『Flowery』が実現した、オープンワールドゲームにもなし得ない自由度の作り方


ゲームの難易度や遊びやすさは、必ずしもプレイヤースキルに依存するとは限りません。

 

どれだけゲームに慣れている人でも、これは遊びにくいと感じる作品や、すぐに疲れてしまうということはあります。

 

その原因を、どうやら『Flowery』というゲームから逆説的に捉えることができそうです。

 

芸術性に優れる『Flowery』の遊び方

『Flowery』はthatgamecompanyが制作したタイトルで、PS4/PS3/PS Vita版はSIEが、PC/iOS版はアンナプルナ・インタラクティブが販売を行っています。
心を癒すゲームという点が評価されており、Spike Video Game Awardsの“best independent game of 2009”やAcademy of Interactive Arts and Sciencesの“Casual Game of the Year”といった賞を受賞しています。

本作は、クリエイティブディレクター・Jenova Chenのアメリカを旅した経験にインスパイアされた作品です。
自然と都市という相反する2つのものへの愛着を表現するために都市のイメージと自然のイメージを融合しながらゲームを開発していったとのこと。
また、ユーザーが自由に感じ取れるような世界を作り上げようとした結果、最終的にポエムのようなゲームになったと同氏はコメントしています。

 

芸術性に優れる『Flowery』の遊び方

『Flowery』は花びらを操り、草原の世界でゴールを目指すアーティスティックなスマホゲームです。

 

花びらとなって幻想的な世界へ飛び立て

プレイヤーが操る花びらは、擬人化したキャラクターなど、花びらをモチーフにしたものではなく、本物の「花びら」です。

 

ゲームを開始すると、プレイヤーとなる花びらは親元である花から離れ、風に吹かれて何処かへ飛び立っていきます。

 

そこでプレイヤーがスマホを使って操作することになるのは、厳密に言えば「風」です。

 

花びらは風に吹かれて前へ前へと進んでいくため、タップ操作によって風を起こし、花びらを前進させていきます。

 

また風の吹く方向については、スマホに内蔵されたジャイロセンサーを使って、自由にコントロールすることができます。

 

草原に咲く花のつぼみを目指し、小さな冒険を繰り返すのがこのゲームの目的です。

 

総プレイ時間も1~2時間程度にとどまっているため、気軽に体験できるのもポイントです。

 

スミソニアン博物館も所蔵済み

『Flowery』はその作品の芸術性の高さから、アメリカのスミソニアン博物館が永久所蔵品として指定し、話題にもなった作品です*1。

 

プレイヤーは主人公である花びらを、風を起こすことで間接的に操作し、目的地へと送り届けるというゲームシステムのユニークさは、意義深いものがあると言えます。

 

しかしこのゲームにおいて最も注目しなければいけないのは、これまでのゲームが到達し得なかった、「自由」なプレイイングを、スマホゲームながらも実現している点にあります。

 

この実現のアプローチの芸術性こそ、このゲームが博物館に収蔵されることになった、最大のポイントであるとも考えられるでしょう。

 

『Flowery』が実現した自由度

自由度の高いゲームといえば、真っ先に仮想世界で大いに暴れられるオープンワールドゲームが挙げられます。

 

しかし、こちらの作品はそういったゲームとは別のアプローチで、プレイヤーに自由度の高いゲーム体験を届けています。

 

ゲームは一本道だが、体験のあり方は千差万別

前述のように、このゲームでは草原に咲く花のつぼみを目指し、プレイヤーは風をコントロールすることで花びらを送り届けるという遊び方になっています。

 

この説明だけを聞くと、単なる一本道のゲームのように思われますが、重要なのは、その過程にあります。

 

『Flowery』がプレイヤーに届けるのは、花びらが目的地にたどり着くまでの景色の美しさです。

 

最初は一枚だけだった花びらが二枚、三枚と増えていき、次第に花吹雪のように巨大な潮流を生み出していきます。

 

そして景色もまた移ろっていき、時間や季節の変化を感じさせるような演出に、心を奪われることになるでしょう。

 

ゲーム内でやることといえば、花のつぼみを咲かせることのみであり、これといってゲーム中に指示が大きく与えられるわけでもありません。

 

また、ゲームそのものに壮大なストーリーが隠されているわけでもなく、いってしまえば「花を咲かせるだけ」のゲームです。

 

しかしだからこそ、純粋にゲーム画面の美しさだけを楽しめる時間が確保されているといえます。

 

自由度の高さをうたうオープンワールドゲームなどは、結局のところ無数のミッションとメインストーリーを前提とし、それ以外にも数多くのイベントが用意されています。

 

いわばプレイヤーは、無数の「タスク」にがんじがらめになっているとも言えるでしょう。

ストーリーも希薄で、「やること」が無に等しい『Flowery』では、このようなしがらみを覚えることもないというわけです。

 

言語情報の徹底的な排除

さらに、今作ではゲーム画面の美しさに没頭できるよう、あらゆるUIや言語情報の排除が徹底されている点も特徴です。

 

そもそもシナリオらしいシナリオもなく、操作もいたってシンプルであるため、こういった高次の情報を伝える必要はありません。

 

ゲーム世界への没頭を促し、感受性を最大限高めた状態で、ゲームを堪能することができるというわけです。

 

次世代のゲームがもたらす「疲れ」の正体

『Flowery』の芸術性の高さは、どんな次世代のゲームよりも高い自由度とマインドフルネスを提供してくれます。

 

昨今のゲームの課題である、リッチ過ぎるゲームがもたらす疲れの正体は、まさにここに見いだすことができるかもしれません。

 

情報過多が過ぎた昨今のゲーム事情

『Flowery』のようにミニマルなゲームを遊んだ後にメジャーなゲームをプレイした時に思うのが、いかに今日のゲームは情報過多の世界観となっているかという点です。

 

ゲームを遊ぶ上で、ゲームの中に複雑なルールやストーリーが組み込まれ、常に現実と同じか、それ以上の情報量に囲まれながらプレイすることが求められます。

 

ゲームをプレイする上で、もはやプレイヤーはもう1つの現実を生き抜くような覚悟と技術が求められるようになり、「息抜きとしてのゲーム」は成立しなくなっています。

 

体を休めるためのゲームという考え方は希薄になり、ゲームは人生を費やさなければ楽しむことは難しい、高次元の遊びへシフトしてしまったと言えるでしょう。

 

何もないことがかえって強みに

このような情報過多のゲームの時代の到来は、現代の技術力を余すことなく使い、プレイヤーの関心を引くことがねらいになっていることも要因の1つです。

 

しかし、『Flowery』への注目が高まったことは、情報過多の時代における引き算の有効性が証明されたとも言える現象です。

 

今作は徹底して不要な情報と操作性の排除を行い、タップ操作とジャイロセンサーで美しいグラフィックを楽しめることができるよう作られています。

 

ややこしいボタン操作を覚えなくとも、感覚的な操作で心を打つような体験です。

 

複雑なボタン操作というのは、ゲームと現実をつなぐ上で仕方なく導入されているシステムで、可能であればまるで体を動かすように感覚的な操作を実現するのが理想です。

 

今の複雑なゲームにおいてそれを実現するのはまだ先になるかもしれません。

 

しかし『Flowery』のようなシンプルで感覚的なゲームは、こういった情報過多の時代における清涼剤として、これからも高く評価されることになるでしょう。

 

おわりに

日々進化するゲーム市場は、今や過剰に複雑で過密な作品で溢れかえるようになっています。

 

一方で『Flowery』のように空白が多く感覚的なゲームが評価されるケースもあり、必ずしも現行のトレンドが絶対正義ではないことを思い出させてくれる事例といえるでしょう。

 

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出典:

*1 ゲームキャスト:「風に舞いながら世界を見る詩的アドベンチャー『Flower(Flowery)』レビュー。言葉もなくメッセージを伝える詩的ゲーム」

http://www.gamecast-blog.com/archives/65903051.html

 

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ライター名:Satoru Yoshimura

 

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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「Flowery」公式Twitter:https://twitter.com/a_i

「Flowery」 AppStore:https://apps.apple.com/jp/app/flower/id1279174518

 

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