
謎解きとコメディを合わせたゲーム『There Is No Game』の巧みな設計
スマホを長い間扱っていると、たびたび触れることになるのがジョークアプリです。
何の意味もないアプリをダウンロードさせられたときの無力感は気持ちの良いものではありませんが、意図的にジョークをゲーム化している作品も存在します。
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『There Is No Game: Wrong Dimension』の遊び方
「There Is No Game」と題する今作ですが、その名前とは裏腹に、実に多くの仕掛けを持って、プレイヤーを楽しませてくれる名作です。
「ここにゲームはない」と訴えてくるゲームと戯れる
アプリをインストールし、ゲームを始めてみれば、いきなり現れるのが「There Is No Game」という文言。
ゲームをダウンロードしたはずが、「ここにゲームはありません」という衝撃的な一文からスタートします。
ゲームがないとはいえ、ひとまず画面をタップしてみると、少しずつ変化が訪れる様子が現れます。
画面上の文字は「ここにゲームはない」から「これはゲームです」へと変化し、少しずつシンプルなゲームが実装されていくという仕組みです。
一見すると悪ふざけのアプリのようにも思えますが、実はプレイヤーがゲームを遊ぶため、ストーリー仕立てのパズルゲームが遊べるように設計されているのです。
いつの間にか始まる謎解き
最初は簡単なタップで課題をクリアしていく展開が進みますが、次第にゲーム内で繰り広げられる展開は壮大な物語へと発展していきます。
プレイヤーと「ゲーム」の間にはパズルを通じた会話が生まれ、様々なパズルゲームを展開し、プレイヤーを悩ませようと試行錯誤させるというものです。
ゲームとして遊ばれることを拒否していた『There Is No Game』ですが、いつの間にかプレイヤーを悩ませようという取り組みそのものがゲーム化してしまっているという、皮肉の聞いた物語性も見所の一つです。
ジョークアプリと思いきや、本格派の作品
ジョークアプリの特徴は、最初のオチに全てをかけている中身のなさにあります。
しかし今作は、ジョークアプリを目の敵にするかの如く、多くの要素が詰め込まれた一本です。
作り込まれたギミックとパズル
タイトルこそふざけた名前の今作ですが、実際に遊んでみると非常にバリエーション豊かなパズルが用意されていることに気がつきます。
このゲームはプレイヤーを困らせようと、ゲームそのものが様々な仕掛けを用意するのですが、最初はジャンケンゲームから始まり、次第に脱出ゲームやRPGのような展開にまで発展するなど、実装している要素は多岐に渡ります。
一般的なゲームソフトというのは、一つのシステムのクオリティを高め、一つの遊びを提供することに終始するものです。
しかし今作では小さな遊びの体験をバリエーション豊かに提供することで、プレイヤーに飽きさせない工夫を施しています。
いわばミニゲーム集のような感覚で遊べるのですが、それぞれのゲームがシナリオに合わせて数珠つなぎに展開される点はユニークです。
一つのゲームに固執することなく、満遍なくゲームを遊んでもらえるため、一つのコースメニューを堪能する感覚を提供できる仕組みです。
ついつい触ってしまう好奇心を刺激する
『There Is No Game』が優れているのは、ついつい遊びたくなってしまうような設計を作り出している点にあります。
冒頭の「There Is No Game」という文言を組み換えさせるという仕掛けもそうですが、「一見何もないが、とりあえず触ってみよう」と自発性を刺激する設計は、バリエーション豊かな今作には最適です。
多くのゲームでは、はじめに丁寧なマニュアルを用意し、少しずつ慣れ親しむことを前提とした作りになっています。
これは一つのゲームシステムに特化した作品であれば有効な設計で、しっかりとゲームの奥深さを味わえる仕掛けの一つです。
しかし今作においては、休む暇もなく次々と新しいゲームが登場する、やや忙しい設計になっています。
これではマニュアルを用意してもそのノウハウが次のゲームに生かされないため、まずはゲームを遊んでもらうという設計が重要になります。
『There Is No Game』では一見するとぶっきらぼうな展開のように見えますが、プレイングを通じて「とにかく触ってみろ」と言わんばかりに、遊び要素を詰め込むアプローチを採用しています。
ゲーム本来のインタラクティブな体験を、今作ではスマホ向けに届けるべく仕上がっている、クオリティの高いゲームと言えます。
初プレイでも楽しくゲームを遊んでもらう設計の作り方とは
どれだけの話題作でも、そのゲームにそれなりの興味がなければゲームが楽しくなる前に辞めてしまったりするものです。
これを回避するための知恵も、この作品から得られるのではないでしょうか。
プレイヤーに何としても楽しんでもらう姿勢の徹底
『There Is No Game』は一見するとひねくれた作品で、ゲームなんて遊ぶんじゃないと言わんばかりの拒絶的な態度が印象的です。
しかし、根気よくゲームを遊ぼうとプレイヤーがアクションを続けることで、いつしか多様なゲーム体験を届けてくれる、優れたアプリへと生まれ変わっていきます。
スマホアプリ市場は非常に競争が激しく、ゲームアプリにおいても日々無数の作品が生まれるため、プレイヤーも一つの作品ばかりを遊んでられるものではありません。
そのため、スマホゲームは一本の作品を遊び続ける文化が生まれにくいのですが、今作ではゲームプレイを通じて、一本の作品を遊び続けることの面白さを暗喩的に表現しているような描写がうかがえます。
こういったメッセージを直接ぶつけるのではなく、簡単なゲームから遊ばせて、少しずつ難解なプレイングを求めるようなグラデーションの効いた設計になっている点も、実は意外と遊びやすいという印象を強める効果として働いています。
ゲームの主張をダイレクトに感じられる設計
また、最初は拒絶的な態度を取っていたゲームが、最終的にはプレイヤーと豊かなコミュニケーションを取るようになるという物語性も、人間味の溢れる展開と言えます。
ゲームというのは無機質で、大量に生産されているものと思われるものです。
しかし実はそこに無限の可能性が秘められており、プレイヤーのアクション次第でそれを引き出せることを、今作を通じて訴えているような感覚を覚えます。
ゲームが作品を提供するのではなく、ゲームそのものがプレイヤーとコミュニケーションを取ることで、「これがゲームだ」という主張をぶつけてくる感覚は、非常に印象的な体験となるはずです。
ゲームそのものの難しさは大したことがないからこそ、広く主張が届きやすい設計になっているとも考えられるでしょう。
おわりに
面白いゲームの設計というのは、ゲームの難しさだけで測れないのが厄介なところです。
時には『There Is No Game』のように、ユニークなアプローチでゲーム作りを敢行し、印象的な体験を届けることに注力した方が良い結果をもたらすこともあるのではないでしょうか。
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『There Is No Game』開発Twitter:https://twitter.com/kamizoto
『There Is No Game』App Store:https://apps.apple.com/jp/app/there-is-no-game-wd/id1539133066
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