ドラクエモンスターズスーパーライトから学ぶゲームUXから逆算する設計思想
2019年7月、スクウェア・エニックスによるスマホ向けRPG「ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト」(以下DQMSL)が5周年を迎えました。
DQMSLはこれまで携帯型ゲーム機で好評を博していたドラクエモンスターズシリーズを冠するタイトルで、リリース前から登場を期待されていました。
特にスマホアプリでドラクエシリーズをソーシャルゲームとして遊ぶことのできるタイトルが無かった為、ドラクエのソーシャルゲームとあってファンから注目を浴びていました。
大型のアップデートを前に、改めてDQMSLが市場に受け入れられた背景及びゲームデザインを知る事でこれからのアプリゲームに必要な要素や設計思想に迫ります。
ゲームの概要
DQMSLはドラクエシリーズの中でもナンバリングタイトル直系のシリーズではなく、「モンスターズシリーズ」の系譜を汲む外伝的シリーズです。
1998年にドラクエモンスターズ第一作目がゲームボーイでリリースされた際、それまでドラクエシリーズの主役がプレイヤーだったのに対し、モンスターが主役という点において特異点でした。
これはいうまでもなくポケットモンスターが作った「モンスターを使ったバトル」という新しいマーケットニーズに向けてドラクエが持っていたモンスターという資産を使った結果でした。
本作では戦闘システムや育成システム、転生システムといった、モンスター人気を活用した独自性の強いシステムが変わらず実装されており、継続的なプレイヤーを増やしています。
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画面設計は携帯ゲーム機からスマホへの最適化
本シリーズではこれまでゲームボーイやニンテンドーDSといった携帯端末でのプレイが主戦場だっただけに、スマートフォンへのフィッティングはスムーズに行えています。
例えば画面設計やUIの配置など、小さい画面の中でどれだけ情報量を整理し、低学年層でも楽しめるかという思考はスマホユーザに合致します。
戦闘シーンではコマンド選択な為、従来通りの情報量で事欠きませんが、問題はフィールドシーンです。
移動では通常外部デバイス側に十字物理キーがありますが、スマートフォンにはありません。
この課題を解決する為に取り入れられたのがフリックアクションでの遷移でした。
実はスマホ黎明期の移植ゲームでは画面内に十字キーを表示したタイトルが多数ありましたが、いずれも操作しにくさから来るストレスがアプリレビュー上で散見されていました。
また、縦型の画面設計というのもライト層を意識した配慮が感じられます。
より手軽に身近にゲームをライトに楽しむという体験を提供する上でゲームの為にデバイスの向きを持ち替える、という事自体が大きなストレスであることは間違いないでしょう。
細かい点ですがフリックというプレイヤーがゲーム以外でも日常的に行う行動に近いUXを提供することで、小さなストレスを削ってゲーム以外のノイズを無くして行く思考は絶対に必要です。
スマホへの最適化はゲームバランスまで
これまでコンシューマーソフトとして開発していたゲームをスマホアプリゲームへと最適化するにあたり、大きくメスを入れなくてはいけないのは画面設計だけではありません。
ゲームのバランスやプレイ持続時間といった、プレイヤーが置かれている外的環境を最大限考慮した設計が必要です。
例えばドラクエシリーズの醍醐味であるじっくりダンジョンを攻略したり、経験値を溜める、といった体験はスマホユーザーのプレイ環境には必ずしもフィットしません。
ゲーム中に急に別のアプリが開かれたり、あるいは通信環境の不具合で非同期するといったことが起こりえるからです。
その様なゲームとプレイヤー間での接続乖離が頻繁になるとひいては非アクティブユーザーにしてしまうリスクがあります。
こうした状況を回避するための施策に関して、スクウェア・エニックスのクリエイター、柴貴正氏は以下の様にインタビューで回答しています。
「『DQM SL』はスマホのゲームですので、移動中やちょっとした空き時間にプレイされるであろうという想定で、バトルやダンジョンの長さなどスマホユーザーを意識したシステムにしています。
(中略)同様に、いわゆるSレアアイテムが出たらサクサク進める、といった従来のフリー・トゥ・プレイ(以下、F2P)のバランスにもしたくありませんでした。
(中略)ゲームをふつうにプレイする分には、CランクやDランクのモンスターのパーティでもクリアーできる、有償ジェムで“地図ふくびき”を引かなくても、十分に楽しめるようなゲームデザインにしています。」*1
こうしたプレイヤーの置かれている状況から逆算したローカライズによる離脱防止は本タイトルに限らず開発者が胸にとどめておく必要のある金言です。
一方でこれまでソーシャルゲーム界隈で物議をかもしていた課金でのステータス強化に対しての、DQMSLでの明確なスタンスがこの発言から窺い知る事ができます。
この様な、既存のコンシューマーゲームを制作していた企業がソーシャルゲーム業界において、どのように稼ぐか、というのは大変センシティブな問題でした。
ユーザが「お金を払う」ということと、ゲームの持つ世界観との整合性をとることが肝要だからです。
しかしこうして作る側が明確なボーダーラインを考えて設計することでファンにも納得されるゲーム設計となります。
プレイヤーへの継続的な接点確保
DQMSLではリリース初期にガチャで提供確率を表示しなかった為、当たりを引くことができないユーザーからバッシングが集まり、返金騒動まで発展しました。
以下は同インタビューでの説明です。
「『DQ』ファンの方々の感覚としては、一般のF2Pの提供割合は納得できないものだったのだと思います。
(中略)提供割合の表示があるだけでも判断の基準になったと思いますので、表示することを押し通すべきだったと反省しています。
結果、混乱を招いてしまって、プレイヤーの方々にはたいへん申し訳なく思っています。」*1
こうした事態を重く受け止めた運営は消費した分のジェムをプレゼントする、という形で対策をとりましたが、その迅速な対応も話題を呼びました。
また、定期的な番組配信や、こまめな更新内容の提供など、プレイヤーとの接点を確保することで日常的なコミュニケーションを発生させ、運営側を見える化するというスタイルが特徴的です。
この様なソーシャルゲーム特有の性質を持ったプレイヤーへの接し方は、DQMSLだけではなく、後にドラクエウォークでの顧客対応においても活かされています。
まとめ
DQMSLでは、携帯ゲーム機発のゲームをスマホに最適化する為の画面設計やバランス設計といった、表面的なデザインだけではなくゲームを通したUX全体から逆算した設計がされていました。
それだけではなく、SNSや番組配信、ゲーム内の更新情報という運営側からのアプローチによりゲーム内のストレスを溜めにくくする環境作りも行っています。
こうしたゲーム内・外からの最適なプレイ環境作りに基づくUX設計こそが、5年以上に続くタイトル継続の秘訣に違いありません。
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*1 『DQM スーパーライト』プロデューサー激白!あの顛末から今後の展望まで(前編)
https://app.famitsu.com/20140220_319144/
ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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