ゲームに求められるクリエイティブとは?『天穂のサクナヒメ』がヒットした理由
2020年は様々なゲームが話題となりましたが、今年最後の注目作品として取り上げたいのが、『天穂のサクナヒメ』です。
目次
大ヒット発売中の『天穂のサクナヒメ』
一見すると『大神』を彷彿とさせる和風アクションRPGな今作ですが、実は非常にニッチな要素を備えた、ユニークなインディー作品でもあります。
稲作アクションRPGという新ジャンルに挑戦
『天穂のサクナヒメ』は、横スクロールアクションを採用した主人公成長型のRPGです。
行手を阻む鬼たちを相手に、美麗なグラフィックと滑らかな動きから繰り出される連続攻撃や、強力な必殺技といった要素は、満足のいく爽快感をもたらしてくれます。
また、特殊な羽衣を身に纏い、攻撃だけではない多彩なアクションを楽しめます。
伸縮自在の羽衣で壁に張り付いたり、遠くの場所へ一気に移動することが可能です。
クラシックな遊び心地で複雑な操作がいらないため、昔ながらのゲームファンでも安心して楽しむことができるでしょう。
豊富な横スクロール要素はもちろん一級品の仕上がりですが、今作を大ヒット作へと導くきっかけとなったのが、非常にリアルな稲作要素です。
主人公のサクナヒメは、稲作を通じて能力を成長させることが出来ます。
田植えから育成、収穫まで、稲作をゼロから全て体験することになり、収穫の出来次第で能力の上昇地も異なります。
また、稲作要素は形式上のものではなく、実際の稲作に準じた非常にリアルなプロセスを体験することになります。
アクションゲームでありながら、ここまで稲作をリアルに再現している作品は、どのジャンルと比較しても他にない仕上がりです。
SNSを通じて空前のヒット作に
異常なまでの稲作のクオリティの高さは、SNSを中心とした口コミで大いに話題となりました。
中には「農林水産省の公式サイトにある“お米 作り方”のQ&Aが実際に役立つ」といった情報までも飛び交うほどのリアリティを有しているという声も出てくるなど、とてもビデオゲーム作品とは思えないような盛り上がり方も出てきています*1。
実際に幾つかのメディアで農水省のガイドに準拠した稲作を「サクナヒメ」で再現してみるプレイ体験も公開されており、ますますの盛り上がりに繋がっていきそうです。
『天穂のサクナヒメ』はなぜヒットしたのか
これまで稲作をテーマにしたゲームの中で、『天穂のサクナヒメ』ほどヒットした作品はないでしょう。
これだけのヒットを叩き出せたのは、どんな理由があるのでしょうか。
稲作への異常なこだわり
やはりヒットの理由として大きいのは、アクションゲームでありながら稲作へのこだわりが尋常ではなかったところにあるでしょう。
本来、アクションゲームには必要のない稲作シミュレーション要素を、これでもかというほどに盛り込むことで、「サクナヒメ」は強烈なキャラクターを獲得することに成功しました。
米や稲作は日本人にとって身近な農業体験ではあるものの、現代ではそのような活動に従事する機会も失われつつあります。
アウトドアや田舎の暮らしに憧れる都会人が増えているとも言われていますが、サクナヒメはゲームを通して、厳しい稲作の現実と、うまく収穫までたどり着けることの喜びを、リアルに再現しているのです。
稲作を通じた和食文化への造詣も深い
また、「サクナヒメ」におけるお米との関わりは、稲作体験にとどまりません。
収穫したお米は実際に作中で食べることができ、その中で和食作りを体験することもできます。
中でも話題になったのが、卵焼きの味付けについてのアップデートです。
元々「サクナヒメ」の初期バージョンでは、卵焼きの味付けの際、砂糖しか調味料に使うことができませんでした。
しかし新たに更新されたアップデートを適用すると、砂糖だけでなく、醤油や塩、出汁からも卵焼きを作ることができるようになり、多用な食文化が反映されることとなったのです*2。
卵焼きをはじめ、日本は小さな島国ではあるものの、その食文化の多様性と地域差は目を見張るものがあります。
日本人の繊細な多様性への配慮がうかがえるのも、このゲームの面白いところです。
インディーでもヒットするためのクリエイティブのあり方
大ヒットを叩き出すことができるのは、大手ゲーム会社の話題作だけとされてきたものの、今や多くのインディー作品がインターネットを通じてゲーマーを沸かせています。
クリエイティブなインディーゲームを作るためには、どんな要素を押さえる必要があるのでしょうか。
ニッチなテーマであることを課題と考えない
一つは、これまで誰も手掛けてこなかったテーマを扱うことに対して、消極的にならないことです。
新しいアイデアが浮かんだとしても、これまでに参考となるような作品がなく、実際に手がけるための一歩が踏み出せないということは起こり得ます。
しかし、今まで誰も挑戦したことがなかったからといって、それがつまらないもの、あるいはヒットしない作品になるとは限りません。
「サクナヒメ」のような、稲作にこだわり抜いたアクションもまた、これまでは存在しなかった新しいジャンルを開拓していると言えます。
農業シミュレーションとRPGを組み合わせることで、全く新しいケミストリーを生み出すことに成功した今作は、今後のヒット作のあり方を大きく変えていく可能性もあるでしょう。
例え前人未到のテーマでも、作り方次第で大ヒット作品となる可能性は、充分に眠っているのです。
ディテールを追求する
今作が空前のヒットを記録したもう一つの理由として、ゲームシステムをとことん突き詰めたクオリティで世にリリースされたという背景も考えられます。
稲作シミュレーションとアクションの融合は、確かに新鮮なイメージをもたらしてくれますが、うわべだけのユニークさでは、ファンの心を掴むことはできません。
「サクナヒメ」の場合、異常なまでに米作りや和食へのこだわりを追求し、誰もがそのリアリティを否定できないレベルにまで作り込んだことで、不動のカルト人気を誇るに至りました。
センセーショナルなテーマでも、ディテールをとことん追求することにより、多くの人をあっと驚かせる作品に仕上がります。
どこまで細部にこだわれるかはクリエイターの腕の見せ所でもあるでしょう。
おわりに
『天穂のサクナヒメ』は、多くのプレイヤーをこのゲームや稲作のファンに導いただけでなく、売れるゲームの作り方をアップデートした、マイルストーンのようなゲームでもあります。
一度プレイしてみることで、ゲームクリエイターが目指すべき場所を再確認できるのではないでしょうか。
併せて読みたい記事
・トビー・フォックスの成功から学ぶゲーム・クリエイティブに必要な事
・「場」を提供するだけで良い。製作者に求められるクリエイティブの正体
・クリエイティブなゲームって何だろう?創造性について考えてみた
参考:
*1 INSIDE「『天穂のサクナヒメ』の攻略に、農林水産省の公式サイトは本当に役立つのか? 参考にしながら実際に稲作してみた」
https://www.inside-games.jp/article/2020/11/15/130046.html
*2 GameSpark「砂糖以外にも塩、出汁、醤油で「我が家の卵焼き」作れちゃう?『天穂のサクナヒメ』PC版アップデートパッチ配信」
https://www.gamespark.jp/article/2020/11/24/104101.html
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『天穂のサクナヒメ』公式サイト:https://www.marv.jp/special/game/sakuna/
『天穂のサクナヒメ』Nintendo Store:https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000029215.html
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