ホラーアクションの『CARRION』が示した、ウケる企画の作り方
ホラーゲームはいつの時代も多くの人を魅了するジャンルです。
しかし先日、従来のホラーとは異なるアプローチにチャレンジした、注目の作品が登場しました。
目次
リバース・ホラーとして注目を集める『CARRION』
『CARRION』と題されたこの作品では、プレイヤーは恐怖を受けるのではなく、恐怖を生み出す側の怪物として、人間に反旗を翻すストーリーが展開されます。
主人公は「怪物」の方
ホラーゲームでおなじみの展開といえば、人間の主人公が突如怪物に襲われ、果敢に立ち向かうか、ひたすらに逃げるかといったことを強いられるストーリーです。
今日では様々なバリエーションのモンスターホラーが登場し、その多彩なキャラクターには熱心なファンも現れているほどで、一大ジャンルを築き上げています。
しかし、『CARRION』においては同じモンスターホラーものとはいえ、少し事情が異なります。
今作における主人公は人間ではなく、むしろモンスターの方となっており、正体不明の生命体が次々と人を襲う様子が描かれます。
ゲームシステムは2Dのアクションで、主人公の怪物は少しづつ体のサイズを大きくし、新たなアビリティも獲得しながら、現れる人間の全てを体内に吸収することが目的です。
映画でおなじみのアクションを再現
リバース・ホラーという新しいジャンルを提唱する新感覚の今作ですが、実際のゲームプレイにおいて展開される様子は、どこかで見たようなシーンばかりです。
まるで銃弾が効かない、無類の強さを発揮する様子や、配水管を通って神出鬼没に現れては人を襲う姿は、B級映画ではよく見かける光景です。
恐怖を演出するための仕掛けとしてはおなじみで、ああいったシーンを楽しみにパニック映画などを楽しむファンも多いもの。
今作はそんな映画ではおなじみの名シーンを、自らモンスターとなって再現することができるという、ファン垂涎の作品に仕上がっているのです。
ゲームそのものの面白さもさることながら、そんな映画ファンにはたまらないアクションを楽しめるというエンターテイメントも、このゲームの魅力の1つです。
『CARRION』がもたらした逆転の企画
『CARRION』は従来のホラーとは逆のシナリオを用いた企画となっていますが、この逆転の発想は、なぜ生まれたのでしょうか。
飽和した怪物退治アクション
得体の知れない怪物が人間の前に立ちふさがり、それを退治したりあるいは逃走するといった作品は、これまで数多く世の中に公開されてきました。
どれも特徴的な作品ばかりが並んでいますが、ここまでメジャーなジャンルとなってしまうと少し飽きが来てしまうことは否めません。
どれだけモンスター作品に多様性の余地が残されているとしても、パターンは限られてきてしまうものです。
得体の知れないモンスターが現れるも、結局は主人公が打ち倒すというシナリオが定型化しているので、モンスターの得体の知れない恐怖も、薄らぎつつあります。
そこで登場したのが『CARRION』です。
今作は主人公が人間からモンスターへと立場が逆転し、人間を襲い尽くすことに焦点を当てたゲームです。
いかに残酷に、そして手際よく人間を襲うことができるかというパズルゲームらしさは、モンスターパニックに新しい遊び方を提案しています。
モンスターと人間の戦いは、この手の作品においては欠かせない対立軸ですが、プレイヤーがどちらの軸に関わるかによって、ゲームの楽しみ方は瞬く間に変わりました。
お決まりのシーンを異なる視点から実現
このゲームの魅力は、単に遊び方がいつものホラーゲームとは異なるというだけではありません。
襲われる人間の側も、ご存知の通り知性ある生命体であるため、タダでやられるようなことはありません。
次第にターゲットである人間も重武装し、一筋縄では襲わせてくれないようになってくるものです。
そこで、知恵あるプレイヤーの出番です。
どうすれば最小限のダメージで、人間を襲うことができるかということを考え、知的にプレイを楽しむことができます。
おきまりの排水管から現れるシーンも、モンスターからすれば知恵を使った安全な捕食行為です。
頭を使ってうまく人間を襲うことができれば、おなじみのシーンもいつもとは違う感動を持って体験することができるのではないでしょうか。
人とモンスターでプレイアブルキャラクターが変わるだけで、こんなにも体験に違いが生まれてくるのは、少しばかりの感動を覚えるほどです。
なぜ『CARRION』は話題沸騰の企画となったのか
『CARRION』が大いに注目されたのは、単にひねくれた発想をしたからというだけでは説明できない背景があるとも考えられます。
誰もが密かに憧れたアイデア
そもそもモンスターをプレイヤーにして、人間を襲わせようというアイデアはおそらくこれまでも多くの人が考えついたアイデアであることであったことは間違いありません。
今作のような異形の生命体とまではいかないまでも、人喰いサメやゾンビを主人公とするゲームもあるので、人を襲うというアイデアそのものは目新しいものではありません。
この作品が優れているのは、モンスターパニックを大味な3Dゲームとして遊ばせるのではなく、2Dのパズルアクションのような形で実現した点にあります。
単に人知を超えたモンスターが人間を襲うだけでは、遊んでいるうちに飽きが来てしまい、長くは遊べない作品となります。
しかし2Dを採用し、プレイヤーとなるモンスターの挙動にある程度の制限をかけるだけではなく、人間を攻撃的に設定しています。
それによって、ステージが進むと簡単に人間を倒すことは難しくなり、知恵を絞らなければ人間を吸収することができなくなっているのです。
そしてプレイヤーが知恵を絞り、うまく人間を襲うことを成功させる過程に、本物のモンスターらしい挙動が生まれます。
モンスターも生きるために人間を襲っているという生物的な本能を、プレイヤースキルによって再現することができます。
モンスターの迫力ある捕食シーンは、優れたプレイヤースキルによって再現されることで、現実味のある恐怖体験へとつながるのです。
なんでもありで高いポテンシャルを持つ怪物の「主人公らしさ」
そして、そもそも巨大で異形でなんでもできるというモンスターの高いアビリティは、昔ながらのスーパーマンらしい主人公特性であるとも言えます。
高い能力で弱者を蹂躙していくという絵だけを見れば、スーパーマリオの時代から見られる光景です。
むしろ映画などでよくある人間が数と運の力であえなく怪物がやられてしまう光景は、そういった特性を考えると、なんとも不完全燃焼に終わってしまいそうなものです。
しかし『CARRION』においては、怪物の生まれ持ったポテンシャルを存分に生かし、弱肉強食の世界を生き抜くことができます。
従来の作品における超人的なモンスターは、人間が苦労して仕留めるための飾りにすぎませんでした。
しかし今作におけるモンスターの能力は、まさにそのスペックを存分に生かし、真に勝者となるべく立ち振る舞うことが実現するのです。
おわりに
怪物モノの作品は、長年にわたって私たちを楽しませてくれたジャンルです。
しかし『CARRION』は、そんなモンスターパニックを異なる視点から取り上げた作品です。
やられ役として定着していた怪物たちをプレイヤーの手で蘇らせ、彼らの恐ろしさを再評価させてくれる機会にもなっています。
怪物たちの気持ちになって考える、とまではいかないものの、この作品を通じて、ホラー作品がもたらす恐怖を再び再確認させてくれることは間違い無いでしょう。
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『CARRION』steamストア:https://store.steampowered.com/app/953490/CARRION/?l=japanese
『CARRION』開発者Twitter:https://twitter.com/kroskiewicz
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