スマホゲームにおけるシナリオライターの仕事「けものフレンズ3」のシナリオ分析


大ヒットしたアニメ『けものフレンズ』、賛否両論を巻き起こした続編の『けものフレンズ2』。

そして2019年9月24日より、スマートフォンアプリ『けものフレンズ3』(セガゲームス)のサービスが始まりました。

動物をモチーフにした可愛らしいキャラクターと、ほんわかした物語が特徴のシリーズですが、その裏側にはストーリーを面白く読んでもらうためのシナリオライターの工夫と配慮が隠れています。

 

シナリオライターの仕事はただ「自分の感性に従って面白いシナリオを書く」ことではありません。

様々な決まりや縛りを守りながらも、ターゲットユーザーに継続して楽しんでもらえるシナリオを書くのが、ゲームクリエイターとしてのライターの仕事です。

その観点から言うと、『けものフレンズ3』のシナリオは配慮が行き届いており、完成度の高いものとなっています。

 

本記事では『けものフレンズ3』のシナリオを分析しながらシナリオライターの仕事の内容を考察したいと思います。

 

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『けものフレンズ3』のシナリオを成立させる難しさ

 

『けものフレンズ3』の物語は一見ほのぼのとしていますが、その実危ういバランスの上に成り立っています。

アニメ『けものフレンズ』は大ヒットしましたが、続編の『けものフレンズ2』は賛否両論で、視聴者の期待にストレートに答えるものではありませんでした。

そんな状況の中リリースする『けものフレンズ3』は、良くも悪くも世間の目が厳しい「下手なことができない」作品だと言えます。

 

また、『けものフレンズ3』が低年齢層もターゲットユーザーにしている(※1)点も、面白いシナリオを成立させる難易度を上げています。

子供が楽しめる内容にするためには、複雑なストーリーを採用することはできませんし、難しい表現も控えなければなりません。

一方で、課金ユーザーの中心層は20代、30代の男性なので、その層が楽しめるような内容を提供する必要があります。

 

子供向けに読みやすい文章を提供し、かつ20代、30代が楽しめる内容を提供するためか、シナリオを表示させるメッセージウィンドウが小さくなっているのも『けものフレンズ3』の特徴です。

 

横画面のゲームはひとつのウィンドウに2~3行表示し、文字数も1行あたり25文字前後のことが多い傾向にあります。

一方『けものフレンズ3』はひとつのウィンドウに2行表示し、1行の上限も20字程度と少なめです(※2)。

文字数を少なくすることで読みやすさを上げ、ウィンドウを小さくすることで可愛らしく動く3Dキャラクターをよりしっかりと表示することが狙いでしょう。

その反面、表示できる文字数が少ないと言葉選びも難しくなるため、やはりシナリオ制作上は大きな枷となってしまいます。

 

力強いストーリーの背骨「巨大なセルリアンを追っていく」

 

『けものフレンズ3』がシナリオ制作上では大きく制限があることは、これまで述べてきたとおりです。

だからといってつまらないシナリオで妥協していいかと言われれば、答えはもちろん「No!」。

それではどのようにシナリオの面白さを担保しているのでしょうか。

 

『けものフレンズ3』で、プレーヤーを物語へ引き込んでいくための工夫の一つが、「ストーリーの目標がはっきりしていること」だと思います。

 

多くの人が「面白い!」と感じ、続きが読みたくなるストーリーには多くの場合、明確な目標が設定されています。

「主人公は○○という目標を達成できるのか」という明確な指標があることで、プレーヤーはシナリオを読むモチベーションを保つことができるのです。

このような目標は、「セントラルクエスチョン(中心的な問い)」と呼ばれています。

「セントラルクエスチョン」はもともと映画脚本の用語で、ハリウッド映画製作の現場で確立されたものです。

 

では『けものフレンズ3』のセントラルクエスチョンは何なのか。

『けものフレンズ3』の序盤では「主人公たちは巨大なセルリアン(※3)を見つけ、退治できるか」が中心的な問いになっています。

これは、複雑なストーリー進行が理解できない子供たちにとっては「平和を脅かす悪いやつらをやっつける」というシンプルでわかりやすい目標に映ります。

その上、『けものフレンズ1・2』に登場した人気キャラクター「サーバル」が、物語冒頭で巨大セルリアンに襲われて元気をなくしているという描写があるため、既存のファンにとっても巨大なセルリアンを追い、退治するというのは切実な問題に感じられるはずです。

 

このように『けものフレンズ3』は、大人にも子供にも伝わる、わかりやすいストーリーの背骨を設定しているのです。

 

けものフレンズ3はまさしく「SAVE THE CAT!(猫を救え!)」の物語

 

ここまで、『けものフレンズ3』のシナリオの大きな枠組み――ストーリーの中心的な問いについて考察しましたが、次にもう少し細かいシーンについて見ていきましょう。

物語全体を貫く大きな目標が設定されていることは、物語においてとても大切なことですが、その場その場の事件やトラブルなどのシーンを面白く描けているかどうかも大事な項目です。

 

『けものフレンズ3』は、公式のジャンル設定では「フレンズたちと“わくわくどきどき探検”するRPG」となっています。

プレーヤーたちは探検隊(※4)となり開園前の巨大総合動物園「ジャパリパーク」を周り、フレンズ(※5)と交流したりセルリアンを退治したりするのが基本的な出来事。

序盤では巨大セルリアンを追う過程で、小型のセルリアンと遭遇したり、新たなフレンズと知り合ったりしながら進んでいくという流れになっています。

 

この展開を、映画脚本家のブレイク・スナイダーが提唱した「SAVE THE CATの法則」をもとに分析してみようと思います。

「SAVE THE CATの法則」とは、スナイダー曰く

 

“危機一髪のところで猫を救うとか。このシーンによって観客は主人公の性格がわかり、しかも共感し好きになる”(p.17)

“観客が主人公やストーリーに共感できるように配慮し、仕向けることが重要なのだ。ついつい主人公を応援したくなる状況を作って、見せなければいけないということだ”(p.175)

(引用:ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則: 本当に売れる脚本術』フィルムアート社)

 

このようなシーンを意識するという手法です。

簡潔に言うと、「猫を危機から救う」に象徴されるような、登場人物やストーリーに感情移入しやすいシーンを設置することで、観客を物語に没入させるという方法ですね。

 

『けものフレンズ3』の序盤は、まさに「SAVE THE CATの法則」のシーンを何度も繰り返すような作りになっています。

セルリアンに襲われるフレンズ……そこに主人公たちが居合わせ、フレンズを救ってやる。

またあるときには、別のフレンズがセルリアン退治に力を貸してくれる。

 

このようなシーンを描くことで、観客に感情移入させつつも、キャラクターの魅力を描くことに成功しています。

セルリアンを退治するというシンプルなストーリーの過程でフレンズの魅力を伝え、フレンズを好きになってもらうことで(パークの平和を脅かす)セルリアンを倒すことへの意義が高まっていくという循環構造になっています。

 

さらに言えば、2章以降では、セルリアンに襲われることでフレンズの「輝き」が奪われてしまうということにスポットが当たります。

「輝き」というのは簡単に言えば、フレンズの「かけがえのないもの」をひとまとめにしたもの。

いわばそのフレンズを象徴するものです。

 

セルリアンを退治すれば、かけがえのないものが取り戻せて、フレンズ本来の魅力が発揮される……フレンズが好きになる度に、セルリアンを倒すことへの意義が高まっていくという循環構造をさらに強化する形になっています。

 

まとめ

 

ここまで見てきたように『けものフレンズ3』のシナリオは、子供にも分かるようにシンプルにできていながらも、キャラクターを好きになった大人も続きが気になるように、計算されてできているということができます。

 

わかりやすい主人公たちの目標、細かく迫ってくる危機と、それを乗り越えるたびに見えてくるキャラクターたちの魅力。

「次の展開が気になる」「このキャラクターについてもっと知りたい」そういった感情が沸き上がるシナリオを、私達は「面白いシナリオ」と呼ぶのです。

 

けものフレンズシリーズのように、ほのぼのとしていて「たーのしー!」物語であっても、ライターや世界観を構築するプランナーは、ついつい先を読み進めたくなってしまうシナリオを考え抜いて制作している――そのことがおわかりいただけるのではないでしょうか。

 

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【参考】

・課金ユーザーのアプリ内課金利用実態調査【中・小規模アプリベンダーと個人開発者向け】https://blog.item-store.net/entry/2018/01/10/034535)

シド・フィールド『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと: シド・フィールドの脚本術』フィルムアート社

 

※1

『けものフレンズ3』を起動すると「<おとなのひとによんでもらってね>」という子供向けの注意事項が表示されることからも、低年齢層がプレイすることも想定に入れていると思われます。

 

※2

確認した範囲では、

『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』……1行あたり26文字程度で、ひとつのウィンドウに3行まで

『Fate/Grand Order』……1行あたり25文字程度で、ひとつのウィンドウに2行まで

『プリンセスコネクト!Re:Dive』……1行あたり30文字程度で、ひとつのウィンドウに3行まで

となっています。

開発側に確認したわけではなく、数えてみただけなので多少の誤差はあると思いますが、いずれにせよ『けものフレンズ3』の表示文字数の少なさが伝わるはずです。

 

※3

セルリアン……けものフレンズシリーズにおける敵・モンスター役。

 

※4

探検隊と自称しているが、正式には保安調査隊。ジャパリパーク内を周り、保安するのが使命。

 

※5

フレンズ……動物をモチーフにした美少女キャラクター。けものフレンズシリーズでは、一部の人物をのぞき、ほとんどのキャラクターはフレンズ。

 

ライター名:KAORU

プロフィール:「とりあえずこいつに任せておけば大丈夫だろう」を目指すゲームシナリオライター。ゲームの面白さを分析し、理論的にシナリオを構築することを得意としている。これまでに男性向け女性向け問わず80以上の案件に関わってきた。好きなジャンルは人間ドラマ。

 

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