『Empty.』に見る、心地よい時間を届けるゲームの作り方


高い技術力を生かしてゲームを制作できる現代において、濃密な作品は当たり前になっています。

ただ、必ずしも全てのゲームが高い密度である必要はなく、それとは真逆のニーズがゲームにはあることも事実です。

 

アンビエントパズルゲーム『Empty.』の概要

パズルゲームの『Empty.』は昨今の濃密なゲームとは対照的な作品で、やるべきことやそこで表現される描写は非常に限定的です。

 

視点を操作して謎を解け

今作の基本的な遊び方は、いわゆる視点操作によって正解を導き出すというものです。

ゲームを開始すると、スクリーンにはある部屋が映し出されます。

プレイヤーはその部屋の様子を好きな様に回転させたり、上下に反転させたり操作することができ、部屋の中に隠された答えを導き出します。

 

ゲームクリアの方法は、部屋の中にあるインテリアや道具を全て消し去るというものです。

部屋の中には様々なオブジェクトが配置されていますが、部屋を回転させることで風景の色と同化し、いつの間にかオブジェクトは消滅します。

 

部屋の角度によって、背景色は様々な色が用意されています。

部屋を回転させて同色のオブジェクトと重ね合わせることで、部屋の中からものがなくなっていき、最後には何も残らなくなるという仕組みです。

 

スクリーンからオブジェクトがなくなった段階でゲームはクリアとなり、次のステージへ進みます。

 

基本的にはこの色を揃えて消すゲームを繰り返すという作品なので、シンプルな操作で誰でも気軽に楽しむことができます。

 

短い問題が次々と登場

視点移動によるパズルは、初めてこのルールを知ったという人や、あまり3Dゲームに慣れていないという人は少々戸惑う仕組みと言えるかもしれません。

 

ただ、慣れてしまえばゲームの要領は同じなので、次第にサクサクとゲームをクリアしていくことができます。

 

適当に視点を動かしていたら、いつの間にかゲームクリアに到達していた、なんてこともあるでしょう。

 

1ステージあたりのプレイ時間は短く、慣れた人であれば数分で攻略してしまう人もいるでしょう。

総ステージ数についても19ステージとそう多くはなく、数時間もあれば解き終えてしまうボリュームです。

 

じっくりと謎と向き合うよりも、ちょっとした頭の体操感覚でパズルゲームを楽しめるのが、今作のコンセプトと言えます。

 

なぜ『Empty.』が注目を集めるのか

このように、『Empty.』ではできることが限られているだけでなく、そのボリュームについてもスマホゲームらしいものにとどまっています。

 

昨今は非常にボリューミーでシネマティックなゲームが好まれますが、それでもこのゲームが注目されるのには、どのような理由があるのでしょうか。

 

暖かな色合いを基調とした視覚芸術

今作はそのシンプルな遊び心地からも分かるように、基調としているのは映画の様なスペクタクルではなく、隙間時間における癒しの提供です。

 

視点操作パズルでありがちなのは、影絵遊びの様なモノクロのプレイ画面です。

白色をバックに影を操作し、正解の形を作り出すというものですが、『Empty.』ではカラフルなだけでなく、ノスタルジックな気持ちを想起させる暖かな色合いを基調としています。

 

また、音楽は気持ちを和らげてくれるようなアンビエント音楽が流れ、視覚・聴覚の両方を安らかな気持ちにさせてくれる設計です。

 

短時間でのゲームクリアを目指して素早く遊ぶのも良いのですが、それだけでなく時にはゆっくりその世界観に浸ることで、リラックスできるのがこのゲームの面白いところです。

 

「何もない」時間を作りだせる貴重な作品

パズルゲームによくみられるのが、居心地の悪い状況を解決に向かわせる世界観です。

 

例えば脱出ゲームは重苦しい密室空間に放り込まれ、知恵を駆使してなんとかその場から脱出することが求められます。

スタート時というのは決して居心地の良いものではなく、むしろプレイヤーにストレスを与える空間であることが一般的です。

 

ジグソーパズルのようなゲームを見ても、スタート地点には不快感があります。

大量に山積みにされたパズルピースと、何も描かれていない枠組みが用意されていることで、プレイヤーへ”うまく組み合わせて正解を導きだせ”という何気ないプレッシャーを与えます。

 

しかし、『Empty.』はこれらのパズルゲームとは異なります。

スタート地点はすでに完成された一つの世界が用意されており、必ずしもそれをクリアしなくても良い、と言わんばかりに落ち着きが得られる空間となっています。

 

つまり、ストレスフリーで何時間でもいられる空間を、パズルゲームでありながら提供しているというわけです。

 

「パズルを解け」というプレッシャーが与えられない中、ほどほどの難易度でパズルを楽しめるこの作品は、現実世界で多くのプレッシャーやストレスを受ける現代人にとって、大きなマインドフルネスを与えてくれているのです。

 

クリアしてもいいが、クリアしなくてもいい。

そんな優柔不断が許される空間を、手軽に体験できるのが、『Empty.』の真の魅力と言えるでしょう。

 

「何もない時間」を届けるゲームの作り方

ゲームを遊ぶという行為に臨みながら、「何もない時間」を求めるというのは一見相反するニーズかもしれません。

 

しかし忙しい現代人にとって、瞑想体験のような「無の時間」は一種の贅沢ともいえ、同じような需要が『Empty.』には存在します。

 

複雑ではないゲームシステムの用意

今作が提供するような無の時間を、意図的に創出するために重要なのが、シンプルなゲームシステムです。

 

『Empty.』は視点移動のための指の操作だけでゲームが成立するよう設計されているため、スマホに慣れているプレイヤーであれば一切の負担を与えません。

 

複雑な操作や、綿密なシナリオへの理解を求めるゲームというのは、時としてプレイヤーに大きな負荷を与えます。

 

何もない時間を上手に届けるためには、まずゲームそのものが複雑であることを避ける必要があるのです。

 

心地よい仕掛けの提供

シンプルな遊び心地とともに、提案しなければいけないのがプレイヤーを心地よくさせる体験です。

 

『Empty.』では色彩や音楽、そして簡単な操作で遊べるという3つの要素を抑え、多くの人に「癒し」の時間を与えてきました。

 

「何もない時間」とは一言で言っても、音楽も、グラフィックも存在しないゲームを提供するというのは少し事情が異なります。

 

ゲームはコンテンツである以上、何らかの意図を持ってプレイヤーに体験を提供する必要があり、その体験が穏やかな気持ちにさせるものである必要があります。

 

無音や無味乾燥なゲーム体験は、リラックスよりもむしろ、何もないことによる不安をプレイヤーに与えてしまいます。

 

「何もなさ」と「過剰なボリューム」の境目をうまく探れてこそ、有意義な「無の時間」をプレイヤーに届けることができるのです。

 

おわりに

ビデオゲームは趣味の時間のリラックスのために遊んでいるという人が一般的ですが、全てのゲームがプレイヤーをリラックスさせるための仕組みを有しているわけではありません。

 

束の間の時間で癒されるためには、ゲームがプレイヤーを楽しませるのではなく、癒すための設計を持つ必要があります。

 

うまく心地よい時間をゲームプレイによって届けることができれば、自然とゲームのプレイ時間も伸びてくるものなのです。

 

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ライター名:Satoru Yoshimura

 

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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『Empty』App Store:https://apps.apple.com/us/app/empty/id1191062782

 

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