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難しいほど面白い?『Getting Over It』にみるプランナーが考えるべきゲームの作り方


導入:最近のゲームのトレンドは、説明書がいらないほど充実したチュートリアルや操作性と、少しづつゲームに馴染めるような易しい難易度設定の導入です。

 

しかしながらインディーズゲームである『Getting Over It』はそのトレンドの真逆を行く高難易度のゲームとなっていながら、多くの話題と高いセールスを記録し、PC版のみならずiOS版もリリースされるに至りました。

 

誰もクリアできないような、いわゆる「鬼畜ゲーム」の面白さとは、どのようにして生まれるのでしょうか。

 

【1】『Getting Over It』について

『Getting Over It』は、端的に言えばハンマー1つでひたすら崖を登っていくシンプルなゲームです。

ただその見た目からは予想もつかないほどの難易度と、壺を住処にする男が主人公という独特の世界観は、多くの反響を呼びました。

 

Youtuberもヒットに貢献

2017年の10月に発売されたこのゲームは、Windows、Mac OS、そしiOSとあらゆるプラットフォーム向けに同日リリースされました。

 

そして同年12月にSteam、翌年2018年の4月にはAndroid版も発売され、総プレイヤー人口は270万人を超える大ヒットゲームとなったわけですが*1、1つにはやはりマルチプラットフォームで展開されたことがヒットの理由としてあげられるでしょう。

 

少しでも多くの人にプレイしてもらうためには、誰でも遊べる環境を提供する必要があります。

『フォートナイト』や『マインクラフト』はその好例ですが、技術的な難易度から実現には困難が伴うことも少なくありません。

 

人員と予算の制約が多いインディーゲームの制作現場において、このようなゲームプレイング外の施策にコストを割くことは、特に難しいのが現状です。

 

しかしそれでもGetting Over Itはそれを実現したわけですが、マルチプラットフォーム対応のメリットを最大限活用できたのは、YoutuberやTwitch配信者といったゲームストリーマーたちが、こぞってこのゲームを取り上げたことによるものが大きいでしょう。

 

一見簡単そうに見えるこのゲームをとても難しそうにプレイする様子は、視聴者の「自分もやってみたい!」という欲求を刺激し、SteamストアやApp Storeへと導いていったのです。

 

もしこのゲームがWindows限定で動作するゲームであれば、Win機を持たない視聴者はプレイできなかったわけですから、視聴者のチャレンジ精神を煽る高難易度のゲームと、マルチプラットフォーム対応はとても相性の良い施策だったと考えられます。

 

その難易度と世界観に文学的な解釈も試みられる事態に

Getting Over Itはその純粋な難易度によって話題を産んだだけでなく、あまりの難しさから文学的・哲学的な解釈が与えられるようになったことも異例のケースでした。

 

ゲーム中、プレイヤーはハンマー1つで崖を伝っていくわけですが、その道中にセーブポイントはありません。

 

そのため基本的には滑落すると運が良ければ道中へ、大抵の場合はスタート地点まで戻されてしまうという仕様となっているのですが、滑落中や難所をなかなか超えられないプレイヤーへの手向けとして、含蓄のある言葉がアナウンスされる仕掛けが導入されています。

 

先に何があるかもわからない崖をひたすら登り続けるゲーム性と、時折聞こえてくる哲学的なアナウンスはプレイヤーに神聖な気持ちを引き起こし、ゲームを超えた芸術作品としての解釈を促すことになりました。

 

ゲームメディアの電ファミニコゲーマーでも「Getting Over Itから人生やゲームプレイイングの意味を問う」といった趣旨の文章が公開されており*2、ただ遊ぶだけにとどまらない作品として昇華に成功している様子が窺えます。

 

【2】ゲーマーの間で評価される高難易度ゲーム

実は『Getting Over It』のみならず、最近の人気ゲームには軽々とクリアさせてくれない、高難易度設計となっているものも多く見られます。

 

コミカルな描写と高難易度で話題を集めた『Cuphead』

Getting Over Itの前に話題になった激ムズインディーゲームといえば、Cupheadがあげられます。

こちらはクラシカルでどこか見覚えのあるキャラクターたちが活躍する2Dスクロールシューティングですが、やはりそのソフトな印象とは裏腹な難しさから話題を集めました。

 

https://store.steampowered.com/app/268910/Cuphead/?l=japanese&cc=ru

 

残念ながらスマホ版では販売されていませんが、Win,Mac OSでの好評を受け、Xboxやニンテンドースイッチ版でのリリースも行われることになった出世作品です。

現在も新規コンテンツの開発が続けられており、まだまだその人気は長引くことになりそうです。

 

https://ec.nintendo.com/JP/ja/titles/70010000016331

 

海外からの評判も高い「ダークソウル」シリーズ

こちらもスマホ作品ではありませんが、近年の国内産のゲームとしてはかなり高い評価を海外で受けている人気アクションシリーズです。

https://www.darksouls.jp/

 

内容は3Dアクションゲームなのですが、初見プレイであれば間違いなく回避できないような罠や、異常な強さの敵キャラクターが序盤に現れるなど、硬派な仕様が話題になりました。

 

最近ではそんなダークソウルの意匠を受け継いだ和風アクション『SEKIRO』がリリースされ、ハードな難易度でありながら国内外を問わず広くプレイされています。

 

https://www.sekiro.jp/

 

ゲームのやりごたえだけでなく、作り込まれた世界観やマルチプレイヤーも評価されている点が大ヒットを記録した要因といえるでしょう。*3

 

【3】作り手のセンスが問われる難易度設定

難しいゲームが産む中毒性は、万人を虜にする謎めいた魅力があります。

しかしこの高難易度設定も、難しければ難しいほど良いというわけでもないため、うまく遊んでもらうためには工夫も必要です。

 

難しいゲームを作るのは「難しい」

ゲーマーを虜にする「難しさ」を作るのは、ゲーム作りに携わるクリエイターの力量が試されるシーンでもあります。

 

最適な難易度に調整するためのセオリーは1970年代から研究されてきたとも言われていますが*4、少なくとも誰でもクリアできるゲームを作るよりはるかに時間のかかる作業とされています。

 

難しすぎて誰もクリアできないのでは遊ぶ人はいませんが、かといって易しすぎてはプレイヤーに感動を与えることはできません。

どのくらいのデザインが世間一般的に「難しい」のかといった評価基準も、開発者だけで考えていては客観性を損なってしまいやすいため、時間と人の手をかける必要があるのです。

 

作り込めば作り込むほど平衡感覚を失ってしまいやすいため、作り手のデザインセンスが問われる分野なのです。

 

【4】おわりに

魅力的なキャラクターや作り込まれた世界観、美麗なグラフィックは確かにプレイヤーに感動を与える要素ではありますが、Getting Over Itの例を考えると、ヒットに欠かせない要素であるとは言いがたいものがあります。

むしろプレイヤーを虜にする絶妙な難易度設定を徹底することで、Getting Over Itのような無茶苦茶な世界観でも大ヒットを記録できることの方が、個人でゲームを開発するクリエイターにとっては注目に値すると言えそうです。

 

出典:
*1 Austin Wood “QWOP successor Getting Over It is now available on Steam” PC Gamer Dec.06.2017
https://www.pcgamer.com/qwop-successor-getting-over-it-is-now-available-on-steam/
*2 藤田祥平 「“壺男”としてブームを起こした『Getting Over It』は何をプレイヤーたちに示したかったのか? 絶望の放物線が重なる“先”を今振り返る」電ファミニコゲーマー Jul.10.2019
https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/190710a
*3 Damien McFerran「『Dark Souls』がゲーマーのソウルを奪う理由」RedBull Mar.8,2018
https://www.redbull.com/jp-ja/why-hardcore-gamers-love-dark-souls
*4 遠藤雅伸「ゲームを面白くするコツ 第5回『ちょうどいい』と感じる難易度調整」Apr.28.2017
https://gihyo.jp/lifestyle/serial/01/game-interesting-knack/0005

ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

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