ゲームUXとは?ユーザーにとっての“楽しい”を設計するためのポイントを知る
ゲーム開発に関して、「UIデザイン」の重要性は以前から語られてきましたが、近年「ゲームUX」を重視する動きが広がっています。しかし「そもそもUXってなに?」という人もまだ多いですし、「なんとなくわかっているけど説明はできない」という人も少なくないでしょう。
そこでこのコラムでは、まずゲームUXとは何かを紹介し、近年重要視されるようになった意味や改善のためのプロセスなどを解説します。
1. ゲームUXとは?
「UX」はユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略語であり、日本語では「ユーザー体験」や「使用感」と訳される英熟語です。
一方、工業的には国際規格のひとつであるISOで「製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚や反応」と定義されています。
そのため「ゲームUX」は、ゲームを通じてプレイヤーが体験するすべてを示しており、「ゲームUXデザイン」は、ゲーム体験をデザインすることを指します。
1-1. ゲームUIとUXの違い
UIとはUser Interfaceの略語で、ゲームUIはタイトルやメニュー画面、操作ボタンなどユーザーが直接触れる部分を指します。ゲームにおけるUIデザインはわかりやすさや操作のしやすさなど、ゲームプレイ時の体験を左右します。
一方、体験のすべてを扱うUXデザインは、ゲーム発売前の期待感やプレイ中に得られる感情、プレイ後の感想等、プレイ以外のことまで考えるため、影響を与える範囲が大きく異なります。
さらに、UXデザインには課金に無理なく誘導することや、ブランド価値の向上などを含められることもあるため、企業としての利益や長期的戦略に関連する面もあります。
1-2. ゲームUXの定義と他業界との違い
ゲームや家電、日用品など、商品やサービスを提供して利益を得るビジネスでは、UXは商品やサービスを手にとってもらうことから始まります。また、使用によるメリットや心地よさ、面白さなどもUXの一部ですし、使用後の感想や繰り返し利用してもらうためにデザインすることも、業界を問わないUXデザインの役割です。
ただし、家電や日用品はユーザーにとってのプラスの感情を提供することに注力されますが、ゲームの場合クリアの快感を与えるために、クリアできない悔しさなどを意図して盛り込まなければなりません。そのため、故意に負荷をデザインする点でゲーム業界のUXは他業種と大きく異なります。
2. なぜゲームでUXが重要視される?
この項目では、UXがゲームにとってどれほど重要なものかを解説します。
2-1. ゲームの「面白さ」と没入感を左右するから
ゲームのUXが重要視されるのは、UXデザインによってそのゲームの面白さや没入感が大きく左右されるからです。
ゲームの面白さはシナリオの面白さと考えられがちです。しかし、ヒットするゲームの多くは世界観とどのような面白さを提供するのかがまず整理されていて、その世界観や面白さを実現するためのシナリオが作られます。
また、ゲームの面白さや没入感はルールやキャラクターデザイン、操作性など多くの要素に左右されます。この点も、ゲーム開発におけるUXデザインの重要性をアップさせています。ゲーム開発に先行してUXデザインを行うことで、要素ごとのばらつきが減り、面白さと没入感が追求しやすくなるからです。
2-2. エンゲージメント・課金・継続率にも影響を及ぼすから
ゲーム開発ではUXデザインが、エンゲージメントや課金の量、継続率に大きく影響を与えます。特に基本無料のオンラインゲームの場合、まずダウンロードのハードルがあり、その後プレイしてもらって課金に繋げるためのUXデザインが必要です。
ゲームに触れ、しかもプレイを続けてもらうには、世界観にあったデザインによる誘導が重要です。たとえばサバイバルホラーゲームである「Dead by Daylight」は、公式サイトやダウンロードページのデザインがダークなカラーでまとめられ、緊張感や不穏さがちりばめられています。ユーザーを呼び込む入り口から世界観を重視することで、狙ったユーザー層を呼び込み、期待させることができます。
一方「ポケモン」や「マリオ」であれば、年少者も呼び込みたいので、恐怖感や威圧感は盛り込まれません。
また、プレイ中に無理なく課金に誘導するには、課金による強化やクリアしやすさを盛り込む手法が多いです。しかし、Pay to Win(課金するほど強くなる)の傾向が過剰になると重課金ユーザーしか残らないため、微課金ユーザーにも喜びや快感を提供しなければなりません。
3. ゲームUX設計で重視すべき要素
ゲームにおけるUXデザインで重視される要素をひとつずつ解説します。
3-1. シグナルとフィードバック
ゲームのUXにおいて、「シグナル」とは画像や音による演出を指します。たとえばバトルの勝利やレアアイテム獲得の場面では視覚的に光や星を描いたり、音で明るさや達成感を感じさせたりします。
敗北時や残念な展開であれば、画面が暗くなったり、失望や悲しみを感じさせる音を挿入したりします。また、文字や音声による状況伝達もシグナルの一種です。
一方、フィードバックはユーザーの行動に対する反応です。たとえばボスキャラの討伐などゲーム上の課題を果たせば、レベルアップしたり育成が進んだりするのがフィードバックです。もちろん敗北すれば育成や報酬獲得などの目的が達成できませんし、ゲームによっては獲得したアイテムやゲーム内通貨を失うなどのペナルティが設けられる場合もあります。
シグナルとフィードバックはゲームへの没入感を高めるだけでなく、継続してプレイする意識を高めることに貢献するので非常に重要です。
3-2. オンボーディング
オンボーディング(on boarding)は乗り物などに載っていることを意味するとともに、企業などの新人研修やオリエンテーションを指す言葉です。ゲームにおいても、チュートリアルなどの導入説明に関して、オンボーディングという言葉が利用されます。
UXデザインを行う場合、チュートリアルを含むゲームの導入部は非常に大きな意味をもちます。企業に就職した新人なら導入教育が多少わかりにくくてもその日に会社を辞めたりしません。しかしゲームは娯楽ですから、わかりやすさや面白さがなかったり、快適性が不足したりすると、数分で辞めてしまうこともあり得ます。
つまり、ゲームでは最初の体験が継続率を決めるカギとなるので、ユーザーの心情を踏まえてデザインすることが非常に重要です。
3-3. ユーザビリティ
ゲームのユーザビリティとは、操作性が良く、ストレスなくプレイし続けられることを指します。ここで重要なのは主として人間工学に基づくUIデザインです。直感的なわかりやすさや不快感のなさに対する配慮を欠いたゲームは、連続してプレイされることはありません。
3-4. バランスと達成感
ゲームのUXを考える場合、難易度のバランスと達成感を重視する必要があります。クリアできないことがゲームへの集中を高め、クリア時の達成感に繋がりますが、難易度が高すぎるとストレス過多でやる気がそがれます。そのため難易度のバランス設定は非常に重要です。
またゲームが進めばプレイヤーのスキルが上がるため、進捗に応じて難易度を上げていくことも欠かせません。これを踏まえて、チャレンジと報酬の最適化を丁寧にデザインしましょう。
3-5. エモーショナルデザイン
ヒットするゲームを作るには、新しさや驚きを盛り込む必要があります。また没入し続けられる世界観やプレイのしやすさが重要ですし、面白さや感動、恐怖や緊張などを設計することがユーザーの満足感に繋がります。このため、ユーザーの感情を踏まえたゲームデザインをするよう心がけましょう。
4. ゲームUX改善のプロセス
ここでは、ゲームUXを改善していく手法を解説します。
4-1. プレイテストとユーザーインタビューの実施
ゲームは総合芸術的要素が強いので、開発後のプレイテストを経なければUXのブラッシュアップはできません。操作性が意図したレベルに達しているか、失敗、リトライ、達成感のサイクルができているかをテストで確認し、またユーザーインタビューで生の声を知ることも重要です。
4-2. ABテストとKPIによる評価
ABテストとは、ふたつ以上のバージョンを用意して、面白さや操作性などを比較する手法です。これによって最適解への客観的データが得られますし、ゲームが全く受け入れられないリスクを回避できます。さらに、継続的に改善していけるのもABテストの大きなメリットです。
KPIはKey Performance Indicatorの略語で、重要目標達成指標と訳されます。顧客数×顧客単価や、課金者数×課金者一人当たりの顧客単価などで売上を分析したり、1日あたりの課金ユーザー数を確認したりすることで、利益面での評価がしやすくなります。
4-3. 継続的なバージョンアップとデータに基づく修正
オンラインゲームはバージョンアップを繰り返しながらユーザーを飽きさせずにプレイを続けてもらう手法を取っています。そのため、バージョンアップに対する評価を常に確認し、必要に応じた修正を施すことが、長期的に利益を得続けることに繋がります。
5. ゲームUXの成功事例
この項目では、ゲームUXを行ったことによる具体的な成功例を紹介します。
5-1. スーパーマリオ
初代「スーパーマリオブラザーズ」は、左から右へ進むことを特徴とするゲームです。現在ではそのスタイルは当然のものとなっていますが、初代発売時にはまだ知名度がありませんでした。そのため、導入部分の画像は、「このゲームは左から右に進む」という基本ルールを伝えることに注力されています。
この事例はゲーム導入部の重要性を理解するためのわかりやすい例と言えるでしょう。
5-2. フォートナイト
フォートナイトの開発時には、ゲームを楽しむためにユーザーが学習すべきことを徹底的に洗い出し、その優先順位をつけていったそうです。これによってチュートリアルが最適化され、ユーザーの動機付けも明確となり、ユーザーがゲームから脱落していくことが防止しやすくなりました。
フォートナイトが世界的ヒットタイトルとなった背景には、上記のようなUXの取り組みがあったわけです。
6. まとめ
ヒットするゲームを開発するには、UX(ユーザーの体験)を考慮してデザインすることが欠かせないと言われています。このコラムでは、ゲームUXの意味や要素、改善プロセスなどを細かく解説していますので、繰り返し読んでいただくことで、ユーザーの体験を適切にコントロールするゲーム開発ができるようになることと思います。
ぜひUX設計をしっかり理解して、スーパーマリオやフォートナイトのような世界的ヒットタイトルを目指しましょう。
ゲーム業界経験者が転職するなら
GAME CREATORSを運営しているリンクトブレインでは、ゲーム業界に特化した転職エージェントサービスを提供しています。
ゲーム業界に精通したコンサルタントが、非公開求人を含む3,400件以上の求人の中から、あなたの希望や適正にあった最適な求人をご紹介します。
あなたの転職活動を成功に導くためにサポートいたしますのでお気軽に登録してください!