ポケモンマスターズの事例で学ぶクリエイティブのグロースハック


2019年8月、株式会社ポケモンとDeNA共同開発による「ポケモンマスターズ」が、サービスを開始しました。

既にポケモンを題材にしたスマホアプリゲームは数多リリースされていましたが、これまでの正史シリーズを彷彿とさせる設定、世界観に期待が高まっていました。

本格的なポケモンバトルが手軽にスマホで楽しめるという体験はまだ提供されていなかった為です。

 

本稿ではポケモンマスターズがこれまでのポケモンゲームとどういった差分があり、またシリーズもののゲームからどうやって新しいニーズを引き出して行くのか、という点に迫ります。

 

「ポケモンマスターズ」のゲーム概要

「ポケモンマスターズ」はiOS/Android用RPGで、2020年1月30日時点でDL数は2,000万を突破しています。
舞台は“パシオ”と呼ばれる人工島で、プレイヤーの分身となる主人公はパートナーとなるポケモン1匹とのコンビ“バディーズ”を結成し、パシオで開催される大会“ワールドポケモンマスターズ”のチャンピオンを目指すこととなります。

 

本作における一番の特徴は、バトルが従来のシリーズ作品とは異なる3VS3のリアルタイム方式となっている点です。
ポケモントレーナーが1匹のポケモンを引き連れて集うパシオでは、3VS3のチームバトルが行われています。
プレイヤーは、3組のバディーズからなる“チーム”編成してバトルを行うこととなります。
バトル中は、時間経過に応じて溜まっていくゲージを消費して使える“ポケモンのわざ”や1回のバトルパートでの使用可能回数に制限がある“トレーナーのわざ”を使用可能です。
その他、特定回数行動すると使えるようになる“バディーズわざ”も存在します。

 

また、タイプによるわざへの耐性が存在しないことも従来のシリーズ作品とは異なる点です。
本来ならば効果がないタイプの相手にも、ダメージを与えられます。
さらに、弱点もタイプごとではなくバディーズごとに設定されており、従来のシリーズ作品ではそこまで苦手ではないタイプの相手から大ダメージを受けてしまうこともあります。

 

過去のシリーズ作品に登場したキャラクターたちの掘り下げが行われているのも大きな特徴です。
本作には、歴代主人公たちはもちろんのこと、ライバル、ジムリーダー、四天王、チャンピオンの他、悪の組織のボスやポケモン博士も登場します。
そのキャラクターの行動に関する言及やキャラクター同士のシリーズを超えた掛け合いも豊富で、新しい楽しみ方を提案している点はサスティナブルにファンを楽しませるポイントといってよいでしょう。

 

ポケモンマスターズがスマートにマーケットインした外部要因

ポケモンを題材にしたスマホアプリは位置情報ゲームの金字塔となった「ポケモンGO」や、タップアクションを押し出した「ポケモンスクランブルSP」。

育成に特化した「はねろ!コイキング」やパズルゲームとして制作した「ポケとる」と、これまでのスマホゲームではポケモンシリーズ本筋である育成RPGでは無いゲームばかりでした。

 

こうしたニーズに合わせた多様なジャンルに展開ができるのも、ポケモンというブランドが持つ強みではあります。

しかし、本流が持っていた育成RPGゲームが出なかった事はファンからすると煮え湯を飲まされるような心境であったことは想像に難くありません。

 

そういった状況にあって、ポケモンマスターズはスマホゲーム初の育成RPGに極めて近い特性を持つゲームとして期待が高まっていました。

偶発的にせよ、マーケットインする際にこういった土台を構築できていることはその後の展開において競合優位性を持つということがよくわかります。

 

この期待の表れは2019年8月段階での事前登録者数が全世界で累計500万を突破した、という事実で裏付けられています。

また、2019年8月29日に配信を開始し、わずか4日間で累計1,000万ダウンロードを突破しており、これは後の「ポケモン剣・盾」136万本販売のおよそ10倍に匹敵します。

もちろん無料のアプリと有料のコンシューマーゲームなので比較対象としてはフェアではありませんが、それでも人気を窺える結果に変わりはありません。

 

第三の嗜好性・トレーナーとの触れ合いを描く

これまでのポケモンゲームでは大きく分けて「プレイヤー自身が主役」パターンと「ポケモン自身が主役」というパターンがありました。

 

前者ではドラクエの様にプレイヤー自身がゲーム内の世界で体験していく事自体に娯楽性を持っていました。

まさにロールプレイングゲームという、言葉通り役割を「楽しむ」ゲーム性です。

後者ではプレイヤーは可愛くカッコいいキャラクター自体を操作する、キャラゲー的な楽しみ方を持っています。

両者はそれぞれ嗜好性によって楽しみ方が変わるという特性があり、プレイヤー自身が自分の好みで選択しています。

 

この点において興味深いのは、必ずしも「ポケモンが好き」だからと言ってプレイヤーがみなすべてのゲームをやっていない所にあります。

確かにポケモンが持つ多様性は大きな魅力の一つですが、嗜好性に依存する為、モンスターが好きな人、育成要素が好きな人の総数で遊ぶ人数が頭打ちになってしまうというジレンマもありました。

そこにおいてポケモンマスターズが他のポケモンスマホアプリや、コンシューマーソフトと違う新しさを持っていたのが「トレーナーが主役」という新機軸でした。

 

これは前述の「プレイヤー=ゲーム内の主人公」でもなく、「ポケモンそのものになりきる」でもない、「ゲーム内に既に存在する人間キャラクターを操作する」という新しい手法です。

ポケモンマスターズの登場キャラクターはこれまでのシリーズでファン人気を確実に得ていた過去の人気キャラクターで固めています。

 

つまりポケモンが持つ育成RPG要素を踏襲しながらも、実際は人気トレーナーとの触れ合い、世界観拡張といったキャラゲーとして作る、というアプローチがなされています。

これこそがポケモンシリーズにおいて新たなマーケット開拓を担う大きな一歩に他なりません。

あるようで無かった、ポケモン世界の住人に重きを置いた商法により、「前シリーズのあのトレーナーキャラが好きだった」というニーズに合わせた新たなゲーム性を提供するに至ったのです。

 

プレイヤーへの真摯な対応

そんなポケモンマスターズに早くも暗雲が立ちこめました。

スマホアプリではつきものの不具合頻発やクリティカルなバグといったものから、コンテンツ量の少なさ、レベル設定の甘さといったゲームそのものの根幹に関わる重さの仕様にプレイヤーからクレームが続出したのです。

この声の多さや大きさはコンテンツの人気、それに伴う責任の裏返しではありますが、よりプレイヤーとの距離が近いスマホゲームだからこそ看過できない緊急事案でした。

 

これに対し、2019年10月9日に公式サイトにて運営サイドが異例の謝罪文を掲載し話題を呼びました。※1

内容は開発の進捗や感謝の意といったものに留まらず、起きた不具合事象の詳細はもちろん、どういった対策を行うのかに至るまで、実に4,000文字というボリュームの、さながら経緯報告書というべきものでした。

 

もちろんこれだけでクレーマーの溜飲が下がるほど甘くはありませんが、それでも実名で責任者がプレイヤーに向けて謝辞を述べるというコミュニケーションは希有な例でお手本となるものといえるでしょう。

ヒット作を作って終わらせるだけではなく、永続的なライフタイムバリュー創出の為の密なコミュニケーションは、タイトルに関係なく求められる姿勢であったと言えます。

 

まとめ

ポケモンマスターズでは、これまでシリーズが培ってきた本流の面白さ=育成RPGゲームというバリューを再定義し、トレーナーとの交流という既存市場で新規ニーズを生みました。

また、有事の際に包み隠さず真摯にプレイヤーと向き合い、経緯報告と改善事項の提示という一般企業でクレームが起きた際のアプローチと同じ事を行っています。

 

こうした攻守は開発/企画/運営それぞれのステークホルダーで、見習うべきノウハウが多く内包されていました。

開発や制作では0➡1のイノベーションよりも1➡10にするグロースハックを求められる事の方が多いです。

ポケモンマスターズの事例はまさに1➡10へのグロースハック方法の学びが多い事例です。

 

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【注釈】

※1 第一回プロデューサーレター

https://pokemonmasters-game.com/ja-JP/announcements/Other_M2_W2_1

 

ライター名:ビットリズム

プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

 

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