ソーシャルゲームの「詫び石」とは?語源やゲーム開発者視点で見る文化


 
ソーシャルゲームユーザーが使うネットスラングの一種に、「詫び石」という言葉があります。
 
このコラムは、「詫び石」とは何なのかをまずわかりやすく解説したうえで、詫び石配布が常態化することの問題点を記載します。また詫び石を要求したり配布したりすることを、ゲーム開発者の目線から考察していきますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
 

1. 「詫び石」とは

そもそも「詫び石」とは、ソーシャルゲーム業界で使われる言葉です。例えば、バグが発生したときやメンテナンスが遅延したとき、あるいは運営上で何らかのミスがあったときに、ゲーム内で使用する通貨やガチャチケット、アイテムと交換可能な「石」などを「お詫び」の意味で配布することを指しています。
 
歴史的にはガンホー・オンライン・エンターテイメントがリリースしたタイトルである『パズル&ドラゴンズ』において、2012年に初めて行われたと言われています。このときは不具合に対する緊急メンテナンスを行ったことに対して、「魔法石」というゲーム内アイテムを配布したことから、「お詫びの意味で配布する石=詫び石」という言葉が生み出されたのです。
 
このため、詫び石という言葉は基本的には、ゲーム関連のネットスラングです。しかし、ゲーム内で詫び石という言葉を使い慣れている人の中には、ゲーム以外の一般社会でも使うケースもあるようです。
 

1-1. 詫び石という言葉を使った例文

ここでは詫び石という言葉が、ゲーム内でどのように使われているかを紹介しましょう。
 
・メンテナンス時間が告知より伸びたのだから、詫び石を配布するのは当然だ。
・今回のミスに対して、この程度の詫び石?
・詫び石はよ!
・詫び石、あまり期待してなかったけど、予想以上にもらえてラッキー。
・詫び石で回した10連から欲しかったキャラ出てきた。ありがとう運営。
 
また、ゲーム内だけでなくとも、仲が良いゲーマー同士などであれば以下のように使われることもあります。
・お前が遅刻してきたんだから、詫び石として食事をおごってもらうぞ!
・すいません、詫び石として飲み物買ってきたので、これで勘弁してください。
 

2. 詫び石という文化が抱える問題

この項目では、「詫び石」の配布を当然のものとして、何らかのミスには物的補償をすることが「文化」になっていくことの問題を記載していきます。
 

2-1. 詫び石が当たり前になってしまい、配られない=サービスが悪いという認識になってしまう

わずかなミスに対しても、「詫び石を配布するのが当たり前」という考え方が根付いてしまった場合、詫び石を配らない判断を「サービスが悪い」として、ユーザーが運営を気軽にののしるようになることが懸念されます。
 
また、近年はSNSなどで悪評を拡散されてしまうことが容易に起こりますし、場合によっては炎上してその問題を知らなかった人にまで広く知られてしまう可能性もあります。
 
すると、事実以上に企業としての悪いイメージが拡散されることがあるので、そのような事態はどの会社も避けたいことでしょう。
 

2-2. 詫び石が重課金の入り口になってしまう

ゲーム内のコメント欄などに、汚い言葉で詫び石を要求したり、脅迫文のような内容を書き込む人がいたりすると、その場がさらに荒れていく可能性があります。それが最初はたった一人でも、それを見た人の中の何人かが「このようなときはこのくらいは言っていいのか」、「何か問題があればこんな風に言うべきか」と負の学習をして、脅すような口調を増幅していきます。
 
ゲームの内容にもよりますが、多くのゲームは子どももプレイしています。もし子どもたちが、詫び石を求める罵声のようなコメントを見た場合、「相手のミスがあれば、物的補償を要求するのが当然である」、「相手がミスをした時は口汚くののしって構わない」と学んでいくかもしれません。
 
また、ユーザーが自らの出費と関係なく課金したのと同じ効果が得られることで、過剰な課金に目覚めてしまう可能性もあります。
 
そのような社会は、誰が考えても良いものとは言えません。ですから、わずかなミスを物的補償で済ます考え方は避けるべきでしょう。
 
もちろん、ユーザーは運営が不公正と感じるときに、冷静な抗議をするのは問題ありません。しかし、それは何を言っても良いということでもありません。問題点を冷静に指摘して、何らかの要求をするのは人間同士として当然のことですが、過剰な要求をしたり、相手を脅したりするのは常識として避けるべきでしょう。
 

3. ゲーム開発者視点で見る、詫び石という文化

この項目では、ゲーム開発者の視点から、詫び石の文化について考察していきましょう。
 

3-1. 「運営のミス=詫び石を配って当然」という風潮に対する考え方

運営側に何らかのミスがあれば、状況や対応を説明するのは企業として当然のことです。また、内容によっては謝罪が必要なこともあるでしょう。ただし、安易に「詫び石」を配ってしまうと、それが当然となってしまうリスクがあります。
 
これらを踏まえると、アナウンスや謝罪文の提示は迅速かつ適切に行う必要がありますが、詫び石に相当する補償の決定は安易に行わない方が良いでしょう。
 
ただし、開発・運営側に身を置く責任として、ユーザーの心理も考えておくべきでしょう。メンテナンス予定時間を大幅に超えたのに何ひとつアナウンスが無かったり、バグがなかなか修正できないままプレイしにくい状態が続いたりするとユーザーの不満は高まっていきます。
 
仮に何らかの問題で炎上が起こったとしても、それはその1回の問題ではなく、それ以前の対応のまずさが蓄積していたということは無いでしょうか?そのような場合、わずかなミスに過剰な反応をされたのではなく、火種が育ち続けていたとも考えられます。
 
そのため、日常からユーザーの不満を察知しておくことや、アナウンスを丁寧に行って不満をためないことも、炎上予防の重要な要素です。
 

3-2. 「多少ミスしても詫び石を配れば許される」という考え方

ミスに対して詫び石を出すことが常態化すると、開発や運営の側に「多少ミスしても詫び石を配れば許される」という考え方が蔓延する可能性があります。
 
そもそもミスが発生すること自体が好ましくないのですから、そのミスを詫び石で帳消しにすれば問題ないと考えるのは不健全です。また、ユーザーは運営側のそのような態度を、見透かすこともあるでしょう。
 
そもそも、さほど熱心にプレイしていないユーザーなら、メンテナンスの遅れやバグの存在にいら立ったりしません。メンテナンスの遅れにいら立つのは、早くプレイしたいユーザーであり、メンテナンス後のイベントを心待ちにしていたユーザーではないでしょうか。また、運営の対応の悪さに不満を持つのは、それなりに課金してきたユーザーではないでしょうか。
 
そのようなユーザーは、課金することで自分たちがそのゲームを支えている、という意識がありますから、雑な対応をされると腹を立てる人もいます。
 
このような点を踏まえれば、「ミスをしても詫び石で許される」という考え方は、ユーザーの不満を買うだけです。そのため、ミスを詫び石で補うという発想ではなく、できるだけミスを減らすことや、ユーザーの不満を募らせないことに配慮して、自分たちも気持ちよく仕事ができる健全な方向を目指すべきでしょう。
 

3-3. 詫び石を配布するならゲームバランスや売上に影響が出すぎない範囲で行う

詫び石を配布すること自体が、すべて悪いということはありません。事前にレギュレーションを定めておいて、必要な時に想定した詫び石を送るのであればなんの問題も無いはずです。
 
ただし、目先の事態収拾のために安易に詫び石を送るのは避けるべきでしょう。特に、ゲームバランスを壊してしまったり、企業としての売り上げや利益にマイナスを及ぼしたりするのは避けるべきです。
 
ただし、これは利益のためならユーザーの不評を買っても良いということではありません。詫び石を送るという行為も業務の中の手段である以上、できる限りマイナス要素を少なくして、企業として実りある出費とすることを考えましょう。また、ユーザーとの信頼関係を築くための出費が必要な時はあるので、苦情が寄せられているときにはその内容にしっかりと向き合いましょう。
 

3-4. 望ましいのは「詫び石を多く配る運営」ではなく「詫び石を配る必要がないサービスを提供する運営」

そもそも詫び石を配る必要がない状態を作ることが、最も理想的です。ただしこれは「ミスが一切起こらない」ということを指すのではありません。
 
基本的にゲーム会社は十分な時間や人員が無い中で悪戦苦闘していることが多いですし、新しい技術に挑むことも多い業種です。そのため「ミスがないように頑張りましょう」というのは机上の空論であり、精神論でしかありません。
 
重要なのは、ミスが出やすい業態を、担当者の個人的な努力だけでなく、チームとして是正できる体制を作ることです。
 
また、それでもなお、人間が介在する以上は、ミスがゼロになることは考えられません。そのため、どの程度のミスであれば、どのくらい詫び石を配るのか、を事前に想定しておくことも重要です。
 
詫び石を配るような事態に陥るのは、初期のリリース時や新機能実装などのタイミングが多いでしょう。そのためトラブルが想定されるタイミングでは、最低限の詫び石を予算に組み込んでおけば、その配布は必要経費であり損失ではなくなります。
 

4. まとめ

ソーシャルゲームのユーザー間で使われる「詫び石」という言葉について、その語源や意味、使い方を解説しました。また、詫び石の配布が文化として定着する問題点を考察し、ゲーム開発者としてどのように詫び石を扱っていくべきかを検討しました。
 
詫び石の配布がすべて悪いということはありませんが、配布の仕方によっては、ゲーム会社にとっても、ユーザーにとっても好ましくない事態につながります。
 
そのため、まずは詫び石を配布する事態を減らすための体制づくりを目指すことが重要です。また、詫び石配布のレギュレーションを事前に用意して、企業としてプラスになるような扱い方を考えるよう、おすすめします。
 

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