見て楽しい、遊んで楽しい、スマホゲーム『Alphaputt』に見るプロの仕事


スマホゲームは誰でもゲームを作っては発表ができる分、そのクオリティもピンからキリまでといったところです。

 

しかし間違いなくスマホゲームの中でも一級の仕上がりを持つ『Alphaputt』は、ゲームクリエイターなら一度は遊んでおくべき作品となっています。

 

 

パターゴルフ主体のゲームである『Alphaputt』

今作は、基本はパターゴルフとパズルゲームを組み合わせたような内容となっており、その質の高さが第一の魅力です。

公式HP:https://sennepgames.com/alphaputt

 

アルファベットのコースを巡る

パターゴルフといえば、室内外を問わず遊べるファミリースポーツとして、現実世界でもポピュラーな遊びです。

 

『Alphaputt』はそんなパターゴルフをスマホゲーム化した作品ですが、単に現実のパターゴルフをスマホに移植するだけでなく、ビデオゲームならではの演出とゲームシステムが加えられており、全く新しいゲームとして楽しむことができます。

 

まずこのゲームでプレイすることになるコースは、すべてがアルファベットをモチーフにしたコースとなっています。

 

作品タイトルが「アルファベット(Alphabet)」とパターゴルフを掛け合わせたものとなっていることからもわかるように、全26文字からなるアルファベットのコースを1文字ずつクリアしていくのが主なゲームの進行プロセスとなります。

 

ロンドンに拠点を構えるデザイン会社、sennepが今作の製作にあたっていますが、彼らの哲学である「シンプルで美しく、人間の感情に訴えるデザイン」を体験できるゲームに仕上がっており、パターゴルフを通じたデザインアートとも言えるのが、『Alphaputt』なのです*1。

 

単なるゴルフにとどまらないパズル要素

パターゴルフが主役のゲームとはいえ、ゲームそのものは単なるゴルフにとどまりません。

 

基本的にはパターを使ってゴルフボールをホールに落とすというところが目的となっている今作ですが、その道中には様々な難所が立ちはだかります。

 

ボールの進路を阻む障害物や、ボール目掛けてやってくる別のボール、さらにはローラーコースターのような立体的なギミックまで、非常にそのアイデアは豊かです。

 

単なる邪魔な存在としてプレイヤーを阻害するオブジェクトは、多くのゲームにおいて登場しますが、『Alphaputt』における障害物は、プレイヤーに頭を使わせる障害としてだけでなく、視覚的に楽しませるためのギミックとしても機能している点が印象的です。

 

本来であれば疎まれる障害物が、むしろプレイヤーの満足度を直接高める作品として、このゲームにおいては登場しているのです。

この点については後述します。

 

パズル・ゴルフにとどまらないエンタメを提供する『Alphaputt』

パターとパズルを両方楽しめるだけでなく、それを上回る映像作品としての楽しさがあるのが、このゲームのもう一つの醍醐味です。

 

ミニチュアセットを楽しめる仕掛けが満載

今作では、各ステージのテーマに合わせた仕掛けが非常にディテールまで作り込まれた様子を伺うことができ、その作り込みの深さに驚く人も少なくありません。

 

アルファベットの数だけ存在するステージですが、例えばAであればAirport(空港)、SであればSushi(寿司)といった具合に、アルファベットに合わせたテーマでステージが構成されており、ステージごとに異なる強烈な個性を堪能することができます。

 

ステージごとに用意された様々なギミックは、それぞれ三者三様の働きを持っています。

Airportに設置されている旅客機は、滑走路を横切ろうとするプレイヤーのパターゴルフの壁として機能し、ドッジボール中のコートに侵入すれば、ゴルフボールは周囲からの集中砲火を受けます。

 

その機能性のみならず、各コースはミニチュアとしても高いクオリティを備えているため、まるで手のひらサイズの町並みを眺めるような感覚で、各ステージのディテールを楽しむことができるようにもなっているのです。

 

 

豊富な音源

ビジュアルデザインだけでなく、サウンドへのこだわりもしっかりと見られるのがこのゲームの良いところです。

 

一つ一つのステージのテーマが違えば、そこから聞こえてくる音も異なってくるはずです。

空港であれば航空機のエンジン音やアナウンスの声、遊園地であれば楽しそうなテーマパーク特有の感性やローラーコースターが駆け抜ける音、プールのあるステージなら水の流れる音など、一つ一つに多様な環境音が含まれます。

 

今作ではそれらの音声を正確に再現しており、ビジュアル以外のディテールにも配慮がなされている様子が窺えます。

 

このような細部へのこだわりは、並のインディーゲームにはできない、プロフェッショナルの仕事の証でもあると言えるでしょう。

 

 

『Alphaputt』はなぜ手元に残しておきたくなるのか

『Alphaputt』はついつい手元に残しておきたくなるというレビューも残されるほどの名作となっていますが、なぜこのゲームはそれだけの評価を受けているのでしょうか。

 

豊富な遊び心

細部まで作りこみが行き届いたミニチュアからもわかるように、このゲームはプレイヤーを楽しませようというデザインのみならず、作り手の遊び心もそこかしこにかいま見えるのが面白いところです。

 

スライド操作だけで遊べるシンプルなパターゴルフでも飽きがこないよう、一つ一つのステージで異なるテーマを構築しています。

さらに全26ステージ、すべてのステージにホールインワンのルートを用意している設計力の高さなど、どうすれば末長く遊んでもらえるかということに徹底した様子が窺えます。

 

面白いゲームを作るには、作り手が遊ぶ側の気持ちになって考える、エンターテイメント精神を旺盛にすることが大切なのです。

 

見惚れるほど美しく愛らしいビジュアル

また、単にパターゴルフゲームを遊ぶだけでなく、ただステージを眺めているだけでも楽しめるのが、このゲームの特徴です。

 

多くのゲームは、その作品の根幹をなす、プレイングを楽しませることに全力を注いでいるものです。

その上で『Alphaputt』は別に、ゲームを無理に遊ぶ必要がないと言わんばかりに、ミニチュアの完成度が高いレベルで作られています。

 

もはやゲームというよりも、ゲーム性を有したメディアアートと言わざるを得ない体験を、この作品を通じて味わうことができるようになっているのです。

 

終わりに

ゲームクリエイターの仕事の根幹は、あくまで遊べるビデオゲームを作ることですが、それ以外のことに執着してはいけないという決まりはありません。

 

『Alphaputt』のように、シンプルなゲーム性を生かし、ゲームの本筋とは異なるところに力を入れた作品は、ゲーム好きのみならず、グラフィックデザイナーやアーティストからの支持を得ることもできそうです。

 

併せて読みたい記事
『Wonderputt』に見る、動きのあるゴルフゲームの作り方
「はむころりん」に学ぶゲームを一人で作る方法
 

出典:

*1 ゲームキャスト「ロンドンのデザイン会社が作り上げた”所有欲を満たす”ミニチュアゴルフゲーム『Alphaputt』レビュー。目と耳を見たし、遊んで楽しい極上アート」

http://www.gamecast-blog.com/archives/65929982.html

 

ライター名:Satoru Yoshimura

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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