“東京国際工科専門職大学”ってどんな大学? デジタルエンタテインメント学科って何が学べるの? オンライン授業に即応した秘訣を聞いてみた!!
専門職大学は55年ぶりに国が作った新たな大学制度です。
卒業時に専門職の学士が与えられ、卒業単位の3~4割程度以上が企業と連携した豊富な実習であること、その道のプロフェッショナルが採用される実務家教員が教員の4割を超えることなどに特徴があります。
(文部科学省ホームページより)
“東京国際工科専門職大学”は日本初となる工科分野の専門職大学であり、情報工学科とデジタルエンタテインメント学科が存在しています。
その中でも、デジタルエンタテインメント学科は、ゲーム開発のプログラミング技術を基礎から論理的に学べる“ゲームプロデュースコース”と、芸術文化の創造に関わる能力を身につける“CGアニメーションコース”の2つのコースで、インタラクティブなゲームやデジタル映像が求められる時代のリーダーを養成していくとのこと。
ここではデジタルエンタテインメント学科のゲームプロデュースコース・コース長・二村忍教授、蛭田健司准教授に、東京国際工科専門職大学の目指すところ、そのための取り組みや大学の特徴について、現在同校でも大いに活用されているテレワーク形式でお話を伺いました。
理系じゃなくても学べる工科大学
――まずは、東京国際工科専門職大学の特徴についてお話を伺いたいと思います。
二村
専門職大学というのは「産業界の要請を受け、大学の長所と専門学校の長所を合わせて作られた学校」とよく説明されるのですが、それなら大学と専門学校に両方行けば事足りてしまいます。
そうではなく、専門職大学は専門職大学だからこそ育成できる人間、人材を生み出す教育機関なのです。
私が個人的に考えているのは、「機能を発見する」、「価値を実現する」、両方できる人材を送り出すというミッションです。
言うなれば変化の激しいデジタルエンタテインメント業界がどれだけ変化しても、活躍し続けられる人材ですね。
そのために試験の良し悪しだけで入学を決めるのではなく、必ず面接をしてどんなモチベーションを持っているのか、どんな人間になりたいのかを見る。
我々の求める人材とマッチしているのかを確認してから入学してもらいます。
――入学試験にも力を入れているということでしょうか。
二村
その通りです。
面接だけでなく、試験の問題も特徴的です。
問題を与えられた側にも学びと発見があるような、将来、「受けておいて良かった」と思えるような試験を目指して問題が制作されています。
蛭田
一例としては「正解のない問題」ですね。
例えば「貴方の人生の目標は?」という問いは正解がある訳ではなく、人となりや、根の部分を見抜く意図があります。
面接で使われるようなノウハウが、試験自体に取り入れられています。
学校の特徴としてアピールしておきたいのは、幅広いバックグラウンドの学生がいることです。
工業高校から入学している人もいますが、それだけではありません。
例えば、本学には数学Ⅲを履修している人としていない人がいます。
そういったバラバラな人が来てもギャップを埋められる授業を行っていますし、本学が目指す卒業生のイメージに合った人であれば、広く門戸を開放しているのが特徴です。
理系じゃない人が入学しても、それを受け入れるカリキュラムがある大学となっています。
入試の問題が基礎学力だけを問われるものではないため、熱意をアピールしてもらえれば十分に入るチャンスがあります。
二村
基礎学力の話をすると、入学後に簡単なテストを行って高校授業の履修状況や理解度を測ります。
そこから単位認定と直接関係ない基礎科目、数学・英語・物理についての授業を受けられるため、高校で学んでいない科目についても入学後のフォローがあります。
――デジタルエンタテインメント学科について教えてください。
二村
主にゲーム開発について学ぶゲームプロデュースコースと、CGアニメーションコースを含む学科です。
初年度はコース分けせずに、両方の授業を学びます。
一度コースを選んだあとでも別のコースの授業を取ることもできます。
むしろ両コースの交流を推奨しています。
蛭田
私が担当している授業のうちのひとつが、1年の前期にある電子情報工学概論です。
入学した学生のコンピュータに関するリテラシーを一気に引き上げる授業になっています。
授業でアンケートを取ったところ、PCの使用経験が1年未満という人が約20%いることがわかりました。
彼らに対しても、ビットとは何か、という基本的なところから、クラウドサービス、認証とアクセス、セキュリティに対する脅威と防御策といった高度な内容までを半年で教えます。
最初は基礎的な授業だと思っていたのですが、蓋を開けるととても難しい授業でした。
二村
理解度に差のある学生に基礎から教えなければならないタフな課題です。
蛭田先生は非常に分かりやすく教えてくれています。
また、大事なことは在学中に繰り返し学ぶ機会を作りますので、しっかり身に付けていただけるかと思います。
実習科目や臨地実務実習を通じて、カリキュラムに無いことは自分たちで勉強したり、他学科の人と協力してプロジェクト運用したりする機会が多くあります。
企業に入った時に身につくスキルや、企業に入ってから失敗しがちなことをあらかじめ経験できます。
そういう意味では専門学校と大学の良いとこ取りという面がありますね。
――二村先生は蛭田先生や他の先生の授業も見ているのですか?
二村
今年2020年にゼロからスタートした大学なので、各教員にバディを設定し、お互いの授業を把握したり相談したりする仕組みがあります。
教員にもいわゆる大学の先生と、実務家教員という企業人の先生がいるので、それぞれが長所を出すために、お互い補填していこうという思想です。
今はオンライン授業をZoomでやっているのですが、メインの先生は授業をやるのに手いっぱいになってしまうため、Zoomのオペレーションや学生のトラブル対応のためにサブの教員が1~2名一緒に入っています。
授業を手助けしつつ、学生の理解状況の把握や教え方のキャッチアップが出来るため、教員側にも学びがある状態ですね。
蛭田
今話を聞いていても、とても良い大学だと思います。
それと、もうひとつ私が担当させてもらうのが、地域共創デザイン実習という授業です。
これは実習のなかでも地域との連携を担い、地域ごとの抱える課題を解決する内容になっています。
通常の講義は15回で1セットですが、90回という大規模な実習で、しかも情報工学科、デジタルエンタテインメント学科、コースも全部またいで、全学合同でやります。
様々な分野を学んでいる学生でチームを組んで取り組む、特徴的な授業になるかと思います。
私が総務省の地方創生のアドバイザーをやっているところから担当になったのだと思いますが、そういう専門家が学生に直接教える機会というのはなかなかありません。
同じようなスペシャリストの先生がたくさんいるという点も本学の強みです。
オンライン授業に開学から即応
――オンライン授業のお話が出ました。5月19日現在、どのような状況でしょうか?
二村
2020年4月1日に開学した本学ですが、すべての行事や授業、試験をオンラインで実施し、未だ学生は一度も登校していません。
何も仕組みが無い所から急遽2日で準備をし、バーチャル入学式、各種オリエンテーションを実施しながら授業の体制を整えつつ、緊急事態宣言を受けて教員もすべてテレワークに移行しつつ、遅滞なく授業を実施しています。
大変珍しい状況で開学した学校ですが、新型コロナウィルスによる社会情勢の変化に対応できている点にも本学の長所が出ているかと思います。
また何よりもこのように急に始まったオンラインの授業にしっかり対応して下さっている学生の皆さんに感謝いたします。
学生の皆さんには実際にお会いできる日を楽しみにしております。
蛭田
デジタルエンタテインメント学科のオンライン授業の取りまとめをやってくださっているのが二村先生です。
先生のお陰で我々は授業を行えるので、本当にお世話になっております。
二村
先生方には、学校にあった器材と私物をかき集めてもらい、映像配信の環境をセッティングしてもらいました。
蛭田
私のオンライン授業も、私物で配信をやっています。
二村
先生の私物や能力で素早い対応が可能であるところに、実務家教員を多く含む、本学の特徴が出たのではないでしょうか。
多くの先生が自身のプロフェッショナルの領域で、それぞれのノウハウを出して協力してくれています。
私も微力ながら、ゲーム開発と運営、チームビルドのノウハウをオンライン授業のやり方に混ぜ込むことで、オンライン授業に初めて取り組む教員の習熟度を上げつつ、何かあれば即フィードバックし、方法を改善して事故を起こさず授業実施できる体制を整えることが出来ました。
これは開学したばかりの大学の門を叩いた、向学心に溢れる学生のお陰でもあり、感謝に堪えません。
蛭田
アナウンスの足りていない部分を学生同士で共有するといった動きもあり、助けてもらっています。
二村
教員がまだ不慣れで伝達ミスをすることもありますが、学生からチャットで指摘いただくこともあり、助かっています。
今は多くの教員がオンライン授業は対面に比べてやりにくさを感じていると思いますが、実はオンライン授業の方が優れている点も多くあるかも知れません。
例えば投票機能を使って、学生の理解度を定量的に測れるのは大きな利点です。
今までは教室の雰囲気を見て定性的に取っていたものを数字で算出できるので、理解度の把握と授業の方針変更に大きく役立ちます。
――一度も顔を合わせたことがないと思いますが、学生のコミュニティというものはあるのでしょうか?
二村
本学では授業ごとにいくつかのクラスに分かれまずが、それらとは別に担任制として、10名弱の学生を担任教員がサポートする仕組みがあります。
また教員と学生はSlackでコミュニケーションを取ることが出来ます。
こうした中で、学生同士のネットを活用したやり取りはあるようです。
クラス分けを発表した際は、Zoomに集まってバーチャルフェスティバルというイベントを実施しました。
そのときの自己紹介で、同じ趣味や同じゲームのプレイヤー同士ということを知り、交流が始まった例もあるようですね。
学生とはまだネットを通じた関わりしかできていない関係性ですが、かつてない緊急事態の中、教員は学生の不安を取り除くことに努めねばなりません。
ネットだから密にできることもあるでしょう。
学業だけでなく、生活や将来についても安心感を与えたいと思っています。
実務家教員のノウハウが惜しみなく注がれる授業
――実務家教員の例として、お二人のプロフィールを教えて下さい。
二村
バンダイナムコスタジオという会社でいわゆるゲームクリエイターとしてずっとゲームを作ってきました。
バンダイナムコスタジオはナムコというゲーム会社がバンダイと合併してバンダイナムコゲームスという会社になり、そこから開発部門が分かれた会社になります。
ではこの会社をなぜ選んだかというと、ゲームが人を幸せに、人生を豊かにすることを確信させてくれた会社だからです。
私は病気がちで足も弱く、いろいろ不自由な子供時代を送っていたのですが、テレビゲームに出会い、体が弱くても楽しめる、競い合える素晴らしいものと認識していました。
そのテレビゲームが世に出てほんの数年で技術は進歩し、そこで出会ったナムコの「ポールポジション」というレースゲーム。
そのブラウン管の中には計算で表現された三次元の世界(疑似でしたが)があり、あまりの臨場感にカーブでは体が倒れそうになったのを覚えています。
そのとき確信しました。
ほんの数年でこれだけ進歩するなら、10年、20年でもっともっと進歩し、現実と区別ができないような、あるいは現実を超えるような体験ができるだろうと。
体が不自由な人でもあらゆる体験を楽しめ、豊かな人生を送ることができるのではないかと。
また、ナムコの創業者である中村雅哉が、当時から「21世紀は物より心の価値が高まる、精神性の時代になる」「ゲーム産業は第5次産業である情緒産業である」と語っていたこともきっかけのひとつです。
ゲームの地位が極めて低かった時代に、業界にこんな先のことを考えている人がいる、この人の会社で働きたい、と考えました。
――ナムコでは何をされていましたか?
二村
プログラマーとして入社しましたが、元々電気工学科だったので回路設計を行ったり、休憩時間に趣味で作ったゲームを発売までこぎつけたりと、自由にさせてもらっていました。
ポリゴンが出てきた時代には、『鉄拳』という超有名タイトルの開発を横目に、同じ3Dの格闘ゲームである『ソウルエッジ』の開発を行いました。
私は自分なりの技術のロードマップというものを作っていて、ゲームを作る時には今あるものより少し先のものをプログラムやその他工夫で実現することにしています。
『ソウルシリーズ』は対戦格闘ゲームですので1対1で人物を表現しますが、3Dモデルで人物の動きがCG表現されることもまだ珍しかった頃に、今後は人間の感情や知性を表現する流れになるだろうと考え、あらゆる要素を丁寧にゲームに組み込んで行きました。
キャラクタの動作だけでなく表情や目線、セリフ、呼吸などを対戦状況や相手キャラとの関係性などでコントロールし、また背景映像はライティングを駆使して時刻変化や天候や天体の運行などを表現しつつ、キャラクタが武器を振った時の風圧が相手の髪や服に影響するなど、実在感を高めるようにしています。
いろんなゲームが凌ぎを削る中、なんとか存在感を出した『ソウルシリーズ』がアメリカでは200~300万本売れるタイトルになったのはうれしかったですね。
ここまでがキャリアの前半で、後半は合併してバンダイナムコゲームスになった後ですね。
バンダイナムコゲームスになった後は世界中を飛び回る時期があって、そこからプログラマーというよりは、プロデューサー、ディレクター、ローカライズといった立場を経験して、ソーシャルゲームの現場へと移りました。
会社が新しいことを始める時には、そこに送り込まれる立場だったのですが、これはとても幸せなことでした。
スマホのゲームは開発と運営が一体であり、集客や集金のこともゲームデザインに含まれていなければならない、新しいクリエイティブの形です。
スマホのゲームの売り上げ最大化に奔走していると、いつの間にか企画部の部長になっていたというのも良い思い出です。
最後には、いかに個人が得たノウハウを社内に還元するか、あるいはゲーム開発のワークフローの構築や、プロジェクトを回す仕組み作りや、社員の情報共有と意識レベルの向上などを考えていましたので、その後教員に、というのも自然な流れとも言えます。
――蛭田さんはいかがでしょうか。
蛭田
私は以前にもゲームクリエイターズでインタビューを受けているので、そちらを参照していただくのが早いかもしれません。
※【前編】女流棋士・香川愛生とゲームクリエイター・蛭田健司による株式会社AKALI! 将棋界とゲーム業界の双方を発展させる挑戦とは!?
https://game-creators.jp/media/column/099/
抜粋してお話しすると、スタートは二村先生とすごく似ています。
私も病気で体が弱く、ゲームに救われるという体験からゲーム業界を志しました。
二村先生と異なるのは、そこから経営や事業プロデュース、個人プロデュースなど、今もあらゆる物事のプロデュースを行っていることです。
同じゲーム業界で二十数年過ごしてきて、全く異なるキャリアを形成している点は面白いですね。
私のキャリアを一言でまとめると、「垣根を越える」ということだと思います。
例えばエンジニアとアートやプランニング、サウンド、別のセクションを繋ぐというのが、開発の中で垣根を越えるということです。
さらに会社の中で開発と人事、経理、採用や育成などの垣根を越えて繋いできました。
副業や勤めた会社も多く、様々な垣根を飛び越えて、今では大学の教員をパートタイムでやりながら、自分の株式会社を経営しつつ、総務省のアドバイザーをやっています。
さらに言うと、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本の正会員という立場もあります。
一人産学官連携ですね(笑)。
私のように様々なことをやっている人と、二村先生のようにフルタイムで教員をしている人が同じ実務家教員として存在しているのは、本学の大きな特徴だと思います。
――ほかに何か学校の特徴として話しておきたいことはありますか?
二村
映像編集やモーションキャプチャができるスタジオなど、学校の設備が充実している点も伝えておきたいのですが、時期が時期だけに学生も教員も学校に行かない状態ですので……(笑)。
こちらにつきましては、公式サイトを見てもらえればと思います。
専門職大学の有用性を社会に示すため、我々はどんどん変化するデジタルエンタテインメントの世界に適応できる、あるいは適応したいというやる気のある人を求めています。
本学であれば過去にプログラムを学んでいなくても、あるいは自分のことを理系だと思っていなくても楽しく学び、その後に社会で活躍できることは改めて伝えておきたいです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
蛭田
これまで大学の入口の話をしてきましたが、最後に伝えたいのは出口の話、つまり卒業後に関する話です。
時代の流れは本当に速くて、ゲーム業界自体も様変わりしています。
その中で、ゲーム技術の活用分野もどんどん広がっています。
ゲームクリエイターという存在は単にゲームを作るだけでなく、技術を社会のほかの分野、教育、医療、AI、金融、建築などに展開する役割も担っています。
これからの専門職はひとつの分野に特化していればよいということではなくて、垣根を越えることも求められてきます。
他の分野の知識があった上で、専門分野の知識がしっかりとある人、その専門の知識を他の分野に展開できる人がより活躍できるようになっていきます。
ですから、狭いエリアに閉じこもっていたい、デジタルエンタテインメント学科だけで他の学科と交流したくないという考え方ではなくて、多くの人間と交流するオープンなマインドを持って学び、卒業後も分野にとらわれず活動するイメージを持っておくと良いと思います。
もしかしたら会社や組織にも囚われず、社会全体で活躍していけるかもしれません。
そんな人材になりたい方はぜひ、東京国際工科専門職大学に来てもらえればと思います。
二村
繰り返しになりますが、エンタテインメントは人を幸せにする、人生を豊かにするものです。
エンタテインメントに関わる仕事は、一生をかけられる素晴らしい仕事であることを伝えておきます。
本学のデジタルエンタテインメント学科は新しい技術を組み合わせ、必要なものは発明し、発想を実現していく、そしてそれを収益に繋げるための学びの場です。
ただし、覚悟しておいて欲しいのは、最初に就いた仕事は10年後にはまったく違う形になっているだろうということです。
その後も常に変化していくでしょう。
時代の流れがとても速いからこそ、東京国際工科専門職大学で10年後、さらにその後の仕事に適応できるような、続けていけるような姿勢と方法を学んで下さい。
――ありがとうございました。
東京国際工科専門職大学 デジタルエンタテインメント学科にご興味のある方はこちら!
URL:https://www.iput.ac.jp/tokyo/course
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