『風ノ旅ビト』に学ぶ、ゲームの3DCG製作という仕事の重要性
今やスマートフォン向けゲームアプリにも、PC版から移植されてきたハイスペックなソフトとしてリリースされることも珍しくなくなってきています。
『風ノ旅ビト』もまたPC向けに開発された、独特のグラフィックが話題となったゲームですが、スマホ移植版の評判も決して悪くはありません。
目次
ダウンロード専売の『風ノ旅ビト』
本ゲームにはパッケージ版はなく、当初はいわゆるネット上の口コミで話題となったゲームでした。
ひたすら歩き続ける主人公
風ノ旅ビトは、2012年にPlaystation3向けとして、ダウンロード専売でリリースされたゲームでした。
原題は“Journey”という名前で、その名の通り無限に広がる砂漠を、ただひたすらに歩いて旅をするという、賑やかなアクション性やドラマティックな展開とは無縁の作品です。
ただ歩くとはいっても基本的には謎を解きながら先へ進んでいくというパズルアクションの形式が採用されており、オンラインに接続されていると、別の「旅ビト」に出会うこともあります。
そのプレイヤーが誰なのか、ということを知るすべは一切なく、どこで出会うのかもわかりません。
しかし協力することで幾分難易度が下がる謎解きも存在するため、自然と協力関係が促さられるようにデザインされています。
対戦要素もこのゲームには含ませていないため、あくまでもシングルプレイでコツコツと楽しむことがメインとなるゲームです。
サウンドトラックはグラミー賞候補にも
このように特殊な世界観が強調される風ノ旅ビトですが、ダウンロード専売という当時としては偏った戦略であったのにも関わらず、ゲーム界のアカデミー賞とも言えるGame Developers Choice Awards(GDC Awards)において、2013年に6部門ノミネート、そして全て受賞という偉業を達成しました*1。
パッケージ版も販売されているAAA級タイトルが並ぶ中での受賞ということもあって、このニュースは大きな話題を呼ぶこととなりましたが、その評価はゲーム業界に止まりませんでした。
GDCにおいても高く評価されたサウンドトラックは、アメリカ最大の音楽の式典、グラミー賞にて、“Best Score Soundtrack For Visual Media”部門にノミネートされることになったのです*2。
サウンドトラック部門とは言え、ゲーム音楽がノミネートされる機会はそう多くありません。
惜しくも受賞は逃したものの、グラミー賞ノミネートというニュースもまた、界隈を騒然とさせる出来事でした。
『風ノ旅ビト』が評価される理由
それでは次に、なぜこれほどまでに本ゲームの評価が高いのかについて見ていきましょう。
質の高い「雰囲気ゲー」
当時、最新のスペックを備えたPS3向けに作られていたゲームでしたが、ダウンロード専売であったことからもわかるように、大きな資金を投じて作られていたゲームではありません。
それどころかゲーム会社は、開発の道半ばで倒産していたという話まである作品です*3。
そんな紆余曲折を経ながらリリースされたこの作品の優れた点として、まずテキストをほぼ完全に廃した点が評されています。
画面上のあらゆる表現はコミカルかつ美麗なグラフィックに集束してしまい、情報過多に陥ることなく、独特の世界観を十分に堪能できるよう設計されています。
一般的なゲームはユーザビリティを意識しすぎるあまり、どうしてもテキスト情報が増えてしまったり、スペックをフル活用しようとごちゃごちゃとオブジェクトを詰め込んだり、背景を作り込み過ぎたりしてしまいがちです。
その逆転の発想でデザインされたゲームで、プレイヤーに必要最低限の情報でどれだけその世界に没頭させ、充実感をあたえるかというミッションに成功したゲームなのです。
シンプルな操作
シンプルな世界観を支えるのが、シンプルな操作性です。
基本的なプレイヤーキャラの移動と視点の移動、そしてアクションボタンと飛行という4つから成り立っており、マニュアルがなくとも感覚的に理解できる操作を実現しています。
3Dのアクションゲームはついつい複雑な操作になることも多いものですが、今作ではそのようなケースに陥ることもありません。
そしてこの簡素な操作感は、スマホ版にも継承されています。
複雑な操作が必要なゲームはスマホ移植が難しくなってしまうのですが、風ノ旅ビトはこの点もクリアしていることから先見性の高いゲームであったと考えることもできます。
美麗な3DCGがもたらすハイクオリティなゲーム性
シンプルな世界観と操作性は、ゲームそのものを簡素で浅いものにしてしまいかねません。
しかし本ゲームがそうならなかったのには、ハイクオリティなグラフィックがあったことが大きいでしょう。
『風ノ旅ビト』が単なる雰囲気ゲーで終わらなかったワケ
このゲームのグラフィックは、いわゆる現実の世界を模したリアリティを追求するものではありません。
むしろその作品をゲームの世界と割り切り、コミカルな方面でのビジュアルの追求が行われており、これが独特の没入感を生む最大の仕掛けとして作用していたのではないでしょうか。
2017年に発売されたニンテンドースイッチ向け作品、『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド』も、次世代機のスペックをフル活用したグラフィックが話題となりました。
しかし同作でも、安易な写実性ではなく、「その世界観におけるリアリティの追求」が行われた点が強調されています*4。
風ノ旅ビトはこのようなグラフィック追求の先駆者とも言え、当時のゲームクリエイターに与えた影響は計り知れないものがあったように思えます。
美しいグラフィックはゲームの表現に直結
映像作品としての評価は、もちろんそのストーリーの完成度の高さもあってのことなのですが、未プレイの人に与える感動の比重を考えると、やはりビジュアルの質の高さが大きかったと見ることができます。
写実的な美しさではなく、「ゲーム世界」を構築する上での非写実的な美麗さを追求し、「人を感動させるグラフィックはかくあるべき」という指南をもたらしてくれました。
今やスマホでプレイできるほど身近なゲームとなった以上、ゲームグラフィックを追求したい人はプレイすべき一本となっています。
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おわりに
風ノ旅ビトがスマホへと移植されたことが話題になったのは、スペックでは家庭用ゲーム機やPCに劣るという下馬評を、その美しいグラフィックとスマホにマッチした操作感で覆した点にあります。
スマホでは確かに表現力に限界があるかもしれませんが、どれだけそのキャパシティを引き出せるかというのも、3DCGのプロフェッショナルの仕事であると言うこともできるでしょう。
併せて読みたい記事
→3DCG技術が活きる?作業ゲー『Perfect Slices』を作るという仕事
→詰め込みすぎたゲーム『Craftopia』は理想の設計と言えるのか
→『深世海 Into the Depths』に見る大手ゲーム会社の3DCGの仕事
出典:
*1:Doope 「第13回「GDC Awards」の授賞式が開催、thatgamecompanyの“Journey”がノミネートされた全部門を制覇し6冠を達成!」
https://doope.jp/2013/0326954.html
*2:4gamer.net 「「風ノ旅ビト」のサウンドトラックが第55回グラミー賞にノミネート」
https://www.4gamer.net/games/134/G013491/20121207058/
*3:Gamespark「『風ノ旅ビト』のデベロッパーthatgamecompany、じつは開発中に倒産していた」
https://www.gamespark.jp/article/2013/02/08/38779.html
*4: IGN Japan 『「ゼルダの伝説 BotW」ハイラル世界の3D表現を生んだのはアーティストとプログラマー、時間と空間の重ね合わせだった』
https://jp.ign.com/the-legend-of-zelda-hd/17049/news/botw3d
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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