ゲーム制作のデザイナーはとりあえず手を動かすべき?
面白いゲームを作るには、まず手を動かすことが重要だと言われることは多々あります。
確かに手を動かさなければ何も始まらないとは言いますが、手を動かすことがかえって大きな損失を生んでしまうリスクがあることも、ゲームクリエイターの先人たちは身を以て教えてくれています。
目次
ゲーム作りの大まかな流れ
ゲーム作りの流れは、大まかに分類すると原案・事業性の検討、開発(プロトタイプ、α版、β版、最終版)、リリースおよびサービス運営に分けられます。
開発段階は非常に大きな比重を占めており、ゲームの方向性を決定するプロトタイプ、メインビジュアルやテーマを決定するα版、すべてのコンテンツを実装するβ版、ユーザーの手に渡るため完璧な状態にする必要がある最終版と、作品のクオリティはここで決まるといっても過言ではありません。
また、デザイナーをはじめとしたクリエイティブ職の腕の見せどころでもあり、プランナーの意見やユーザーが求めるニーズに合致した成果物を制作することが期待されます。
モノづくりの基本は、手を動かすことだけど
クリエイティブな業務に携わる場合、まずは形を作ってみるというのが最も必要になる心がけとされています。
どれだけ良いアイデアを頭の中にストックしていても、世間にアウトプットをしなければいつまでも自分の才能を評価してもらうことができません。
今まで何も作ったことがないクリエイター志望者にこのような発破をかけるベテランが多いのは、実際に作ってみないと何も始まらないことをよく知っているからなのです。
初心者のうちは数をこなす。だけど・・・
モノを作りたいけど作ったことがない。
そういう人はアウトプットの方法を学んでモノづくりに臨むのではなく、アウトプットしながら同時にインプットを行うことも求められます。
しかし、モノの作り方はある程度理解したけど、今度は人から評価されるようなモノづくりの方法がいまいち分からないと悩む人も少なくありません。
せっかく面白いと思う作品ができたと思ったら、誰も自分のアウトプットに見向きもしてくれないというのは切なく、創作意欲を大きく削いでしまいかねません。
自分で作ったインディーゲームは、自分のサイトやSNS、Steamなどで世界中の人に見てもらうことができるようになっています。
しかし全世界70億人の人に向けて自分のゲームを公開しているのに、遊んでくれる人やゲームを買ってくれる人が2ケタにものぼらない状態が続くと、モチベーションを維持するのはどんどん難しくなっていきます。
インディーゲームだから売れない、メジャーなゲーム会社がリリースすればこうはならないと考える人もいるかも知れませんが、実はメジャーなゲーム会社やタイトルであるほど、手を動かす前の企画段階に相当な労力を注いでいるということもあるのです。
スマブラ開発者、桜井政博の場合
桜井政博氏について
桜井政博氏は、日本のゲームクリエイターで、ゲーム制作会社・有限会社ソラの代表を務めています。
桜井氏は1989年にHAL研究所に入社し、全世界累計500万本以上を売り上げたゲームボーイ用ソフト『星のカービィ』初のディレクターを務めました。
その後は2003年にHAL研究所を退社してフリーランスに転身し、2005年に有限会社ソラを設立しました。
有限会社ソラの設立後は、『大乱闘スマッシュブラザーズX』をディレクターとして開発することとなった他、任天堂の子会社である新会社プロジェクトソラでディレクターとしてニンテンドー3DS用ソフト『新・光神話パルテナの鏡』の開発にも関わっています。
その他、ディレクターを務めたNintendo Switch用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』は2019年の日本ゲーム大賞を獲得しています。
任天堂の大人気格闘ゲーム、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズを長年担当してきた桜井政博氏は、この「量より質」の考え方を大切にしながら数々の名作に携わってきました。
桜井氏が考えるゲーム企画者の姿勢とは、作る前からよく中身を練りこんでおくという姿勢です。
同氏のコラム、「桜井政博のゲームについて思うこと」に寄せられている文章には、彼が作成した企画書は驚くほどに練られている様子について語っているものがあります。
「とりあえず手を動かす」が通用しないシーン
桜井氏によれば、ゲームデザイナーが心がけるべきは「『作ってみてから考えよう』とは言わない」ことにあるのだそうです。
まず作ってから様子を見るというのは、仕様をその都度変更していくために余計な時間と労力がかかり、そもそものゲームの面白さが曖昧になったり、もはや当初とは別のゲームになってしまうこともあり、途中で企画倒れになってしまう恐れがあるためです。(1)
キャラクターデザインの細かな変更はどんなゲームにもつきものですが、大筋を変えてしまうことは避けるべきで、そのような事態になる前にそもそも企画の段階でしっかりと構成を練っておく必要があるというのが、桜井氏の企画づくりのプロセスなのだそうです。
ただ一方で、桜井氏は制作前からゲームの完成イメージをつかむことは難しいことだとも語っています。
まるで目の前にゲームがあるようなレベルで具体的に完成像をつかむことは誰にでもできることではないかも知れませんが、それでもゲームの企画に携わる者であるなら、ゲームを作りながらではなく企画段階で頭の中にゲームをデザインしていく心がけが必要となるのです。(2)
併せて読みたい記事
→スマブラのプロデューサーが考える、面白いインディーゲームの企画の仕方
岩田聡の場合
岩田聡氏について
岩田聡氏は日本のゲームクリエイターで、任天堂の元代表取締役社長であり、ハル研究所代表取締役社長なども歴任していました。
大学在学中は株式会社ハル研究所にアルバイトとして勤務し、卒業後はそのままハル研究所に就職してソフトウェア開発担当の第一号となりました。
入社2年目にはファミリーコンピュータ用ソフト『ピンボール』、『ゴルフ』などのプログラミングを担当しました。
1993年3月には代表取締役社長に就任しましたが、社長業の傍らでプログラマーとしての活動も継続し、『MOTHER2 ギーグの逆襲』の開発を請け負いました。
その後、2000年6月に任天堂の取締役経営企画室長、2002年5月に代表取締役社長に就任。
2013年には任天堂の米国法人CEOも兼任することとなりました。
今は亡き任天堂のシンボルともいうべき存在だった、岩田聡氏にもゲームの企画・制作における伝説的な逸話が残っています。
岩田氏は桜井氏に「先に頭の中で完成イメージの映像を働かせてしまう」能力を見出していたという話もあるそうですが(3)、岩田氏もまた、ゲームをズルズルと仕様変更することで生じる弊害をよく知っており、頓挫していた有名タイトルを一から自分の手で作り直したことがありました。
一から全部作り直した『MOTHER2』
コピーライターの糸井重里が制作に携わった大人気RPG、『MOTHER』の続編を開発していく中で、当時4年の月日を費やしていたのにも関わらず、一向に完成に近づけないところへ岩田氏はやってきました。
当時は若きプログラマーであった岩田氏は、チームに向かって「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。イチからつくり直していいのであれば、半年でやります」と言い放ったのです(4)。
ろくに完成していないとはいえ、4年間の労力をほぼ全て捨てるというのは、開発チームにとって苦渋の決断だったとは思いますが、本当に半年後に見事ゲームとしての体をなす形に持っていった岩田氏にはそれをも超える感謝と畏敬の念を覚えたことでしょう。
これは岩田聡の伝説としては有名な物語として美談になっていますが、ここで行われたやり取りはかなりのギャンブルであったことを忘れてはいけません。
桜井氏が言うように、しっかりと企画段階から構想を練っておけば、4年もかけて開発が進まないという事態を生まなかったかも知れないですし、何より岩田氏のような伝説的なプログラマーが、いつもピンチに駆けつけてくれるとは限らないからです。
桜井氏が理想とするゲームデザイナーのあり方は、このような非効率なケースで多くの人の労力を無駄にしないための優しさの知恵でもあるのです。
少ない時間と予算を効率的に運用するために
強いビジョンを持ってゲーム制作に取り掛かることは、結果的に予算や時間を節約する効果をもたらします。
これはメジャーゲーム開発の現場よりもむしろ、インディーゲームの現場のように予算も人も限られている開発チームにとっては非常に重要な知恵となってきます。
計画的に行き当たりばったりでゲームを作ってしまうと、ボツ案が増えるばかりで完成へ一向に近づかないというケースは少なくないでしょう。
ゲームを作品として完成させるのが難しい理由の1つとして、構成をしっかり練っていなければ1つのコンテンツとしてまとめ上げることが難しいからということが考えられます。
せっかくのいいアイデアでも、うまく構想を練らないまま開発を進めてしまうと、途中でつまづいてしまった際にスランプを抜け出せず、アイデアごと破棄してしまうということも起こりえます。
とりあえず手を動かしてるのに、面白い作品が作れない。
そんな時は手の動かし方に頭を使ってみると、思わぬ良作の誕生に巡り合わせることができるかも知れません。
併せて読みたい記事
→『Death Hall』に見るデザイナーが求めるべきゲームのテンポ
→『Marble Knights』に見る、面白いゲームに欠かせない「ひねり」の作り方
→ゲームデザイナーを志すなら見ておきたい、『see/saw』の洗練ぶり
出典:
(1)桜井政博『桜井政博のゲームについて思うこと2015~2019』G2ブレイン、2019年
p.78~79
(2)(1)に同じ
(3)(1)に同じ
(4)「プログラマー・岩田聡の“伝説的エピソード” 『MOTHER2』復活対談で裏側明かす」ねとらぼ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1303/19/news035.html
ライター情報
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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