『Death Hall』に見るデザイナーが求めるべきゲームのテンポ
私たちにとって最も馴染み深いアクションゲームといえば、2Dアクションがあります。
誰でも気軽に遊べる2Dゲームでも、その内容によって、印象やプレイングは大きく異なってくるものです。
目次
2Dアクション『Death Hall』
2Dアクションゲームの新作、『Death Hall』は昔懐かしさをかもしつつも、現代的なハイスピードアクションが楽しめる作品となっています。
親しみやすい2Dスクロール
『Death Hall』は、地獄の底に囚われた小さな子供が、死神の隙をついて脱走を企てるところから始まります。
うまく抜け出したのは良いものの、それに気づいた死神が後ろから追いかけてくる。その逃走劇を描くのがこのゲームです。
プレイヤーである子供は、後ろから追いかけてくる死神に捕まってしまうとゲームオーバー。
つまり2Dの強制スクロールでゲームは進行します。
また、プレイヤーが逃れるために挑むことになるステージは、プレイの度にその配置が変わります。
従来のクラシックな2Dゲームの場合、配置される敵キャラクターやマップ構成はいつも同じで、プレイを重ねていくにつれて、どれだけマップ構成を覚えていられるかということがスキルの良し悪しを決めるものでもありました。
しかし『Death Hall』は常にランダムでマップが生成されるので、常に高い判断力が求められることになります。
とはいえどこまでいっても2Dゲームは2Dゲームで、基本操作は移動とジャンプボタンのみです。
そのため誰でも気軽に遊ぶことができるだけでなく、このゲームにはヒットポイントの概念が採用されているので、少しミスをしても、主人公が力つきるまで遊ぶことができます。
関連記事
→アクションゲームと他ジャンルの境界はどこ? 歴史を徹底考察【ゲームジャンル研究部 第1回】
ハイテンポで進むゲーム展開
そして『Death Hall』を特徴づけるのは、何よりそのスピード感です。
基本的に主人公は死神に追いつかれてしまうと即ゲームオーバーとなるため、まず考えるべきは逃げ続けることです。
もちろん、ステージ中にはトラップや敵キャラが配置されているのですが、彼らに衝突してもゲームオーバーにはなりません。
もちろんぶつかる毎にライフが1つ削れてしまうのですが、逆を言えばライフが削れるだけで即死というわけではないので、死神に追いつかれるよりはダメージを食らいつつもどんどん前へ前へと進んだ方がゲームオーバーのリスクは小さいということです。
そしてライフは、敵を倒すことで回復することもできます。
そのためやはり、逃れることを優先して、早く駆け抜けることが得策となり、結果的に高速でステージを走るスピーディーなプレイングに落ち着きます。
テンポの早いプレイングがプレイヤーにもたらすもの
『Death Hall』のようにテンポの速いゲームは、『スーパーマリオブラザーズ』とはプレイヤーに与える印象は少し違ったものとなります。
ハイテンポの爽快感
「スーパーマリオ」のような往年の2Dアクションゲームは、確かに時間制限やスクロールが存在するものの、それはあくまでゲームのちょっとしたアクセントとして取り入れられているだけにとどまっているものがほとんどです。
基本的に普通にプレイしていればそれらを意識することはないのですが、『Death Hall』の場合は真逆で、まずはそのスクロールから逃れなければいけないというルールが存在します。
そして何かに追われているというスリルは、高速でステージを駆け抜けるためのモチベーションになり、同時にステージを突破していく際に爽快感をもたらしてくれます。
映画でもよくあるパルクールやカーチェイスのシーンですが、ああいった演出は、主人公が何かから追われているからこそ機能する表現でもあるのですが、『Death Hall』の2Dスクロールはそういったものと同じ効果をもたらしてくれているのです。
試される判断力
そして、素早いアクションには優れた判断力が求められます。
枝分かれしたルートでどの道を選ぶのが最適なのか、死神に追いつかれるリスクを負ってでも敵を確実に倒してから進むのか、それともライフが削れてしまうリスクを覚悟で強引に突破するのかなど、あらゆる判断がこの二次元の世界においてプレイヤーに求められるのです。
そしてこの判断を通じてうまく困難を突破できると、プレイヤーには多大な幸福感と爽快感を与えてくれます。
この快感もまた、常に追われ続けているからこそ生まれる、ギャンプルに勝った時に近いような感覚です。
鬼気迫る中での決断の連続は、非日常的な体験でもあります。
ゲームに現実を忘れて没頭できるのは、こういった「喜び」の仕掛けが存在するからなのです。
テンポの速いゲームを面白いものとするために
ハイテンポでゲームが展開するゲームは、確かにプレイヤーに与える爽快感が何よりの魅力となります。
ただ、何でもあらゆるものを高速で動かせば、楽しいゲームになるというわけでもないのはおさえておきたいポイントです。
ただ目まぐるしいだけではダメ
『Death Hall』は確かにハイスピードで展開されるのが特徴ですが、何もやみくもにスピード感を重視しているわけではありません。
前述のように、このゲームは大前提として「死神に追われており、捕まるとゲームオーバー」という設定があります。
つまり、プレイヤーに高速で走ることを喚起するシナリオが用意されているのです。
ハイスピードアクションと呼ばれるものは、確かに時速何百キロで機動するロボットなどを取り扱う作品もありますが、ただプレイヤーが数値上高速で動き回るだけでは、そのスピード感は伝わらなかったりするのです。
むしろ人間の目にも止まらない速さで動かれてしまうと、常人であるプレイヤーには何が何だかわからず、プレイングにおいてはストレスに感じてしまうこともあるのです。
一方『Death Hall』の場合、プレイヤーは幼い子供で、走るスピードも恐らくは一般的です。
それでもスピーディーな感覚が味わえるのは、常に駆け抜けなければならないというシナリオと、スクロールに間に合わなくなると即ゲームオーバーという設計が功を奏していると考えられます。
常に「考えさせる」ギミックの存在
また、一直線にステージを駆け抜けるだけでは、非常にゲームとしては単調です。
そこで『Death Hall』ではランダムで生成されるマップによって、常にプレイヤーに頭を使わせながら走ることを強制することで、スピーディーな動作に頭を使わせ、まるで本当に自分が何者かに追われながら走っているかのような緊張感を演出しています。
アクションゲームの臨場感は、このようにリアルタイムでプレイヤーの判断力と反射神経を試すことによって生まれているのです。
まとめ
『Death Hall』がシンプルながらも奥深さを感じさせるのは、フルスペックの家庭用ゲーム機に負けず劣らずの緊迫感と爽快感をプレイヤーに与える仕掛けがいくつも盛り込まれていることに理由があります。
どうすればプレイヤーをゲームの世界に引き込めるかという点において、スマホゲームとしては非常に参考になる一本と言えるでしょう。
併せて読みたい記事
→2Dシューティングゲームの設計に見る、国内外プレイヤーのニーズ
→『World for Two』が提示する、ゲームデザイナーに求められる「余白」の作り方
→ドラクエモンスターズスーパーライトから学ぶゲームUXから逆算する設計思想
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
ゲーム業界経験者が転職するなら
GAME CREATORSを運営しているリンクトブレインでは、ゲーム業界に特化した転職エージェントサービスを提供しています。
ゲーム業界に精通したコンサルタントが、非公開求人を含む3,400件以上の求人の中から、あなたの希望や適正にあった最適な求人をご紹介します。
あなたの転職活動を成功に導くためにサポートいたしますのでお気軽に登録してください!