『ドラゴンクエストX』のプロデューサーを長年務めた「よーすぴ」こと齊藤陽介氏のこれまでのキャリアと今後の活躍、そして若手ゲームクリエイターへのメッセージをお届け!!
長年『ドラゴンクエストX』のプロデューサーを務め、「ニーア」シリーズなどのオリジナルタイトルにも携わった、スクウェア・エニックスを代表するプロデューサー齊藤陽介氏。
2018年には『ドラゴンクエストX』のプロデューサーを卒業し、新規タイトル『バビロンズフォール』の開発や、アイドルプロデュース活動も発表されました。
そんな齊藤氏に、ご自身のこれまでのキャリアと今後の活躍、また若手ゲームクリエイターへのアドバイスについてお話を伺っていきます。
■『面白い』を追い求める齊藤氏のキャリア遍歴
――早速ですが、齊藤さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
最初はエニックスのグッズ生産部門にいて、ぬいぐるみやフィギュア、キーホルダーとか、紙物の生産管理を行っていました。
そこに1年いた後、2年目からはゲームのアシスタントプロデューサーという形で、スーパーファミコンのゲームを開発していました。
プロデューサーデビュー作が PlayStation®の『アストロノーカ』です。
その数年後には、家庭用ゲームの開発と兼任してモバイル事業部を任されていて、それはスクウェア・エニックスになってからも継続していました。
ただ『ドラゴンクエストX』に携わるようになってからは、モバイル事業部の統括との二足の草鞋が厳しいだろうと言われ、第10開発事業部長と『ドラゴンクエストX』に専念しました。
2017年には『ニーア オートマタ』と『ドラゴンクエストXI』が連続して発売されたので、めちゃくちゃ忙しかった。
さらに同時期に『ドラゴンクエストX』のPlayStation®4版とNintendo Switch™版も重なりましたしね。
昨年2018年に『ドラゴンクエストX』のプロデューサーを次の世代に任せて引退し、今は新規タイトルの開発やアイドルのプロデュース活動をしています。
――『アストロノーカ』は2018年の8月に20周年を迎えましたね!
そうなんですよ。
この20年前に作った『アストロノーカ』のジェネティックアルゴリズムが、本当の意味でAIがゲームに使われた実例のひとつらしいんですよね。
20年前のものが、いまでもAI業界で語られることがあるという話を聞いて、ありがたいことだと思います。
当時はジェネティックアルゴリズム、いわゆる遺伝的アルゴリズムというのを森川さん(※別注1)から初めて聞いたんです。
その発端は、夢の島のハエの話でした。
夢の島で殺虫剤に強いハエの個体が生まれて、それが繁栄すると殺虫剤が効かなくなる。
すると殺虫剤をもっと強いものに変えるんですが、それでも全滅せずに生き残ったハエがいれば、それが集団として残っていく。
その話を森川さんから聞いて、めちゃくちゃ面白いと思った。
夢の島のハエに世界観的なカタルシスや、勝ち負けのモチベーションを持ち込んでゲームにしたのが『アストロノーカ』なんです。
宇宙の農家ってなんだよって話なんですが、当時のエニックスはおかしなゲームばっかり作ってましたね。
そんなにプロジェクトとして大成功したゲームではありませんでしたが、いまでも記録ではなく記憶に残るゲームとして、覚えてもらっているようです。
Twitterで、『アストロノーカ』20周年のツイートをしたら、4000いいねとかついたんですよ。
『ドラゴンクエストX』とか『ニーア オートマタ』でもなかなかない数字です。あなたたちはどこに隠れていたんだっていう(笑)。
――それだけの皆さんの印象に残っていたゲームだったんですね。
AIにこだわっていた訳ではなくて、面白そうなこと、人がやっていないことをやっただけです。
それこそ『クロスゲート』というオンラインゲームを作った理由も同じです。
当時のMMOといえば、海外産の『ウルティマ オンライン』か『エバークエスト』しかないような状態だったのですが、ある日、日本で真剣にオンラインゲームを作っている会社が大阪にあるという記事を新聞で読んだんですね。
すぐに当時の社長の福嶋康博と、部長の本多圭司に話をつけて、新幹線に乗って大阪に行きました。
現地でその会社と話したら、真剣にやっているし面白いことをやっている。なんせスタッフが若い。
当然技術的には海外の先行作品に勝てないんですけど、これを商業ベースに乗せたらすごく面白いだろうと思って、2年がかりで会社を口説きました。
なんでそんなに時間がかかったかというと、エニックスがパソコンゲームを作らなくなって久しかったんですよね。
営業ルートもなく、ビジネススキームがなかったんです。
いまでこそサブスクリプションとか従量課金とかあるんですが、当時はなかった。
だからビジネススキームをどう作るんだっていうところからスタートしました。
獣道を踏み固めて、後ろから来る人に「この道は大丈夫だぞ!」っていうのを常にやりたいんです。
――直近では、オリジナルタイトル『ニーア オートマタ』が大ヒットされましたね。
『ニーア オートマタ』はたまたまバズったというか、予想しない結果でしたね。
当初、赤字は作らないけどトントンくらいでいいんじゃないかということで、新しいことに挑戦したゲームだったんですよ。
私は別にヒットメーカーではなくて、新しいことに挑戦したものをなんとか黒字化して、あとに続く人に道を示すのが好きなんです。
もしかしたらですが、大ヒットを目指して10本作るより、絶対に赤字にならないを目指して10本作ったほうが、結果的に大ヒットする可能性があるのかもしれません。
■齊藤氏の思うプロデューサーとは
――齊藤さんは『ドラゴンクエストX』から露出が増え始めましたよね。『ドラゴンクエストX』を盛り上げる中で、特に気を付けたことを教えてください。
Windows®版が出るタイミングで、一番お客さまに近い形でできることは何だろうと考えました。
ゲームをプレイするPCは、当然ニコニコ生放送を見られる環境でもあるので、当時のドワンゴの会長だった川上さんに相談して、『ドラゴンクエストXTV』という形で定期的に放送をやらせてもらえないかということを話しました。
川上さんとは20年来の付き合いもあったので、快諾いただけましたよ。
あとは、作っている側が上から目線になりがちだと、どうしても距離感が出てしまう。
決してそうではないんですが……。
それを避けるために自分たちもプレイして、面白おかしく遊ぶことで、お客さんと同じ目線で会話できるようにしようとはしました。
もちろん忙しかったんですが、そこは必死でプレイしてある程度強くなった。
やっぱり下手くそだと面白おかしくプレイするのって難しいので、見ている人に面白さが伝わるくらいにはなろうと、夜な夜な練習していましたね。
――齊藤さん以外のスタッフも、『ドラゴンクエストX』を夜な夜なプレイしているんですか?
「遊ばないとお客さんの気持ちは分からないよ」とは言いましたが、強制はしていません。
別に『ファイナルファンタジーXIV』でも、他社のMOでもMMOでも、遊べば何かしら得られるものはある。
だから『ドラゴンクエストX』にこだわる必要はないけど、同ジャンルのものはやっておいたほうがいい、とは話していました。
――『ドラゴンクエストX』の開発チーム内で齊藤さんが取り組んだことがあったら教えてください。
開発スタッフと、吉田直樹チームと、他の部署からも人が集まって、バスケットボールをやってました。
私なんかはバスケよりその後の飲み会がメインだったんですが、体動かしたいメンバーを誘って、中学校の体育館を夜借りて。
あとは『モンスターハンター』が流行っている時に、好きな人間で集まってBARを借し切って遊んだり、天ぷら船を借りてみんなで宴会したり、家族も呼んでBBQをやったり、そういうコミュニケーションは取っていましたよ。
ただ「興味ないです」って人を連れ出してもいいことはないので、行きたい人だけで。
とはいえ同じことの繰り返しはつまらないですし、一応多方面色々やっていました。
多分『ドラゴンクエストX』が初の大規模な社内開発だったので、コミュニケーション的なロスがないようには気を付けてやっていたんだと思います。
エニックス時代はずっとアウトソーシングでやっていたので。
――コミュニケーションを重視していたんですね。
そうですね。
ただチームってプロデューサーのチームじゃなくて、監督のチームなんですよ。
映画作るときもそうだし、ジブリだって鈴木敏夫組じゃなくて、宮崎駿組じゃないですか。
やはり開発におけるレポートラインの一番上はディレクターであるべきだと私は思っています。
――ではプロデューサーの一番大事な仕事というのはなんでしょうか。
プロデューサーとして、最終的に何を大事にしているかというと収支ですよ。
赤字にしてしまった場合「儲かります」って嘘ついて会社にお金を出させたことになる。
だから最後に黒字化するところが、プロデューサーの一番大事にすべきところです。
コミュニケーションとか、スケジュール管理とか、クオリティコントロールとか、そういうのをやるのは当たり前のことで、全部過程なんですね。
赤字で出したって誰も幸せにならない。そこをちゃんとやるのがプロデューサーの仕事だと思います。
つまらない仕事ですよね(笑)。
■齊藤氏のこれからの飛躍
――齊藤さんは現在、ゲーム以外にも活躍の場を広げていらっしゃいますよね。齊藤さんがプロデュースしているVtuberアイドル、『GEMS COMPANY』(ジェムズ カンパニー 以下ジェムカン)(※別注2)について、教えてください。
スクウェア・エニックスはゲーム会社だと思われることが多いけど、出版部門があって漫画やアニメもやっているし、AI関連で三宅陽一郎がいろんなところに顔を出して講演している。
総合エンターテイメントの会社です。
本当はもっと前にやりたかったけど、忙しかったのでできずにいたのですが、『ドラゴンクエストXI』の発売後そこのスタッフに手伝ってもらい、今の技術でどこまでいけるのか始めたのが最初の経緯です。
もともとはリアルタイムで動く初音ミクを作りたくて始めたものが、みんなの求めていたものと、技術的なタイミングが重なって、『ジェムカン』という形を得たんです。
たまたまVtuberの波があったからその一部に見えますが、私の中で、実はまったく違うところからスタートしているんですよ。
『ジェムカン』を始めてから、ゲーム作っているだけだと来ないメディアさんからの取材も多くて、やって良かったと思っています。
今年の新入社員からも、『ジェムカン』見てますと言ってもらえて、やっぱり良かったなと。
――『ジェムカン』の人気の理由はどこにあるのでしょうか。
もともとVtuberが前提じゃなかったんで、女の子の格好が普通だったんですね。
普通の子が雑談配信をしていて、その子たちが実はアイドルで、ステージに立ったら舞台衣装を着ているという流れだった。
だからいまのファンタジー寄りなVtuberのメインストリームとは、上手く差別化できたのかなと思います。
リアルなアイドル好きにも喜んでもらえるような振り方で、Vtuberファン以外にも届いているのかな。
――コンセプトがしっかり刺さった形なんですね。
まずはコアなファンを作ること。すべてのコンテンツはコアなファンがいないと広がらない。
だからまずはそこの人たちにちゃんと喜んでもらえるものを、と考えて作っています。
『ジェムカン』は普段の放送はVtuberではなくて、ニコニコ生放送の『VRadio~JAM GEM JUMP!!!~』の時だけVtuberだったんですよ。
要するに普段は違うアプリで配信していて、生放送の時だけVtuberのフォーマットでやっていたんですね。
何を言ってるのか分からないかもしれませんが(笑)。
生放送中にヘッドマウントディスプレイを外して、抜け殻のようになっている姿を見せるとか、結構無茶をやってました。
今度のニコニコ超会議ではライブイベントをやらせていただくので、そこはそこで面白いことができると思います。
初めて12人が全員登場する楽曲の、フルバージョンを出させていただきます。
――『ジェムカン』の単独ライブが6月末に決まりましたね。おめでとうございます!
ありがとうございます。
「初めはなんの後ろ盾もなしで、ステージに立っている女の子よりお客さんが少ないってところからスタートして、今があるというのはものすごい萌える」と思うので、始めた当初は『ジェムカン』もそれでいいと思っていたんです。
まさにAKB48の最初期みたいなイメージです。
世間の注目度とかVtuberカテゴリの追い風とかあって、単独ライブではまぁまぁ人が来てくれると予想はしているのですが、箱が埋まらないくらいのほうがこれを埋めようってステップもあるし……。
悩ましいんですけど、みんな頑張ってるから埋まって欲しいなという気持ちもありつつ、最初は半分くらいで、何回かやることで箱を満員にできたらいいねってくらいでもいいかなと。
申し訳ないのは、普段リアルタイムで見てくれている地方の方々ですね。
今回、横浜での開催なので、なかなか来られない方もいる。
年齢層見てみると、普段の放送は10~20代の方が多いのですが、その方々に交通費と宿泊費使ってぜひ来て下さいともなかなか言い辛いですね。
――要望増えたらライブビューイングの可能性もあるのでしょうか。
今回は初めてってこともあったのでやっていません。
あとはDMM VR THEATERは、いわゆる立体視を前提にしているシアターなので、映像にしてしまうとなかなか伝わりにくいかなってところもあった。
後々は、全国・全世界から見てもらえる状況も当然考えていく予定です。
今回に関しては生で見て欲しい。
未来を感じるものになるはずなので、可能ならぜひ見に来てください。
――『ジェムカン』の活躍の場が、今後さらに広がりそうですね!新規タイトル開発では、何か今後の動きはありますでしょうか?
新規タイトル『バビロンズフォール』については、今年中に何かしら皆さんにお知らせできるといいなと思っています。
『バビロンズフォール』は『ニーア オートマタ』(以下ニーア)の開発中に、これを作りたいなと構想していたもの。
ターゲットしているメイン層はニーアとは違うところなのですが、もちろんニーアのファンの方にも楽しんでいただけるものにはしたいと考えています。
――他にも複数の新規ゲーム開発に携わっているとお伺いしましたが、そちらについて何かお聞きすることはできますか?
今はグラフィックがすごいゲームが多くなってきていますが、私が今作っているものの1つは、「すごくないグラフィックのゲーム」(笑)。
詳細はまだ話せませんが、楽しみにしててください。
懐かしいけど、新しいゲームになってるはずです。
■若いうちに多くの人と会って刺激を受けるのが大事
――齊藤さんにあこがれて、ゲームプロデューサーを目指す若手ゲームクリエイターは多いと思います。齊藤さんになるには、何が必要なんでしょうか?
時代が違いますよね。
私たちの時代、ゲーム制作はホワイトカラーだけどブルーカラーみたいな仕事だった。
努力と根性でやっていたんですよ。
でも今はそういう時代じゃないから、私みたいな道を辿るのは難しいし、おすすめしません。
うーん……ステレオタイプなことしか言えませんが、ゲームを作っているからゲームばっかりやればいいという話ではないと思います。
若いころ時間さえあれば外に飲みに行っていましたが、相手はゲーム業界の人間じゃありませんでした。
映画監督だったり、TVの制作だったり、AV男優だったり。
いろんな人と会っていろんな刺激を受けることが、新しいことを面白いと思うきっかけにもなる。
……ただ、ゲームが好きではいて欲しい。
自分が遊ぶもの、体験するもの、日々触れるもののなかで、せめて3本の指に入っていて欲しいとは思います。
――ずばり、どんな方にスクウェア・エニックスに入社して欲しいですか?
新しいことをやりたいなって方に来て欲しいです。
東証一部上場していて、ちゃんとした会社だなって思って来てくれるよりは、新しいことにチャレンジしたいと思って来てほしいなとは思いますね。
他人がやっていることをやっても、想像つくじゃないですか。
もちろん、なんでもかんでもやればいいってことじゃなくて、可能性がある!と思うことしかやってないんですけどね。
――可能性があると思うことというのは、具体的には何でしょうか。
自分が楽しいと思えるものですね。
自分が楽しいと思えないもので楽しいものを作れるわけがない。
私と感性が違ってもいいけど、「これは面白いんです」って、私が駄目だ駄目だって言っても、「いやこれは面白いんです!!!」って、目を輝かせて言う人がいいですね。
スクウェア・エニックスでは、アシスタントプロデューサーとしての採用もしてますけど、最初はゲームクリエイター目指そうよとは思います。
私もスーパーファミコンで作っていた時は、自分で仕様を書いたり、データを打ち込んでいたりしていましたからね。
その状態って本当はよくないんですけど(笑)。
やっぱゲームを作ってるほうが楽しいじゃん!ってのをやってもらって、30歳くらいのタイミング、私もそうなんですけど「世の中には自分よりも面白いものを作れる人がいるんだな」って思ったタイミングで、作り手側じゃなくてそれを支える側に回ろうと思ったので、全然それでもいいんじゃないのとは思ってます。
もちろん大きな目的があって、どうしても最初からプロデューサーになりたいって人を止める気はないけど、いやぁゲーム作ってるほうが楽しいよとは思うので、それだけは言っておきます。
あとは、開発の現場を知っておくのはすごく重要ですし。
――最後に、読んでいる人へのメッセージをお願いします。
自分がやりたいことをやってください。
一度きりしかない人生です。
私にもあの時やっとけばよかった、なんて後悔が山ほどあります。
ゲームの仕事が楽しいことばかりなんてありえないです。
みんなが楽しんで遊んでくれる作品こそ、それに比例して生みの苦しみがあるというのが、この業界の摂理だと思います。
どうせ苦しいなら、やりたいことをやりましょう。
――ありがとうございました。
※別注1:森川さん とは
『アストロノーカ』ゲームデザイナーを当時担当し、現在はモリカトロン株式会社、代表取締役兼AI研究所所長の森川幸人氏のこと。
※別注2:GEMS COMPANY とは
YouTubeとニコニコ生放送での配信を通して出会った12人の女の子。 共通するのは、それぞれが叶えたい夢があること! アイドル・歌手・声優などを目指す、個性豊かな彼女たちのチャレンジを応援してください!
【GEMS COMPANY公式チャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCBvICYXxPK8PkoocBGnmeHA
【GEMS COMPANYが出演するニコニコ超会議ステージの視聴URLはこちら】
https://live.nicovideo.jp/gate/lv319144780
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