『オタク経済圏創世記』の著者・中山淳雄氏に聞く! ゲーム・アニメ・音楽・TCGを内包するブシロードの宇宙(グローバルIP経済圏)!!
『BanG Dream!』、『D4DJ』、『新日本プロレス』など、メディアミックス型の展開により日本のみならず海外でも多くのエンタメ経済圏を創出し続ける株式会社ブシロード。今回は株式会社ブシロードの執行役員であり、現在は『アサルトリリィ』プロジェクトを担当している中山淳雄様にお話を伺いました。海外での新規事業活動の経歴や、アプリゲームの海外展開、様々なメディアを掛け合わせ海外に同時多発的に展開していくメディアミックスについて、詳しくお話を聞いていきます!
気付かされたアニメの力
――現在はブシロードの執行役員ですが、ここまでのキャリアについて教えてください。
僕は2006年にリクルートグループに入社したのですが、海外で働きたいという意欲があって急成長でグローバル展開していたDeNAに転職しました。ちょうどDeNAの売り上げが500億円から2000億円に上がる、ばく進中の時代ですね。
マンガは読んでいましたが、ゲームはやらないし、アニメは見ない、イベントも行ったことがない非エンタメ人間でした。でも強気でチャレンジしているDeNAに別業界から有能な転職者が集まっていて、まるで梁山泊だな、面白い会社に入ったぞ、と感じたのがエンタメ業界のスタートです。
――最初から海外事業をやりたかったんですか?
そうですね。ただ海外事業のM&Aもできるぞって採用されたんですが、入社初日にケータイ渡されてソーシャルゲームのコンサルタントをやってくれって話になって。
なかなか海外にいくチャンスがないと気の焦りもあってDeloitteに転職して、そのあとバンダイナムコスタジオに移ってと会社が変わりつつも、2011年から2016年まではずっとゲームの海外化をやっていた感じです。
『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』という本を書いたのが大きくて、本を読んだ上場企業のゲーム会社の偉い方々が何人もダイレクトにフェイスブックなどでコンタクトを取ってくれて、色んな会社の経営陣の視点を学びつつ、コンサルとしてもとても勉強になりました。
ゲームはもうやめようと思ってDeloitteに入ったはずなのに、本の力もあってお客さんが全部ゲーム会社だったんです。「ゲームを海外に持って行きたいからコンサルしてくれ」という話をいただいて。でも出張くらいでしか海外に行ったことのない僕が、パスポートを持っていない担当者と海外向けのゲーム企画を作ったところで、、、なんだかその期間は相手の見えない暗闇でジャブを打っているようなところがありましたね。
――そんな状態で海外の人に届いたゲームはありましたか?
2012年にDeNAがCygamesさんと展開した『神撃のバハムート』が北米でヒットした後、当時の日本のカードバトル型のソシャゲが大量に輸出されましたが、最初の3本くらいが打ち止めで、それ以上はピクリとも当たらない。
その時に試算したのが、北米のゲームユーザー2億人、そのうちモバイルゲームユーザー1億人。とはいえ、そのうち日本的コンテンツを味わっているのが600万人、カードバトル型をやるのが20-30万人。この20-30万人が飽きたらもう終わりという数字だったんです。このやり方じゃ、そんなに日本ゲームでは伸ばせないなと。
ちょうど海外ではFacebookのゲームとか街づくりゲームが主流で日本からも作ろうかと思いましたが、時短で課金してもらうゲームバランスを作れる人がいなくて、ガチャゲームのキメラみたいなタイトルになってしまいました。
その時代の北米での明確な成功タイトルと言えば、こういった海外化の課金ロジックなど関係なく、ガチャゲームでも作品の力で押し上げた『ONE PIECE トレジャークルーズ』と『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』だったんです。その後、『キャプテン翼〜たたかえドリームチーム〜』がヒットしたあたりで、アニメを見ない僕もやっと「ゲームじゃなくてアニメの力がすごいんだ」ということに気付きました。実はその前に『ラブライブ スクールアイドルフェスティバル』もあったんですが。
この2010年代前半にモバイルゲーム系の20~25社くらいが海外に挑戦してほぼ全員が失墜して、結果僕がカナダでゲーム作っていた2015年くらいになると大手コンソールゲーム、アニメ系だけしか残らなかった。そこで、これはゲーム単体じゃなくて作品やメディアミックスとセットで売らなくてはいけないと気付いた感じです。
メキシコの500ドルに農耕のリアルを知る
――ブシロードに入ってからはいかがでしょうか。
ブシロードの入社はターニングポイントでしたね。それまで会社は変わりつつ同じことをやっていたのが、ブシロード創業者なのになぜかシンガポールにいた木谷会長です。その隣でゲームだけじゃなくアニメとイベントとメディアミックスを海外含めて展開している様を勉強しました。
――ブシロードに入ってまずどのような仕事に関わりましたか?
『BanG Dream!』の英語版です。今までだったら「日本でこれくらいの収益、英語だとこれくらいの収計になって、コストがこれくらいなので8ヶ月でリクープします」みたいな資料を、モバイルゲームをやったことのない上層部向けにパワーポイント50枚にまとめて説得してなんとか数千万円のローカライズ費用を…と作業していました。
でもブシロードでは、日本語版も出てないのに英語版を出すことは決まっていて、「どうやって出すのか教えて」という結論ありきで物事が動き出しました。机に向かって資料を作っていたのが、事業を推進する方向に力をかけられるようになりました。
コンサルなので説得とか意思決定の補助ツールを作るのはもちろんできるんですが、動いてるほうが好きだし、面白い。
『BanG Dream!』の英語版とかトレーディングカードゲーム(TCG)のプロモーションでは北米に行って、アラバマ州からノースカロライナ州までを2週間車でTCG店舗を周る、みたいなこともやりました。車で3時間走って、2時間レクチャーして、また車で3時間というのを大体25店舗。その間、日本人をほぼ見ませんでしたね。
――海外事業の責任者が店舗を回るんですね。
海外事業の責任者どころか、木谷も行っています。僕は人材系、コンサル系、ゲーム系ときたので今まで物を扱った商売をしたことがなくて。でも目の前に昔のシリーズの在庫の山みせられながら文句言われ、それでもカードのルール教えてるうちに仲良くなって、実際にそれが次の受注増につながっていたり。その店主が20-30人の古参ユーザーに教えてコミュニティを広げてくれるんですよ。その時に古い業界のやり方だと思って見ていなかったことが、実はユーザーのコミュニティを固着させるのに一番大事なことだと知ったんです。
もちろんデジタルをかぶせないと作品はスケールしにくいんですが、テック業界とかリクルートでやっていたことは、フィジカルな人たちが作ったものの上になりたって、結構素材の力に頼り切った商売をしていたんだなと。巨人の肩に乗っていたということに気付きましたね。
これまでは『ワンピース』や『ドラゴンボール』が人気だという数字しか見ていませんでした。実際の作品を作るという作業の泥臭さと、在庫と戦いながらどのくらい勝負して在庫含みの製造するかとか、そういうのに関われたことで目が開かれました。
日本だとTCGが1000億円市場、モバイルゲームが1兆円市場で10分の1の規模ですが、TCGはモバイルゲームとは違ってフィジカルなファンコミュニティがすべてです。世界数十か国で1000店舗以上のインフラでファイトしてもらって、年2回は世界大会を主催して、各地域の優勝者を日本の総合大会に呼んで、、、そういったところまで全部見られたので海外市場の形成にリアルなイメージができるようになりました。
アメリカとシンガポールでブシロードが主催しているキャラエクスポというイベントがあるんですが、過去の担当者がいなくなってしまっていたので過去の資料を穿り返して採算の相場観をつかむところからスタートしています。そういう風にまるっとまかせてもらえる社風なのも良かったですね。
――キャラエクスポ、1万人規模のイベントを海外でよくやりますね。
アメリカのそういったイベントって全部で80個くらいありますが、日本企業が主催している米国のアニメイベントはキャラエクスポだけです。普通に考えると、非効率だからやらない。誰かがやっているイベントに乗るほうがよっぽど楽なんです。
でもブシロードは「ここ10年誰もやっていないなら、それはやる価値がある」という社風なんですね。そういったチャレンジに時代が後からついてくるという事例もたくさんあります。
カードの商売はコミュニティを作って、インフラを整備するみたいにやっていきます。最初に5万人来たお客さんを5万人のままずっと守るやり方です。モバイルゲームみたいに100万人入れて5万人残ってそこから収益する狩猟採集系のビジネスに比べて、とても農耕系なんですね。
それがモバイルゲームも頭打ちになって、狩猟採集型で立ち行かなくなってきた。環境側の成長が止まってしまった。そこでデジタルのなかで農耕をするには、ということでブシロードモデル、カードモデルに近いビジネス構造になってきていると思います。
――ずっと農耕をして来たブシロードには、作品に最初に食いついた数万人を見放さないという信頼があると感じます。
ブシロードブランドの箱を大きくするのがいまやりたいことですね。例えばディズニーアニメなら確実にこのくらい、という箱の大きさがあります。
その箱をもっと大きくして、ブシロードの推しているものは確実にこのくらいの規模になる、というファンの安心材料になるといいなと思います。
最近感じるのは、認知度と人気度の差です。例えば今アニメでやっている『おそ松さん』は誰でも知ってるけど、じゃあ今そこにグッズ買って課金してという人がどれだけいるかという「人気度」でいうと、限られてきてます。
ゲームを出すだけじゃなくて、作品の構造自体を深堀りして、認知度ではなく人気度を上げる動きをしなくちゃいけないんだろうなと思って、『オタク経済圏創世記』(日経BP、2019)という本を書きました。
――ブシロードが掘り下げた実例はありますか?
僕は『カードファイト!! ヴァンガード』のゲームを担当しているのですが、『ヴァンガード ZERO』は海外で日本の2倍くらい売れています。
コロナ後にエンタメがなかったので、海外のユーザーが飛びつきました。普通のタイトルって海外のユーザー数が日本の半分くらいいっても、1人あたり課金額は半分で、売り上げはざっと1/4になっちゃいます。ユーザーが2倍いてはじめて売上トントンになるんです。
でも『ヴァンガード ZERO』はアメリカからインド、南米まで含めてひとり当たりの単価が変わらない。これはカードがコミュニティを深く掘ってきた結果で、深く掘った作品というものは可処分所得によらず5万円使うものだと思ったら5万円使うんです。
コミケの参加者がここ10年近く変わっていないことを考えると、日本市場は閾値に到達しているんですね。日本は人口構造が変わらないから守る市場になっている。そのなかで海外のアニメエキスポが未だに伸びています。
さっきも話しましたが、海外のコンテンツ人口で日本のものを味わうのは、言っても体感5~6%くらい。その限界値までもまだまだ遥か遠くにあるんです。50%に到達した日本のオタク率をさらに上げるよりは、外に出て海外の5%、まだまだブルーオーシャンの部分を集めていくほうが成長に繋がるはずです。
――比率は少ないけど、母数が大きいからパイが大きいということですね。
海外の5%を数字では知っていても、実際にその5%を見てインパクトの大きさを実感している人が少ないのではとも思います
メキシコのプエブラという街に行ったことがあるんですが、そこに『ヴァイスシュヴァルツ』の『この素晴らしい世界に祝福を!』の5万円するデッキセットを持っている人がいたんですね。
隣町からイベントに来て、コスプレして、「ブシロードの人に人生で一回は会いたいと思って来ました」って。月収を聞いたら「300ドルです」って言うんですよ。よく500ドル出したねって。
僕がずっとデジタルマーケを見て「メキシコはLTV20円だから意味ないよ。課金上がらないから集客しても。」とか言って、“転がしてた”世界の下に隠れている世界のものすごい深さ、ひとつひとつの商品にお金をもらうことの大事さを痛感しましたね。
日本で1億、メキシコ50万だとしても、むしろメキシコでよく50万円売り上げたな、と思います。それがメキシコ人のファン50人くらいの、月収300ドルの人たちがかけてくれた50万円なんです。そのリアリティと手応えをもうちょっとゲーム屋、テック屋が自覚できるインフラを作らないといけないと思ってます。
――今後、海外で日本のコンテンツを広めるにはどうすればいいでしょうか。
日本のゲーム市場って世界の2~3割いくほどの巨大市場のはずなのに、海外のゲームカンファレンスで登壇するスピーカーって、50人いても僕ひとりだったりするんです。行けばもろ手をあげて歓迎されるし、通訳だってつけてくれる。
プロモーター、プレゼンターがいない状態で、むしろ作品の力だけでよくこんなに普及したな、というのが海外からみた実感です。
――発信力を強くしていくことが課題。
いい人材を入れたいですね。DeNAとかGREEに勢いがある時に入ってくれたんだけど、そういう人がゲーム業界に居つかずにフィンテックとかシェア系のサービスにどんどん出て行ってしまった。英語もできたしネットワークも持っていた人たちが、時勢で一番景気いい業界に移り変わってしまうと、業界自体が確変するチャンスを失うんです。
20年後に残るアイコンを作りたい
――中山さんがいま一番、ブシロードでやりたいことを教えてください。
まだ言えませんが大きい企画を仕込んでいて、来年になったら面白いことになると思います。もちろんグローバル展開ありきです。僕はリクルートの時からインパクト思考で、どうやったら大きいことができるだろうかと考えていて、海外に出たかったのもその延長でした。
1980年代、90年代に『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』が世界にものすごいインパクトを起こしました。2000年代に入ると今度は『ポケモン』が起こします。でも日本人にはいまいちその規模がピンときてなくて、20年たってからそれこそ『ポケモンGO』が出て初めてビックリするんですね。
そうやって長く残って10年後20年後に市場を形成できるアイコンを生み出し、ブランドを存続させたい。2000年代以降、日本からはアイコンとなる作品の生まれる頻度が減っているはずなんです。言ってしまえば以前はものすごくデンジャラスな、でも面白いことをする人たちが業界にいて、彼ら作家が作ったものの遺産でサラリーマンの僕らは食わせてもらっている。
でも次に2030年とか40年にまで続く作品を作らなくてはならないのは僕らだし、その作品は日本人だけのものじゃなくて人類の共有財産として作りたい。それがブシロードの野望でもあるし、僕自身のやりたいことでもあります。
――ブシロードが求めている人材はどんな人でしょうか。
ブシロード自体、社内にゲーム系、アニメ系、音楽系、TCG系といろいろあってひとつの業種に囚われていません。なので前職は船の物流でしたとか、半導体やってましたとか、シンガポールのゴムを扱ってましたとか、いろんな人がいます。
結局の話をすると、仕事ができる人が欲しいです。仕事ができるというのはどういうことかというと、スピードがあって、キャッチアップができて、好奇心がある。スキルではなく、そうしたポテンシャル、志向性の部分が評価されてチャンスもらえる会社です。
傾向の話をすると、動き出しの早さとか、ストレス耐性とか、フィジカルが強い人が活きる傾向があって、なんでも新しいものを楽しめる人が向いてると思います。
――面白い人がいたら教えてください。
ずっと秘書とか事務をやっていて、転職も多くて、というエンタメ系とは全く関係ない女性でも、うちの広報宣伝に入ってから帰国子女の経歴も生かしつつバリバリしごとして3年で20代女性で子会社社長になった人とか。
あとは新卒の入社3ヶ月目でアメリカに出向して、2年目までに4-5回部署が変わって、5年目で部長になって活躍している人間もいます。兼任で子会社の社長もやったりとか。特にすごい経歴とかすごい学歴というわけでなくても、入社したら場がいっぱい与えられるので、新しいものを与えられた時にスピーディかつフレキシブルにやってたら、あっという間に出世した、みたいな事例も多いです。仕事出来る人には、いろんなことをさせますね。
その反面で、中途採用とかで一個の専門性をずっと掘りこみたいタイプにはちょっと向かない組織かもしれないですね。そういう部署もあるので、職種によってはそういった方向で評価されているところももちろんあるんですが。
エンタメ系の仕事がしたければ、ポテンシャルで採用してもらえるブシロードは、イベントも回せるしプロモーションもわかるし、ゲームもそこそこ理解できる状態になりますし、とても勉強になると思いますよ。
僕は偉大なる素人集団と呼んでいるのですが、素人の癖にソーシャルゲームに関わったり、劇団を買ったりと、新しい経験を積めることは保証します。
――最後にブシロードのプロジェクトのファンや、エンタメ業界、ゲーム業界に入りたいと思っている人にアドバイスをお願いします。
個人的には外側からは捉えがたいアート性の高いこの会社で、内部ではきっちりサイエンスをするということをやりたいんです。
サイエンスをするということは再現性を持つということ。『BanG Dream!』ではこうだったからこうやろうとか、組織としての経験値はもちろんあがっていくんですが、個々人としても作品プロセスに入り込めばそこにはサイエンスがあって、きちんと次の作品づくりに生かすことができる。
業界に興味があるという方がいれば、『D4DJ』のニュースを集めて分析するだけでもすごく勉強になると思います。これは『BanG Dream!』でやったこの手法だとか、『アサルトリリィ』のこれと繋がっているとか、見えるものがある。
そういうマーケティングのサイエンスを、スピーディでフレキシブルなブシロードのなかでやってみたいという好奇心旺盛な人にぜひきてほしいですね。特に海外志向のある人はぜひおすすめの会社ですね。
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