ウルトラ怪獣バトルブリーダーズが示すIPスマホアプリゲームにおける生存戦略


スマホアプリゲームは大きく二つに分類する事ができます。

モンスターストライクやパズル&ドラゴン、黒い砂漠MOBILE、荒野行動といった原作が無いゲーム。

もう一方がドラゴンボールレジェンズ、幽遊白書100%本気バトル、ONE PIECEサウザンドストームといった、ゲーム以外で原作が存在するIPゲームです。

 

原作があるIPゲームは、人気作であればファンをそのままゲームユーザーにできる可能性がある、という利点がありますが、一方で原作側にロイヤリティが発生する為、売上の中から差し引かれます。

原作がない非IPゲームは、走り出しこそゼロからのスタートとなりますが、それが当たれば原作使用料などの支払いは発生しません。

但し、近年では「モンストX幽☆遊☆白書コラボ」や「パズドラX進撃の巨人コラボ」といった、非IPゲームのIPコラボがなされるようになっているので、非IPとIPゲームのハイブリッドな利点を持つゲームマーケティングも主流になりつつあります。

 

IPゲームの歴史を見ると、スマホゲームより前、コンシューマーゲームの時代から国内では株式会社バンダイナムコエンターテインメントがイニシアチブをとって開発していました。

特に東映や集英社、サンライズといった、原作に圧倒的なコンテンツ力を有する作品の版権を使ったゲーム作りを続けており、その点で国産ゲーム開発会社とは一線を画す存在でした。

 

そんな中、2018年冬には円谷プロダクションの「ウルトラマンシリーズ」を原作とするスマホゲームアプリがリリースされました。

このゲームはキャラクターマーチャンダイジングの中でもかなり特異な作りのゲームになっており、その発想からはIPゲームでの生存戦略を学ぶ事ができます。

 

用語集:IPとは?

 

ゲームの概要

ウルトラ怪獣バトルブリーダーズは、ウルトラマンが存在する宇宙でプレイヤーが怪獣や宇宙人のブリーダーとなり、クエストをこなして最強のチームを目指すターン制戦略ゲームです。

マス目で表現されたフィールド内ではターン毎に駒を移動させ、射程距離に合わせて攻撃指示を出し、敵陣営を壊滅させる、スーパーロボット大戦などでおなじみのスタイルです。

 

ウルトラマンのゲームなのにほとんど出番の無いウルトラマン達

このゲームの最も特徴的なポイントは、シリーズを冠するタイトルにも関わらずプレイヤーが主に操作するのは怪獣、という点です。

当然ながらシリーズの主役はウルトラマン達です。

その為、順当に作れば彼らを主役としたゲームになるはずです。

他のIPゲームでもゲームの途中から自分のプレイアブルキャラに敵役を設定できるようになることはありますが、基本的には原作の流れを汲んだ態勢での進行となります。

この点においてウルトラ怪獣バトルブリーダーズが他のIPゲームと比較しても特殊な構造になっていることがわかります。

 

何故この様に主役ではなく敵役をメインとしたゲーム構造になっているのか、それは過去の手痛い失敗からのフィードバック結果だったのでは、と推測されます。

実はこのシリーズのスマホゲームはこれが初ではなく、「ウルトラマン大決戦!ウルトラユニバース」というタイトルが以前ありました。

 

敗因は埋もれてしまったこと?

「ウルトラマン大決戦!ウルトラユニバース」は2014年にサービスを開始した、ウルトラマンをメインに据えたカード型RPGです。

キャラクターカードをゲーム内で取得し、そのカードでデッキを組んで最強のチームを作って行く、というオーソドックスなゲームでした。

しかし2015年頃サービスを終了してしまっています。

このサービス終了という結果には様々な要因がありますが、「他のゲームに埋もれてしまったこと」が一因であると推測されます。

 

サービスを運営していた2014年当時は、こうした静的なカード型ゲームが過渡期にあり、3Dモデルを使った「スマホなのにリッチ」なゲームの台頭がさかんな時期でした。

その中にあってトレンドを逃してしまっていたデザイン表現だったことが飽きられ易くなっている市況であった事に疑いはありません。

しかし何より致命的だったのはゲームの主人公をウルトラマンとすることで、他のゲームとまったく変わらなくなってしまったことだと考えられます。

主人公達を使って、2DのUIで絵同士が静的に戦う、育てる、集める」という図式のゲームへ、シリーズファン以上のニーズ創出が出来なかったのです。

それだけでなく、システム面でもキャラクターを差し替えれば他の原作タイトルでも成立する程度であったため、「ウルトラシリーズでなくてはいけない理由」が無かった様に思えます。

 

こうした事情から、シリーズファンからも興味をもたれなくなってしまい、アクティブユーザー数の減退が起きたことがサービス終了という憂き目に繋がったと考えられます。

こういった敗因をフィードバックされているのがウルトラ怪獣バトルブリーダーズです。

 

ウルトラシリーズでなくてはいけない理由

主役格を怪獣・宇宙人という作品の敵役に設定している理由。

これには完成され神格化されたウルトラマン像よりも、成長の伸びしろがあり生物的な可愛げがある怪獣・宇宙人の方が感情移入できると考えた結果と推測されます。

また、怪獣達といういわばシリーズが築いた財産たる唯一無二のキャラクター達を使うことで、ウルトラシリーズブランドでなくてはならない理由がゲームに生まれています。

ここにはファンの中に主人公達を使うよりも怪獣を集めて育てる面白さを願う潜在的需要の方が勝っていたという市況があったと考えられます。

特に最も課金をするであろうコアターゲットユーザ群の年代を考えると、特定のウルトラマンではなく、怪獣達のファンが多い事は合点がいきます。

 

プレイヤーが普遍的に育成ゲームへ抱く高モチベーションの要素、シリーズが持つブランド力を最もパワフルに活用する理想のゲームの形。

これらが交わった結果として怪獣・宇宙人を集めて育てるスマホアプリゲームという着地はとても説得力があります。

 

余談ですが、本ゲームにおいて動物的な可愛げを持つ怪獣・宇宙人を育てる要素に関して思わずポケモンを想起してしまいますが、これには面白い背景があります。

実はポケモン自体が「ウルトラセブン」に登場するカプセル怪獣をモチーフとしているのです。

その為、ウルトラ怪獣バトルブリーダーズがポケモンをパクったのではなく、ポケモンからウルトラシリーズへ拝借した要素を逆輸入している、という構図になっており、息の長いシリーズものならではのトピックに驚かされます。

 

ガチャシステムに代わる独自システム

本ゲームの独自性はガチャシステムにおいても体現されています。

通常のスマホアプリゲームではキャラクターの追加に必要なのはガチャシステムで、プレイヤーはゲーム内で溜めた通貨や課金することでガチャを引き、自キャラクターを増やします。

しかし、本ゲームではガチャシステムは存在せず、怪獣・宇宙人をプレイヤーがオークションで落札することで自キャラクターを増やす事ができます。

これにはガチャシステムという、世界観に合わないが必要な機能を違和感無くゲームに馴染ませるギミックという功績。

落札完了まで定期的にプレイヤーをゲームに戻らせる、というアクティブユーザー維持という功績の2点において、他のゲームに見られない素晴らしいUX設計がなされています。

 

まとめ

IPゲームがひしめくアプリマーケットにおける生存戦略で必要な事。

それはひたすらキャラクター達をひたすら出すことではありません。

ファンが本当に求めるゲームの形をイメージし、そこに普遍的なゲームの面白さとシステムをフィットさせていく、という事が何より重要だと考えられます。

 

ウルトラ怪獣バトルブリーダーズでは過去の同モチーフゲームでの失敗から、ファンに求められている要素を逆算した結果が数多く実装されている印象です。

こうした、転んでもタダで起きないビジネススタンスと、冷静に失敗を分析し要素を再構築するマーケティングは我々に多くの教訓と福音を啓示しているように思えます。

 

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ライター名:ビットリズム
プロデューサー:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。

 

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