『This War of Mine』に見る、重いテーマをゲーム化するための企画づくり


戦争をテーマにしたゲームは数あれど、いつの時代でも被害者となる市民の視点から戦争を描いた作品は、限られています。

 

『This War of Mine』はそんな市民の視点から戦争を描き、大きな話題を読んだ注目の名作です。

 

戦争シミュレーションとして名高い『This War of Mine』

『This War of Mine』は、いわゆる戦争を擬似体験できるシミュレーションゲームとなっています。

 

一般市民として戦争を生き延びるサバイバル

戦争もののゲームでよくあるのは、一兵士として戦場を生き延び、英雄となる物語を描くシナリオの作品です。

しかし今作においてプレイヤーは、なんの力もない市民としての生存を目指します。

 

戦場において、最も無力な存在なのが市民です。

現代においても、市民への危害を加えることはタブーとされているものの、実際には戦場で市民が巻き添えとなったりターゲットとなるなど、被害者としての歴史が色濃い存在です。

 

『This War of Mine』では、90年代に勃発していたボスニア紛争における市民を描いた作品で、空襲により廃墟となった建物を拠点に、衣食住を求めつつ終戦まで生き残るのが目的です。

 

武器を持たない市民にとって、戦場で生活するというのは至難のサバイバルであり、明日食べる食糧や寝床を確保するのにも命がけとなります。

 

集中砲火を受ける昼間を避け、夜間に資材を集め、生活の足しになるツールを作らなければなりません。

 

拠点も必ず安全というわけではなく、ときには強盗に襲われることもあるなど、常に何が起きるかわからない恐怖がうごめいており、息つく暇もありません。

 

そのため、例え数年間のサバイバルとは言っても、終戦まで生き延びるということ自体が難しく、その命運は完全な運に委ねられることもあります。

 

海外では教材として採用されるケースも

『This War of Mine』はサバイバルシミュレーションとしてシステムがよくできているだけではありません。

 

戦争を市民の目線から目撃し、追体験をする上でも優れているということで、海外では教材として採用されるケースも見られます。

 

2019年、『This War of Mine』はポーランドの学校の公式読書リストに掲載され、一時期話題となりました*1。

特に社会学、倫理学、哲学、歴史学を勉強している人に推薦される図書であるとして、これらを専攻している学生には無料でこのゲームが与えられています。

 

それほどに等身大の戦争作品として受け入れられる余地のある今作ですが、重要なのはゲーム内におけるプレイヤーの役割なのでしょう。

 

『This War of Mine』の面白さはどこにあるのか

ただ戦争の悲惨さを描くだけであれば映画でもできる事ですが、『This War of Mine』ではゲームならではの仕掛けでプレイヤーを引き込みます。

 

リアルな戦争シミュレーションを市民の視点から描く

戦争作品における市民の活躍と聞くと、レジスタンスのように力無きものが団結して巨悪を退治するような物語が想起されますが、『This War of Mine』においてそのような英雄譚は存在しません。

 

今作で描かれるのは、まず徹底して無力な市民生活です。

堂々と人間らしい生活をすることは許されず、暴力や多人数には抗えない、弱肉強食の世界で生きながらえることが求められます。

 

そして、英雄譚であれば味方してくれるかもしれない運についても、今作では敵に回ることの方が多いほどに、ネガティブなイベントが発生します。

 

どうしようもない不可抗力に揉まれながらも、どうにかして生き延びる泥臭さが、戦争の真実であるという見解です。

 

プレイヤーに対する人道的な問いの連続

そして、このような不条理な世界で生き延びるためには、プレイヤーもまた人道的であることへの疑問が投げかけられます。

自分が死ぬか、相手が死ぬかという絶望的な状況の中で、自分はどう動くべきなのか、何が正解なのかを問い続けなければいけません。

 

生死をかけた状況での判断というものは、日常生活の判断能力とはまた異なる結果をもたらします。そこに、本当に大切な答えや正直な自分の姿を見てとることもできるのです。

 

戦争を真面目に考えさせるためのゲーム企画のあり方

戦争を題材にすることそのものは容易でも、真面目なメッセージを適切に受け止めてもらうことは、意外にも難しいものです。

 

主体的な体験をプレイヤーに届ける

まず重要なのは、プレイヤーはお客さんではなく、戦禍に巻き込まれていて、自分が行動しなければ死ぬだけであるというリアリティを届けることです。

 

戦争映画やその他の鑑賞作品は、あくまでも鑑賞の対象であり、その現場に自ら参加するようなことにはなりません。

 

しかしビデオゲームであれば、戦争に参加するという行為の重要さと、戦場に立つ緊張感を体験できます。画面の向こう側の世界とはいえ、自分の意思で戦場で活動するというのは、やはり緊張感のある瞬間です。

 

また、プレイヤーは戦場で生活を続ける中で、何度も選択を問われることとなります。

一歩間違えれば死につながってしまいかねないシーンでも、自分の判断によって自分で責任を取らねばならないという事実が、重くのしかかります。

 

あのときああすればよかった、という後悔は役に立たず、次の行動に反映していくしかないという儚さもまた、酷く現実的な心理状況の再現と言えるでしょう。

 

ゲームとしての面白さを忘れず、説教臭さは排除する

どれだけ戦場のリアリティを追求しても、『This War of Mine』はゲームとして楽しめるコンテンツを提供できなければ意味がありません。

 

今作は戦争の悲惨さを伝えるメディアとして優れていますが、それ以上にゲームとしてもよくできているというのがポイントです。

 

空腹や睡眠などに関するパラメーターのバランスはよくできており、程よく栄養や睡眠を摂取しなければゲームオーバーとなってしまいます。

 

これらを満たすことがゲームクリアには不可欠ですが、だからと言ってこれらは十分に手に入るものでもなく、時としてあるものを工夫しながら生きながらえる知恵も必要です。

 

作業台や食物を育てるための鉢植え、ベッドなど、快適に生活するための道具も組み立てる必要があります。

 

戦場で数少ない資源を探し回り、どうにか健康的に過ごすためのシステムを作れないかが、このゲームの鍵となっています。

 

純粋なゲームとしての面白さも追求し、エンディングまで到達できるよう設計されていることは、このゲームを深く味わうために必要な要素です。

 

おわりに

ビデオゲームは今や世界的な図書の一つとなっており、学校でゲームが導入する機会も増えてきています。

 

特に戦争を扱うテーマは扱うのに繊細になる必要がある一方、魅力的な人間のあり方や哲学的な思考を養うのにも優れた設計も見られます。

 

扱うテーマの重さはそのままに、ゲームとしての面白さを忘れない工夫が求められるでしょう。

 

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参考:

*1 gameindustry.biz「This War of Mine,ポーランドの学校の読書リストに加えられる」

https://jp.gamesindustry.biz/article/2006/20061803/

 

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ライター名:Satoru Yoshimura

 

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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『This War of Mine』Twitter:https://twitter.com/thiswarofmine

 

『This War of Mine』App Store:https://apps.apple.com/jp/app/this-war-of-mine/id982175678

 

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