2Dドットゲーム『くまのレストラン』から学ぶ、画力の生かし方
豊かな画力は誰もが憧れる技術ですが、それは単なる趣味ではなく、実際にゲームクリエイトの現場でも非常に重宝される、実践的なスキルでもあるためです。
スマホ向けRPG、『くまのレストラン』はいわゆる2Dドットゲームですが、繊細なイラストレーションがドットでうまくゲームに落とし込まれた、表情豊かなファンタジーゲームに仕上がっています。
目次
ノベル系RPGの『くまのレストラン』
このゲームは、クマの料理人と給仕のネコが主人公となり、レストランを営むというファンタジーを描きます。
https://daigostudio.com/bearsrestaurant/ja/
「最後の晩餐」を提供する死後のレストラン
ただ、クマとネコが食事を提供するのは、すでに死んでしまった人たちです。
生前の記憶に触れ、そこにダイブすることで彼らの好みを知り、かつて生きていた頃の好物を作ります。
プレイヤーは、この記憶を巡る旅を楽しむという、ノベル系のRPGになっています。
主に操作するのは給仕のネコで、死者の記憶のかけらを求め、あちこちを飛び回ります。
そして記憶の旅を通じて、その人が生前に何を食べていたかだけでなく、どのような生活を送り、人となりはどのようなものであったかを知ることができます。
死後の世界にたどり着くまでの物語を覗き見るのも、このゲームの楽しみ方の1つです。
表裏の世界を楽しめるダークファンタジー
そして、死者の記憶のダイブを終えると、プレイヤーはその人の「記憶のかけら」を手に入れることができます。
これはその人が死の直前何をしていたかや、どのようにして命を落としてしまったのかを見ることができるアイテムです。
死後の世界を描くファンタジーものでは、死者の死の瞬間が描写されることは少ないものですが、『くまのレストラン』ではしっかりと見届けることができます。
生き物の死に様には様々なものがありますが、老衰や病死といった予測できる死や、交通事故のような突然の死など、プレイヤーは死者の「死に方」から彼らのドラマを垣間見ることになります。
また、無料でプレイできるのは天国編のお話、いわゆる表のストーリーですが、有料限定のストーリーとして「虚無編」と呼ばれる裏のストーリーも用意されています。
こちらは物語の続きを描いたスピンオフのような物語かと思いきや、作品の良さがさらに際立ったダークなストーリー仕立てになっています。
死者というのは必ずしも善人だけでなく、生前に悪の限りを尽くした人間もまた、死者の世界にたどり着くものです。
こちらのストーリーでは、そんな人のエゴや悪の部分をしっかりと描き、ファンシーなクマと生々しい人間との対比が非常に印象的な仕上がりになっているのです。
ゆるいゲームかと思いきや、「死」や「生きること」という重いテーマを扱うゲームらしい暗さも持ち合わせ、そのギャップが見事なバランスを生んでいるのが『くまのレストラン』です。
豊かなドット表現
このゲームの魅力は、ストーリーと作り込まれた世界観にあるのですが、それを大きく支えているのがドットによる豊かなイラストレーションです。
色彩ときめ細やかなドットイラスト
クマやネコの毛並みの質感は、ドットながらにリアルな描写が凝らされており、携帯ゲームとしては非常にレベルの高い仕上がりです。
この辺りは現代のゲームらしくキメが細かく、グラデーションやコントラストの仕上げのレベルは非常に高いと言えます。
ゲームの性質上、自然描写や様々な世界が点々と切り替わるめまぐるしい展開となっていますが、どのグラフィックも細部まできちんと打ち込まれており、無料でこれだけのクオリティを堪能できるのはかなり贅沢な仕様です。
食事や背景にも力の入った表現
『くまのレストラン』はその名に恥じることのない、食事の描写も印象的です。
ドット絵の魅力は不思議なもので、決してそのグラフィックは写実的ではないものの、3Dでリアルなご飯を描くよりも、はるかに食欲を刺激するイラストに仕上がっています。
ドット絵にはコアなファンが一定数いるとは言われていますが、その魅力を存分に堪能できるのも特徴と言えるでしょう。
また、背景の水や草木、建物の影など、非常に丁寧にドットが打ち込まれているので、そのファンタジックな世界観に溶け込む様子は一見の価値があります。
絵本風のイラストがゲームに与える効果
ビジュアル表現とは大事なもので、特に視覚効果が単調になりやすいスマホゲームにとって、『くまのレストラン』が持つようなファンシーとダークのギャップがもたらすインパクトをうまく伝えるためには不可欠な存在です。
ファンシーさとダークさの融合
さらに、このゲームの魅力は、ファンシーなビジュアルでダークな物語を描くというバランス感覚にあります。
写実的なビジュアルで死後の世界や死者についての話をされても、ホラーやミステリーのノベル系作品としては非常にありきたりなのですが、この作品ではクマやネコといった可愛げのある動物たちが、ドット絵でストーリーを展開します。
時として目を背けたくなるような生々しい描写も、妙に無機質で、どこなくキュートなキャラクターたちがおりなせば、ついつい見いってしまう映像描写として機能します。
丁寧な作画は没入感を生み出す
また、『くまのレストラン』は何よりも丁寧にドット絵が打ち込まれ、キャラクターたちの作画レベルも非常に高い点が重要です。
こういった深い物語性とファンシー性を融合するためには、高い描写力が問われることになります。
方向性はファンシーとダークの融合でも、ビジュアルが中途半端で、プレイヤーの魅力を引かないチープなものであれば肝心のストーリーにも集中することができません。
まして、このゲームは3Dグラフィックではなく2Dドットです。
2Dドット特有の味のある表現に高い画力が加われば、物語としての没入感は何倍にも盛り上がるものなのです。
おわりに
3D技術が発達した今では、初心者でも好きなだけリアルなグラフィック表現を追求できるようになったかもしれません。
しかし、『くまのレストラン』のように2Dのドットで上手くデザインするためには、イラストレーターが備える詳細な表現力の力が欠かせないのです。
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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