ゲームアプリへの没入感を高めるべく編み出した、『和階堂真の事件簿 』の驚きの広告導入法
ゲーム作りで大切なことは、身の回りで起こる様々な現象をどのようにゲーム化していくか、という姿勢です。
『和階堂真の事件簿 – 処刑人の楔』は古典的なミステリーゲームかと思いきや、全く斬新な方法で新しいゲームのあり方を提示した、非常に先進的な企画を盛り込んでいます。
目次
無料で遊べるミステリー『和階堂真の事件簿 – 処刑人の楔』
今作はドット絵がベースの2Dミステリーで、プレイヤーは刑事となり、難事件の解決を目指します。
昭和の世界を舞台に、事件の真相を追う
舞台となるのは、1980年代の日本。
昭和末期のまだまだ殺人や行方不明など、足どりの掴みづらい難事件がいくつも発生していた時代です。
そして、ミステリーが現実世界にあふれていた時代に活躍した人たちがいるのもまた事実。
主人公である和階堂真は、刑事として事件の迷宮入りを阻止していきます。
ゲームは2Dドットの横スクロールで進行します。
事件現場の調査や、周囲の関係者への聞き込みなどを詳細に行い、ヒントを探しながら真相の究明を目指すことができます。
特徴的なのは、スクリーン上で気になる部分はどんどんタッチして調査を進めていくことができる点です。
2Dとはいえ、直感的に事件現場を捜査したり、聞き込みを行いメモを確認したりすることができるのは、なんともいえないリアルな体験を提供しています。
ゲームそのものは1時間ほどで遊びきることができるボリュームになっているため、冗長さで退屈してしまうこともないのは嬉しいところです。
最大の魅力は、「当てれば無料」
そして、このゲームの最大の魅力となっているのが、たびたび用意されているチェックポイントで正しい回答を行えば、実質無料で遊べるという仕組みです。
このゲームはもともと無料でインストールすることができる作品なのですが、収益構造としてはゲーム内広告を設置することで金銭を発生させている方式になっています。
そのため、何処かのタイミングでゲーム中に広告が発生するはずなのですが、「和階堂真」においては推理が外れた時に広告が表示されるようになっているのです。
推理パートはゲーム内でいくつか用意されているのですが、その度にプレイヤーは正しい選択をすることが求められます。
ここで正しく推理できれば広告は表示されず、推理が外れると広告が表示されるという仕組みが採用されているのです。
このような手法を取り入れているゲームはかなりユニークで、スマホゲームクリエイターとしては見逃せない要素になっています。
「当てれば無料」がもたらすプレイヤーへの影響
正しい推理でゲームを進めていけば、CM広告が出てこないという仕組みは、ゲームシステムとして非常に優れた機能を発揮しています。
CMが出るストレスを「罰」に
通常、CMというのは非常に煩わしく、誰しもが回避したい、スキップしたいと考える代物であることは自明です。
たとえ無料のゲームであっても頻繁にCMが出てくるようでは、お金を払ってでもCMなしで遊びたいと考える人は多いものです。
多くの無料ゲームの有料版として、CMが出てこなくなる仕組みを採用しているのは、こういった理由からです。
しかし、「和階堂真」において革新的なところは、CMのストレスをゲームに取り入れてしまっている点です。
ゲームを楽しいものにするためには、ゲーム内で緊張と緩和をうまく取り入れ、作品に緩急をつける必要があります。
そしてこの作品における緊張感の要素に、本来ゲームの外にあるはずだったCMを採用し、ごく自然な形で収益化に成功しています。
プレイヤーはゲームに失敗した場合、何らかの罰を受けることで「次は成功してやるぞ」という気持ちを奮い立たせることができます。
「和階堂真」における罰とはCM表示であり、プレイヤーはCMを避けるために推理へ全力で取り組むというわけです。
CMが出てこないという爽快感とゲーム性
そして、うまく推理を進めていくことで、無料ゲームで広告付きとはいえ、最終的にはゲーム中で一度もCMを見ることなく遊びきることも可能です。
CMによって収益を確保している今作ですが、実は、プレイヤーが快適にプレイできればできるほど、製作者は収益が目減りしていくという反比例を抱えています。
CM表示による収益は、CMが閲覧された回数に応じて変動するため、実は上手にプレイヤーに遊ばれてしまうと、お金にはならなくなってしまいます。
ここに、製作者対プレイヤーという、もう一つのゲームが隠されています。
クリエイターはプレイヤーへ簡単には推理させまいと、難解な謎を作り、CMの表示を促します。
一方のプレイヤーはCM見たくなさにその謎へ真剣に取り組み、本気で事件を解明すべく遊ぶことができます。
一つのミステリーを通じて、クリエイターとプレイヤーは間接的な対決を繰り広げているという構図にも、大きな可能性が感じられるところです。
『和階堂真の事件簿』が提示する、これからの課金のあり方
ゲーム制作においていつでもつきまとうのは、制作コストの問題です。
しかし『和階堂真の事件簿』は、無料ゲームでもプレイヤーに必要以上にストレスを与えない広告の導入を実現したことで、新しいゲームクリエイトのあり方も提案しています。
CMをいかにゲームシステムへ組み込むのか
今作が挑戦しているのは、いかに多くのプレイヤーに遊んでもらい、なおかつ自然な形でCMを組み込むことができるのか、という点です。
TVや他の無料ストリーミングサービスを利用していて分かるのは、いかにCMがコンテンツの世界観を阻害し、ユーザーにストレスを負わせているかという問題です。
せっかく優れたエンターテイメントを提供していても、途中に発生するCMによって作品に対する集中力は失われます。
それなら有料版のコンテンツを配信すればいいのではと考える人もいるかもしれませんが、よほどのネームブランドがなければ有料で買ってくれるケースも稀です。
そのため、インディーズゲームをスマホ向けに公開するとなると、熾烈な市場競争ゆえに、無料でのリリースが余儀なくされます。
そこで採用されるのがCMによる収益化ですが、「和階堂真」はCM挿入に新しい可能性を見出すことができました。
このゲームのCMの方法が世間に広まれば、もう少しうまくCMを取り入れる方法が生まれてくることも期待できます。
無料で遊べることの強みをどこまで活かせるか
無料でコンテンツに触れられるという魅力は、凄まじい訴求力を生み出します。
無料ゆえの弊害として、CMはその代表例と言えますが、無料コンテンツを収益化するための施策も様々な検討が各企業で進んでいます。
「フォートナイト」や「PUBG」など、いわゆるバトロワゲームは基本プレイは無料、衣装などを着せ替えたい場合は有料と、上手く収益化のための施策を展開させています。
CMを使わずにこれらのゲームは大きな成功を遂げましたが、CMありきのゲームにもまだまだ可能性はあります。
「和階堂真」は、CM付きでありながら優良な作品という、新しいスタンダードを先取る作品になったかもしれません。
おわりに
ミステリー作品はポピュラーなゲームジャンルだけに、手に取ってもらいやすい傾向にあります。
無料での提供が理想的なスマホゲーですが、収益化のため導入するCMまでもゲームに組み込むことで、ストレスの小さいゲーム環境を構築することもできます。
今作を発端に、ストレスフリーな無料ゲームは今後も登場していくことに期待したいところです。
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『和階堂真の事件簿 』Google Play:
https://play.google.com/store/apps/details?id=sukashiuma.wakaidou.syokeininnokusabi&hl=ja
『和階堂真の事件簿 』Twitter:https://twitter.com/WakaidoProject
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