飽和するアポカリプス系ゲームを面白くするための企画の考え方


ビデオゲームにおける人気ジャンルといえば、人類滅亡を描くアポカリプスものの作品です。

 

しかしあまりの人気で、このジャンルでも飽和状態が生まれつつありますが、『A Monster’s Expedition』はうまく既存の枠組みを回避した作品に仕上がっています。

 

人類滅亡後の世界を描く『A Monster’s Expedition』

人類滅亡後の世界といえば、誰もが恐ろしい世界観を想像してしまうものですが、今作における滅亡後の世界の様子は、そんなイメージとは少し異なります。

 

滅亡後とは思えないファンシーな世界

今作の物語の舞台となるのは、人類が消えて長い時間が経ったのち、人型のモンスターがはびこる世界です。

 

人類が滅んだ後も、生命力溢れる地球では新たな文明が築かれる余地は十分にあるものです。

 

もしかすると私たちが考えているよりももう少し牧歌的で、想像とは違ったものになるかもしれない。

 

そんな世界観をパズルゲームで描いて見せたのが、『A Monster’s Expedition』です。

 

今までの滅亡のイメージを大きく払拭し、実は人類よりも豊かに、余裕を持って生きる生物が暮らすかもしれないという物語が、ファンシーに展開されます。

 

秀逸なパズルゲームも見所の一つ

今作は人類滅亡後の世界をファンシーに、そしてささやかな皮肉をもって表現する作品ですが、雰囲気だけでなく、ゲームそのものも優れたシステムを有します。

 

プレイヤーが操作するのは、遠い未来の地球を生きる黒い人型のモンスターです。

 

人間のような生態系やライフスタイルを有していると見られますが、彼らはもはや人間そのものについての知識はなく、残された遺物を眺めながらその生活を推察します。

 

今作では人類の遺物をめぐるツアーに繰り出すことができ、各島々をめぐる中で、丸太を上手く操りながら新たなオブジェクトのもとへ進みます。

 

プレイヤーはこの丸太を落とす作業をパズルゲームとして楽しめるのですが、ただ丸太を上手に扱うだけとはいえ、豊かな仕掛けを楽しむことができます。

 

島に自生する木はプレイヤーが自ら動かすことができ、1マス動かすと丸太へと自動的に加工されます。

 

倒された丸太は、縦向きに動かすと1マスずつ、横向きに動かすと障害物にぶつかるか、水に落ちるまで転がり続けるという仕掛けです。

 

丸太の切り倒す向き、そして転がす向きを上手くコントロールしながら、上手に次の島へと向かう橋をかけるのが、主なゲームシステムです。

 

橋の掛け方にはバリエーションがあり、どんな掛け方を選ぶかによって、進めるルートも変わります。

 

どうしてもわからない場所は別の島をクリアしてから後で帰ってくる、という遊び方もできるため、パズルゲームが苦手でも楽しく進められるのは嬉しいポイントです。

 

アポカリプス作品はなぜ多く作られるのか

そもそも、ビデオゲームの主題にアポカリプス世界が多く採用されるのは、どういった理由があるのでしょうか。

 

想像力を活かすことができる

アポカリプスゲームの魅力の一つに、クリエイターの想像力が大きく発揮できる場であるということが挙げられます。

 

『A Monster’s Expedition』もそうなのですが、そもそも人類が滅亡した後、この世界がどのように変化するのかということは想像もつきません。

 

そのため、地球を舞台にした物語でありながら、アポカリプス作品は好きなように世界をアレンジすることができます。

 

人類滅亡後ではなくとも、未曾有の感染症で世界が壊滅的な打撃を受けたり、核戦争の結果、弱肉強食の世界へと変貌したりなど、バリエーションは豊富です。

 

今作では、なぜ人類が消滅したのかということについて多く語られることはありませんが、その遺物から確かに私たちの文明の後の世界であることが推測できます。

 

今ある世界が滅んだ後、どのように世の中が変化していくのかという予想を、このジャンルにおいては自由に描くことができます。

 

世界観を構築しやすい

アポカリプスものの作品は、世界をゼロから構築する必要がないというのもクリエイターにとってはありがたい世界観です。

 

人類滅亡ジャンルでは、既存の人類の文化を考慮しながら世界観を構築できるため、創造力をフルに発揮する必要ありません。

 

既存の都市が破壊されればどうなるのか、1万年後にはどんな異物が残されるのかを考えるだけで魅力的な世界を構築することができます。

 

ファンタジー作品のように、架空の文化に説得力を持たせる手間が掛からないので、たとえフィクションとはいえ迫力のある物語を描くことが可能です。

 

『AA Monster’s Expedition』においては、人類の遺物が博物館のディスプレイといった形式で展示されているのが特徴的です。

 

私たちにとっては現代的な建物などが、今作では古代人の遺物として紹介され、実際の使われ方とは近からず遠からずな説明が付与されています。

 

人間であれば誰もが見たことのあるものが、奇妙な文脈で紹介されていることに、ある種のおかしさと、遠い未来の話であるというリアリティが詰め込まれているのです。

 

アポカリプスを面白くする企画を考えるコツ

アポカリプスの世界観を代わり映えのないものとしないためにも、新しい企画のアプローチをしっかりと把握しておく必要もあるでしょう。

 

前向きなアイデアを検討してみる

アポカリプスジャンルを盛り上げるためのアイデアとして、人類滅亡後の世界が前向きなものになる可能性を考えてみるアプローチがあります。

 

『A Monster’s Expedition』はまさにその代表例で、人類滅亡後は現在の世界よりも平和的で、充実した世界が広がっている可能性に触れた作品です。

 

遠い昔は苦労してみんな生きていたんだということを、遠回りな皮肉で紹介しており、実は今よりも良い世界が広がるかもしれないと、ゲームを通じて推察しています。

 

人類が滅ぶと聞くと、私たちこそが人類であるだけに、その未来を悲観的に捉えてしまいがちです。

 

しかし、私たちよりも高度な生命体がその後に誕生し、より幸福な世界を構築する可能性も十分にあるものです。

 

あるいは私たちよりも知能の面では劣っていても、理性的で平和な社会を築き上げる可能性もあるでしょう。

 

人類が滅ぶことによる前向きな影響を、アポカリプス作品を通じて検討してみましょう。

 

人類社会を客観的に捉えてみる

あるいは、今の文明を客観的に捉えるための装置として、アポカリプスというジャンルを考えてみるのも良いでしょう。

 

『A Monster’s Expedition』では、人類の建造物やアイテムに向けて様々な推察が寄せられています。

 

しかしこれは、メタな視点で見ればこれはクリエイターが想像力によって、あるいは皮肉に人間の文化や建造物を語ったものです。

 

柔軟に世の中を見つめ直すことで、この世界の新しい視点が見え、アポカリプス作品を盛り上げるツールとして機能してくれるかもしれません。

 

おわりに

アポカリプス作品はすでに出尽くしたとも言えるほどポピュラーなジャンルですが、まだまだ限界を迎えているとは言い難いでしょう。

 

クリエイターの創造力次第で、人類滅亡後の世界はいくらでも暗く、あるいは明るく仕上げられる余地が残されているためです。

 

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ライター名:Satoru Yoshimura

 

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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『A Monster’s Expedition』Apple Arcade:https://apps.apple.com/us/app/a-monsters-expedition/id1449606823

 

『A Monster’s Expedition』開発公式Twitter:https://twitter.com/draknek

 

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