ジャッジアイズに学ぶ、シリーズものを継続させる為に必要なゲームのマーケティング
「JUDGE EYES:死神の遺言」は、2018年12月13日に発売された、リーガルサスペンスアクションゲームです。
あまり聞き慣れないジャンル名ですが、平たく言うと法廷ドラマの合間にアクション要素があるゲーム、と言ったものです。
本ゲームの開発は、龍が如くスタジオが手がけています。
その為、随所に龍が如くの世界観をにおわす描写がありますが、シリーズをやっていなくてもゲーム本編に影響は無い程度にとどめられています。
第一報となるティザーでは「キムタクが操作できる!」という触れ込みが世間を賑わせましたが、プレイしたら分かる通り、 それがただの話題性喚起に終わらない魅力になっています。
このゲームではシリーズ化したタイトルのジレンマにどう立ち向かうか、という示唆に富むチャレンジが多い為、マーケティング目線でそれをひも解きましょう。
ゲームの概要
敏腕弁護士の八神隆之はとある事件がきっかけとなり、弁護士事務所を辞め、私立探偵を開業します。
ある日事務所を構える神室町で猟奇殺人がおきますが、その裏に自分が弁護士を辞めるきっかけとなった事件の影が見え、事件解決に乗り出して行くことでストーリーが始まります。
このゲームでは龍が如くシリーズをプレイしていない初見プレイヤーと、シリーズをプレイしている既存プレイヤーそれぞれに異なる楽しみ方を提供しています。
初めてこのゲームをプレイしたプレイヤーは、まず高精細に再現された現代日本の歓楽街を自由に行動できることに驚かされます。
一方で既存プレイヤーは極道者の視点で描かれていた非日常な空間から、一般市民の視点で描かれる事で、新たな発見の数々に驚きます。
こうした棲み分けが両者を取り込むポイントになっています。
ゲームタイトルに負けない、大胆なキャスティング
ジャッジアイズは龍が如くシリーズの直接的な続編ではなく、あくまで世界観を共有する番外編の様な存在です。
その為、新規ユーザには「これまでのシリーズやってなくても大丈夫だよ」と伝えつつ、一方で既存ユーザには「新しい龍が如くだよ」と伝える必要がありました。
これまで龍が如くでは別の主人公による番外編シリーズ化はありましたが、そのケースと異なるのは、ナンバリングタイトルが一旦完結している状態ということです。
シリーズとしては一旦の完結をしている状態で、ファンに対して「龍が如くスタジオはこれからこういうゲームを作って行きます」と示す重要な立ち位置にある、という意味を持ちます。
龍が如くは、桐生一馬という10年近くの歳月をかけてソニックザヘッジホッグや、バーチャファイター等に連なる新たなSEGAの名物主人公を生みました。
しかし彼に続くキャラクターとして、シリーズの歴史を繋ぐ大役をどういったキャラクターにするか、難航したであることは想像に難くありません。
そんな重圧をはねのける為に、現実世界でキャリアも知名度も十分で、なおかつ意外性と期待値を持つスター性から、木村拓哉のキャスティングに至ったと考察できます。
インサイドゲームズによるインタビューの中で、本ゲームの総合監督である名越稔洋氏は以下の様にコメントしています。
「今までのゲームではオリジナルの主人公でしたけど、そこに誰かを立てるなら認知度が高いほどいいと思ったんです。
その人がその人らしくゲームになる。ゲーム以外のコンテンツだとやらないような芝居とか、言わないようなセリフを言う。
ゲームに存在していると、そうしたいい意味での裏切りがあるんです。そこの比較ができる対象じゃないといけなかった。
その点木村さんって、彼に対してどう思ってるとか抜きにして、声とかが100%浮かぶ人ですからね。
そういう人だからこそ、主人公に据える価値がある。」※1
ここからわかるのは、決して話題性だけではなく、緻密なマーケティング思考に基づくキャスティングであったということです。
ゲーム離れが深刻化する国内市場で顧客を新規獲得していく中で、テレビドラマを楽しんでいた視聴者層を取り込むことはゲームで本格ドラマを紡いできたシリーズにはもってこいです。
このシリーズ存続に伴う新たな試みは、結果として初週148,246本の売上という、好成績に繋がりました。
また、この結果について本ゲームのディレクター吉田幸司氏は電撃PlayStationのインタビューにて以下の様に回答しています。
「一番心配だったのが『龍が如く』ではない、ということでした。
『龍が如く』らしいのに『龍が如く』ではない、桐生一馬が主人公ではないというところに対して、かなり拒否反応を示される方も多いかなと思っていました。
これが完全新作ならばそういうことはないと思うんです。
でも自分たちは自信をもって送り出しましたし、新しい主人公・八神隆之と、リーガルサスペンスとしての物語の深さが、非常に好評をいただけているので、そこは本当によかったという感じです。」※2
こういった発言から察するに、ゲームの特性・世界観とキャスティングの親和性がマーケットに合致した事が成功要因だったようです。
ゲーム初心者のプレイ体験を尊重した育成システム
龍が如くシリーズでは、ライトユーザには簡単操作で本格アクションを楽しませ、ヘビーユーザにはキャラ育成や数多くのサブストーリーによりやり込み要素を提供していました。
ジャッジアイズではそのバランスをさらにゲーム初心者が楽しめ、かつアクションが苦手でも本編のストーリーが楽しめる様になる調整が施されています。
これまで龍が如くではキャラの育成には経験値を溜めてパラメーターを任意で上げる事で少しずつ強くなっていました。
あくまで戦闘が主目的であった為、ゲームコンセプトに合わせた必然性のある強化でした。
しかしジャッジアイズのメインは法廷ドラマであり、主人公は一般市民です。
その為、キャラの育成では戦闘におけるスキルが3段階程度しかレベルアップ出来ず、その強化条件もゆるく設定されています。
これは戦闘アクションが主体であった旧作からの大きな変更点で、ともすればシリーズそのもののアイデンティティが損なわれてしまうリスクが伴う変更でした。
しかしこの英断により、シビアな戦闘が苦手なライトユーザにもゲーム性を損なわず気軽にドラマへのめり込めるプレイスタイルを提供するに至りました。
こういった結果に至るまでに、様々な試行錯誤があったことが電撃PlayStationでの開発者インタビューで窺い知れます。
下記はプログラム全般の取りまとめ、バトル関係のまとめを担当している伊藤豊氏によるインタビュー回答です。
「新しい試みが非常に多いタイトルだったので、着地点をどこにもっていくかという部分でしょうか。
ボリュームの配分も含めて。今までの『龍が如く』シリーズですと、かなり勘がつかめているのですが、今回は上から下までたぶん誰もわかっていなかったと思います。
なので、そこを見極めるのが大変でしたね。」
「『龍が如く』シリーズのバトルは、基本的に“前作からの進化”がテーマで、ストレスに感じた部分や、こうしたほうがよかったという部分をグレードアップして、さらに新しい挑戦をするという感じでした。
今回はその考えを捨てて、『龍が如く』とは違う新しいものを目指しています。」
「ミーティングでも「『龍が如く』ならばこうだよね」という意見はなるべく言わないようにして、純粋に今回のゲームにあったシステムや手触り感を追及するようにしました。
だから開発序盤はかなり手探りの状態が続いていましたね。」※2
このインタビューからも分かる通り、過去シリーズの功績は素直に認めつつも、換骨奪胎すべくスタッフのチャレンジがあった事は想像に難くありません。
まとめ
これまでシリーズが積み上げてきた極道世界から一般市民へのダイナミックな視点切り替えと、それに伴う大幅なプレイスタイルの変更。
また、新たなゲームタイトルに負けないキャスティングに、旧来のテレビドラマ視聴者層を虜にする本格サスペンスドラマ。
ゲームとテレビドラマのエンタメとしての良い所とりをしつつ、これまでのシリーズを愛するファンに向けたオマージュの数々がちりばめられています。
こうした要素の積み重ねが本ゲームを一流エンタメたらしめ、かつシリーズに新規プレイヤーを創出し、次の10年を作って行ける決定打となったに違いありません。
ゲームをクリエイティブする過程でマーケティング結果を裏付けとして、これまで築き上げた財産をあえて戦略的に捨て、市場に最適化する事がとても重要な様です。
ゲームのマーケティングについては、以下の記事でも解説しております。
→ゲーム業界で求められるマーケティング知識とは?
→荒野行動から学ぶスマホゲームアプリで肝となるマーケティングのポイント
→DEATH STRANDINGのプロダクトローンチに感じた大作ゲームの失敗できない感とマーケティング
出典
*1
Inside「キムタクを動かせる」想像できない未来を実現した『JUDGE EYES』―名越総合監督と細川Pに訊く
https://www.inside-games.jp/article/2018/09/24/117639.html
*2
電撃Playstation『ジャッジアイズ』開発者が語る! 読めばもう一度プレイしたくなる特別インタビュー/前編【電撃PS】
https://dengekionline.com/elem/000/001/868/1868697/
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