『World for Two』が提示する、ゲームデザイナーに求められる「余白」の作り方


ゲームのデザインセンスは、いかにプレイヤーが没頭できるような環境を構築できるかによって試されるものです。

 

『World for Two』のゲームデザインは、今日の圧倒的なボリュームとは正反対の性質を持っており、それだけに学びの多い作品にも仕上がっています。

 

2Dアドベンチャーの『World for Two』

『World for Two』では、あらゆる生命が滅びた地球へ新しい命を育ませるべく、アンドロイドを操作して地球を豊かにしていくゲームです。

 

人類滅亡後の世界で新しい生命を生み出せ

プレイヤーは遥か昔に文明が消滅し、ただ一人残された博士のアンドロイドとしてスタートします。

 

すでに老化が進み、思うように体を動かすことができない博士は、自分の手と足となってくれるアンドロイドを開発し、彼の言う通りに命の手がかりを集めます。

 

研究所の外へ出ると、そこには大自然が広がっている様子がうかがえます。

 

文明こそ滅んでいるものの、世界は水と緑に覆われており、生命を育む環境が整っていることがわかります。

 

プレイヤーであるアンドロイドはそんな大自然から「生命の火」を探し出し、DNAを操作することで生命の育みを手伝います。

 

また、この生命の火からは新たな命の手がかりとなる因子を持ち帰ることができ、研究所でこれらの因子を配合し、新しい生命を作り出すこともできます。

 

すでに滅んでしまった世界で唯一残された研究所から、新たに生命を復活させ、再び文明を取り戻すことを目指すのがこのゲームの目的です。

 

パズル要素も伴うアドベンチャーゲーム

そしてこのゲームの核となる要素が、遺伝子操作をテーマとしたパズルです。

 

遺伝子を組み合わせて新たな生命を誕生させる作業は、必ずしも常に成功するとは限りません。

 

新たな生命を生み出すためには多くの遺伝子を掛け合わせては失敗するというトライアンドエラーを繰り返す必要があり、トライのたびに集めてきた遺伝子は消費されます。

 

この作業はまさに総当たり的なプロセスが必要となっており、少しずつでしか生命を増やしていくことはできません。

 

遺伝子が足りなくなるたびに外の世界へ赴き、遺伝子を集めるべく奔走する体験は、アポカリプスの体験価値を高めてくれる機能にもなっています。

 

ただ遺伝子を集めては配合を繰り返す作業は、単調のように感じられる一方で、命を育むことの尊さを教えてくれる体験でもあります。

 

また、新たに誕生に成功した生命は、外界で生き生きと生活を始めるようになる点も魅力の一つです。

 

ゲーム開始時は世界から生き物が消え、アメーバのような原始生命体しか見られなかったのが、次第に昆虫や恐竜などがあふれるようになります。

 

まるで早回しで地球の進化を目撃しているような感覚は、このゲームの醍醐味であるとも言えるでしょう。

 

『World for Two』の美しさの正体

地球滅亡や人工的な生命の誕生など、ディストピアな世界観ばかりが強調される今作ですが、ゲームプレイそのものは非常に美しい体験に仕上がっています。

 

極端に少ないオブジェクトが生む静寂

『World for Two』は2D作品で、オブジェクトも少ない物静かなゲームです。

 

その物量の少なさからは現代的なゲームらしさを感じさせませんが、これはかえってこのゲームの美しさを引き立てる役割を果たしているとも考えられます。

 

例えば閑静な旅館へ旅行に行く際、旅行客が求めるのは都会の喧騒から離れた静寂です。

 

今作においても同様の機能を果たしていると見られ、静寂そのものがゲームの価値となっており、ある種のリラックスを与えてくれる心地よさがあります。

 

また文明が滅んだという舞台設定も、オブジェクトの少なさを理由づける背景として機能していると考えられます。

 

あらゆる都市や生命が滅んでしまった世界において、目を惹くオブジェクトや耳に届く音が聞こえてこないのは、当たり前の現象なのです。

 

プレイヤーの手で埋められる「余白」

そして、こういった物足りない空虚な空間を埋めていくのもまた、プレイヤーの仕事であるとも言えます。

 

プレイヤーに求められているのは、生命の誕生によってこの世界を再び命溢れる空間へと再生していき、地球の喧騒を取り戻すことにあります。

 

次第に再生した生物で世界が埋め尽くされていく様子は、まさにそんな目的を思い起こさせる演出として機能しています。

 

ゲーム作品における余白の物足りなさは、必ずしも作品としての評価を下げることにつながるとは限りません。

 

ゲームは、作品とプレイヤーがインタラクティブにつながることができる可能性を秘めています。

 

少なくとも『World for Two』においては、プレイヤーにその余白を埋めてもらうよう作品を通じて促すことで、初めてその世界観が補完されることになるのです。

 

デザイナーが考えたい、これからのゲームの余白のあり方

『World for Two』が追求した余白の作り方、そしてその活用方法は、ゲームデザイナーにとっては示唆に富むプロセスであると言えます。

 

ゲームの余白が届ける癒し

世界を生命の息吹で満たし、再び文明を復活させるというプレイヤーの壮大な目標は、確かにドラマティックな体験であることは間違いありません。

 

しかし、このゲームの魅力は前述の通り、余白の美しさにも捨てきれないものがあります。

 

現代ではなかなか体験することのできない、大自然が地球を覆っており、不気味なほどに静かな世界観は、しばし都会で生活する現代人に安らぎの時間を与えてくれます。

 

しかしそれでも、プレイヤーの最終目標は新たな生命を生み出し、世界を喧騒で覆うという使命にあります。

 

プレイヤーはそのために生み出されたアンドロイドであるとはいえ、果たしてこの美しい世界を、再び賑やかな空間へと満たしたしまうことは良いことなのか、という葛藤をもたらします。

 

少しずつ世界が賑やかになっていく様子は、プレイヤーに満足感を与えるとともに、どこか寂しさを与える体験になるでしょう。

 

「やることはあるけどない」という絶妙なバランス感覚

そして今作においてやることはと言えば、生命の再生をひたすらに繰り返すことだけです。

 

無心に遺伝子操作を行い、試行錯誤を加えていく行為は確かに尊い行いではあるものの、機械的に行うことには飽きを覚えさせる行為です。

 

プレイヤーはアンドロイドであり、本来は淡々とこの作業をこなしていかなければいけません。

 

ただ、必ずしも常に正しく生命の進化を促さなければならないというルールはありません。

 

時にはひたすらに遺伝子を集めながら世界を回り、散歩しているのも良いですし、同じ生き物ばかりを作って好みの世界に仕上げることもできます。

 

至上の目的に縛られることなく、そこにたどり着くまでの道程をいかに楽しく過ごすかということが、このゲームでは試されます。

 

ある種山登りに近い感覚を、スマホながらに体験することができるでしょう。

 

おわりに

『World for Two』は、滅亡後の世界が描かれる作品ですが、意外にもゲームプレイそのものはポジティブな空気に溢れています。

 

2Dながらも自然豊かな体験を、存分に楽しむことができます。

 

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ライター名:Satoru Yoshimura

 

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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『World for Two』Google Play:https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.seventhrank.worldfortwo&hl=en

 

『World for Two』開発公式HP:https://seventhrank.co.jp/

 

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