遊戯王デュエルリンクスで学ぶカードゲームの王者がスマホアプリ化で必要としたこと
遊戯王デュエルリンクスはコナミデジタルエンタテインメントが提供している対戦型カードゲームです。
リリースからわずか2ヶ月で累計1300万ダウンロードを達成することで業界を騒然とさせました。
これまでリアルなカードゲームや、ゲームボーイ・ニンテンドーDSといった携帯ゲーム機での展開で世界中にファンを作っていたシリーズで、新たなマーケット創出を狙った本作。
この記事では遊戯王デュエルリンクスをヒントに、家庭用として設計されたゲームをアプリゲームとして見直す場合の企画や設計を追求します。
ゲームの概要
遊戯王デュエルリンクスは、週刊少年ジャンプで連載されていた「遊☆戯☆王」のオフィシャルカードゲームを原作にした、カード対戦ゲームです。
元々は作中でキャラクター同士のバトルに使用されていたカードゲームでしたが、折からのトレーディングカードゲームブームと相乗し、実際のカードゲームとなった事で社会現象にもなりました。
小学生から大学生までカードを買い求めて自分のデッキを構築し、ついには東京ドームでの全国大会実施といった空前のムーブメントを形成しました。
今でも年に一回は大々的な世界大会が実施され、20年以上も続くカードゲームとして確固たる地位を築いています。
そんなオフィシャルカードゲームをソーシャルゲームへ順応させたタイトルとして、これまでカードゲームを楽しんでいたファン層からも熱い支持を得ています。
また、登場人物はアニメ版からのキャスティングをすることで、トレーディングカードゲームでは実現できなかった原作再現にもチャレンジしていることも注目を集めました。
プレイヤーに配慮した縦持ちのこだわり
本タイトルではスマホで快適に遊ぶ事を最優先に考えられた設計が随所に見受けられます。
その最たるものがスマホを縦持ちに最適化されているUI/UX設計です。
遊ぶ時間・空間・状況が限られているメインユーザーに対し、片手でさっと取り出してすぐに遊べる様な設計がされているのが特徴です。
以下はソーシャルゲームインフォでの株式会社コナミデジタルエンタテインメントプロデューサーである片岡 健一氏によるインタビュー内容です。
「私は長い間、家庭用ゲームの開発に携わっていたので、コントローラーを用いた操作設計というものには慣れていたのですが、新しい形となるスマートフォンの操作性とOCGの遊び方の融合にはすごく悩みました。
数々のパターンを作っては壊す試行錯誤を繰り返して、今のUIにおさまりました。
制作チームの中でも、縦持ち横持ちのどちらも検討はしたのですが、日本からリリースするのであれば、片手で遊べる操作性を意識しました。電車の中でスマートフォンゲームで遊んでいる姿を見ても縦持ちの方々が多いので、今の形を採用することにしました。」※1
スマートフォンを横向きで持つことを前提とした画面設計では、プレイヤーが必然的に両手で端末を持つことになり、ゲーム以外ができない状況になってしまいます。
また、特に時間を潰したい電車の中などではゲームをしている事がわかってしまう為、あまり好まれるスタイルではありません。
こうした課題を解決するためにも、縦持ちで「ながらプレイ」が実現できるスタイルの実現は不可欠です。
カードゲームに演出という新しい価値を
2016年頃から通信時のデータ軽量化やスマホ端末の能力向上により、Live2Dや3Dモデルを使ったリッチなキャラクター描写がスマホアプリでも見られる様になりました。
これにより、原作再現や没入感の実現といった、コンシューマー機に負けないUXの提供を可能としました。同インタビューにてこの点について興味深いこだわりを窺う事ができます。
「『遊☆戯☆王』に登場するキャラクターってカードやデュエルに命を賭けているような人が多いじゃないですか。
あの雰囲気や臨場感を再現したかったのです。
(中略)登場するモンスターも漫画やアニメのように生き生きと表現したかったという想いが、フルボイス演出や3D演出を加えた理由になりますね。」」※1
遊戯王デュエルリンクスでは原作を最大限再現したムービー演出や、3Dのカットイン演出が魅力の一つです。
これの興味深い点は今までの同類ゲームでは実装されていなかった為、ファン自体がそのニーズに気付けていなかったという点に他なりません。
もちろんカードゲームの本質は戦略性に基づく駆け引きや戦局に応じた判断による試合運びです。
しかしそのプロセスで原作を再現する美麗なグラフィックでの演出が入る事により、物理カードで遊んでいた時よりも更に没入感を伴った面白さに昇華されています。
これはファンが今迄脳内で補完していた世界観をビジュアライズするという新しい価値の創造でした。
この点において他のカードゲームアプリや、物理カードゲームとの大きな競合優位性を実現し、そしてこのゲームを遊ぶ理由を作るに至っているのです。
原作再現とゲームシステムの融合
本ゲームでは自分のデッキを強化する際にカードを追加しますが、その際も没入感を提供する配慮が欠かされていません。
通常のソーシャルゲームと同様にガチャ要素がありますが、このゲームでは「遊戯王」らしくガチャではなく実店舗にあるようなカードパックのパッケージに入っているデザインになっています。
その為、ゲーム内でのカードパック購入が、さながらリアルでのカード購入と同じ様な体験デザインになっているのです。
さらに、現実世界と同様にパックが入っているボックスという概念も再現しており、「ボックスの中にあとレアカードが何枚あるか」という体験までも再現しています。
これは先述のリッチな表現とはむしろ逆で、アイデアの勝利と言えるでしょう。
ともすれば抽象的なイメージでランダムにカードを排出するデザインで処理されたかもしれない所を、プレイヤーが身近だったカードの購入シーンまで再現するというUXを実現しています。
ゲーム内でリアルな体験を想起させるゲームでは、こうした細部にまでこだわった、原作だけでなくカードゲームそのものの体験を再現するというデザインアプローチが競合優位性となり得ます。
まとめ
遊戯王デュエルリンクスではプレイヤーがコントローラーではなくスマートフォンを持って遊ぶ際にどうしたら最適なUXが与えられるかを考えたUIの設計がなされていました。
また、スマホであることを言い訳にせず、期待を大きく上回る原作体験をリッチな演出で提供することで没入感を与えつつ、デザインとゲームシステムとを高次元で融合させています。
こうしたデザイン面・設計面・システム面での整合性の取り方は、世界中で愛されるゲームに必要不可欠な要素なのです。
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※1 【インタビュー】コンセプトは「これぞ遊戯王」…2ヶ月で1,300万DLを達成した『遊戯王 デュエルリンクス』 人気TCGスマホ化の開発経緯を訊く
ライター名:ビットリズム
プロフィール:国産ゲームで産湯を使ったロムネイティブなゲームエバンジェリスト。QOL向上に必要なのはワーク・ライフ・ゲームバランスだと信じている。
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