モンスターハンターライダーズに学ぶブランド価値の再発明
2020年2月、カプコンによるスマホ向けコマンドバトルRPG「モンスターハンターライダーズ」がローンチされました。
既に3月現在で300万ダウンロードを突破し、連休ボーナスなどもあって順当にプレイヤーを増やしています。
モンスターハンターを題材にしたスマホアプリは既に複数存在していましたが、その中にあって
本作は、かなり特殊なテーマを取り扱っています。
そこで今回のコラムでは、既にシェアをとっている大型タイトルのゲームをスマホアプリゲーム化する際、ブランド価値をフィッティングさせる為のポイントに迫ります。
目次
ゲームの概要
モンスターハンターは元々2004年にプレイステーション2用ソフトとして販売されました。
当時まだ家庭用のオンライン協力プレイは普及しておらず、本格的なブーム到来はPSPが販売されてからでした。
携帯機を持ち寄って4人同時に同じフィールドへ接続し、各々で錬成した武器や防具を持ち寄り大きなモンスターに立ち向かって行く。
こうしたプレイスタイルはこれまでに無いユーザ体験を生み、ゲームやりたさにPSPを購入するユーザをも爆発的に増やしたキラーコンテンツと化しました。
デジタルネイティブ世代のユーザは当たり前にオンラインプレイ環境があり、初期シリーズはもはや懐かしのゲームとして列挙されているというのは隔世の感があります。
マルチプラットフォームでの勝負が得意なモンハンの背景
さてそんなモンスターハンターシリーズですが、時代の変遷と共にプレイステーション2、PC、PSP、ニンテンドー3DSといった様々なプラットフォームで遊ばれています。
これにより本流のハンティングアクションを楽しむだけでなく、対象年齢に合わせてブランディングをし直した派生タイトルの展開を実現していることが大きな特徴です。
こうした事から分かるのが、カプコン側ではコアターゲットからズラしたゲーム創りを既にナレッジ化していた点です。
こうしたバックボーンがあることで、スマホアプリ化に向けた取り組みがより確実なものになっていきました。
ニーズを創る3つのアプローチで創った功績達
カプコンがスマホユーザに向けてモンスターハンターシリーズを展開する際に、大きく分けると3つのアプローチがありました。
それは”モンハンシリーズを忠実にスマホへローカライズする”、”マスコットキャラクターであるアイルーをモチーフにした別タイトルにする”。
そして”モンスターを仲間にするバディものにする”といった方法です。
“モンハンシリーズを忠実にスマホへローカライズする”というアプローチでは「モンスターハンターポータブル 2nd G for iOS」や「モンスターハンター エクスプロア」といったタイトルがリリースされています。
前者は惜しくも2019年にサービス提供終了していますが、後者は累計1000万ダウンロードを突破する勢いでシェアを拡大しています。
元々モンハンシリーズはシビアな操作性と理不尽とも言える敵キャラクターとの戦力差を、攻撃パターンの学習や武器防具の強化によって攻略していくのが醍醐味でした。
従って当然モバイル版といってもそこは変わらず、高度な操作テクニックが求められますが、物理キー・ボタンが無いことはさらに難易度を上げる結果となりました。
その為、「エクスプロア」では幾分か動作がパターン化され、デバイスに応じた難易度調整がされていましたが、スマホゲームに求めるライトさは無い本格的なプレイスタイルが大きな特徴です。
二つ目の“マスコットキャラクターであるアイルーをモチーフにした別タイトル”というアプローチは、古くはガラケーの時からのお家芸でした。
モバゲータウンでの「モバイルアイルー村」や「いつでもアイルーライフ」など、スマホアプリならではのカジュアルな操作性を売りにした、肩肘貼らないプレイスタイルが人気を博しました。
この方向性のタイトルはスマホアプリだけではなく対象年齢の低いニンテンドーDSなどで既に実績があったからこその勝算で作られている事は想像に難くありません。
これもまたモンスターハンターというタイトルが持つ多様性の一つでした。
本流のハンティングアクションとは別の需要を喚起したことが大きな功績です。
“モンスターを仲間にする、バディものにする”という3つ目の方向性では「モンスターハンターストーリーズ」というゲームがリリースされました。
アニメタッチの作画や、少年少女が主役という設定、モンスターと協力するシステムなど、これまでのモンスターハンターシリーズには無かった要素が溢れていました。
このゲーム性の変わり様は一部の古参ファンからは拒否反応がでたものの、テレビアニメ化や3DS版といったマルチメディア展開により新たな収益源を作った点でも、大きな功績を生み出したようです。
この様にプレイヤーの嗜好に寄り添って、同じブランドながら多岐にわたるサービス展開をしてきたモンスターハンターシリーズ。
これらの成功要因が「モンスターハンターライダーズ」にエッセンスとして組み込まれています。
満を持して良いとこどりのライダース
「モンスターハンターライダーズ」の開発アプローチは3つ目の”モンスターを仲間にするバディもの”に属します。
しかし、テイストは元来のシビアな世界観に近く、絵柄も対象年齢を高く意識していることがわかります。
このゲームに登場するハンターはモンスターを相棒として使役し、協力して目的を達成します。
そんな世界観における大きな特徴は、プレイヤーの役割がそのハンター自身ではなく、ハンター達のリーダーとして存在していることです。
これによりゲームの楽しみ方がプレイヤーxモンスターの掛け算でしか存在しなかったものが、
ハンターxモンスターとなり、何十通り、何百通りにも多様性を持つことになりました。
この点において従来のタイトルで既にモンスターとのバディものというモチーフがありながら、ゲームとしての新たな可能性を開発するに至っています。
これまでのモンハンシリーズではプレイヤー=ハンターという確固たる前提条件がありました。
しかし、その視点を少しズラすだけで同じ題材ながら全く異なる多様性を開発する事ができます。
こうした「視点ズラし」は既存タイトルの再発明に欠かすことはできません。
人間ドラマという、収益価値の再発明
これまでのモンスターハンターシリーズではおおまかに舞台設定が語られる事はあっても、そこに住まう人々や環境への物語が大きくフィーチャーされることはありませんでした。
目下、プレイヤーの興味はモンスターの攻略法や武器・防具の強化や協力時の立ち回りにあったからです。
これは制作側も狙って設計している節があり、だからこそゲームシステム側だけで長年勝負をできてきた事の裏返しでもあります。
しかし、本作ではスマホアプリならではの操作性と共に、これまで描かれなかった人間ドラマに焦点をあてたゲーム設計がなされています。
キャラクターが40人以上登場し、シーズン毎にストーリーが定期的に更新されていきます。
こうした展開はハンティングアクションがベースにありながら、あらたなニーズの創出による収益化という点で極めて重要な再発明と言えるでしょう。
まとめ
モンスターハンターライダーズでは、従来のタイトルでウケた要素をそのままではなく、遊ばれるデバイスに向けて再定義し、再発明を繰り返す事で需要を創出するノウハウが詰まっています。
シリーズ長寿の為の一挙手一投足はこうした積み重ねの中に窺い知る事ができます。
シリーズを長く続けることは大切ですが、同じやり方、表現に固執することなく、時代の変遷に伴って求められる体験を逆算し、ニーズにフィッティングさせていくアプローチが求められます。
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ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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