マリオカートツアーで見られるスマホ最適化に必要な画面・体験の再定義


2019年12月6日、Googleが主催する年間で人気を博したAndroid向けアプリの表彰イベント「ベスト オブ 2019」の授与式で「マリオカート ツアー」が大賞を受賞しました。

このアプリはおなじみのコンシューマーゲームである「マリオカート」のスマートフォンアプリ版で、2019年9月にリリースしてから着実にシェアを広げています。

 

コンシューマーゲーム業界では絶対的な王者である任天堂が本格的にスマートフォンアプリへ参入してきたのは2016年。

「片手で遊ぶ、新しいマリオ」というキャッチコピーでリリースした「スーパーマリオラン」でした。

このゲームでは従来のマリオが持つ「十字キーでの移動」というアクションを排除し、ジャンプアクションでゴールを目指すという新しいゲーム性を取り入れたことでも注目を集めていました。

 

また、続く2作目では大人気IP作品「どうぶつの森」のスマホアプリである「どうぶつの森 ポケットキャンプ」。

ドクターマリオのスマホアプリ版「ドクターマリオワールド」といったアプリをリリースさせています。

 

本稿ではそれら任天堂によるスマホアプリの中でもアワード受賞作品である「マリオカートツアー」を教材に、スマホへの最適化、ひいてはブランドの維持に必要な要素をひも解いていきます。

 

ゲームの概要

「マリオカートツアー」は、プレイヤーがキャラクターとカートを育成し、出場したレースでスピードとスコアを競うアクションレースゲームです。

 

これまでスーパーファミコンで「スーパーマリオカート」、NINTENDO64で「スーパーマリオカート64」、ゲームボーイアドバンス、WiiU等で多くの後続シリーズを輩出している人気タイトルです。

各それぞれの時代で、ハードの特性を活かしたチューニングが施されており、大抵のハード発売からほどなくしてリリースされています。

 

タイトルの人気とともに任天堂の開発技術力が窺える看板シリーズの為、このマリオカートツアーでもコンシューマーから期待が高まっていました。

 

ハードに最適化した画面設計

任天堂製のスマホアプリにはある共通点があります。

「スーパーマリオラン」、「どうぶつの森」、「ドクターマリオ」いずれも縦型であるということです。

 

コンシューマーゲームの王者である任天堂が考えるゲームのUXとしては、スマートフォンそのもののUXにゲーム側を最適化していく、というアプローチをマスト要件としているようです。

その証拠に上記3タイトルいずれもゲーム機で出ていた時のUIから一新し、プレイヤーがわざわざ横に持ち替えなくてよいUI配置にされていることが見受けられます。

これにはスマートフォンのユーザをゲームプレイヤーに移行させる際の心理的障壁を下げ、スムーズにゲームへと誘致する目的があることは明らかです。

 

これまでのコンシューマーゲームではテレビ画面やDS画面サイズ比の16:9、あるいは4:3に最適化されていました。

これによりレースゲームとしての迫力が演出でき、それがゲームそのものの面白さへ影響を与えていた為です。

他のタイトルをとってみてもそれは変わらず、スーパーマリオブラザーズシリーズでは横スクロールのステージを余す事無く表現できています。

 

どうぶつの森シリーズでは村のディテールをより詳細に演出する役割を果たしています。

ドクターマリオに至っては、対戦時に画面を分割してプレイヤーにストレス無くゲームを楽しめるUIを提供しています。

 

こうした、ゲームの面白さと画面サイズ比率は密接な関係にある為、スマホへの最適化には異なったデザイン設計が求められます。

 

レースゲームからアクションゲームへ。カテゴリの再定義

マリオカートツアーで設けられた新機軸には、従来のシリーズからドラスティックに変化を加えたものがあります。

それは順位ルールの撤廃です。

レースゲームは当然順位を競うものですが、マリオカートツアーでは、競う対象がゴール順ではなく、スコアであることが大きな変更点です。

 

これまではレースで何位であったか、だけがグランプリにおける評価でしたが、本ゲームではそうではなく、アクションポイントとよばれるパフォーマンスにスコアリングがされていきます。

必ずしも最速でなくとも、評価対象となるということです。

従来のシリーズにおいても大きな変更であり、かつ巷の同カテゴリゲームにおいても希有なポイントです。

 

この大きな変更はスマホゲームという特性が大きく作用しています。

これまでのコンシューマー機でスピードに特化して強化するにはマリオカートとはいえ相当のやり込みが必要でした。

しかしスマホゲームと割り切った時にそのやりこむベクトルをスピードよりもアクションに向ける事で、単なるレースゲームからスピードアクションゲームへと変貌させています。

これによりやり込みハードルを下げる事に成功しているのです。

 

実際にプレイするとわかりますが、ただスピードを追い求めてストイックにプレイするよりもマリオシリーズの様なジャンプアクションに近いUXであることがわかります。

こうした事から、マリオカートツアーの開発陣がこのアプリをマリオカートの地続きにあるレースゲームというよりは、アクションゲームとして再定義している事がよくわかります。

 

課金要素

これまでの任天堂製スマホアプリゲームでは課金要素が鳴りを潜めていましたが、このマリオカートツアーでもサブスクリプション型のゴールドパスという特殊な形をとっています。

これは持つ事で高い排気量が選択できたりゲーム内で貰えるインセンティブが豪華になったり、特別なチャレンジに参加できるといった代物で、正直無くても攻略には支障がまったくないものです。

他のゲームで多い課金要素としてはパラメータに直接影響がでるタイプのものや、見た目が変更するだけの愛着を沸かせるものが上げられます。

 

その中でマリオカートツアーが選んだ課金要素は他プレイヤーとの競争に活きる要素ではなく愛着がわくやり込み要素を強める課金でした。

これには当初スマホアプリへの参入時に任天堂が懸念していた「過度な課金要素によるブランド毀損」へのブレーキ作用であることが窺えます。

 

あくまで自分の主戦場はコンシューマー機であるとポジショニングを定義した上で、短期的な収益だけを追いかけた課金スタイルにしないことで自らのブランドを守るスタンスが色濃く出ています。

こうした一貫した姿勢はゲーム性にも強く反映される為、ゲーム全体のデザインには欠かすことのできない重要なポイントです。

 

まとめ

マリオカートツアーでは、単純なスマートフォン版移植に終わらせない数多くの成功要素が組み込まれていました。

 

ハードに最適化し、スマートフォンユーザーからプレイヤーへの移行時に発生する心理的障壁を下げる縦型メインの画面設計

やりこみ要素といった非ゲーマーの取り込みも考慮し、レースゲームという枠組みに捕われないでアクションゲームとして再定義したUX設計

そして従来のファンに向け、過度な課金訴求によるブランドの損失にならないスタンスの維持

 

このゲームではライトなプレイヤーをも商圏に捉え、どうすればライフタイムバリューを提供できるかから逆算された画面設計、体験設計を行っています。

従来のシリーズで培われた常識に囚われる事の無い柔軟な発想こそがサスティナブルに愛されるタイトルの秘訣なのです。

 

ライター名:ビットリズム

プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

 

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