ゲームの面白さとストーリーのわかりやすさは比例しない?Hyper Light Drifter に見るデザイナーのあり方
ゲームの面白さを評価するための軸は様々ですが、多くの人が重視するのはそのストーリーではないでしょうか。
ゲームプレイングそのものに軸を置いたパズルゲームなどは、そのストーリー性に注目が集まることはありませんが、RPGやハードウェアのスペックを生かしたシネマティックなアクションゲームの場合、重厚かつわかりやすいストーリーが評価に直結することも珍しくありません。
プレイヤーをそのゲームの世界観に引き込むためにも大きな役割を担っているストーリーですが、必ずしも全てのプレイヤーがゲームにストーリーを求めているわけでもなければ、ストーリーが複雑だからといって評価を落としてしまうとも限らないのです。
目次
ゼルダ風アクションRPGのHyper Light Drifter
Hyper Light Drifterは、いわゆる「ゼルダの伝説」風のアクション要素を取り入れたゲームで、ドット絵ながらもスムースかつダイナミックなアクションを楽しめるとして評判を集めています。
様々なプラットフォームに展開
Hyper Light Drifterは、元々2016年にクラウドファンディングを通じて製品化に至ったPCゲームで、2016年3月のリリースののち、7月にはPS4およびXbox ONE向けに発売されました。
ファンディングに成功しただけありゲーマーからの評判もリリース前後を通じて高く、2018年の9月にはニンテンドースイッチ版も発売され、2019年の7月、ついにiOS版の発売にも至ります。
数々のゲームアワードにノミネート、そしていくつかでは受賞も達成したほか、2017年にはテキサスで開催されるエンターテイメントの祭典、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)のゲームアワードにも2部門ノミネートされ、ここ数年のインディーズゲームとしては最も成功したゲームの1つということができます*1。
往年のアクションを現代風に進化させた作品
Hyper Light Drifterは、いわゆる2Dドットアクションと呼ばれるジャンルのゲームです。
昔ながらのドット絵の世界で、プレイヤーは人間離れした力を駆使して迫り来る敵と戦いつつ、新天地の謎を解きながら探索を進めていきます。
全体的なプレイ感としてはSFCの「ゼルダの伝説」に近いとされており、往年のゲームの雰囲気を尊重しつつ、操作性は現代的なスムーズなアクションができるという、ストレスフリーのプレイングができるシステムづくりにも定評があります*2。
また、難易度に関しても往年のゲームらしく、誰でもサクサクとプレイができてしまうほど簡単には作られていません。
主人公は体力にやや難があり、数回ダメージを受けるとすぐにゲームオーバーとなってしまう脆弱さを持っているため、頭を使いながらのプレイも求められます。
とはいえゲームオーバーになっても、頻繁に設けられているチェックポイントからやり直すことができ、敵の動きもパターン化されているので、何度か戦う内に攻略法は見えてくるという設計のため、カジュアルなゲーマーでも十分に遊ぶことができます。
難解というよりも「読み取りにくい」ストーリー
爽快感やプレイヤーの工夫が試され楽しめる今作ですが、実はストーリーに関しては、意図的とも言えるほどゲーム中では掘り下げられることはありません。
ストーリーの絶妙な理解しづらさ
Hyper Light Drifterはプレイングこそ滑らかで楽しいものだと評されていますが、ストーリーに関しては明確さに欠けています。
このゲームは基本的にテキストや言語の概念がほぼなく、ゲーム中に言葉を見たり聞くことはほぼありません。ストーリーもオープニングに紙芝居方式で紹介されるだけで、自分が具体的にどのような人物で、何と戦っているかは分かりません。
そして、プレイそのものの自由度も現代のゲームらしくかなり高い点もまた、ストーリーを不明瞭なするものとして機能しているようにも思われます。
ゲーム中には東西南北にボスが存在し、それらを倒すためにプレイする、という目的は存在するものの、南を除いた3対のボスに挑む順番は様々であるため、どこから攻略していくかはプレイヤーの趣向に委ねられているのです。
「わかりにくさ」がやり込み要素に
ただ、逆に考えると、ストーリーが明確に提示されていなかったり、プレイの進め方の自由度が高いという点は、かえってプレイヤーの探究心を刺激し、もっとこの世界のことを知ろうというモチベーションを生んでいると考えることもできます。
また、小出しながらもHyper Light Drifterにおいてはストーリーにまつわる描写もところどころ差し込まれるため、全く物語が理解できないというわけではありません。
スムーズなアクションと幻想的な雰囲気を味わいながら、徐々にプレイヤーはゲームの世界に引き込まれていき、クリアした頃には伏線や物語の全貌を明らかにしようともう一度初めからプレイしたくなるデザインが意図されているのではないでしょうか。
世界観を作り込むことの大切さ
Hyper Light Drifterは確かにストーリーがわかりづらいゲームかもしれませんが、だからと言って評判を落としているわけでもなく、むしろストーリーを知ろうとすればするほど作り込まれた世界観に気づくような設計となっています。
誰でも理解できるようデザインする必要はない
Hyper Light Drifterで重視されているのは、ストーリーではなくプレイヤーの体験そのものです。
流れるようなアクションと、ほどよい難易度でその世界観の中に引き込み、ドット絵ながらも美しく幻想的なビジュアルとボリュームのあるオーディオで、ちょっとした夢の国に連れて行かれたような非現実体験をすることができるようになっています。
こういったHyper Light Drifterのように質の高い完成度を誇るゲームは、ストーリーを直接語らなくてもプレイヤーには満足感を与えることができ、そればかりかよりゲームの世界に興味を持ってもらうこともできるのです。
作り込みの深さがゲームの面白さを引き立てる
Hyper Light Drifterが優れているのは、ストーリーが明確に多くを語らないだけで、実はその世界は相当に練られていることが端々から感じられる点です。
登場するキャラクターの特徴や、各ステージのオブジェクト、背景の描き込みの細かさなど、どれもが高い水準で完成しているだけでなく、広いフィールド全てにおいてきめの細かな作り込みが存在しており、製作者のゲームへの深い愛とともに、プレイヤーに世界観への理解を求める声が聞こえてくるほどです。
ゲームプレイそのものの面白さ、そしてきめ細やかな表現は、「これは何かあるな」とプレイヤーへ関心を持ってもらうのに大きく作用しているのです。
終わりに
まるで映画の脚本のようにストーリーがしっかり練られたゲームは、確かに魅力的です。
しかしゲームの根本は、そのプレイ内容によってプレイヤーを夢中にさせ、世界観に没頭させるような仕掛けを用意することにあります。
面白いゲームを思いついたけど、それを取り入れるためのストーリーが思いつかないという人は、まずそのゲームの根幹を完成させてみてから、改めてストーリーを練ってみるのも良い刺激になるのではないでしょうか。
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出典:
*1 Eddie Makuch “All The 2017 SXSW Game Award Nominees” Gamespot
https://www.gamespot.com/articles/all-the-2017-sxsw-game-award-nominees/1100-6447245/
*2 Nathan Grayson “How A Lifetime Of Heart Disease Birthed Hyper Light Drifter” Rock Paper Shotgun
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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