理される実装でなければ、サーバーと端末で異なる結果が表示されてしまいます。乱数のシードを共有する、計算の順序や数値の扱いを環境によって変えないといった設計が求められる部分です。
3-3. アップデートでメタを動かし続ける運営設計
オートチェスは、リリースして終わりにできないジャンルでもあります。編成の最適解が固定化すると、どの試合も同じ構成の取り合いになり、プレイヤーは飽きてしまうためです。
そのため多くのタイトルでは、シーズンごとに駒やシナジーの構成を入れ替え、環境そのものを作り替えています。加えて、勝率や使用率のデータをもとにした継続的なバランス調整が前提になっており、運用開始後もゲームデザイナーとデータ分析の担当者が動き続けることになります。
ここで注意が必要なのが、覚える量の増加です。追加を重ねるだけでは駒とシナジーの総量が膨れ上がり、新規プレイヤーが入りづらいゲームになってしまいます。だからこそ、追加と削除をセットで考える設計が欠かせません。何を残し、何を退場させるかという判断も、運営チームの重要な仕事です。
4. まとめ
オートチェスは、戦闘を自動化することで、プレイヤーの意思決定を編成と配置に集中させたジャンルです。準備フェーズでの購入と配置、シナジーとアップグレード、そして共有プールをめぐる駆け引きが、この遊びの中心にあります。
このジャンルが短期間で広まった背景には、操作技術を問わないぶん幅広い層が参加でき、通信環境の制約も受けにくいという構造上の強みがありました。一方で、運と戦略のバランス調整や、メタを動かし続ける運営が欠かせないという難しさも抱えています。
ゲーム業界を目指す人にとって、オートチェスは数値設計とサーバー処理、そして継続的な運用が組み合わさった好例だといえます。プレイヤーとして遊ぶときにも、なぜこの確率なのか、なぜこの上限なのかという視点を持つと、設計の意図が見えてくるはずです。
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