ディー・エヌ・エー【DeNA】ゲーム事業のデザイン部が目指す『事業に資するデザイン組織』の組織戦略に迫る!
ゲームのクオリティを担保する多くのクリエイターが所属している、ディー・エヌ・エーゲーム事業のデザイン部。
今回は『事業に資するクリエイティブ集団』を目指し、デザイン部の組織戦略を担うデザイン部の部長・宇佐美優氏(写真左)と、副部長の楠薫太郎氏(写真右)にお話を伺いました。
ゲームのデザイン領域すべてを担うデザイン部
――まずはデザイン部がどんな部署なのか教えて下さい。
宇佐美
弊社のゲーム事業の開発体制は、大きくデザインと企画とエンジニアという3つに分かれています。
そのうちインターフェイスに関わるデザイン領域のすべてを担当するのがデザイン部です。
新規、運用問わず、ゲームに関わるデザイナーやアーティストを始めとするクリエイターと呼ばれる職種の人々はすべてデザイン部が抱えています。
――デザイン部の規模はどれくらいでしょうか?
楠
いまは190名ぐらいが所属していますね。
2D、3Dやフロント周りをはじめディレクター系の人材も含めて全部で200名弱のメンバーが在籍しています。
――男女比はどのくらいでしょうか?
宇佐美
男女比はあまり気にしていないので…、感覚的には……半々くらい?
楠
大体半々くらいですね。
傾向としては2Dアート、イラスト系の担当は女性が多いと思います。
3Dやモーションは男性……というかおじさんが多いような気がしますね(笑)
宇佐美
2015年から新卒を採用し始めたんですが、新卒の8割は女性ですね。
15~16人中、男性3~4人とかそんな割合です。
職種で見ると3Dが2Dより多いですね。
――3Dはエンジニア系に近いと思われがちですが、女性も増えているんですね。
宇佐美
3Dに限らずともエンジニアリングというかデザインアセットがどのような構造で実装されているか理解した上で、作業を行う必要があると思いますね。
楠
エンジニアリング的な観点での構造理解ももちろんですが、ゲームというサービスに根幹から深く関わりながらクリエイティビティを発揮することが重要だと考えています。
――次にお二人の職歴を教えて下さい。
宇佐美
僕が大学に行っていた時は今後WEBのブームが来るな、というのが見えていた時代でした。
それで4年の頃にゼミにも入らず、デザインのスクールに1年通って、WEBデザインやUIデザインの基礎スキルを身につけました。
就職活動はまったくせずに、最初はアルバイトみたいな感じで制作会社に入って、そこの旅行広告ページ制作や自社HPの運用を担当していました。
2社目に入ったWEB制作会社で、コナミさんやポケモンさんなど、エンタメ系の会員ページや運用ページを作っていました。
あとは楽天に出向して、楽天市場のバナーを作ったり、キャンペーンページをデザインしたりしていたというのが初期のキャリアです。
UIデザインをトータル4~5年やったうえでWEBディレクターという、先方と打ち合わせしてディレクションするような役割に変わって、それを3年くらい担当していましたね。
ちょうどその頃、『怪盗ロワイヤル』やワンピース、ガンダムなどのブラウザゲーム、カードゲームが一気に流行りだしたタイミングで、この業界が面白そうだなと思い、市場としても毎月、数億、数十億の売り上げが立つくらいのビジネス的に魅力的なものだったので、それまでゲームを作ったこともないのにDeNAに入社しました。
――入社してからはいかがでしょう。
宇佐美
最初はブラウザゲームの新規タイトルに、ディレクター的な立場で入りました。
CPM(クリエイティブプロダクトマネージャー)と言って、クリエイターたちのタスク管理やスケジュール管理をする仕事です。
そこからブラウザゲームの運用開発と新規ゲームの立ち上げをいくつか担当した後に、アプリゲームの立ち上げから運用を一貫して行いました。
ちょうどそのタイミングで任天堂さんとの協業が始まったので、その流れで任天堂さんとのプロジェクトに参画して去年の春くらいまで現場で仕事をしていました。
その後、2018年の6月からデザイン部の部長になって現在に至る、という流れです。
――次は楠さんお願いします。
楠
僕も宇佐美と似ていて四年制の大学在学中にキャリアをスタートさせました。
ただ、僕の場合はスクールなどに通うお金がなかったので(笑)「未経験OK!パソコン初心者歓迎!」みたいな感じの制作会社にアルバイトとして雇ってもらうところからでしたね。
そこでIllustratorやPhotoshopなどの基本的なグラフィックツールの使い方を覚えながら、紙媒体の仕事をやっていました。
その後は、まさにジョブホッパー的な感じで転職を繰り返しながらweb、音楽、アパレル、ベンチャー企業など様々な環境で色々な案件に携わりました。
――DeNAに入るきっかけは?
楠
DeNAに入社する直前はフリーランスだったのですが、会社員をやってみたかったんです。
美大や専門ではない大学を卒業していると、周りの同級生が、商社や銀行、メーカーなどに就職していて、飲み会で会ったときなどにスーツ姿を見て妙な劣等感というか、同級生がすごくまともでしっかりしているように見えたんですよね。
彼らからは僕の働き方がうらやましいと言われていたんですが、なぜか当時の僕の感情として、ちゃんと働くという経験をしないと、大人としてダメなんじゃないか。
大人になるためにはそこを通過しなくちゃいけないんじゃないかと思っていました。
それで当時仲良くさせてもらっていた採用エージェント系の会社に勤めていた先輩に相談したら、「じゃあ就職しなよ」って話になって、宇佐美と同じ2012年にDeNAに入社しました。
当時はソーシャルゲームバブル全盛期で、DeNAも積極的に人材を採用していたのでスルっと入社できた感じですね(笑)
入社してからは、宇佐美と同じく、ブラウザゲームの運用 / 新規開発からアプリゲームの立ち上げ〜運用まで一通り経験したという感じですね。
――キャリアの中で特に思い出深い仕事や、いまの仕事に役立っている仕事はどれでしょうか。
楠
当時は客観的に自らを振り返る余裕なんてありませんでしたが、いま振り返ってみると何の素養もスキルもない状態からどんどんできることが増えていっていた20〜23歳くらいの時代が最も濃厚で、その時期にデザインスキルだけではなく仕事そのもののイロハをたくさん叩き込んで頂いたのは、やはり印象深いですし、いまでも仕事をする上で役立っていることはたくさんあると思います。
――楠さんはゲームの運営を専門に行うDeNA Games Tokyoの取締役でもあります。
楠
そうですね。
DeNAのような事業会社でクリエイターキャリアからの経営参画は割と珍しいのかなと。
最初の頃は経営会議や取締役会の場で知らない単語や議論が飛び交っていてついていくのに苦労しました(笑)
もうひとつ苦労したのは、現場との距離感です。
執行と経営は当然ながら別れているので経営サイドの私は現場やプロダクトとは直接関わらない。
にもかかわらず、会社として自社のサービスやプロダクトのクオリティを事業として担保するために様々な意思決定をしなければならない。
だから現場からの情報の吸い上げ方、下ろし方、プロジェクトやサービスとの距離感というのは、今でも難しさを感じますし、気も使いますね。
広がるデザイナーの役割
――ゲーム開発においてデザイナーが果たすべき役割について、どうお考えでしょうか。
宇佐美
ゲームというプロダクトの中でデザインはプレイヤーが直接目に触れ触る最も接点の多い領域だと考えています。
なので、ゲーム開発に携わるデザイナーはそれを意識することが大切だと思っています。
どんなに面白いゲームのアイデアでも例えばキャラクターやUIのクオリティが低いとゲームそのものが魅力的に見えなくなってしまい、プレイヤーに遊んでもらえなくなってしまいます。
ゲームへの没入感についてはデザインが担う部分が大きいですし、その部分のクオリティをコントロールするのがデザイナーの担う役割だと考えています。
書店でお客様に手にとってもらうためのデザインが装丁のデザインの力、本を読み進めていく上で没入感を醸成するための内容自体クオリティや挿絵などの様々な仕掛け。
これらのように一口にデザインと言ってもアプローチは様々であると、うちの部のマネージャーが話していたのですが、この整理はゲーム開発でも重要な考え方だと感じています。
――エンジニアや企画との連携については、いかがでしょうか。
楠
ブラウザゲームの時代の開発と比較してデザイン、エンジニアリング、プランニングの担保する領域のバランスが変わってきています。
アプリシフトを経つつ同時にデバイスのスペック向上も急加速したことで、ゲームの演出表現やコンテンツやそれを形成するアセットのボリュームが数年までとは比べ物にならない規模感になってきていることが要因と言えますね。
以前であればプランニングの過程でUX〜仕様の設計までを担っていたことが多かったのですが、先に述べたように、開発が大規模かつ要求される技術のレベルも知見も広く深くなってきているために、プランニングの時点で「何を」「どうやって」「どれくらい」作るのかの要件を整理することが難しくなってしまいました。
これは弊社に限らず業界のゲーム開発において同じような現象が起きているのではないでしょうか。
このような状況になったときに、デザイナーやエンジニア、プランナーの担う領域がどんどんグラデーション化していくと考えています。
宇佐美
プランニングされたものをつくるというよりは、UX設計を含めて面白いゲームを作るためにはこうあるべき、というのをデザイナーも考えていかないと、いいプロダクトは生まれない。
逆に言うと、デザイナー起因でいいプロダクトにしていくことができる環境になって来ているともいえますね。
デザイナーがUX設計などの早い段階でプロダクトに関わっていくことでコンテンツやアセットボリュームのコントロールの精度も高くなり、中長期を見据えた運営のクオリティも格段に上がりプレイヤーに長くゲームを楽しんでもらえるようになるはずです。
このような考え方をもつことは非常に重要だということを、うちのデザイナー陣にも日頃から伝えています。
楠
もう少し掘り下げて話すと、そもそもデザイナーという肩書であったり、単一的なスキルを有する職能レベルでプロダクトやサービスを語ること自体がナンセンスな時代になっているということだと思います。
ゲーム開発の現場でいえば、デザイナーをはじめ多様なスキルを有したクリエイターたちがフレキシブルにクオリティを担保する領域を変化させながら開発を推進していくことになるので、従来、プランナーが意思決定していた領域においても当たり前のようにデザイナーがそこを担保していくようになるはずです。
むしろそのようにして開発に携わるメンバーのパフォーマンスを向上させていかないと〜未来の開発に耐えられないと考えています。
――デザイン部内にテクニカルアーティストグループというものを新設されたのも、デザイナーの新たなあり方と関係があるのでしょうか。
宇佐美
テクニカルアーティストグループのミッションは二つあって、まずはデザイナーの環境の整備です。
デザイナーがテクニカルな課題に直面した際に、エンジニアに解決してもらいたくてもエンジニアがそのミッションを担っていない状態なので、優先度高く解決に取り組める状況ではなかったり、デザイナー側もエンジニアリングについての知見が不足していてうまくコミュニケーションが取れなかったりと、デザイナーがクオリティやパフォーマンスを担保するにあたっての弊害を取り除くのに過剰に時間がかかってしまっていました。
そこで、テクニカルアーティストグループ(TAG)を設置し部としてエンジニア組織に連携を求めつつ、TAGのメンバーにはデザイン部のフロントとして双方の知見を持ちながらコミュニケーションを円滑にとりデザイナーのパフォーマンスを向上させるための環境整備を行うというミッションをもっています。
もう一つのミッションは、技術研究ですね。
今後のゲーム開発のパフォーマンスを最大化しうる新しい技術に対して情報収集から実用性の検証までを担ってもらっています。
特に実用性の検証においては、しっかりと事業のトレンドを理解しつつ、本当に身につけておくべき技術なのか、ナレッジとして蓄積しておくべきノウハウなのかを精緻に判断してもらっています。
変化するゲーム開発とそのなかで重要な人材
――デザイン部で活躍している人材について教えて下さい。
楠
特定の職能領域で、市場の中でも高い技術力を有するスペシャリスト。
それと、スペシャリストはじめメンバーを束ねながらプロダクトのクオリティを最大化するために様々な意思決定を行うジェネラリストの2種類のキャリアを設計しています。
最近では新卒の育成段階からスペシャリストとジェネラリストのキャリアを明示して中長期的な自らのキャリアをイメージしながら成長していってほしいと考えています。
――組織としての、デザイン部の今後の戦略についてはいかがでしょうか。
楠
デザイン部の基本姿勢として『事業に資する組織』であることが非常に重要だと考えています。
だからゲーム事業全体の戦略を理解した上で、きっちりと事業に貢献できるように何をするべきなのかを常日頃、宇佐美を中心にメンバーを巻き込みながら議論し、やれることから実践しています。
DeNAのゲーム事業の大きな強みとしてIPホルダーさまとの協業が挙げられます。
IPタイトルの開発ではそのIPの魅力を過不足なく体現するゲームをつくることが重要となるのですが、これを開発観点で紐解いていくと、IPホルダーを始めとした様々なステークホルダーとの協業では、DeNAが主体的 / 単一的にコアゲームの設計や開発環境の選定を行うことが難しくなるということになります。
つまり、IPの魅力を的確に理解 / 表現するために様々なステークホルダーの要望に答えながらフレキシブルかつスピーディーに開発を推進する必要があるのです。
デザイン部としてできることは、ステークホルダーからこういう条件で、こういう開発環境で、という指定があった時にいち早く適応できるような体制や、デザイナーのスキルセットを整えることです。
まとめると、事業トレンドや開発トレンドに加えて、ステークホルダーからの様々な要望に的確に素早く対応するための、基礎体力的なスキルやノウハウを蓄積し、備えることが目下、組織として取り組むことだと考えています。
宇佐美
実際にいま注力して取り組んでいる具体的な事例としてはアウトソースの推進があります。
いま楠から説明があったような事業トレンドの考察の結果として、近い将来に人材リソース不足による開発停止が高確率で起こってしまうことがわかりました。
先にも述べたように大規模開発には膨大なコンテンツとアセットボリュームが必要になるので相当数の人員の確保が必須となります。ですが、現状のゲーム市場は慢性的な人材不足に陥っており、満足に人の採用ができません。
なので、アウトソースの推進を行う必要があるのです。
さらに、アウトソース推進にも色々な課題があり、その中でも大きいのがアウトソース先のパートナーさんのラインも慢性的に埋まり気味な状態で十分なボリュームの発注も難しくなっているのが現状です。
そのために、私と楠で国内外問わず積極的にパートナー発掘に尽力しています。
楠
人材不足の問題ももちろんですが、さらに重要な観点としてあるのが、これまでのゲーム開発の手法を徹底的に見直すこと。
大規模開発=大規模人員ではなく、大規模な開発でも効率化やフローの整備などに優先度高く取り組み、できるだけリーンな体制で開発を進めることが非常に重要になります。
この点については、昨今のAI技術の進歩なんかは大きな追い風になっているのではないでしょうか。
事業として新たにこういうゲームを作るぞ、という話になった時にまさかデザイン部が「作れません」と言う訳にはいかない。
そこはしっかり責任を持って、ゲームを作りきれる体制を整えておく、というのは確実にやらなければならないことです。
そのために、デザイナー一人一人が事業を正しく理解し、広い視野と高い視座をもちながらプロダクトに深く関わることが重要なのです。
宇佐美と私だけが頑張っても何に意味もありません(笑)
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
楠
先に出た話の通り、デザイナーと呼ばれる人たちの役割や責任範囲は、これまでと一線を画すものになっていく。
デザイナーとして、今後どのような能力を身に着けていくかを自らが身を置く市場や世の中のトレンドを的確に捉えながら選定しないと、気がつくと時代に取り残されてしまっているなんてことになりかねません。
先に少し触れたようなAI技術の進歩などで現在のストロングポイントがそうでなくなる日も遠くないかも知れません。
……脅し文句みたいになっていますが、技術についてもキャリアについても、既存の固定概念や経験に縛られないことが大事だという話です。
私自身も取締役という肩書がついていると、「デザイナー辞めたんですよね?」って言われるけど、全然そんなことはありません。デザイナーとしての思考ロジックや、課題解決のノウハウは経営にも活きているし、言ってしまえばデザインしているのがプロダクトなのか、組織なのかというだけの違いです。
そういうフレキシブルな思考を大切にしつつ、生きていくのが良いのではないでしょうか。
宇佐美
これはうちのマネージャー陣やデザイナーの皆にも言っていることですが、プレイヤーに対して何を届けたいのか、自分が作りたいものではなく、ユーザーに届けるべきものを見据えてゲームを作るという感覚を持って、学んでいって欲しい。
いまスマホのゲームは多くの人々の生活の一部になっていると感じます。
しかもデザインというのはプレイヤーとの視覚的 / 感覚的に多くの接点を持つ重要な役割を担っているので、そういう仕事に携わっているという意識でキャリア設計を含めた成長をしていってもらえば、豊かなデザイナー人生になると思います。
――ありがとうございました。
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